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第三章 双子迷宮のジェミ王国 6話

 コブラが扉から出てきた時、第一印象は荒れている。の一言だった。

 町の家と家の間の裏道がこれくらい荒れているのであれば、オフィックスもそうであった。

 しかし、この町は裏道だけではない。景色の全てが荒廃している。ぐったりと寝転がっている男や、ぼーっと上空を見つめている女性の姿。ここにいる人間はみんな生気がない。

 周りを見ると、一つ大きな城が見える。城の周辺はここから見ても、清潔感がありそうに映る。

「まっ、どこの国にも光と闇ってつうことか」

 コブラはこの辺りにいる無気力な奴らにかまっている暇はない。

 とりあえずはあの城へと向かうしかないと、コブラは考えた。

 まずは一番偉い奴のところに行くのが国の内情を知る一番の近道だと考えた。

 しばらく城に向かっていくと、とあることにコブラは気づく。

「この町、もしかして瓢箪みたいな形してんのか?」

 町の景観がよくなったのを気付いたコブラは裏道に入って、そこから建物の屋根へと上ってゆく。

 建物の屋上から遠くを見渡せば、コブラの疑問は確信へと変わった。

 この町は今コブラがいる景観の良い町と、扉から出てすぐに見た荒れた土地がまるで分割されているように狭い道で繋がれている。俯瞰してみればきっと瓢箪のようなくびれた形をしているのだろうとコブラは推測する。

「ちょっと! コブラ!」

 どこかから小さな呼び声が聞こえる。辺りを見渡すと、たった今家を上ってきたキヨがコブラに対して手を振っていた。

 彼女はなぜか大きな布で顔を隠していた。

「キヨ。奇遇だな」

「不審者みたいに裏道に入っていくあんたが見えたから。それで? 何を見ていたの?」

 キヨはこちらに向かって歩きながら話、コブラの横に立つ。コブラは顎をくいっと出して、自身がやってきた荒れた土地をキヨに見せる。

「私もあそこから来たわ。あそこの人たち、私の顔を見るなり、奇妙な呻き声を上げるから、気味悪くって、顏見せないようにしてたの」

「それでその頭巾か。またアンチンでも名乗るのかと」

「別に今男のふりする必要ないでしょ?」

 コブラとキヨは、その後も、しばらくその荒れた土地を見つめる。

「あんまりいい気がしねぇな。こういう格差がはっきりとしている感じ」

「そうね。この国は共和国って聞いていたけれど、ここまで格差が広がるものなの? 共和国っていうのは」「いや、そういうわけじゃなさそうだぜ。見ろよ」

 コブラはキヨに後ろを見るように促す。二人の目には、この国を象徴とするような大きなお城があった。その周りはとても豊かに見える。

「俺は教養がねぇからわかんねぇけどよ。キヨ。共和国ってのは王様がいない国って意味だよな? だったらなんであんなところに城があるんだ?」「時代の中で元々王国だった場合は建物だけが残る場合もあるわよ。そこに選ばれた人が住む可能性もある」

「とにかく、あの城に今一番偉い奴がいるってことで間違いないんだよな?」

「そうでしょうね」

「だったら予定通り侵入するか。手伝えキヨ」

「ちょっと、待ってよコブラ」

 コブラとキヨはそのまま屋根伝いに城へと向かってゆく。



 城の前には兵が二人、この町は治安が良いのか、兵の二人もけだるげに警備をしている。

 その兵たちを屋根の上からひっそりと覗き込むコブラとキヨ。

「キヨ、お前、投石は遠くまで投げれるか?」

「え? まぁ、獣誘き寄せるために練習はしたけど」

「なら、任せた」

 コブラは懐から拳サイズの石をキヨに渡す。

「どの辺に投げればいい?」

「そうだなぁ。あいつらの片方が様子を見に行くくらい……だから、あの辺だ」

 コブラは少し遠くにある水路に向かって指を刺す。キヨはあそこまで石を飛ばすための力加減を考えて、静かに石を放り投げる。

 石が思いっきり水に当たった音が響く。それには城門前で監視していた兵も気づいた。

「凄い音だったな。少し先の方から音がしたが」

「もしかしたら侵入者か?」

「子どもの悪戯でしょう」

「子どもが出せる音じゃなかったぞ。私が様子を見てくる。しっかり警護しろよ」

「へーい」

 狙い通り、片方の男が様子を見に行った。コブラはその様子をニヤリと笑い、静かに、しかし素早く、屋根から裏路地の下へと降りてゆく、キヨもそれについてゆく。

 キヨはかぶっていた布をさらに大きくかぶり、裏路地から弱弱しく路地から出てくる。

「た、助けてください! 今、強姦魔に追われてて!」

 キヨは顔を隠しながら、兵に向かって叫ぶ。

 兵はさっきまでの気の抜けた顏から一変。真剣な眼差しになり、鞘に手を当て、すぐにキヨの方へと近づく。キヨはそのチャンスを逃さない。すぐに兵の手を掴み、後ろに回り込んだ後、彼の口を思いっきり塞ぐ」

「き、きみ! 何を!」

 声にならない声で叫ぶ兵の声も、キヨに抑えられているせいで、まったく響かない。

 コブラはニヤリと笑って、兵士の腹を思いっきり拳を放つ。直撃して、口を抑えられている兵士は静かに気絶した。コブラはニヤニヤしながらその兵士を引きづり、裏路地に寝かせておく。

「こんなので大丈夫なの?」

「あぁ、辺り見た感じ、警備は手薄とみた!」

 無邪気な笑みでそのままコブラはそそくさと城門へと向かっていく。キヨは流石と感心した。素早く動いているのだが、音がしない。これは並の人間に出来ることではない。キヨのように、獣を狩るために編み出したような人間じゃないとできない歩き方だった。町の中に住みながら、この技術を会得しているコブラに改めてキヨは彼の町の中での生活を想像せざるを得なかった。

 キヨもコブラについていき、兵から奪った鍵を使ってそっと城内へと入ってゆく。

 城内に入ってすぐに二人は、そこにある庭の大きな木陰に隠れる。

「さて、こっからどうするか」

「どこにこの城の持ち主がいるかもわからないしね」

「大体どんな奴かも掴んでねぇしな。オフィックスの髭親父よりは根性の座った奴ってのはわかるが」

 コブラは自分を国外へ追いやった王を思い出して憎たらしく笑う。

「ん? オフィックスの髭親父?」

 キヨは少し驚いたように目を丸くする。

「あぁ? 今のオフィックスの王様だよ。『ウロボロス』まで建てて外敵が来ないようにもしてるっつうのに城の警備も自分を守る兵の教育に熱心なビビり野郎だよ」

 「おかげで金品奪えなくて参るぜ」と独り言のように漏らすコブラの言葉など聞こえないかのようにキヨは動揺していた。

 自分たちを退いたのは、やはりミッドガルドだったのだ。コブラが昔自分が彼に付けたあだ名と同じあだ名をつけていたことで気づき、動揺が隠せなかった。

 だとすればリザベラは――。

「おい、キヨ! キヨ!」

「あっ、ごめん」

「とにかく、この城は見たところ警備は手薄だ。もし見つかった場合にパニックを起こせるように、二手に分かれる。いいな?」

「え? 大丈夫なの? それ?」

「何、お前が捕まれば、俺が助けてやるよ」

「自分が捕まるって可能性は考えてないのね」

「じゃ、後は任せたぜ。目的はこの国の偉いさんを見つけ出すこと。それと、もしかしたらあの双子もいるかもしれねぇから探してくる。お前も任せたぜ」

 そう言った後コブラは「おったからおったから」と小声で歌いながら、城の中へと向かっていった。

 キヨはそんなコブラの様子を少し見て、彼の姿が見えなくなってから、彼女もまた、城の中へと侵入していった。


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