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限界オタクが悪役令嬢に生まれ変わって最推しに出逢えて尊い!ので、推しの闇落ちルートを全力回避します  作者: 睦月のにこ


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光の聖女に王宮からお迎えが来ました。

「ローズティア様!……いえ、光の聖女様!

 どうか私の過ちにお許しを!」


 レダ嬢は平伏する。その瞳は怯え切っていた。


「ちょっとやめて、目立っちゃうよ。

 そんな事しなくていいよ、レダさん!」


 この騒ぎを聞きつけたロジーのお兄さんであるウィリアムロブさんは問い詰める。


「嘘だろロジー。

 お前まさかあの魔法を使ったのか?

 だから、あれだけ使うんじゃないと……」


「ウィル兄!でも使わないと……皆が!皆が!」


「そんな事したら一緒に暮らしていけなくなるって言っただろ!それに周りの人達も……」



「あぁ、光の聖女様!

 数々の私の過ちをお許しくださいまし!」


 そう叫んで、手を組み、お祈りするレダさん。

 先程までの悪態と打って変わって光の聖女の敬虔な信者のようだわ。


「レダさん、なんて事を……」


 傍らにいたハンスさんは、レダを庇うこともできず、青ざめた顔でただ呆然と立ち尽くしているわ。


「この者に罰を!贖罪を!」

「そうだそうだ!」


 吠えるように怒鳴る民のその姿は、断罪イベントを思わせるわね。

 行き過ぎた正義感は、交通事故を起こしやすい、と前世の兄貴がボヤいていたのを思い出すわ。


 ……前世の歴史番組や、映画で見た魔女狩りみたいだな、とも思ってしまうわ。あまり良くない流れね。


 そんな様子を血相を変えて止めようとするロジーがいたわ。


「止めて、レダさん!アタシそんな事されるような人じゃないよ!それにハンスさんも!


 アタシはただ、貴方たちとお友達に……」


「おお、聖女様は許されると仰るのか!なんと慈悲深い……」


 レダ嬢の姿と、その言葉下町の誰かの言葉を皮切りに、周囲の人々は次々と頭を垂れ、祈りの言葉を口にする。中には、感極まって泣き出す者さえいるわ。


「光の聖女様のご降臨だ……」

「どうかお助け下さい」

「どうかローズベル王国にご加護を」



「皆止めて!アタシ、この下町の子だよ……皆と同じ……!」


 そう言いかけて、ロジーは言葉を詰まらせてしまったわ。



 光の魔法を使う。

 たったそれだけの事で、聖女として祭り上げられ、街の人たちと今まで積み上げてきた温かで対等な関係ではなくなってしまったというの?



「……見つけましたよ、ローズティア様。貴女が」


 ロジーの前に進み出たのは、エルレン様ね。恭しく跪き、厳かに言葉を告げたわ。


「貴女だったのですね。

 長らくお探ししておりました、光の聖女様。

 どうか我らに、ローズベル王国に光のご加護を。


 我ら青薔薇派大聖堂教会、

 光の聖女の御身から決して離れず、違わず。

 聖女に永遠の忠誠を誓い。

 御身をお守りいたします」


 その言葉を聞いて、リオとフレイ様がロジーを庇うように前に躍り出るわ。


「待て、エルレン。ロジーさんをどうするつもりなんだ?」


「聖女は教会で保護する慣わしです」


「家族の同意は取ったのか?まさか無理やり引き離すつもりではないのか?」


 その言葉を聞いて動いたのはウィリアムロブさんね。


「エルレン様、お願いです!

 どうか妹を連れて行かないでください。


 妹はたった一回だけ、たまたま偶然一度だけ光の魔法が使えただけで、本当に普通の娘なんです!

 教会も王宮も、こんな躾もなっていないガサツな妹には合わないはず!


 ローズティアは聖女なんかじゃないんです。

 俺達家族からローズティアを奪わないで下さい!」


 ウィリアムロブさんは血相を変えて泣き叫ぶように懇願する。ロジーとは実の家族だものね。


「……いくら血を分けた家族とは言え、光のご加護を悪用する輩はいるでしょう。

 以前にも、その様な被害に遭った聖女様がいらしたのですから。


 光の聖女を教会に渡していただければ、教会から定期的に保証金を出します。どうかご理解いただきたく……」


「ウチの家族がそんな事するわけないでしょう?!

 更には教会に実の妹を売れっていうのですか!これだから教会は信用ならない!」


「ウィル兄、落ち着いて!教会のお偉いさんだよ?!」




「いくらなんでも、急すぎるわ。

 エルレン様、どうかロジーに少し猶予を与えて下さいませんか?」


 私が発言したその瞬間、皆ピタリと沈黙してゆっくりこちらを振り向いた時、寒気が走ったわ。

 私を見る人々の目が皆、笑っていないのよ。


「……エリーゼ様。

 公爵令嬢といえど、何を非常識な事を仰る。

 聖女の御身に関わる事に口を挟まないでいただきたい」


 ……呆れたようなため息をついてエルレン様は苦言をもらすわ。

 次期枢機卿、次期教皇の立場だものね。エルレン様としては厳しい事を言わなければならないわよね。


「……でも、ロジーの顔色を見て下さい。

 あんなに真っ青じゃない。

 あんなにも嫌がっているじゃない。

 ねぇ?ロジー、大丈夫?」


 そう言ってロジーの手を取ろうとすると。


 パチン!

 

 音をたてて、フレイ様に私の手を打ち払われたわ。


「セルシアナエリーゼ嬢、聖女様に何をする」


 ヴィクトル様が重々しく口を開く。


「公爵令嬢と言えど、聖女ローズティア様に気安く近付かないでいただきたい。

 御身に障りがあったらどうするのです」


 手のひらを返したかのように、皆私に対して冷たくあしらう。

 私の事など、眼中にも入っていないかのようだわ。


 ……フレイ様もあんなに親しくしていたのに。

 聖女一人現れたってだけで、ここまで態度が一変するものなの?



「ははっ光の聖女が見つかったから、どうなるんだと言うんだ?

 この国の体制や現状が、何一つ変わる事はないだろうに。……まあ、恩赦があるぐらいかな?」


 リオ?何を言い出すの?


「何をおっしゃっているのですか。ようやく光の聖女の加護を得られたというのに」


「そうやって、世間の事をよく知らない若い聖女に甘言を吐いて、王宮か教会に囲い込んで軟禁するのだろう?

 他国に光の魔力の因子を持って行かれないように。

 または、お前達が光の聖女を都合の良い駒として利用出来るように、かな?」


「リオネル様?どうして……」


 ロジーの、リオを見つめる瞳が熱を帯び潤んで輝いている。心なしか顔も赤くなっているわ。

 まるで恋する乙女のような表情ね。


「ロジー。落ち着いて聞いてくれ。

 俺は、先代の光の聖女の行く末を知っている。それだけではない、他の聖女の顛末も。

 君もご家族から聞かされているのだろう?

 だからこそ君の意志を尊重したい。君の考えをどうか聞かせて欲しい。

 君は、どうしたいんだ?」


 優しいリオの声、言葉。

 その言葉に優しく微笑むロジー。

 まるで、恋人同士のようだわ。


 ああ、これって……ロジーはリオの事が好きなんだわ。きっと、リオも……。


 前世の私の望んだ通り、リオネル様とヒロインが両思いになったのに。


 思い通りになったというのに、何故私は泣きたいのかしらね?

 どうして今世の私は心が空っぽになったような気持ちになるのかしらね?


「リオネル王子、光の聖女様になんて口を!」


「やめて!

 ……アタシは聖女なんかじゃない。

 青薔薇のお妃様みたいは……!」


 ロジーが覚悟を決めて、本心を話出した矢先だったわ。



 物々しい馬の蹄と車輪の音が響き渡る。

 現れたのは仰々しく8頭も引かせている馬車?!タウンコーチってやつよね?黄金の馬車でも引かせるわけでもあるまいし。

 こんな大通りの裏道みたいな所に?

 それも王宮の馬車が教会の入り口に現れたわ。

 中から出て来たはロナウド様と、フィオナ王太子殿下?!


「一同、静粛に!静粛に!」


「光の聖女ローズティア様、本当。

 ローズベル王位継承順位第一位、フィオナ・ダマスク・ローズベルがお迎えに参りました」


 そう仰って、私には礼も断りの一つも述べずに、私の前をまるでいないものとして素通りして。


 ヒロインにうやうやしく跪くフィオナ殿下。


 ……ああ、とうとうこの時が来たか。断罪イベントの時期にしては随分早いわね。

 覚悟はしていたけれど、胸が痛いわ。


「是非とも私とご一緒に、我がローズベル王宮へお越しくださいませ」


 前世のゲーム画面で見た、美しいスチル。厳かな宗教画の様なシーン。大好きだったはずなのに。

 なのに、何処かお腹が底冷えする様な、違和感とでも言うのかしら?強烈な感覚がするのは何故だろう。


「嫌……アタシは……!」


「殿下、無理強いは……」


 私の言葉を無視して、殿下がロジーに何かを耳打ちする。するとロジーはサッと顔を青くして。


「……ご家族がどうなると思う?」


「……!?分かりました。アタシ、王宮に行きます」


 フィオナ殿下はこちらをチラリとも見ない。真っ直ぐ見つめるのは光の聖女ローズティアだけ。


 いけない、不意に涙が溢れてしまったわ。

 ああ、フィオナ殿下の心も離れて行ってしまったんだわ……。ゲーム上、仕方ない事なのにね。


 フィオナ殿下とローズティア、二人から目を逸らして涙を袖で拭うと、背後の馬車が目に止まった。


 金の紋章?それぐらい布で覆い隠しなさいよ……仰々しい……。


 待って、獅子に剣と斧、あれってドルシュキー家の紋章よね?青薔薇の聖女の伝説をモチーフにした装飾も見当たらない。

 ドルシュキー家の黒塗りの馬車だわ。

 何故ローズベル王家のものを使わないの?


 それに、周りを固めている騎士達……あれってヒロインの誘拐事件の犯人達と同じシルエットじゃない?!


 それに馬車の室内からは、あのイランイランとジャスミンの香水の香りがするわ。


「ほらぁ、おねぇちゃん。アタシの言った通りでしょぉ〜?早くこっち来なってぇ〜」


 この声?!これってどういう事なの?


「フィオナ殿下、これは一体……!」


 フィオナ殿下に問い詰めようとした矢先、ロナウド様に制止される。


「キャルロット公爵令嬢といえど控えよ。

 未来のフィオナ国王陛下とローズティア王妃の御前であるぞ」


「何を仰るの?聖女が現れたからと言って、彼女がいきなり王族との婚約を受け入れると思っているの?」


 順番が違うわ。学園でも親愛を深めるイベントも、舞踏会での婚約破棄イベントにもまだ至ってないのよ?

 そんなの、話の展開が早すぎる……!


「すまない、エリーゼ。正式な通知は明日届くだろう。


 ……私の隣には、ローズベルの王妃には、光の聖女こそが相応しいのだよ」


 ええ?こんな所で?

 これって、実質婚約破棄よね?こんな所で一方的に?


 そう呟いて、フィオナ殿下はロジーを足早にエスコートし……いえ、無理に馬車に乗せて連れ去ろうとする。


 だけれど、ほんの一瞬。

 フィオナ殿下と目が合ったわ

 寂しそうな、名残惜しそうな、まるで私と離れたくないとでもいう、その目線。


 嫌だ、君と離れたくない。殿下の小さな声が聞こえた気がした。

 私は直感する。この状況は、殿下の本心ではないのだと。


「殿下!おやめ下さい!

 ローズティアは嫌がっているのではありませんか?

 ねぇロジー!」


 私はそれでも制止する。まるで諫言を聞き入れてもらえない忠臣のようだな、とも思うわ。


「エリーゼ様、アタシを助けてくれて、友達になってくれて、貴方の騎士にしてくれてありがとうございました。

 どうかリオネル王子と、遠くに逃げて……!」


 ロジーのその言葉はまるで、助けを乞うかの様だった。




 光の聖女と王太子殿下が嵐のように去り、騒然とする教会前の広場だったが。


 ヴィクトル様にこう囁かれた。


「……セルシアナエリーゼ様、動かないで。

 そのまま途方に暮れた姿のままで。


 馬車の後方のドルンゲン派の者がこちらを監視しております……もう大丈夫ですよ」


「ようやく行ったか……姉上、本当に大丈夫か?兄上も人が悪い」


「……まったく、危なっかしいなぁ。本当世話の焼ける!

 ほら、エリーゼお嬢、こっちへ!」


 あれ、ヴィクトル様もフレイ様も、様子が元に戻ったの?

 そのままフレイ様に強引に手を掴まれて、私はその場を後にした。

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