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ヒロインを全力で励ましました。


劇はハッピーエンドで終わり、観客が去っていく。

なんだか、お祭りの後って雰囲気ね。寂しいわ。


あの後、ロジーは少し泣いてしまったのよね。大好きな伯母さんの不幸な人生を話したのもあるし、1日であれだけの事があれば感情的にもいっぱいいっぱいになるわ。


「お連れの方、大丈夫ですか?具合が悪いようなら教会の中へ。今日はお医者様もいらしてますよ」


その場を取り仕切るシスターが心配して、教会内の長椅子の方に案内してくれたわ。

こぢんまりとしているけれど、祭壇とバラ窓のステンドグラスが綺麗ね。


シスターが気を利かせて温かい蜂蜜入りのミルクティーを持ってきてくれたわ。

一旦茶葉を茹でこぼして、カフェインを取り除いたから夜に飲んでも大丈夫なんですって。


「……大丈夫、大丈夫です」


そう言うロジーの声は弱々しくて、時折肩が震えるのを見ると、胸が痛くなる。


おのれヒロインの両親。ゲームと違ってご健在なのはいいけれど、ヒロインの恋愛観と結婚観をぶち壊す様な仕打ちをしおって……!


いくら親戚の不幸で恋愛に拒否感出ても仕方ないのは分かるけれど、ちょっとやり過ぎじゃない?


そもそも、そういう話って子どもには隠すものじゃないの?

少なくとも前世のウチの両親はそうだったもの。

……田舎のおじいちゃんおばあちゃんは目の前で派手に喧嘩していたし、口に出してた反動かもしれないけれど。


親や身内の不幸の話を子どもにして、子どもに親の不安を解消させようとするのって良くないのでは?

前世で聞いた、過干渉型の毒親ってやつかしら?……いや、考え過ぎかもしれないし。自重大事よね。


「ねぇ、ロジー。それは昔の話であって、貴女の話ではないでしょ?」


「でも」


「親御さんが心配するのも分かるわ。

でも自分もそうなるかもって真に受けてはいけないわ。


気をつけるべき所は気をつけて、親御さんの貴女を心配する気持ちだけ受け取ればいいんだからね」


「でも、家族や親戚、近所の皆はわたしの事をローズマリー伯母さんやひいおばあちゃんそっくりって言って……」


「あのね、貴女はローズティアであって、ローズマリーさんや、赤薔薇の舞姫マリー・ルイーズその人ではないでしょ?

他人の空似なんて幾らでもあるわ。ましてや親族なら尚更よ。


彼女たちは、私やリオの代わりに決闘を受けた事ある?」


「いえ」


「そもそも、貴女はサーカス団について行ったり、公爵様に言い寄られたからって受け入れる?」


「……いいえ」


「でしょう?貴女の人生は貴女のものだよ。

貴女はそのままでも十分素晴らしいし、とても素敵よ?」


そら乙女ゲーのヒロインで希少な光の魔力を持つ聖女様だものな、というツッコミは置いておこう。


「だから、信頼できるお友達と楽しく遊んだり、誠実な男性と素敵な恋愛をして楽しんでいいんだって。


それに、案外人の命なんて短いんだよ。いつどうやって亡くなるかなんて誰にも分からない。いつ病気になったり、事故にあったり、戦争が起きて巻き込まれてしまうのかも分からない。

だからせめて生きている内は、楽しんで幸せに過ごさなきゃさ。もったいないよ」


ちょっと説教してくさくなってないか心配だけれど、前世の私からの教訓は伝えておいた方がいいわよね。

そうよ、ヒロインの心にそんな恋愛をブロックするみたいな要素があったらゲーム通りにならないじゃない!


「そうだよ、ローズティアさん。

オレの母さんだって色々散々な事も言われたけど、今じゃお父様と結構幸せそうにしているからさ。


まあ、ウチのお父様は根っからやんちゃで、お上品なお貴族のお嬢さんとはソリが合わないしな!

ハンティングについて行ってお父様よりも獲物仕留めてくる跳ねっ返りの母さんぐらいがちょうど良いんだよ。


どんな名家だって、そういう事もあるんだよ。だから大丈夫だって」


ケラケラと笑いながらフレイ様は語る。

流石に経験者は強いな。


一方、リオはというと呆気に取られた顔をして。


「姉上は……そんな事を考えていたんだな」


「そうよ、命短し恋せよ乙女っていうでしょ?」


「いや、知らないが」


いけない、これ前世の記憶に引っ張られ過ぎたわ。

それに家同士の契約婚の多い王侯貴族社会だと恋愛結婚って辛いことや実らない事の方が多いかもしれないのに。

特に、この国では敵視される闇の魔力を持つリオネル様は許されないだろうし……。


「……とても良い言葉だ、と思う」


リオに珍しく褒められたわ。どうしたの?空から槍でも降るのかしら?




「お疲れ様でしたー!それじゃ撤収作業始めますよ!」


表の方でシスターかな?若い女性がスタッフかな?教会関係者に向かって元気な声を上げて、人形劇の舞台セットを片付け始める。


「どうして私がこんな事を!ナイフとフォークよりも重い物なんて持った事ないのに!」


「まあまあ、僕も手伝いますよ」


「従騎士なんだから当たり前よ!

 それよりトム。あの子の事よ。

 父親がいないだけで家から追い出されて浮浪児だなんて……母親と親戚は何しているの?!」


 そこに、一見怒ってる様で嬉しそうな学園の女生徒と、教会騎士団の服を着た青年が……うお、タッパデッカ!巨人か?何センチあるの?


 そんな二人の仲睦まじい様子を眺めていると、そこに妙齢の貴婦人と、お屋敷の使用人たちが厳しい顔つきで詰め寄ってきたわ。


「レダ!これは何の真似事ですか!?

こんな小汚い所で油を売って!貴方は裕福な伯爵様の婚約者になるべく育て上げたのに!

フィオナ王太子殿下の婚約者になるからいいんだ!なんて反発した挙句、こんな所に……ああ、みっともないったら!」


 妙齢の貴婦人が学園の女生徒にビンタした。ちょっと、これ虐待じゃないの?!


「痛っ……やめてお母様?!やめ……」


「いけませんよ。ご婦人、それ以上は」


 教会騎士団の男性が、学園の女生徒を庇うように割って入る。カッコいいですわね。


「……ふん!従騎士風情が、紳士の真似をした所で様にもなりませんわね!帰りますよ、レダ!」


「嫌よ。お母様。

まだ教会での奉仕が終わってないわ。

ここで帰ってしまったら学園で笑い物になるかも……お母様だって、それは嫌でしょう?」


「全く!この恥知らずな娘!

 もういいわ、貴方に期待した私が馬鹿でしたのね!」


 ご婦人が、大層お怒りで去っていったわ。


 頬を叩かれて、半泣きの彼女に見覚えがあるわね。


「あら?レダさん?」


「げっ!なんでセルシアナエリーゼ様に、ローズティアがここに?!」


 まさかのレダ嬢がいたわ。

 よく見ると他の悪役令嬢の取り巻きの子もいるわ。 気不味そうにそそくさと人形劇の片付けをしている。


 教会にボランティアに行くか、教会騎士団にこき使われるかの二択だったみたいだけど、前者になったのね。よかったわ。


「レダさん大丈夫?すぐに回復魔法を……」


「アンタの助けなんて要らない!庶民の助けなんて……!」


「そんな事言わずに受けた方がいいわ。しばらく腫れてしまうわよ?」



「……うぅ。実は口の中切っちゃったの」


「ええ?!大丈夫?舌噛んでないよね?レダさん……主の恵みよ!ヒール!」


「ちょっと噛んじゃって……結構痛い……ありがと」


 私たちがレダさんを心配している傍で。

 フレイ様は従騎士と話し込んでいたわ。


「お前はビクトル兄貴の従者のハンス?ハンス・ゲーネバインだよな?よく止めてくれた」


「お久しぶりです、フレイ様」


「オレに様付けとかいいって。

お前こんな所でどうしたんだ?

兄貴と一緒に教会騎士団へ行ったはずじゃ?」


「ビクトル様に、こちらの人形劇のお手伝いをと」


「ハンスは相変わらず生真面目だなぁ。そう言うの適当でいいのに」


「ははは、手抜きが出来ない性分でして。

案外楽しいものですよ?子供達が目を輝かせて見てくれますし」


そう笑うハンスさん。

短い銀髪で垂れ目がちの甘いマスクのわりに、高身長筋肉質の身体で、いわゆるガタイの良い部類に入るわね。

しかし身長大きいな。190センチ越えか?羨ましい。



「貴方達のせいで大変な事になったんだからね!

 フォオナ殿下の言いつけで、教会行ったら騎士団の方に回されて魔法使えるからってこき使われて!


 ようやく教会の方に戻ったと思ったら、今度は庶民の為に人形劇?!

 しまいにはお母様から叩かれて!

 どうしてこの私がこんな事に!」


 涙目で訴えてくるレダ嬢。

 ……駄目だったか。かなり教会騎士団の方でも振り回されたみたいね。

 お母様も相当お怒りの様だし……でも、イジメの件というよりも、下町の教会にいる事自体がお気に召してなかったような?


 なんだか親子関係にしては歪な関係よね。レダ嬢とお母様。過干渉?早く離れさせた方が良くないかしら。

 かと言っても方法がね……うーん。


「落ち着いてください、レダお嬢様。

これが終わったら、貴方の大好物のミルクティーとエッグタルトが待ってますよ」


「もうハンスったら!

貴方だってスイーツ好きじゃないの!

それじゃあ私だけ食い意地張ってるみたいじゃない!」


 何これ、生意気ツンデレちゃんと生真面目くんのカップルか?……最高じゃないの、くそ可愛いなぁ。


 あら、レダさんがハンスさんをチラチラ見てるわ。

 おやおや、これはひょっとして。


「ねぇレダさん。ひょっとして好きな人出来まして?」


「……はあ?なんでそうなるの?」


 顔が真っ赤になるレダ嬢。そうよね、そうじゃなきゃ下町の教会に残らないものね。


「だって、とても楽しそうじゃないの。ハンス様、素敵よね」


レダ嬢に私はにっこりと微笑んでそう囁くと。


「えっどうして分かるの……?いや違いますから!」


よしやった!言質取ったり!甘酸っぺぇ青春だわ!微笑ましい。


「なにを言っているの、従騎士なんて私の家に相応しくないわ!

お父様にもお母様にも、伯爵家以上の金ヅルになりそうなお坊ちゃんじゃないと!って言われているのよ?」


……ええ?なかなかヒッデェ親と条件ですわね。レダ嬢ちょっと可哀想。


「……って事はレダさん!まさか身分違いの恋ってやつですか!?」


さっきまで泣いて落ち込んでいたいたロジーが一転、目を輝かせて首を突っ込んできたわ。

こういう恋話大好きだものね。親近感わくわー。


しかし今日のロジーは本当に情緒が忙しいな。


「いいわよね!困難や家の思惑を越えて結ばれるの!」

「エリーゼ様、流石分かりますね!」

「分かりみ深いわー!早く結ばれろ下さい!」


「いや、だから……貴方達話を聞いてるの?!」



「おいおい、従騎士とはいえゲーネバイン家は長年ウチの家に使えてくれてるんだぜ?

それも本妻の子の兄貴の従者なんだから、上手くやればウチとコネ作れるぞ。それなりにいい物件だと思うぜ?」


「ゲーネバイン家は確か……先の戦で功績を立てていたな。本来なら男爵か準男爵位ぐらい授けても良かったはずだが」


「あぁ確か、ウチの面子も考えて遠慮したんだよな」


何故かフレイ様、リオまで援護射撃してくれたわ。


「何?なんで皆ハンスを勧めるの……?まさか当てつけ?そんなに私を貶めたいの……?」


怪訝な顔をして狼狽するレダ嬢に。


「え?逆よ逆。だって他人の恋路を応援するの楽しいじゃない?」


「はい!すっごく楽しいですよね!」


「推しカプよ、末長く幸せになって」


「姉上?推しカプ……とはなんだ?

何処の国の言葉だ?何処で覚えたんだ?」


しまった、楽し過ぎてつい本音が出てしまったわ。


「ええ?オレはフツーにオススメしてるぜ?」


「はい?あのフレイ様。こちらの方は何をおっしゃって……?」


「まあ、うん。お前の嫁さんにレダさんどうかって」


「ええ!?そんな、こんな自分に……?光栄です」


「ちょっとハンス!何言ってるのよ!?」


フレイ様の突拍子もない提案に、まんざらでもなさそうなハンスさんだわ。

お顔真っ赤にしてレダさんは慌てている。


私とロジーはハイタッチして。


「フレイ様最&高!」


「二人とも顔が真っ赤ですね!両思い確定ですよね?そこからさらに飛んで婚約ですよね?」


「推しカプ完全大勝利!今日はもうおそいから、明日お赤飯炊きましょ!」


「ロジーさん、落ち着いてくれ。

姉上、何を言っているんだ?!オセキハンとは何だ?説明を!」


小豆とうるち米をどこで搬入するんだとか細かい事は考えないようにしよう。せめて精米と古代米ないかな。


ああ、何で私はヒロインと他人の恋路で意気投合しているのでしょうか?

それは前世が乙女ゲーオタク的に!推しカプが増えて!とても美味しいからですね!


それにしても、ロジーのご機嫌が直って良かったわ。

レダ嬢とハンスさんに感謝しないと……このカプ、全力で推させてもらうわ。

しかしこのヒロイン、まさか乙女ゲーオタク適性あるのではあるまいな?



そうやってレダ嬢とハンスさんを囲ってキャッキャとしていると。


「あら、レダさん?またサボってらっしゃるの?」


先ほどの、人形劇を取り仕切っていたシスターがこちらに目を光らせる。


「シスター!?セリーヌ・フォレスティエ!違います!これは……!」


慌ててレダ嬢が咄嗟にシスターに弁解しようとする。

……セリーヌ?フォレスティエ?何処かで聞き覚えのある名前だわ。

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