表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

白い男 黒い男

作者: レエ

 駅の階段を上りホームに出ると、電車が行ってしまったところだった。

 次の各駅が来るのは五分後。

 待つ人が増え出したので、空いている端まで移動した。

 そこにあった自販機を見ると、喉の渇きに気づいた。今日の日差しは眩しい。一本買って一口飲む。

 さあ並ぼう、と振り返った時、それが目に入った。


 白い人影、黒い人影。

 上下白の服と、上下黒の服の男が、白線の手前に二人で並んでいる。

 線路に向き、こちらに背を見せて。

 普通のYシャツとチノパンではあるのだが、色の組み合わせが目立つ。しかも対称の色とはいえ同じ印象の二人。

 そして肩を前に落としたダランとした姿勢が、気味の悪さを醸し出している。


 少し離れよう。

 二人の男に視線を残しながら、ホームの中程へ向かおうとすると、ふと、白い服の男が首だけを持ち上げて、こちらを向いた。

 線路に差す光が眩しくて、逆光になる男の顔が暗い。

 いや、肌の色……違う。怪我を……。

 男の顔は潰れていた。顔全体にわたる擦傷。

 ぞっと鳥肌が立ち、一歩後ずさると、二人はふっと離れていった。

 線路側に傾いたのだ。

 あっと気づいた頃には、電車が進入してきて、二人は消えた。


 急ブレーキの音とともに、電車はホームの途中で止まった。

 周りがざわつき、すぐに駅員や警察がきて、ホームにいた数人に声を掛ける。

 自分も質問された。

 他の人は、落ちたのは男一人。近くに人はいなかった、と答えた。

 二人の男が落ちた、そう答えたのは、自分だけだったらしい。

 実際に線路には、一人分の死体しかなかった。

 自分が一番近くにいたため、最初は証言を頼りに周りを探し直してくれたが、結局何も見つからず、見間違えだと結論付けられた。

 ……納得はいっていない。

 それでも受け入れて、すぐ忘れてしまおうと思った。忘れたかった。


 死体は腰で真っ二つになっていたのだ。

 上半身と下半身が、別々に線路に転がっていた。

 白のTシャツと黒のジーンズが、離れ離れに血に塗れていた。


 その日は予定を取りやめて帰ったが、静かな夜にうなされて、次の日にはまた外に出た。

 この地域は路線の選択肢が無くて、それは変えられない。

 同じホームに登り、せめて反対の端で電車に乗った。シートは埋まっていたので最後尾の運転席の壁に背を預ける。

 電車が速度を上げていく。きっとあの場所は見えない。そう思っていたのに、発車直後のホームは人が少なくて見通しがとても良いのだ。気づいた時には、もうあの場所を通り過ぎる瞬間だった。

 今日は誰もいない。

 安心して、つい振り返ってしまった。


 二人の男がいた。

 白いTシャツの男の顔の怪我はこの距離だと見えないが、あの組み合わせは間違いない。

 最後尾の窓から目が離せないまま、駅から離れていく。

 ……ホームの下の隙間に、砂利にしては大きい黒と白の固まりがある。隙間から溢れて線路に届こうとしている。赤くくすんでいるようにも見えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ