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第三章 双子迷宮のジェミ王国 2話

 目を覚ますと、大きなベッドの上だった。この段階で、キヨは夢を見ているのだと自覚した。この大きなベッドに見覚えはあったが、それは昔の記憶だったからだ。

 ベッドから降りると、大きな扉からノックの音が響く。扉がここまで大きく見えるのは自分自身の身体が小さいからだろう。

「姫様。お目覚めになられましたか?」

「おはよう。リザベラ。今日もいい天気ね」

 自分でも不思議なほど、自然と扉から出てきた女性の名前を呼んだ。イザベラはキヨに近づき、着替えを手伝う。意識はあるが、あくまで動いているのは小さな自分自身であり、認識しているキヨ本人はただ傍観しているのみであった。

「もう! 一人でお着替えぐらいできるわ!」

「そうは言っても姫様。これも私の仕事ですので」

「もう! いつまでも子ども扱いしないでほしいわ!」

「姫様。まだ4歳ではありませんか」

「今日はどこへ行こうかしら!」

「ですから姫様、城内といえどもあまり勝手に動かれては」

「いいじゃない! ねっ! リザベラがついていればお母さまもお怒りにはならないわ!」

 キヨはそういって、勢いよく扉をあけて外へ出る。イザベラの方を見ていたので、扉の先など見ていない。

「きゃ」

 小さな身体のキヨは、扉を開けて外に出てすぐに大きな人とぶつかった。まだ幼いキヨはぶつかった拍子に尻もちをついて倒れる。

「大丈夫ですかな。キヨ姫よ」

 ぶつかった男はそっと彼女に手を差し伸べた。リザベラは男を見て申し訳なさそうに何度も何度も頭を下げている。

「……ミッドガルド!」

 キヨは目の前の髭面の男をじっと睨みつけて頬を膨らませて、差し伸べられた手を取らず、自分で立ち上がる。傍観しているキヨ自身もその憎らしさを思い出す。

「おやおや、キヨ姫は私のことを覚えてくださっているのですか。私の娘も貴方様と同じような齢ですが、いまだに私のことを『パーパ』としか呼ばぬ。流石は王の血筋であると感じますな」

「あの、ミッドガルド様。本日はどのようなご用件で?」

 微笑むミッドガルドを見つめ、少々不安そうに問い詰めるイザベラ。

「なに、王へ少々お伝えしなければならぬことがありましてな。先日、国壁計画のための土地視察の際に、生き倒れていた少年がいたので、その報告に」

「王は、国壁計画に対してあまり良い印象を抱いておりませんよ。ミッドガルド様。そのように勝手に話を進められては」

「リザベラ殿。貴方様の権威も重々承知しております。しかし、国政は私の役割。余り権威を振り回されない方が良いかと」

「わたくしはそのようなつもりは」

 リザベラとミッドガルドが話している間に、機嫌が悪くなったキヨはそそくさと走っていった。

「あっ! こらキヨ様」

「では、私はこれで」

 ミッドガルドは、リザベラに一礼をして、そのまま王室まで歩いてゆくリザベラは彼の態度に少々の心配がある表情をしながらも、一人走ってゆくキヨを追いかけるしかなかった。

 キヨは毎日が楽しかった。城の中にいる鳥や虫を観察して、毎日のように本を読んで、それで見つけたものをリザベラや、母や父に話した。

 城下は危ないので連れていってはもらえなかった。野蛮な者がいて、風のように様々なものを盗んでゆくらしい。いつの間にか物がなくなってゆくことから町の者達の中にはこの町に住む怪物だと勘ぐっているものもいる。

「ねぇ、リザベラ」

「なんでしょう。姫様」

 城内にある花畑で花の香りに包まれながら、キヨはリザベラににこやかに話しかけた。

「城下にいるという物の怪は一体どのようなものなのでしょうか。私、お友達になりたいわ」

「またお嬢様は稀有なことを。いいですか? 怪物とはとっても怖いものなのですよ?」

「でも、ヘラクロスはそんな怪物とも友だちになったわ! 私もなれると思うの! お友達に! だから城下へ連れていってくださらない?」

「ダメです。その怪物の正体も姫様が知らない以上、どんな危険があるかわかりません。王もそれを許すことはありません」

「もう! リザベラったら真面目ね。でしたら先ほどあの髭親父がおっしゃっていた他所の土地から来られた者はどうでしょう? わたくし是非お友達になりたいです」

「髭親父とは……ミッドガルド様のことでしょうか? 姫様、そのような蔑称を使うのはいかがなものかと……」

「ミッドガルドと分かったということはイザベラも思っているのね。ふふふ」

「……姫様はなんとも意地の悪い女性に育つ素養をお持ちのようで……」

 はぁー。と溜息を吐くリザベラを見て、にへへーっとキヨは笑った。その先で何か騒音が聞こえてくる。

「姫様! ここにいましたか!」

 慌てて細身の男がキヨの元へ走ってきた。イザベラは何事かと男に問い詰める。

「リザベラ様! 謀反です!」

 細身の男の言葉を聞いて、リザベラは城と、キヨと、細身の男の方をキョロキョロと目を配る。

「何っ!? セバス! 貴方に姫様を任せます。私は王の元へ」

「ですが……」

「緊急時の通路を使ってください。詳細は?」「それが、情報が錯綜しており……。騎士の一人が惨殺されており――。他の者が王の方へと向かっております」

「……大体検討はつきます。あの髭親父!」

 リザベラが舌打ちをして、城の方を睨みつける。キヨは初めてみるリザベラの殺気だった表情に少々怯えてしまい、細身の男性にしがみつく。

「では、姫様をお任せします」

「はい。では、姫様こちらへ」

「リザベラ! どこいくの!」

「すみません。お嬢様。すぐに終わらせますので――」

 その後、リザベラは背中を向けて城に向かって走っていった。キヨは細身の男に抱かれてどこかへ連れていかれた。

 ここまでがリザベラとの最後の思い出。細身の男に連れられて、国外の小さな小屋に移動した。その後、何人かがその場所にたどり着いた。そこには父の姿も、母の姿も、リザベラの姿もなかった。戻ろうにも、国はもう国壁計画をはじめ、壁が出来ており、まだ建設中のところには兵士たちがたくさん残っており、非力なキヨ達にはどうすることもできなかった。自給自足をしつつ、集落を形成しながら生きてゆくしかなかった。

 集落を見守っていた景色はぼんやりと揺らぎ、ゆっくりと暗転した。そうであった、これは夢であった――。


 目を覚ますと、良い香りがした。辺りを見ると、アステリオスが魚を焼いている匂いだった。

「おはようキヨ。今日はいい岩塩を手に入れたから美味しい焼き魚だよー」

 アステリオスははしゃぎながら串に刺さった魚をキヨに差し出す。キヨは目をこすってアステリオスの方に向かった後、それを食べようとした。しかし、まだ寝起きのほわほわとした気持ちが残っていたので「ごめん。ちょっと顏洗ってくる」と川に行って、冷たい水で顔を洗う

「スッキリした。いただきます。あれ? 二人は?」

 ヤマトとコブラはもう飯を食べたのか、辺りにはいなかった。

「コブラとヤマトには山菜や果物を取りに行ってもらっている。キヨの支度が終わったらもっかい歩くよ。今日中にはジェミ共和国につきそうだって」

 アステリオスはそう言うと、遠くの方を見つめる。キヨも同じ方向を見つめると、もう国のお城らしいものが見えていた。キヨは焼き魚の香ばしい香りを嗅いで腹が鳴ったので、それを勢いよくカッ喰らう。

「いい食べっぷりだ。作った方も気分がいいね」

 アステリオスがニコニコしながら、干した魚などを自身が持ってきた冷却袋に詰めて、出発の準備をしていた。

 あまりの美味しさに食べ終えるのはあっという間だった。アステリオスが用意してくれたおかわりの分も含めてすぐにペロリとたいらげた。

 キヨも、身支度を始める。昨日描いた絵がもう十分に乾いていた。色が剥がれている場所がないか確認して、十分な出来になっているのを見て、彼女は木板の左端を小刀で小さく掘ってマークを作る。

「そのマークって、なんなの?」

「ん? あたしが描きましたぁーってマーク。これをつけて、この絵は完成なの」

「へぇー。さて、後はあの二人が帰ってくるのを待つだけだね」

 アステリオスはそう言った後、もう一度身支度の確認を始めた。そしてコブラとヤマトが持ってきた食材を冷却袋に入れて、4人はまもなく到着するジェミ共和国へと向かい始めた。


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