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ヒロインたちと人形劇を観ました。

下町の教会前の広場に差しかかると、美しい旋律と共に人形劇が始まったわ。

演題は『青薔薇妃と赤薔薇の舞姫』で、こちらでは有名なお話ね。


主催は教会なのかしら、司教様がまさかのアコーディオンを引いていらっしゃる。芸達者ね。

ほんのりとだけれど、フランキンセンスの香りが漂っている。お香を焚いているのかしら。

劇に集まった子供たちにシスターからエッグタルトが振る舞われていたわ。貧民街からきたであろう子供たちにも嫌な顔をせずに笑顔なのは凄いわね。


『私はこの国の妃、皆は青薔薇妃と呼ぶわ。毎日綺麗なドレスに宝石を着飾って……でも王宮に閉じ込められて、ひとりぽっち……私のそばにいてくれるのは、この庭園の花たちだけ……』


『おやおや、こんなきらびやかな所なのに何とも寂しいものだね』


『きゃあ!貴女はだぁれ?』


『アタシの名前?皆知っているさ!この街でアタシの事を知らないのはアンタだけね!』


『まぁ!なんて奇麗なお方なの?お芝居に出てくる方かしら?』


『あら、察しはいいのね。アタシの名前はマリー・ルイーズ。旅の一座で女優、男役、ダンサー、パントマイムに綱渡り……まあ、大道芸はなんでもござれだよ。

色んな国、色んな街のお祭りに招かれて各国を西へ東へ。

今日もここの王様に招かれて、王宮にやって来たけれど、それにしても辛気くさい所だねぇ』


『まあ!世界じゅうを渡り歩くなんて素敵!私にも見せて下さる?』


『あはは!なかなか変わったお妃様だね!いいよ、お安い御用さ!』


そう言うと、赤薔薇の舞姫は踊り出す。つられて子供たちの歓声が上がったわ。

ロジーはというと、咄嗟に顔を背けたわ。ものすごい気不味そうね。


「マリー・ルイーズって?

ねぇロジー?ひょっとしてあの劇……」


「……赤薔薇の舞姫って、お恥ずかしながらアタシのひいおばあちゃんの話です……」


凄く恥ずかしそうに呟いたわ。


「青薔薇妃とは、俺と殿下の曾祖母にあたる方がモデルなんだ」


ああ、殿下の言っていた青薔薇の聖女様ってやつかしら?


「でも恥ずかしいですよね」


「もう慣れたと思っていたが、こうもな」



「ひいおばあちゃんが若い頃に旅のサーカス団に勝手について行っちゃって……

サーカス団員としてあちこちを転々と渡り歩って、数年後この国に帰ってきた時、家族に家へ引き戻されたそうです。


それでもめげずに家に戻ってきてからも舞台女優やっていて。

ある時王宮に招かれて、芸を披露したって話です。

王妃様と凄く仲が良かったのはよく聞かされました」


大昔にサーカス団に勝手について行ったとは?

物凄く行動力があるアグレッシブな人だな……?


「実は当時の国王の求愛を蹴ったって話、本当か?」


「ええと、そうみたいです。

なんでも、当時の王様が派手好きで、王宮に招かれて。

当時の王妃様が王宮で孤立していたのを見るに見かねて、世話を焼いた挙げ句、王様に喧嘩を売……

……いえ、身を引いたそうです」


「いや、喧嘩を売ったのは事実だろ。

結構な啖呵を切ったって、ひいお祖父さまの手記に書いてあったな。

まあ、あの方は女癖が悪いから、因果応報だろうな。あの啖呵はなかなか小気味良かったよ」


「えー?何で書き残しちゃったんですか!恥ずかしいです」


当時の国王に喧嘩を売るなんて、なかなか豪胆な方だ。不敬罪で処刑騒ぎにならなかったのは幸いだわ。



「……でも青薔薇妃は、なかなか子供に恵まれなかったんだよな」


「えっ」


「それで結構揉めたらしいですよね。

わざわざ当時の王妃様を退かせたのに、光の魔力を持った子すら産まれないなんて!って。


そのせいで、青薔薇妃は独りで王宮から遠い離宮に行かされたらしいです。

表向きは……確か腹膜炎だったかな?病気患ったから静養って名目だったみたいです。


アタシのひいおばあちゃん、最期まで青薔薇妃の事を心配してたって聞きました」


「そんなに有名な話なの?」


「ええ、この国の人なら知らない人はいないんじゃないかな?」


ええ?そんなの、お父様にもお母様にも家庭教師からも聞かされてないわよ?やはり私、箱入りだった?


「まあ、王侯貴族ではよくある話だな」


クッソ重い話をサラッと流すリオ。陰謀渦巻く王宮と言う名の伏魔殿で育ったせいか、肝が据わったのかしら。


人形劇では王宮で舞踏会が開かれ、マリー・ルイーズに励まされた青薔薇妃は奇跡を起こす。

青い薔薇を咲かせるという奇跡を。


その光景を目撃した民衆から歓喜の声があがり、王様や大臣たちはそれまでの冷たい態度から改心して彼女たちを受け入れる。


「……現実は、そう上手くいかないのにね。ローズマリー伯母さんもそう」


観客が盛り上がる中、ロジーは小さく、吐き捨てるように、呟いた。


「あのさ、ローズマリーさんの事なんだけど。

ロナウドの親父さん、愛のない政略結婚でさ。


本当に愛していたのは……」


「……お父さん、お母さんから聞いています。

伯母さん、死産だったって。

産後の肥立ちが悪くて、亡くなった赤ちゃんの後を追うように……


お父さん、凄く後悔していて。お母さんからは、伯母さんのようにはなるなって何度も言い聞かされて育ちました。


だからこそ、許せないんです」


これは隠し設定というヤツかしら。

それにしても世知辛いわ。


静かな怒り。それはゲームでは見たことのないヒロインの姿だった。

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