エピローグ・王侯貴族のお付き合いの仕方って何ですか?
あの騒ぎから一ヶ月過ぎたわ。
学園がおやすみの今日、私の私室でアフタヌーンティーを飲んでいるわ。
サンドイッチやスコーンはもちろんのこと、サーモンとほうれん草のキッシュ、ビーフシチューのミニポッドパイが美味しいわ。紅茶はダージリンね。
葡萄と蔓のデザインが施されたカップ&ソーサーの向こうにいる、婚約者となったリオに問いかけた。
「リオ、フィオナ新国王陛下の戴冠式はいつになりそうなの?」
「それがだな。
先王やドルシュキー家が抱えていた負債が発覚してだな。
さらにドルシュキー家が抱えていた鉱山も、鉱脈の枯渇している事も発覚して……
鉱石も粗悪なものを随分とふっかけて販売していたようでな。
対応に追われて、しばらく見送りになりそうだ」
今現在、先王の体制の負債の対応と、フィオナ新国王陛下の戴冠式の予算組みで手間取っているみたいなのを見かねて。
「グレイル領奥地であんな特殊な薬の原料になる物が出るのなら、他にも特殊な鉱石出そうよね?」
って冗談半分で言ったら、本当に大きな鉱脈が見つかったわ。
フィオナ陛下があんなに喜ぶと思わなかったわ。今王宮が大騒ぎよ。
フレイ様はそんな王宮に近衛騎士見習いとして放り込まれてしまい、泣き目をみているわ。
ウィンデール様とシスター・セリーヌはフィオナ新国王陛下の働きかけもあり、婚約。セリーヌさんは還俗して学園に通われる事になるそうよ。
ウィンデール様と、フォレスティエ商会の再開のために、頑張ってらっしゃるわ。
そういえば、カミーユ・ロダン・グレイル卿本人、生存してたって。
正体を隠して、とある教会で神父様になっていたそうよ。
シスターになったレダ嬢を随分と振り回しているらしいわ。
「これからドルンゲン入りだよ、死にたくない……」
と、偽グレイル卿こと、ヨハン君は涙目で北の港から激戦の地ドルンゲンの偵察へ旅立って行ったわ。
……無事に帰って来れるかしら?
光の聖女となったローズティアは、これまで妹のキャスがやってきた悪事を止められなかった自身の罪……?を贖罪する為に修道院へ入る!と息巻いていたものの。
行った先の修道院で「そんな、光の聖女様をお預かりするなどとても……」と丁重にお断りされ、大聖堂教会本部に送り返されたそう。
大聖堂教会本部でも、聖女扱い……というよりも、腫れ物扱いされたのが嫌だったのかしらね。
たらい回しにされそうなロジーを、ロベルトお父様が見るにみかねて、ウチの公爵家で面倒を見る事になったわ。
一応、客人として迎え入れたはずなのに、ロジーってば、メイドさんの格好して雑務をして屋敷を走り回っているわ。
ロジーの実家の方も、妹のキャスのやらかしのせいで、ご近所といまだに揉めているそうよ。
学園の方でも、妹さんの件で奨学金を辞退したらしいわ。
「エリーゼお嬢様、紅茶をお入れしますね」
そんな訳で今、目の前でロジーがニコニコしながら紅茶を淹れてくれてるわ。
「ロジー、貴方は光の聖女でしょ?そんなことしなくていいのよ?」
と、何度も注意しているけれど。
「アタシの性に合いません!」
……だそうよ。
あの件の影響でお父様が教皇様になり、枢機卿となったエルレン様。たまにロジーの様子を見に来て。
「お勤めご苦労様です」
と、ニコニコとお茶して帰って行かれるわ。完全に茶飲み友達よ。
リオは結局王太子となり、私もまた王太子の婚約者に。逃げられないのか、この宿命から。
それと、リオは今後新設される国立闇魔法対策研究所の長として勤める事になったわ。
流石最推し!肩書きが凄い事になるわね。
まあ、それもドルンゲン帝国の悪帝アルヴェインの動きが怪しいからなのだけれどね。
言質取り忘れたけれど……悪帝とリオとの血縁関係ってあるのかしら?
まあ、それはそれとして。
「ねぇ、リオ。私達、その……婚約したじゃない。
王侯貴族って婚約者とのお付き合い、具体的に何をすれば良いのかしら?」
「うん?どういう事だ?エリーゼ」
ロジーに「どんなお付き合いしているんです?」って聞かれて答えられなかったのよね。
なんでも庶民の恋人たちは公園や動物園、ピクニック、パブなどに出かけているのだとか。
前世だったら一緒に映画を観に行ったり、喫茶店やレストランでお食事、旅行に行くとかだったものね。
まさか、前世の最推しとお付き合いなんて……今だに夢でも見てるのか?と疑うわ。
かなり気後れがするけれど、ちょっと楽しみなのよね。
「フィオナ陛下の時は、陛下や王宮側から指示があったから、私はそれに沿って行動するだけでしたもの。
今度は出来れば、リオの意思を汲みたいなって」
リオは真面目そうな顔で顎に手を当てて、考え込む。
「例えば、外交の使節団との晩餐会。
オーケストラのコンサートに出るとか?」
「それは公務ではありませんの?
再来週出席予定ですわ」
「植物園や図書館での読書、勉強会……とか」
「学園でやってますわよね。
家でも、私は貴方の勉強に付き合ってますわよ?」
「美術館、博物館デートは?」
「それ公式視察扱いでしょ?
来月の予定に入ってましたわよね?
それに、人目に触れるのはちょっと……って、貴方が言っていたじゃないの」
リオは難しそうな顔をして黙り込んでしまったわ。
「うーん……アフタヌーンティー?」
「今、一緒に飲んでるわよね?」
今だにフィオナ陛下もいらっしゃるわ。王宮だと息が詰まるって。
「百貨店で買い物?」
「ウチはそもそも外商呼ぶわよね?」
「オペラやミュージカルの観劇や、競馬とか」
「オペラはフィオナ陛下と先代国王と行きましたわ。
それも年末に、フィオナ陛下からお誘いがかかっていますわ。
もちろん出席しますよね?
競馬は……お母様が賭け事はお嫌いだから」
「バカンスシーズンの旅行や、馬の遠乗りに、狐狩り……?」
「領地のお屋敷で似た様な事しましたわよね?」
「知り合いの邸宅の舞踏会に行く、とか……?」
「あれは貴族のお嬢さんの婚活パーティーじゃないの。婚約したのに今更行く必要ありますの?」
リオネルばかりに提案させるのも悪いわね。
「そうだわスポーツ!スポーツ一緒にやりませんか?」
「スポーツはな……。
何代か前の王子が血友病に罹ってしまってな。
それから王族に近い者は、なるべく怪我に繋がる激しい運動は控えるように言われているんだ」
「ああ、そういう病気も出やすいわよね。
ホテルでデート……は、婚前に何をしているんだ?と疑われますわね」
「……その、婚前に純潔を疑われるような事は控えたい。君の名誉の為にも」
沈黙。何も思いつかないようね。
「……考えてみたら私たち、ほぼお付き合いと同じ事してますわね」
「仕方なかったとはいえ、義理の姉弟で家族だし、同居しているものな。
危険な目に遭わないように、行動はいつも一緒だから……」
ん?これってまさか。
私は何も考えずに思った事を口にしてしまう。
「ねぇ、リオ。ひょっとして。
私達って、籍を入れてない、夜を共にしていないだけで、実質結婚生活しているのでは……?」
真顔になって見つめあう、私とリオ。
徐々に赤くなっていくわ。照れていますわね。
「結婚指輪の下見……いや。
ペアリングでも買いに行こうか」
「そうね!楽しみだわ!」
紅茶のカップをソーサーに置くと、カチャンと噛み合う音がしたわ。




