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殿下とヒロインの秘密のお茶会に呼ばれました。

 フィオナ殿下に、これから時間あるかい?と言われて、放課後に呼ばれたのが成績上位者と特別階級しか入る事が許されないとされる生徒会サロン室。


 ゲーム内でも、何度かヒロインがフィオナ殿下に呼び出されていた所なのよね。この部屋。

 開かれた扉から見えるサロン室は思っていたよりもシックで落ち着いた内装だわ。


 ゲーム画面だとやたらキラキラしていた印象があるけれど、エフェクトのせいだったかしら?

 この部屋には、ゲームでは公爵家の生まれなのに成績不振だった悪役令嬢は入れなかったのよね。お昼に揉めたご令嬢たちも。


 つまりこれはフィオ様攻略ルートのイベントですね、分かります。


 将来王位を確約されている王太子殿下と、教会の孤児院で妹と暮らしていたヒロインローズティアの、身分違いだけれど、一途でピュアな恋。

 ミステリアスローズファンは皆、ヒロインのローズティアに自分を投影してゲームにのめり込んでいったのよね。かく言う私もその一人なのよね。リオネル様に沼るまでは殿下推しだったもの。


 だけど、この場面では悪役令嬢とラスボスとなるリオネル様はいないはずよね……本当にいいのかな?いえ、若い二人の幸せを祈りつつ、今からお手洗い……お花を摘みに逃亡し、しばらく立てこもればゲームの進行通りに……?


 この学園のお手洗いもこの世界では最新鋭の水洗トイレで配管もクランク式だし……異世界、魔法の世界とは?ってなるけど、衛生って大事だなって思いました。


「エリーゼ、何処に行こうとしているんだい?」

「ちょっとお手洗……いえお花を摘みに」

「姉上、先程も行かれたよな?さあ、サロン室へ入って」

 ちょっと、王子二人に私の行動ターン封殺されましたわよ?何で?先を読まれたの?


 サロン室に入ると、フィオナ殿下はゲームでの定位置ではない席に座る。


「これはあくまでも私的なお茶会だから、堅苦しいマナーは抜きにしよう。

 特に座席順のようなものはないから適当に座ってくれ。

 先日良い茶葉が手に入ってね」


 ……え?ゲームだと上位階級、成績上位者から奥の席に座るはずじゃ……?


 内心困惑する私をよそに、リオはそそくさと座り

「姉上、こちらにおかけください」

 そう言われて座らされたのは殿下と真向かいの席。まあ、一応婚約者だものね。でもヒロインに座らせてあげてよ。


「いえ、その席は酷い目に遭われたローズティアさんが」

「いえいえいえ!謹んで辞退させていただきます?!アタシは端っこで」


「ウィンデール、いるかい?」

「はいはいフィオナ王子様、今度はどのようなお申し付けで?」

「お茶を淹れてくれないかな?四人分だよ?」

「ちょっと、オレの分は?」

「じゃあ五人分ね」


 ちょっと待って、フィオナ殿下が顎で使ってるのって。風の貴公子じゃない?


 翡翠……いや、ペリドットのような淡い薄緑の髪、同じ色の切長の瞳。細身で、飄々とした表情。着崩した制服。ペールグリーンのピアス。

 あれは、エメラルドアイル伯爵家の末子の……どう見たって攻略対象の貴公子の一人、風のウィンデール様じゃない!?


 でも確か、ゲームだと、もっと後に出てこなかった?

 などと、不審な目でウィンデール様を見ていると。


「どうされました?俺の顔に何かついてます?

 それともキャロルット公爵のお嬢様がオレに一目惚れ?」


 ちょっと貴族にしては砕けたフランクな口調。

 ウィンデール様は割と軟派なキャラなのよね。


「ははは、何を言い出すんだウィンデール。

 彼女は私の婚約者だよ。君に目移りするわけ無いだろ?

 ああ、エリーゼ。安心して。コイツはこんなナリだけど別に取って食いはしないから」


「こんなにイイ男捕まえてといて、こんなナリとかないでしょ?

あと、お湯沸かすの時間かかるから待って?」


「そんなの魔法使えば一瞬だろ?」


「それ王子様だけだから!俺は風の使い手でしょ!そんなに言うんだったら王子様お湯沸かしてくださいまし?」


「仕方ないね、一国の王子をこき使うなんて、ココと陛下ぐらいだぞ?光栄に思いたまえよ」


 フィオナ殿下はサロン室に隣接する給湯室らしき場所に向かい、ウィンデール様とわちゃわちゃと話している。仲良いわぁ。ほっこりする。


 でも、ウィンデール様ってフィオ殿下の側仕えよね?フィオ殿下を湯沸かし器や電気ケトル代わりに使うとか、本来なら不敬なんだろうけど……?


「殿下、そう言ったことは下々に任せて、お控え下さい。王室の沽券にかかわります」

「あの、よければアタシやります!」


「何、王侯貴族だって内乱や戦争でも起きればすぐに命を狙われるか、追い出される身だ。少しは有事に備えておかないとね」


「兄上!いえ殿下、お言葉が過ぎます」


「君達に何かあったら、隣国のステュードにでも、悪帝率いるドルンゲン帝国にでも頭を下げて、あのドルシュキーの爺様の首を取ってやるさ」


「殿下、何も知らされていない姉上と庶民のローズティア嬢の前でその様な事を言わないで下さい」


 サラッと怖い事を言いおるぞ、この王太子殿下。


「大丈夫です!今聞いた事は口外しません!実家の騎士の誇りにかけて!」


 そう言って敬礼するローズティア。動きがこなれているわね。


「ふむ、見事な心掛けだね。叙勲ものだよ」


「そんな事ばっかり言うから軍閥派の爺様連中に気に入られちゃって〜。また軍人上がりのスターリングシルバーの爺様連中にしごかれますよ?

 といいますか、つい最近まで……前年度までスターリングシルバーの女傑達の尻に敷かれてお茶くみさせられてたから慣れたもんでしょ……イッテ!ごめんなさい!」


「私は寛大だから許してしんぜよう」


「本当に許してるなら小突かないでしょ?」


 それって結構問題なのでは……?まあ、本人が楽しそうなので目を瞑っておこう。


「さあ、紅茶も淹れた事だし、ティーパーティーと洒落込もう」


「ひい〜!アタシ、ティーパーティーなんて初めてですぅ!!」


「ローズティア嬢?大丈夫だよ、スコーン出すだけの簡単なクリームティーだから。そこまで気負わずにね?」


 震え上がるローズティア。殿下は気分転換のつもりなんだろうけど、主役のローズティアを萎縮させてどうするの?


「大丈夫ダイジョーブ!

生徒会サロンのお茶会なんて、そこら辺の平民のおばちゃんの井戸端会議と変わりゃしないって!

去年まで北方も辺境伯の女生徒のたまり場……イッテ!」


「ウィンデール、言葉を慎んで。

確かに去年まではスターリングシルバーの女帝どもの井戸端会議……いや、女性が多くてちょっとしたマダムのサロンみたいだったけれど」


 殿下、ウィンゼル様を小突いたつもりでしょうけど、そこ急所です。痛そう。


 しばらくして、ウィンゼル様はサンドイッチを載せた皿をテーブルにおいた。この辺では珍しいキュウリとハムのサンドイッチだわ。


「この緑色の、何ですか、これ?」


「ああ、キューカンバーだよ。

 南方の野菜なのだけれど、この辺だと温室栽培のものしかないかな?」


「わあ、初めて見ました」


 好奇心で目をキラキラさせるローズティア。


「そんなに珍しいものなの?」


「公爵家でも小規模だが温室栽培しているから、姉上にとっては身近に感じるかもしれないが、王都でも珍しい野菜だ。

 この国の貴族の中でも温室を持った好事家ぐらいしか食べないよ」


 キュウリなんて、前世だと夏の野菜として普通に食べてたのにね。ばあちゃんが畑から取ってきたのをぬか漬けにしたり、味噌つけて食べたりしたわ。


「殿下が特にお好きでね。食後によくキューカンバーのジェラート召し上がっているんだ」


「へぇ!国王陛下はキューカンバーがそんなにお好きなんですね!」


 キュウリのジェラート?国王陛下はデザート感覚でキュウリが好きとな。軽くカルチャーショック受けるわ。


 他にもウィンデール様が運んできた皿には、スコーンはもちろん、クッキーや色とりどりのマカロンや、この世界では希少なチョコレートまで乗せているわ。スコーンだけじゃないやん。


「殿下、クリームティーでは……?」


「欲張りすぎたかな?どれもおいしいから食べてごらん?取る順番は気にしなくていいからね。

 ああ、エリーゼの所だったらフライドポテトや唐揚げが食べられたのになぁ」


「いえ、紅茶には合わないと思いますよ?」


「私が好きだから良いんだよ。今度、公爵家に行ってもいいかい?」


 何故か私の手を取りキスをするフィオナ殿下。


「フィオナ殿下!姉上にそのような軽率な振る舞いは控えて下さい!」


 ガタンッと立ち上がるリオ。何か怒ってるの?


 ふぇ?!……いや殿下、だからそういうのはヒロインとして下さいよ。


 ローズティアもローズティアで「わぁ、これが王宮ラブロマンスの世界なんだ……!」って小声で言いながらキラキラとした瞳で私と殿下のやりとりを見てないで。むしろ割って入ってきて!


 早く攻略対象にアプローチしてくれない?展開が、解釈が、どうしてこんなに違うの……。


「ええ、もちろん。お父様とお母様が喜びますわ」


「……いや、君のご両親の事でなくてだね」


 何故か肩を落とすフィオナ殿下。

「……よし」と、静かに着席するリオ。


 ええ?私、何か変な事言った?何かやっちゃいました?


 ティーカップとソーサーを手に取って、紅茶を一口いただく。

 香り高いわね。フルーティーだわ。

「美味しい……」

「すごーい!いい匂い!美味しーい!何これ下町じゃこんなの飲んだ事ない!」

「本当だな、これはどちらの茶葉ですか?」


「これはフレッシュアップルティーなんだよ。アッサムの茶葉と生のアップルをティーポットに入れているんだ。ローズの花びらを入れたものもあるよ」


「わあ!すごいお花の香り!」


「ふふふ、お菓子もどうぞ。我が国特産のバラを使ったローズのコンフィチュールや定番のストロベリー、マーマレードジャムも用意したんだ。」


「何これ、このクリームとジャムおいひい!」


 いつの間にやらローズティアが手にしているスコーンには、ジャムとクローテッドクリームまでついて、歯形まで出来ているわ。食べるの早い。

 この殿下、出来るわ。恐ろしい子……!ヒロインの胃袋をガッチリ掴んでいらっしゃるわ。


 リオはというと、一人ストロベリージャムとマーマレードジャムをパクパク食べてるわね。ええ、ジャムをそのまま。


「リオネル王子?!その、せっかく林檎の良い匂いのするお茶なのに、ストロベリーとオレンジのジャムをそのまま食べちゃうの?……ですか?」


「いえ、北の国ではこのような飲み方をするのだそうだよ」


 さりげなくフォローを入れる殿下。



「リオネル。お前、その癖まだ治ってなかったんだね……」


「……申し訳ありません。母上はこうして飲まれていましたので」


「懐かしいな。リリー妃の部屋には北方の国々の、紅茶用のサモワールとストロベリージャムが備え付けてあって、よくご馳走になったな」


「……兄上、それ目当てに母上の部屋に入り浸っていたでしょう?」


「お、幼い頃の話じゃないか。

 まあ、ジャムに関しては私のプライベートなお茶会だからね。構わないよ。

余所では驚かれてしまうから、やらないようにね」


 既にウチのお屋敷でやらかして、給仕のメイド達がざわついていたけれどね。お母様が珍しく取りなしていて大変だったわ。


「へえ、色々あるんですね。ウチの辺りだと紅茶にジャム入れますよ?」


 そう言ってウィンデール様はマーマレードジャムを容赦なくアップルティーの中に入れる。これ美味しいのよね。


「……ウィンデール、少しは私の顔をを立てる気はないのか?」


「立ててますよー、普段からめっちゃ立てているじゃないですかー?……イッテ!」


 綺麗な水色の紅茶にスコーンにサンドイッチ。これぞアフタヌーンティーだわ。あと暖かいパイがあれば完璧ね。

 マカロンやチョコレートも美味しいわね。


 ……ただ欲を言えば、渋い緑茶と、寒天とかおはぎ、練りきりとか芋ようかんが食べたいなぁ。

 この季節なら焼き芋が……まさか焼き芋が恋しくなるとは思わなかったわ。と言いますか、そろそろ前世の食文化への未練を絶たないと。でもおはぎ……焼き芋……。


「さて、お茶のお代わりはいかがかな?」

「はい、いただきます!」

 フィオ殿下、完全にヒロインの胃袋掴んだわね。ウィンデール様の反応も悪くないみたいだし、リオとも打ち解けて来たみたい……これは誰がヒロインを落とすか、混戦になりそうな予感がするわ……!私、自分の命が掛かっているけど、ちょっとワクワクしてきたぞ。


 ただ、このイベントって、生徒会のサロン室で二人きり、王侯貴族のマナーについてフィオ殿下自ら優しく教えてくれるというファンにとっては殿下沼に一斉に落ちるという伝説のイベントなのよね。


 なのに、一向に雰囲気が甘くならないし、マナーに関してはお咎めなし。イベントらしきセリフは出てこないし……ぐぬぬ、何で?私がいるせい?それともリオを助けた影響がここにも?

 いや、今からでも遅くないわ。若い二人の幸せを祈りつつお手洗いに立てこもるために、機会を伺わないと……。


 そう周囲の様子を伺ってみると、ウィンデール様がフィオナ殿下に何か耳打ちし始めたわ。どうしたんだろう。お花摘みに発言しにくいわ。


「さて、ローズティア・マリー・ルイーズ嬢。

 こちらの不手際をお詫びしたい。調べたところ、不正が発覚してね」


 そんな私の思惑を遮るかのように、フィオナ殿下はゲームにはない予想外の言葉を口にした。


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