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魔法学園での授業が始まりました。



暗い石造りの地下室で、私は必死に魔法術式を床に書き殴っている。婚約破棄された直後なのだろうか、泣き腫らした頬は赤く、髪は乱れ、肌は痩せこけている。クマも酷い。

だが、自身のうらぶれた姿すら顧みずに、古い魔法書を広げて、地下室の床にチョークで手早く術式を書き写す。

ドレスやレースが汚れる事も全く気にとめずに。

埃さえ嫌ったのに、その様子を見る者がいたなら何と言うだろう。


重く閉ざされたその地下室の扉を開く者がいた。

このローズベル王国唯一の闇魔法の使い手リオネル王子だ。


「エリーゼ、こんな所で何をしているの?!」

「何って、学園きっての秀才リオネル王子なら分からない?

聖女だったひいお祖母様が召喚された時の術式を描いているのよ。

聖女の血を引く私自身を触媒にして、異世界から聖女を呼び出すわ。

それで、あのローズティアの欺瞞を暴いてもらうんだから」


「何を言っているんだ!そんな事したら君が死んでしまう!」

「そんなの安い代価じゃない。私はもう大貴族でも公爵令嬢でもないのだから」


「フィオナ殿下も、皇太子妃の座も、名声や羨望も、公爵家令嬢の身分も何もかも!

ローズティアのせいで全てを奪われて、しまいには恐怖政治を敷いて気に入らない妾を次々と殺すドルンゲンの悪帝に嫁げ、ですって?!

もう生きてなんていけないわよ!もういいでしょ?放っておいて!」

「そんな奥義、君の身体と魔力が持たない!」

「分かっているわ、そんな事!お願い死なせてよ!」

「嫌だ!僕は君がずっと……だからどうか……!」

リオネル様が私に抱き締めて、無理矢理唇を奪う。

「お願い、僕を選んで……?」

私は渾身の力で、リオネル様を魔法術式の円陣の外へと突き飛ばす。

「さようなら、リオネル王子」

術式の起動は上手くいったようだ。魔法術式を中心に魔力光が発生する。

その光が臨界を迎えたとき、私の身体はもう……。



そこで目が覚めた。

背中に伝う汗の、冷たい嫌な感覚で目が覚めていく。

「また、物騒な夢……」

今度はちゃんと覚えている。いやに生々しかったわ。

あんなのゲームにはなかったのに。この先の予知夢かしら。


といいますか、最推しとキスするとか、夢であっても最推しに対して不遜過ぎない……?

そろそろ本格的にかつての同好の士に命狙われるんじゃないかしら。少数精鋭だったしな。私が転生してるなら他のファンもあり得るんじゃ?それとも次元や世界を越えた呪詛とか……うう、嫌だなぁ。他言しないようにしよ。



さて、学生生活が始まってもう一週間。


大好きなゲームの舞台だわ!これが約束されし勝利!これが楽園か!

どこを見てもゲームの尊いイベントが思い出される……やだ、何これ、絢爛豪華な走馬灯?尊み過ぎて昇天しゅる……とはしゃげたのは、最初のほんの数日。


あの領地の屋敷でのシゴキのお陰様で、ペーパーテストで好成績を叩き出し、トップの成績を誇るリオと同じ選抜クラスに入ることが出来たわ。お母様もお父様も狂喜乱舞でしたわよ。

うん……ゲームでの悪役令嬢、成績悪くてお荷物クラスに入れられていたものね……。

つまりは、より一層努力しないと一瞬でお荷物クラスに転げ落ちるって事なのよね。

ははは。また前世の如く胃に穴空いて死にそう。



学生生活も懐かしいわ、ただ、体感年齢がアラサーだとなんだか……このクラスの副担任の気分になるわ。


ただ、懸念というか、何と申しますか。このクラス、選抜だけあって他のクラスメイトの魔法使いとしての素養が凄すぎる。天才奇才秀才勢ぞろいじゃないの。


私のあの……多分聖女の術的なもの(仮定)?ですが。

はい、あれ以来全く使えておりませんわ。

ええ、全く。

うーん、何か発動条件みたいなものでもあるのかしら?推しの危機とか、聖女アイテムが必要とか。なお聖女アイテムの『青薔薇の誓い』はルート確定アイテムで、悪役令嬢では決して手に入らないアイテムですね、分かります。


素人に毛が生えたような魔法しか使えないと、他のクラスメイトの圧倒的な才能に平伏するしかないわ。

こればかりは生まれながらの才能や、由緒正しい魔法使いの家系じゃないと太刀打ち出来ないのよね。一夜漬けが効かないってのはなかなかしんどいわ。


ええ、初めての魔法演習の授業で、皆フレイムの魔法で轟々と炎を巻き上げる中、私一人だけライターの火程度だものね。

クラスメイトの皆様、私の魔法を見て二度見三度見してらしたわよ。

露骨に顔に「お前、入学式であれだけやっておいてそれはないだろ」って書かれてましたわ。

まあ、流石優秀な魔法使いが集うクラスだったので、即時検証に入りましたわ。

「魔力の出力障害か?」「学校指定の杖と相性がよろしくないのでは?」などと色々調べられましてよ。

中にはフォローしてくださる方もいて「なら魔力を増幅させるタリズマン使ってみては?」と進められたわ。

いやあの、それ学園では禁止されておりますがな。


学力もあんなに勉強漬けだったのに、この選抜クラスだと中の下なのよね。このインフレ感よ。


……おかしいな。転生モノといったら無双でしょ?

強くてニューゲームじゃないの?オタクの偏見だけどもさ。

なんでまたこんな肩身の狭い思いしなくちゃならないんですかね。前世と同じじゃないですか、ヤダー。


そしてもう一つ。


「ローズティアさん、ご機嫌よう。朝早いのね」

「セルシアナエリーゼ様!リオネル王子!お、おはようございます」

ヒロインで後に聖女となるローズティアも同じクラスである事ね。


なのだけれど、緊張でガチガチに固まったローズティアさん。気の毒なくらいだわ。

「ローズティアさん、そんなに緊張しなくても良いのよ?この学園は貴賎なく魔力、能力主義なのですから」

「はっ……ひゃい」

「あら?教科書はどうしたの?」

「えっ!?あぁいえ、無くしちゃいまして……

あはは。アタシ、ドジですよねー」

「まあ、それだと大変でしょ?仕方ありません。見せてあげるから、今日は私の隣の席に座りなさいな」

「きょ、恐縮です」

何故親切にしたはずなのに、縮こまるの?ヒロインよ。

やはり悪役令嬢の役どころらしく、嫌味に見えているのかしら。

ううっ皆こっち見てる。冷たい、視線が冷たいわ。


「お前、魔力も魔法も大した事無いのに公爵家だからって上から目線で物言うなよ」とか、「庶民の何も知らない娘を優しい言葉でじわじわと真綿で首を締めるが如くイジメている嫌味なご令嬢ね」って思われてるのかしら……辛いわぁ。


こんなに可愛くて良い子をイジメなければならないとか、どんな極悪非道プレイなの……ヘコむわぁ……。


いや、一番問題なのは、ヒロインが始終こんな様子で萎縮していて、ゲームのイベントが全く起こらないのよね。

おかしいな。もう一週間経つんだぞ?そろそろ攻略メンバーと親密になってもいいんじゃないの?っていうかイベントを生で見せろ、冥土の土産にこの目で見させろ。出来ればゲームで見れなかったリオネル様トゥルーエンドの開拓でお願いします。無理かな、そこを何とか。


「皆さん、揃ってますね?ホームルームをはじめます」

ストーリーの導入、チュートリアルにしか出てこないけど、密かに人気のあった主人公クラス担任のエイガス先生が入ってきたわ。アメジストの髪、瞳を持った、大人の余裕を感じる穏やかな方だわ。

ああ、そんなエイガス先生が動いて喋っている姿が毎朝必ず見られるなんて最高かな……!と、毎朝感極まっております。オタクのきわみだな。


さて、本日の授業は魔法史、個人指導の魔法実技、法学概論、薬草学演習……私の頭が無事死亡する内容ばかりでしたわ。

なのにクラスメイトの皆は涼しい顔して講義を受けているのよね。中には自動筆記魔法使っている猛者もいらしたわよ。後で教えて貰えないかしら?

……その前に学園の方から禁止されそうよね。


 あと王妃派の連中もちょっかいかけてこないのよね……拍子抜けする程に静かだわ。こういうのって、嵐の前の静けさだったりしないわよね?


難しい授業で精神的に満身創痍ながらも、お昼休みまで生き延びたわ。午後の授業?薬草学概論と幾何学ですね。脳が拒否反応起こしそう。


ランチタイムは、皆、学園の大食堂に行くのよね。

今日は鴨と七面鳥のローストなんて豪華なメニューらしいわよ。流石王侯貴族の学び舎。


私とリオは万が一に備えてランチボックス……つまりはお弁当なのよね。

しかも純銀製の弁当箱。……これ、成金ぽくて嫌なのよね。

初見のローズティアさんが小さな声で「ひえっ」って震え上がるぐらいには威圧感あるわ。


ちなみにお弁当は私から食べる事になってます。

ええ、完全にリオネル王子の毒見役ですわ。ちゃんと嘔吐剤や解毒剤各種持ってましてよ。ゼス先生とアニータにちゃんと使い方から胃洗浄から副作用までみっちり講義とテストを受けましたわ。圧が凄かった。ガチで。


今日も一人、大食堂へ向かう皆と離れて、裏庭へ向かおうとするローズティア。

おいおいおいおい、ヒロインなのに一人飯はないだろうよ!と、私はすかさず声をかける。

「ローズティアさん、お昼は?」

「え?ええ、今日も家から軽食持ってきました」

「よければ今日もご一緒しませんこと?」

「お、お言葉に甘えて」

まあこうやってリオネル様とヒロインを接近させる作戦なのよね。


「いいわよね?リオ」

「ああ、かまわない」

憂いを帯びた薄幸の王子リオネル様と、それを支えるヒロインのローズティア。


あぁ〜、この構図!

やっぱりこの二人並び立つと物凄く……エモい!尊い……!なお語彙は無事爆散した。

あっやばい、涙腺が崩壊しそう。ついでに油断すると尊死しそう。


「……ご機嫌よう」

「ごっご機嫌よう、リオネル王子様。今日もお邪魔しますね」


なのだけれど、どうにもぎこちないのよね。この二人……。

今日も素っ気ない挨拶だけか。視線すら合わないとは。

ゲーム本編だと、ヒロインが一人でいると、リオネル様がふいに現れて一緒にお昼を食べたり、勉強したり、相談に乗っていたじゃない。割と最初の方から。

やっぱりゲームのように、簡単にイベントが起きてパパっと選択肢を選ぶだけで好感度が上がったり、恋愛感情を持ったりと、そう簡単にはいかないのかしら?

……えっ私の前世での恋愛経験?……多少はですね。それが何か?


ローズガーデンに出てお弁当を広げる。

ローズティアはもくもくとピーナツバターや、チーズと野菜を挟んだ簡単なサンドイッチを食べる。他は林檎一つ。


私とリオは唐揚げとピクルス、ゆで卵、ゆで野菜のサラダ、エッグタルトと季節のフルーツ各種。スモークチキンのサンドイッチに、リオのお祖母様特製のクリームチーズとミックスベリージャムのサンドイッチが美味しいわ。


……うーん、弁当格差か。

前世の私もヒロインと同じ様な昼食だったのを思い出すわ。

「ねぇ、ローズティアさん。サンドイッチや唐揚げはいかが?一般のご家庭でも召し上がっているのでしょう?」

「いえいえ!滅相も……」

見るに堪えかねてヒロインにこっちのランチボックスをすすめてみるけど、ご丁寧に辞退されたわ。


見知らない同学年の女子グループがこちらに向かってきた。

「ご機嫌よう。リオネル王子、キャロルット公爵令嬢。

ところでローズティアさん、貴女にお話がありますの」

「……はい、なんでしょう?」

「少し場所を移しましょう」

知らない女子生徒たちからヒロインの呼び出し。

ウチのクラスの子じゃないわね。見覚えがあると言えばあるけど、どこでだったかしら?


うーん、気になるわ。

「リオ、少しお花摘みに行ってくるわ」

 お花摘みに行くとはトイレに行く事である。もちろん彼女たちの後を追うための方便よ。

「ああ、気を付けて」

リオにそう言って、ローズティアとこっそり後を付けてみることにした。



「貴方、庶民のくせに生意気なのよ!」

多勢に無勢。校舎裏の人目の付かない一画で、ローズティアを取り囲んでお貴族のお嬢様達が詰め寄っている。


えっ何?ケンカ?イジメ?ローズティア、メッチャいい子なのに?何でイジメが……って。


……嘘でしょ?ゲームの舞台である学園に入れた嬉しみと、選抜クラスについていかなければという義務感で、悪役令嬢が引き起こすイジメイベントの存在を忘れていたんだわ?!

私は、私は何という事を……!ミステリアスローズファン失格じゃないの……!


あぁいけない。あのイベント、本来なら私が主導するはずだったのよね。だからイベント周りが動かなかったのか。見ていて忍びないわ。

……仕方ない、私も出るか。


「あら、皆さん。ご機嫌よう。こんな所で何をしてらっしゃるの?」

「キャロルット公爵令嬢?!」


そう言ってそそくさと出て行き、ヒロインのローズティアをどう罵倒しようか、まあゲームでのセリフをそのまま言うのが一番よね……と小市民的正義感と頭を痛めていたものの。


ローズティアさんの教科書が破かれ、文房具が折られていて、泥まみれ。しかもご丁寧にご令嬢が踏みつけていましたわ。

いやこれ、思ってた以上に陰湿なイジメの現場だ!

しかも悪役令嬢よりもやり方えげつなくない?


「ちょっと貴女達、何やっているの?!

学園内、未成年とはいえ窃盗、横領、器物損壊は犯罪よ?この国の刑法古いうえにキツめ罰則だし、まだ少年法無いから未成年だからといって減刑されたりしないわよ?今すぐ謝って替えの教科書を……」


しまった、気が動転して内心思っていた事が口からダダ漏れだわ。


「何を言ってらっしゃるの?ここは伝統的に法律なんて通用しないのよ?元々王侯貴族の為の学園じゃないの。

こんなの紳士淑女だったら耐えられて当然じゃない?

それにこの程度、ロクに物も買い換えられない貧乏人は、そもそもこの学園には相応しくないのよ!」


……はい?何言ってるの、この人?


「学園が王国の法外治権だったのは、ここが教会の神学校だった頃の話でしょ?

それも規律の整っている教会を信頼しての話よ?


百年前に、当時の国王が困窮していた教会からを買い取って王立学園にしてからは、ローズベル王国の法律適応内になったはずだわ。


それにこの学園は、今でこそローズベル国の王侯貴族の子息子女を預かる紳士淑女の学び舎ですが、元は勉強する機会のない子供たちに開かれた学び舎です。

彼女がこの学園で勉強するのは当然の権利よ。


それだというのに。どうしてこのような事を!」


「ふん!そんなの、アタクシのお父様の権力とお金でなんとでもなるんだから!」


おいコイツ、最低な事言い出したぞ。親のスネかじっておいて……いけない、前世の自分に壮大なブーメランがブッ刺さる。家を出た時期もあったけど、基本的には実家住まいだったし、そのおかげでオタ活出来ていた訳ですし。貯金尽きてからは親に入院費の支払いしてもらったしなぁ。今世なんてお貴族お嬢様として親に絶賛寄りかかり中だし。そもそも女性が独立とか難しい世界だしね。

でも流石にその態度はないだろ。

この魔法学園、ゲームでは紳士淑女の養成所と言われているのに……私の憧れをどうしてくれるの……。


ローズティアを取り囲んだ主犯格の令嬢が、さらにとんでもない事を言い始めた。


「それにしても貴女、どこの田舎から出てきたの?

王宮でとんでもない失態を冒しておいて、まだ王太子殿下の婚約者気取りでいらっしゃるようね?厚かましいわ!


自らの立場を弁えて、フィオナ殿下から手を引いて下さらない?」


「……はい?」


手を引いて下さらない?殿下から?

つまり婚約破棄がお望みって事?


……えっいや?あの。私、むしろ殿下と婚約という死亡フラグを破棄出来なくて困ってるんだけど?ようやく解放の目処が立つのね。やったぜ。


じゃなくて。思い出したわ。この方は確か王妃派閥の成り上がりのトレイター男爵家……お名前は確かレダ令嬢だったかしら?

本来なら、レダ令嬢も悪役令嬢の取り巻きのモブキャラの一人なのだけれど、あんまり評判良くないのよね。


トレイター家って、あまり良くない商売で小金持ちになって爵位を授かり、貴族入りした家なのよね。一部の噂だと爵位を買い取ったなんて言われてるのよね……それって確か法律で禁止されているはずでは。


とはいえ、とんでもない失態って何かしら。公爵家領地に戻った事?

それとも、聖女でもないのに秘儀を使ってリオを公爵家で匿った事?ゲーム的に?


「王侯貴族の、それも王族と血縁関係のある公爵家の婚約は国際政治的な立場や王侯貴族間のパワーバランスをふまえて国王陛下や大臣や貴族院、お父様達決める事ですわ。私の一存ではなんとも。

……恐れ入りますが、私の失態とは具体的にどのような事でしょう?」


「ふん!王妃様の怒りに触れて、田舎に引っ込んだ臆病者らしい言い草ね!」


……王妃様の怒り?初耳なんですが、それは。お父様が私に隠していたとか?

それに田舎者って。たかだか数年領地に戻っていただけでなの?常識も正論もどこ行ったの、このご令嬢。あと語彙も少ないし。きちんと質問にも答えなさいよ。


そもそも成金の男爵家のご令嬢が、何故王太子殿下と結婚出来ると思ってるの?

身分がここまで違うと、よほどの豪運と時勢、強力な後ろ盾などその他諸々がないと難しいと思うんだけれど。……血を濃くしない為に敢えての結婚はあったかな。

でも、何処かの誰かに騙されてるんじゃないの?


うーん、前世だとその手の漫画や小説大好きだったのにな。何で今世で一転、否定側に回ってるんだろう。現実って残酷よね……。


「アタクシはフィオナ殿下の婚約者として、王宮に王妃教育を受けに行ってますのよ!貴女なんかもう用済みですわ!」

いやいや、私そんな話聞いたことないわ。私に悪いからと言って、殿下やお父様が黙っているだけなのかな。

もし仮にそうだとしても、お母様やリオが何かひと言ぐらい言うはずよね。


……つまり、このお嬢さんがおっしゃっている事、物凄くうさんくさいんだよなぁ。

でも、ここで余計な水を差すと、さらに怒り出したり暴れたり面倒くさい事になりかねないから、適当に聞き流すか。つまりはスルーですね。


「先日もフィオナ殿下とオペラに行きましたの!それはそれは素晴らしい舞台でしたわ!」

「あらそれはようございました」

「ええ、悲しい恋のオペラでしたわ……思わず泣き出してしまったアタクシを殿下は優しく……!」



「はい、さようでございますか……。

先日?それは、王立オペラ劇場での?」

「ええ!そうよ!」


断言したわよ。

「あら、奇遇ですわね。

先日のオペラでしたら私も拝見しましたわ。

ええ、とても素晴らしい……」


でも、言うしかないわよね?本当の事を。

可哀想なご令嬢。

貴女は余計な事を口走って、完全に墓穴を掘っただけなのだと。


「ピカレスクロマン……復讐劇、でしたわよね?」


 


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