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悪役令嬢の取り巻きに謝罪を受けました。

「シスターセリーヌ!セリーヌ・フォレスティエ!違います!これは」


慌ててレダ嬢がシスター・セリーヌ咄嗟に弁解しようとする。

……セリーヌ?フォレスティエ?何処かで聞き覚えのある名前だわ。


柔らかくて淡いプラチナの髪なのだけれど、所々ピンクに見えるのが印象的だわ。薄紅色の瞳は知性的かつ、力強く輝いていて目が離せない。微かに鼻腔をくすぐるのはミルラの香りね。


確かセリーヌという名前はウィンデール様とグレイル卿とのシナリオで出てきたはず。幼馴染みじゃなかったかな?

ただ、テキストのみで、確かゲームでの設定上もう亡くなっていたはずじゃなかった?


「あら、失礼しました。レダさんのご学友の方ですか?

黒髪にオッドアイ……リオネル王子に、キャルロット公爵家のセルシアナエリーゼ様ですね?

だとしたら、学園で相当噂になっているとお聞きしましたもの。


赤い髪……だとするとお家に呼び戻されたフレイ様ですね。

ああ、貴女は庶民から学園に入ったと噂のマリー・ルイーズ家のローズティアさん」


ニコニコと私達の名前を言い当ててくるシスター。

ああ、やっぱり、市中にも話が広まってしまっているのね。秘密とは漏れるもの。人の口は軽い。

……それにしても妙に鋭いわ、この人。情報通なの?


「貴女のお兄様である教会騎士団のウィリアムロブさんから聞いております。

王太子殿下を狙う貴族のご令嬢達に付け狙われ、ご自宅に匿われているリオネル王子と恋仲になったと聞き及んでおりますわ」


「いえ、とんでもない誤解です」


私はすぐさま誤解を解こうと首を横に振る。

ウィリアムロブさんってヒロインのお兄さんじゃない?まさかロジーから聞いた話をすべてこのシスターに喋ってるの?そしてどうしてそんな解釈になった。


そろそろとその場から逃げ出そうとするレダさん。それを見透かしてセリーヌさんは、レダさんに向き直り釘を刺す。


「レダさん、貴方ね。目上の方にどうしてそんな態度を取るの?

そんな調子じゃ問屋が卸してくれないし、そのうち首も商売が回らなくなるわよ」


……はい?問屋?商売?


「……また始まったわ、シスターセリーヌのお説教」


頭を抱えるレダさんに、ハンス様は苦笑いを浮かべているわ。


「ひょっとして、セリーヌさんのご実家は何か商売でも?」


「ええ、父がしがない貿易商でして。主に香辛料や茶葉を商っておりまして、貴族のお屋敷から王宮にも卸していまして」


「まさか、フォレスティエ商会?」


「まあ、ウチをご存じなの?!」


「ええ、昔ウチのお屋敷に出入りしていたフォレスティエ商会のおじ様ですわよね?」


確か、殿下と婚約する前に、ウチのお屋敷に良く出入りしていたフォレスティエおじ様よね?ちゃんと身なりを整えているはずなのに、何処となく異国の風を感じる方だったわ。


バニラビーンズやコショウ、数々のスパイス、そして南方の民族が作った怪しい偶像や首飾り、珍しい動物の骨や鳥の羽などを持ってきていた覚えがあるわ。

興味本位で怪しい偶像や首飾りを触ろうとして、お母様に「呪いでも受けたらどうするの!?」と怒られたなんて言えないわよね。


なお、この世界では呪いはリアルで存在するものとする。ごもっともなのよね。


「あんなボンクラ父を覚えて下さっていたなんて光栄ですわ!


あの人すーぐ海外にスパイスや宝石買い付けに行くって言って、何処そこの部族と仲良くなったって金にもならない謎の像や首飾り持ってきたり、何処そこの前人未踏の高地や高山制覇したーって金にもならない石ころや葉っぱや動物の骸骨や鳥の羽持ってくるなんて……!

しかも東の大国から高額な茶の木を持ってくるって言って結局失敗して!

その癖、妙に高潔ぶって違法犯罪行為は神と聖女に誓って絶対しないって、金になる商売には手を付けない!


好事家の方に母と部下が売りつけるの、どんなに大変だったと思ってんの?


しまいには、東の島国の噴火に巻き込まれて行方不明?!

そこに目を付けた対抗馬の連中に嫌がらせされて商会を畳む手続きを私と母でやる羽目に!本当にいい迷惑よ!」


「お父様の事はお悔やみ申し上げます。随分とご苦労されたですね……バニラビーンズありがたく使わせてもらいましたわ」


お、おう……ご家族だから言える愚痴よね……。後で角が立つから、話半分に聞きつつ否定も肯定もしない返事をして、かつ他人がどうこう口を挟んではいけないやつだわ……。


「ウチのバニラビーンズを使ったスイーツでリオネル王子が回復したのは聞き及んでおります。亡くなった父もさぞ喜んでいる事でしょう。


それで、レダさん。どうしたというのです?」


速い、感情の切り替えが速い。圧もすごい人だわ。


「いえ、決して皆にハンス様との結婚を勧められていたわけじゃ……」


「えっなになに?レダねーちゃん結婚するのか?」

「ほら誓いのチューしろよ、チュー!」


「こら!トム!ジェームス!もう、変な事言わないで!」


話を聞きつけた子供たちに囲まれて、はやし立てられるレダさん。満更でもなさそうね?


「随分とこの子達と仲良いわね」


「だ、誰が孤児なんか……!」


孤児、と言っても、着ている服や靴はそんなに傷んではいないわね。


「そう言って1番孤児の面倒見ているのレダさん、貴女よね?家から追い出されたトムのこと、よく世話しているじゃない」


「ちがっそれは……」


「レダねーちゃん!なあ、ハンス兄ちゃんと結婚するなら、おれを屋敷に雇ってくれよ!頑張って働くから!」

「レダねーちゃん、僕の妹を養子に貰ってくれない?笑うとすごく可愛くて良いんだ」


「結婚?!よ、養子?だから話が早すぎるわよ!」


「あらまあ、ハンスさんと?とっても良い話じゃないの。おめでとう。


なんなら司教様と相談して、式場としてウチの教会使えるように上に取り計らっておくわよ?

ウェディングドレスもウチの商会の知り合いのお針子に頼んで、婚約指輪も……うふふ、いい商売プラン思いついたわぁ!」


うっすら邪悪な笑顔を浮かべて結婚を勧めてくるシスター・セリーヌ。レダさんに新しい商売を押し売る気だわ。


「そんな!皆して酷いわよ!」


そんな様子に怯えて、レダさんが走り去って行ってしまったわ。


「ハンス様、すぐに追って!」


私はすぐにハンス様に指示を出す。


「私が?追うのですか?!」


「あー、ハンスー。この場は俺が預かるから行って来な?」


「分かりました、少しの間、この場をお願いします!」


そう言って走り出すハンスさん。


「絶対この商機を逃してなるものですか!

レダさん、ハンスさん、これからパンケーキ競争の準備があるのよ?早く仲直りして戻っていらっしゃいね?早めに結婚の日取りも決めておいて!

……全く、若いって良いわねー」


そう元気よく叫ぶセリーヌさん。その勢いはさながら前世の行きつけの八百屋のおばちゃんを思い出してしまうわ。


そういえば、セリーヌさんと攻略対象のウィンデール様やグレイル卿ってどういうご関係だったのだろう?ヒロインのためになるべく近づけない方がいいわよね?ある程度は牽制しないと。


「シスターセリーヌ。貴方、ウィンデール様やグレイル卿をご存じで?でも貴方、身分が違うのだから近付かない方が身のため……」


嫌な役回りだわ。本気で気まずいけれど、そう話しかけようとしたその瞬間。


「あの、セルシアナエリーゼ様。先日は申し訳ありませんでした!」

「レダさんを助けてくださってありがとうございます!」


「えっ何?はい?」


あら?悪役令嬢の取り巻きの子達だわ。謝罪は分かるけど、何故感謝されるの?怖。

……まさかと思うけど、私、また何かやらかしまして?


「あの子の親、お金持ちだけれど、あの子をとんでもない悪趣味だっていう噂の立っている高齢の伯爵の後妻にしようとしていて……それが嫌で、殿下と結婚するんだって反発していたんです」


 はい?唐突に事情説明が始まったんですけど?

 そういうつもりではなかったのに。ちょっと調子狂うわ……。


「つい先日も教会の一目につく所に、お母様が来て『なんて事しているの、はしたない!ご家名に傷がつくでしょう!恥ずかしいと思わないの?!』って叱咤されていてねぇ。

 流石に可哀想だって、皆でなんとかして逃がそうと話し合っていたんです。でもあの子意固地になってしまって」


「はいぃ?!何それどういうことなの?毒親って事?」


 ひえっ背筋が凍るわ。そんな事に子どもを使うの……?


「何を言っているんだ?後妻なんてよくある事だろう?」


リオが不思議そうにこちらを見る。

前世では時代錯誤だけど、そうじゃないのよね。この世界ならあり得る話だわ。


「殿下とセルシアナエリーゼ様の仲が上手くいっていないから、殿下に見初めて貰えればチャンスがあるかも。

 という噂がまことしやかに貴族の子女の間で囁かれていたとしてもね。

 新興階級や下流貴族の出身じゃ流石に無理があるわよね……」


そう言ってしょんぼりと肩を落とすご令嬢たち。


 ……確かに私、ゲームの展開から先行して、殿下に婚約破棄しても構わないと言ったけれど、そこまで話が出回っていたの?

出所は何処なのか。念のため確かめておこうかな。

今なら恩があるから嘘つかないだろうから……見栄で悪態付いたり、嘘つかないわよね?


「その噂、どなたから伺いました?」


「さぁ……どなただったかしら?皆口にされていらしたものね」

「ロナウド様はしきりに仰っていらしたわ」

「庶民もそんな噂話してたわよね。ウチのメイドからも聞いたわ」


うーん、やはりロナウド様あたりか。当然と言えば当然だけれど。


「私はグレイル卿からだったかな……」


その名前を聞いて、愕然とした。

グレイル卿が?まさかそんな。

何故ヒロインに攻略させる貴公子の内の1人が?

しかも寡黙で誠実な性格のはずなのに?

個人的に悪役令嬢を嫌っているの?


「それっていつ頃?」


「ええと、婚約が決まる前ぐらいだったかしら」


そんな時期に?私まだ記憶が戻ってなかった頃から?グレイル卿ってドルシュキー派?貴族の派閥争いに加わる方ではなかった印象だったけれど。


「でもこれでレダも安心ね!なにせ公爵家が押してくれる婚約だもの!」


「レダさんいいなぁ、素敵な方とご一緒になれそうで。

ねぇセルシアナエリーゼ様、よろしければ私にもいい縁談ありませんこと?親がとんでもない婚約者を押し付けてきて」


「えっうーん?……ドウダッタカナー」


……嘘でしょ?これどうすればいいの?悪役令嬢の取り巻きの皆さん、すっごく良い笑顔ですわ。

ちょっと調子に乗ったばかりに、何故かレダ嬢を救った大恩人的な扱いを受けてしまったわ。そんなつもりは毛頭なかったのに。

お願いだから、もっとヒロインをいじめて、なんて口が裂けても言えない雰囲気なんですけど。


あと目の敵にしていた私に仲人さん頼んでくるとかどう言う神経してるの?なかなか図太いわね。お父様に相談したら多少融通してくれるかな?


どうしよう、どんどんゲームシナリオが狂ってまう……。

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