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最推しと婚約者がいらっしゃいました。

日を改めて、最推しのリオネル様がやってくる予定日の、早朝から、わが公爵家はてんやわんやでした。


「ねぇ、アニータ。私、変な所はないかしら?」

「いえ、お嬢様。何処を見ても愛らしいですわ」


 公爵邸の私室で、私付きのメイドのアニータと、豪華な鏡台の前でくるりと回る。

 新調した純正シルクのドレス、前世では着た覚えがないのよね。公爵家の財力すげえわ。

 アニータはニコニコと、お世辞と建前で返してくる。

「本当にお嬢様はリオネル様に出逢ってから、素晴らしい淑女になりましたね!」

 いやあの、ここは本音で返して欲しいところなんだけれどね。切実に。


 まあ、どんなわがままも罷り通ってもおかしくない環境だものね。なんて、鏡に映る私の姿を見て、内心毒付く。


 お母様と瓜二つのサンストーンの様な金髪、サファイアの様な碧眼。白い陶磁器のような肌に、うっすらと色付いた唇。何なのこの幼女、絶世の美少女じゃん。

 それでもって公爵家の一人娘じゃ、甘やかされて当然か。


 前世では、人並みの平凡な容姿で、ウンザリするほど苦労する事も多かったから、ちょっとイラっとするなぁ。

 うーん、でも美人が得するとは一概に言えないのよね。

 美人なヲタ友は、セクハラとか、同僚女性の派閥争いに巻き込まれて大変だったみたい。

 パワハラも酷かったからICレコーダーできっちり証拠掴ませて、労基署に駆け込ませたわね。なつかしいなぁ。



 実際、使用人達は悪役令嬢には誰も注意しないし、お父様だって本気で叱ったりしてくれないから公爵邸ではわがまま放題だったのよね。


 しかしそんな悪役令嬢エリーゼもヒロインが現れてから、性悪な本性と犯罪紛いの嫌がらせをしていたのよね。当然あっさりバレてしまい、フィオナ殿下からは婚約破棄。しまいにはリオネル様に殺されてしまうのよね。当然と言えば当然の流れか。


 それにしても、どれだけ悪役令嬢はリオ様に嫌われていたのかしら……?

 その辺の情報はゲームにものノベライズにもコミカライズにも、全く出てこなかった。今考えると不自然な程に。

 リオ様ヤンデレ派有志によると、愛しのヒロインをいびり倒した恨み辛みで闇魔法の生け贄にされたのでは?という考察していたけどね。


 それとも、ゲームでの悪役令嬢の周囲は世辞と建前だけで、誰も本当の事を言って正してくれなかったからこそ、あんな酷い目に遭ったのだろうか……。

 それこそ、真綿で首を絞められるように。それもそれで理不尽じゃないかな。

 確か、優しい虐待ってやつだよね?


 今のところお母様が口を酸っぱくして注意しているからまだ見放されてないのね、と少しホッとする。

 それもいつまで続くのだろうか。悪役令嬢の母親は、社交界に出ずっぱりで、公爵家にあまり帰っていないという描写がゲームにあったものね。


 正直、婚約破棄するしないとか、殺し殺される以前に、これ以上リオ様とフィオ殿下に嫌われたくないなぁ……最推しと、その父兄様やぞ。フィオ殿下も好きだけどね。


 それでも、リオ様に嫌われて殺される事になったら、その時は運命を受け入れよう。推しの顔を拝みながら人生を終えるのも本望……

 いや、やっぱり死にたくないし、リオ様嫌われたくもないわ。最推しだもの。せめてリオ様と老後まで茶飲み友達として末永くお付き合いしたいわ。

 受け入れられるか、こんなもん!



 そう、なんと今日は私の最推しのリオ様と、その兄フィオナ殿下が我が家にいらっしゃるのです。

 粗相も、失敗も、もちろん許されません。主にお母様に。


 この世界のお風呂には入浴剤がないから、取り敢えず庭で摘んでもらった薔薇やハーブと、厨房で譲ってもらったお酒は……あれシャンパンだったかもしれないわね……とお塩を入浴剤がわりに入れたし、砂糖を使ったスクラブで全身を磨き上げました。この国だと高級品なのにね。


 もちろんドレスも流行りのものに新調しました。ええ、お母様命令で、強制的にさせられました。


 本当はもっとシンプルで動きやすいデザインのドレスにしたかったのに、お母様に「そんなもの品がない」って怒られてしまったのよね。

 お母様、もう少しお手柔らかにお願いできませんかね……これだと娘さんが反発して当然ではないでしょうか……?


「お嬢様、そろそろお時間ですので、エントランスへ」

「分かっているわよ、アニータ」


 私は急ぎ足で自室から出て、エントランスへと向かう。

 新調したドレスはとても綺麗なんだけれど、ヒラヒラしていて動きにくいわ。コルセットもしたし、パニエでボリューム感増してるし……うーん、デニムやジャージが恋しい。


 お貴族生活って派手だけど、格式やらマナーやらなんやらで色々キツいのよね。油断するとすぐ前世のクセが出てしまいそうで怖い。

 それにあんまり自由がないのもなぁ。本屋も雑貨屋もフラッと気軽に一人で行けないし。


 玄関ホールにはお父様、お母様が執事長と話し込み、他の執事やメイドたちは慌ただしく準備している。


「エリーゼ!早くこっちにいらっしゃい!」


 お母様に呼ばれて、お父様とお母様の間に立たされた。お母様が手早くドレスや髪飾りのチェックをして、馬車の到着した音がすると、その場にいた全員が綺麗に並び、姿勢を正した。


 重々しい音を立てて開かれた扉、その向こうには私の婚約者であるフィオナ殿下と、私の最推しリオネル様のお姿が……。ううっ尊い。


「お待ちしておりました、フィオナ殿下、リオネル様。ようこそ、キャルロット邸へ」


 父上がそうおっしゃられると、キャルロット公爵家の者は一同に頭を下げる。

「ええ、お久しぶりですね、キャルロット公爵」

 王位第一後継者のフィオナ殿下は威厳さえたたえて、我が家にいらっしゃいました。



 フィオナ殿下との、お父様お母様とのご歓談も終わり、あとは婚約者同士水入らずで……と、公爵家の庭園内にあるローズガーデンに出されてしまった。


 我が公爵家の庭園は手入れが行き届いていて、噴水もあれば、季節毎に薔薇が咲き誇っている。四季分咲きですね。


 ここでゆっくりとお話しすれば、王太子の心も射止められるはず!とのお母様の計画が立てられている。 私はそれを踏まえて行動を取るだけね。


 公爵家のローズガーデンで咲き誇っている花は、なかなかお目にかかれないものも多く、我が家でしか栽培していない珍しい薔薇も植えてあるのだそう。

 品種は……何だったかしら?物凄く仰々しいネーミングだった筈よね?確か、神様と何とかの奇跡とか……忘れた。よし、ここの説明はスルーしよう。


「どうぞ、フィオナ殿下、リオネル様。こちらにお掛け下さいませ」


 ささやかながら庭園用のガゼボの下、モザイクで装飾が施されたテーブルとチェアに案内する。


「はい、ありがとう。エリーゼ嬢」

 にこやかに答えるフィオナ殿下は、流石に顔が良かった。

 ついでに声も良い。大人気絵師さんの顔面と、大人気の声優さんの声帯だからね。仕方ないね。


 リオネル様はというと、フィオナ殿下の後ろにくっついて回っていて、とても可愛い。待って無理、小さなリオネル様マジ尊い……!


「リオネル、先にお座り?」

「……え?でもお義母様が何事も兄上が先と……」

「ここは王宮じゃないんだ、いいから先にお座り」

「……はい、兄上」


 小さい頃から王宮で汚い大人達に揉みに揉まれ、引っ込み思案になってしまった幼いリオ様と、それを気遣うフィオ様。


 何これスチルなの?というシーンに、思わずニヤケそうになる。はしたない表情がバレないように、必死に手で顔を覆い隠す。


「どうしたのですか?」

「いえ、少し目が……」


 こんなに素敵なシーンなのに、何故スクショ出来ないの。ああ尊い、クッソ尊いのに!


 フィオナ殿下とリオネル様が着席したタイミングで、ここで待機していたメイドが紅茶を出す。ふわりと、柑橘系の香りが漂った。アールグレイかな?


 前世で言うとマイセンのような高級ティーカップとソーサー、純銀の豪華なカトラリーにフィオナ殿下とリオ様は目を見張っているわ。やはり、分かる人には何処のブランドか分かるのかしら。私には皆目分からないのだけれどね。


「よろしければ、テーブルの上のスイーツや軽食もお召し上がり下さいませ」


 そう言って、使用人達の手によって完璧に用意されたアフタヌーンティーのケーキスタンドからプチケーキやスコーンを暗にすすめる。

 アフタヌーンティーのケーキスタンドは下段からサンドイッチ、中段が暖かいパイなど、上段がスイーツと定まっているのよね。もっと自由でいいのにな。


 取る時は、下の段から順々に。フォークとナイフで自分のお皿に取り分けて、スコーンは手で割る様にとも教えられたわ。

 

 スコーンのクロテッドクリームとジャムの塗り方は、クリームが先のデヴォン式と、ジャムが先のコーンウォール式でお父様とお母様が争っているから……正直言って、食べられるならどっちでもいいんじゃないのかしら?


 この国、甘いものが貴重で、大好物の人が多いのよね。


 だけれど。確かフィオナ殿下は違ったはず。


 「フィオナ殿下は甘いものが苦手ですので、サンドイッチやフライドポテト、好物の唐揚げなどもご用意しました」


「えっ」


 驚くフィオナ殿下。あれ、変な事言ったかな?まさかアフタヌーンティーに油物NGみたいなマナーがあるとか?


「……兄上、甘いものが苦手って、本当ですか?そんな様子、僕は見た事も……」

「それに私は唐揚げが好きだなんて一度も公言した事はないのに……キャルロット公爵家の令嬢が、なぜそれを」


 えっ?それは貴方が甘い物が苦手な設定なのでは?


 ゲーム本編で、ヒロインが貴方に持っていく差し入れの選択肢の正解が、何故か庶民的な『唐揚げ』だったじゃないの……って。


 これ前世で知ったゲームの攻略情報をペラペラ喋っちゃっただけじゃない!

 いけない。本気でいけない。迂闊な事をすると、好感度が下がる=死亡フラグなのに……!


「キャロルット公爵に気付かれた節はなかったはず……そんなまさか……」

「噂は本当みたいですね、兄上……」

「何の事ですの?」


 私が聞き返すと、お口に手を当てて、フライドポテトをモグモグしたままのリオ様が小首を傾げて答えてくれました。可愛い。


「……キャルロット公爵家のエリーゼ令嬢。

 貴女は『預言』を授かった聖女じゃないかって、皆言っているよ?」

「聖女?それはローズティアでしょう?私は悪役令嬢ではなくて?」 

「悪役?ローズティアとは何処のどなたでしょうか?」


 先程の失態を何で都合良く、変な方向に解釈されてるんだろう?そもそも『預言』って何?そんなの攻略本や、攻略サイト、設定資料集にあったかな?


「こら、リオネル。物を食べている時は喋ってはいけないと言われているだろう?」

「……!ごめんなさい。兄上」


 ああ、私のせいでリオ様が怒られてしまうなんて。申し訳なさで胸が一杯になってしまう。フォローしなきゃ……!


「フィオナ殿下、怒らないで下さいませ。お食事中のリオネル王子に話しかけてしまった私が悪いのですわ。

 それに、王宮では王妃様や、王妃派の息のかかった官僚やメイドにも蔑まれて、離宮に一人追いやられて、食事もまともなものが出されてないのでしょう?」


 その瞬間、フィオナ殿下とリオネル様の顔つきが強張った。

 あ、駄目だこれ。地雷踏んだわ。

「セルシアナエリーゼ。何故、貴女がそれを知っている?公爵にも知られていない、王族の者しか知らない王家の醜聞を!!」


 えっ周知の事実じゃなかったの?確かゲームだと皆がそう噂して……


 うわあぁ……!何度同じ轍を踏めば気が済むのよ私!

 リオ様を庇うにも、言い方や、言って良い事悪い事ってものがあるでしょ。いくらリオ様絡みで動揺していて思考と語彙力が低下していても、もう少し考えてから物を言いなさいよ!馬鹿じゃない?

 ……あぁこれ、もう好感度が息をしていないわ。

 しかも警戒されてしまうなんて。最悪だ死にたい……!

 

「あの、申し訳ありません。で、出過ぎた真似を……ただそれは……お父様が……」

「キャロルット公爵は、この事についてはご存知ない筈だ。母上とその取り巻きや派閥と、上手く距離を取られているからね。母上もあれで馬鹿ではないから、醜聞になりそうな事や、揚げ足取られるような事は、外には絶対漏らさない」


 お、お父様……そんな王宮という名の伏魔殿を絶妙なバランス感覚で渡り歩きおって……


「……だから兄上、シス師もおっしゃっていましたが、エリーゼ嬢は本物の『預言』の聖女だよ」


 だからその、預言って何ですか。リオ様?!


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