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下町にモンスターが召喚されました。

「ねぇ〜貴女。どうして、悪役令嬢の性悪セルシアナである貴女が学園で我がもの顔してるのぉ〜?」


 はい?誰が?と、困惑して、振り向くとそこには。


 え?どうして?

 ヒロインと同じ声。同じ服。同じ仕草。


 そこには、ヒロイン、ローズティアと寸分違わぬ姿をした女性がいた。


 ただ、表情だけが憎悪で醜く歪んでいる。


「あーあ、なんで悪役令嬢が攻略対象と上手く行ってんの?信じらんなぁ〜い!

 さっさとヒロインイジメて〜、さっさとボロ出して殿下に嫌われちゃってよぉ〜。

 このゲーム、そういうストーリーでしょ?

 何でゲーム進行阻害してるのぉ?それでファンのつもりぃ〜?」


 そう言って舌打ちする。キツいな。品がないわね。


「そうすればぁ、あたしだっておこぼれ貰って裕福に暮らせるんだしぃ〜」


 小鳥が囀る様な甲高い声で、小馬鹿にした表情で嘲笑う。

 ああ、見覚えがあるわ。よく前世で学校や職場の嫌がらせで見た顔だ。

 内心、いいナリをした大人が子供の癇癪を上げているみたいだなと辟易としながら、大人の対応という上辺だけの笑顔と社交辞令で乗り切っていた事も思い出す。

 割と負けず嫌いだったわよね、前世の私は。


「それとも貴女も転生者ぁ?

 ヒロインになりたかったのになれなかったからって抵抗してるのぉ?バッカみた〜い。

 惨めに破滅したくないのは分かるし同情するけどぉ〜」


「ねぇ。これ、本当にゲームの世界をなぞらえているだけだと思う?

 目の前で、最推しが、本当に大切な人が痛めつけられているのを黙って見てられると思うの?」


「はあ〜?!ゲームなんだからゲーム通りに進行しないなんておかしいじゃな〜い!

 アンタ原作をブチ壊したいの〜?!」


 原作厳守主義過激派の人格でも乗り移ってるの?

 それにしても、前世で見知っているゲームでのヒロインの言動とあまりにかけ離れている。


「うふふ……あらあら、この程度の事で激昂するなんて、随分とお可愛いらしい事ね。

 それとも貴女がヒロインの役得と恩恵にあずかれなかった事に対して八つ当たりしているのかしらね?

 また随分と浅ましい事だわ」


 思いもよらぬ発言が、私の口から飛び出してきた。


「あらあら、本来ならわたくしが殿下からいただくはずの寵愛を、ポッと出の庶民の貴女が全て持っていく方が、余程おかしいのではなくて?


 非常識な端女如きが、何をおっしゃるのやら。

 わたくしは、あくまでわたくしの立場を取り返したまでよ」


 え、ちょっと待って。私、そんな事思ってない。

 「違う」と言いたいのに、私の声が、口が、声帯が思いにもよらない事を喋り出す。

 いや、身体のコントロールが効かない?


 これって私の口を使って、誰が喋っているの?


「ええ〜?

 だってアンタがヒロインを怒鳴ってイビリ倒して、殿下の婚約者の品位とかなんかに相応しくないから、 そうなっただけじゃないのぉ?自業自得〜」


 目の前のヒロインに似た誰かから香水の香りがする。それも貴族、王族が使っている高級品のもの。

 ジャスミンとイランイラン……それに甘ったるいバニラ。この香りは覚えがあるわ。

 確か、これは王宮の王妃様とヒロインの……!


「何の後ろ盾、後援のないただの孤児がいきなり光の魔力に目覚めたからといって、貴族の学園に入り、王太子殿下に見初められて、王妃候補に……なんて通常ありえませんもの。せめて段階を踏まないと。


 ただ、何処か大貴族の引き立て、養子に入って後援……

 いえ、そうね……寵愛があるなら、話は別でしてよ」


 この口調、覚えがある。ゲーム中の悪役令嬢、セルシアナエリーゼの……!


「ねぇ貴女。まさか、自分の……」


 すると、目の前のヒロインによく似た誰かが、ポケットから無造作に何かを取り出す。

 小さな黒いベル。あれは、レベルを稼ぐのに重宝した、モンスター寄せのアイテムだわ。


「ブッブー。時間切れ〜。

 それじゃ無限湧きのモンスターとの乱闘、どうぞ楽しんでね〜」


 チリンチリン、と音を立てる。

 その瞬間、周囲から大量のモンスターと、そのうめき声が押し寄せた。




 カラコロカラコロと乾いた音を立てて現れたのはスケルトンの大群だわ?!

 確かにシナリオのイベント通りだけれど、悪役令嬢の私まで狙われるのはおかしくない?


「うぎゃー!イヤー!」


 貴族のお嬢さんらしからぬ汚ねぇ声でそう叫ぶと、ようやく身体のコントロールが効くようになったわ。


 いや、コントロール戻るの遅いよね?

 モンスター寄せの黒いベルを使われる前に脊髄反射で奪いに行った方が良かったのでは?


 若干パニックに陥りながらも、私はそこら辺に転がっていたバケツをぶん投げましてよ。

 ぶつかった骸骨が明日明後日の方角へ飛び散ってゆく……うわあぁ!本当にごめんなさい!

 罰当たりこの上ないわ。あれ?骸骨なのに白くない?カルシウムじゃない?妙に粉っぽい……茶色だわ、土よね?


 いやいや、今それどころじゃないから。


 すぐさま近くに武器が転がってないか見回す。

 近くのお宅の庭先に私の身長と同じぐらいのサイズの大きなガーデニングフォークとガーデニング用の手袋があったわ。


 すいません。ここのお宅の方、勝手に拝借させてもらいます!


 ……前世の田舎のおじいちゃんの家の蔵だったら槍とか刀とか猟銃あるかもなのに……とは思ったけれど、流石にそこまで上手く行かないわよね。


 もっと欲を言えば、アンデッド特攻を持った、シルバーランスとかシルバーソードが欲しいわね。じゃないとなかなか倒せないのよね。助けて。



 すっ転がりそうになりながらも何とかバランスを保って持ち直したわ。


 ……ヒロインがピンチに陥れば、攻略対象の貴公子たちは微笑んで手を差し伸べてくれたり、助けに来てくれるのよね。

 崇高な聖女様、誰にでも愛されるヒロイン。


 でも、私はこのゲームの悪役令嬢。


 それでも、私一人でも出来る事をやらなくちゃ。

 このルートのエンディングを悪役令嬢が退場するギリギリまで見守る為にも、生き残らなくては!オタクとして!ちょっとキツイけどね。


「えい!やぁ!とう!」


 声を上げて一定の間合いを取りながら、連続した突きを繰り出して牽制する。

 確か、前世の攻略法によると、上手く魔力元のみぞおちと骸骨の口の中にクリーンヒットさせれば霧散してくれるのよね。


 1ヒット、2ヒットと着実にスケルトンの急所をついていく。


 不意に、横に薙ぎ払えば、スケルトンの武器と腕の骨がすっ飛んでいったわ。


 前世の兄貴とネット動画で見た武芸をチャンバラごっこで練習してたのが、まさかここで効いてくるなんてね。我ながらやんちゃだったわ。


 試しに足元にエールの瓶を投げ込んでみると、ドミノ倒しみたくスケルトンたちはすっ転んでいく。そのはずみで何体か消えたわ。


……魔法で操ってるとは言え、耐久性と知能は低そうね。筋力は……そもそも筋肉無いしな。


 ああ、全体魔法攻撃出来たらなぁ。私の魔法、マッチの火に、そよ風程度なのよね。


 とはいえ、多勢に無勢。ジリジリと追い詰められてるわ。地味にピンチよ。


 そんな余計な事を考えている隙に、私との間合いを詰めて来たスケルトンが!

 マズい、何とか鍔迫り合いに持ち込んだけれど、結構な力で押してくる。身動きが取れないわ。


 こんな絶好の隙を逃す訳もなく、ほかのスケルトン達が横手から私に切り掛かって来る……!



「呪われし紅き槍よ!

 我に仇名すものに鉄槌を!

 ブラッドランス!」


 スケルトンたちを赤い閃光が縦一文字に切り裂いていく。

 闇魔法だわ。リオ!嘘でしょ、私を助けに来てくれたの?


「燃えさかれ炎!

 引き裂けその爪で!


 バーニングクロー!」


 燃え盛る巨大な爪がスケルトン達を引き裂いて燃やしていく。フレイ様の魔法だわ。


「エリーゼお嬢!無事か?

 って、アンタなんつーカッコしてるんだ?

 農民か、庭師かよ!」


 助けに来てくれた感激が一瞬にして冷めるわ。


 ……うんそうね、フレイ様。

 私も今の格好、手拭いをおっかむりしたら、熊手を持った前世のおばあちゃんを思い出すなって。


「リオ?フレイ様!?本気でありがとうございます! 髑髏が!どなたかの骨がっ!……ゲホッ」


 乾いた喉でいきなり喋り出したからむせたわ。自爆ともいう。


「エリーゼ!無事か?!」

「ひゃい?!」


 ちょっと待って待って?リオが抱きついてきたわ?!


「おーぅ、お熱いお熱い」


「本当に無事で良かった……貴方の身に何かあったらオレは……!


 向こうのモンスターを掃討する!

 フレイ、エリーゼ姉上とこの場は任せた!」


「ええ?!ちょっとリオ王子?!アンタ自分の身分……行っちまったよ……」


 ええ?リオ、一人で行っちゃったわ。ちょっと寂しい。

 いやそれどころじゃない。この場に残ったフレイ様と情報共有しておかないと。


「助けに来てくれてありがとうございます。

 それにしてもスケルトンを召喚って……これって闇魔法じゃないの?

 この国での使い手ってリオだけのはず……」


「あのリオ王子が?

 アンタにベタベタに惚れ込んでおいて、あんな所で嫁にもらう宣言したり、こんな所に単身で乗り込んで来ているのに?ありえねーだろ。

 それに国外にはその手の人材がわんさかいるし、国内にだって世間体を気にして伏せている輩なんてごまんといるだろうさ」


 闇魔法の使い手って、光の聖女が尊ばれるこの国で存在するの?

 まさか、いわゆる世間体で闇魔法の使い手を押し潰しているの?


「それによく見てみろよ。

 コイツら、土で出来てるじゃん。

 どうせ誰かが魔法で作ったゴーレムだろ?

 闇魔法を偽装したかったのかもな、悪趣味だよ」


「ああ良かった!本気で良かった!

 これって誰かのご遺骨じゃないのね!

 ご子孫の方に本気で怒られるかと思ったわ」


「へ?あ、心配する所そこなんだ」


 兎にも角にも、ゴーレム製スケルトン達からドロップ……いや残していった武器を拝借する。

 毒や呪いとかかかってないでしょうね?

 何で錆びついたアイアンブレードなのよ!耐久性弱いやつじゃない。シルバーレイピア寄越しなさいよ。


「お嬢、本当ごめんな?こんな事に巻き込んじゃって。

 あの騒ぎじゃ学園にも貴族街にもいられないから、下町なら……って言い出したのオレなんだ。

 ……あー、殿下にガッツリ怒られるなぁ」


「いえ、学園のあの騒ぎでは何が起こるか分かりませんもの。あれで良かったのよ。

 そうだわ、ロジーは?」


「ごめん、見失った。

 お嬢とはぐれたタイミングと一緒でさ」


 先ほどの騒ぎを思い出す。嫌なタイミングだわ。


「リオネル王子と二手に分かれて探そうとしてたとこだったんだ……が。

 アンタの悲鳴聞いて、あの王子様独断専行で突っ込んで行っちゃってさー」


 仮にも一国の王子様なんだから、危険な場所から離れないと駄目じゃないのかな?


「とにかく、一旦教会まで戻ろうぜ。皆そこに避難しているからさ。

リオ王子!一旦教会まで退がろうぜ!」


 フレイ様が叫ぶと、リオは「了解した」簡潔に答えたわ。



「……なぁエリーゼお嬢はさ。本当に殿下と結婚してさ、ローズベルの王妃になる気あるのかよ?」


 突然のフレイ様の見透かすような発言に、私はギクリとした。

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