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第三章 双子迷宮のジェミ王国 14話

「こんなところに酒屋なんてあるんだな」

 コブラは入ってすぐに部屋の印象を言葉にした。

 オフィックスにいた頃も、酒を振るまっている店があったが、こういった間取りだった。

 間取りは酒屋のものであったが、やけに埃が舞っていて、酒もあまりおいていない。それだけで今は営業していないのが理解できた。

「お前が、アステリオスの言っていたコブラか。こりゃ面白いほど似ているなぁ」

 辺りを見渡すコブラに一人の大男が声をかける。コブラは警戒してその男を睨みつける。

「おっ、いい目だな」

「ちょっとちょっと。ミノタウロスも煽らないで」

 にらみ合う両者の間にアステリオスが割って入る。部屋の隅で、数名の少年たちがコブラを不審げに見つめている。

「紹介するね。コブラ。この人はミノタウロス。この町で生き場を失った子どもたちと暮らしている『ラビリンス』の首領さ」

 コブラは紹介されたミノタウロスを睨む。どこかで見たことがある。

 しばらく考えて思い出す。表情がはっきりしていたから曖昧であったが、アステリオスがタウラス民国で着用していたパワードスーツの顔とそっくりなのだ。それに名前も、あの時アステリオスが名乗っていたものと同じである。

「なるほどな。こいつがお前の影ってことだ」

 コブラはニヤリと笑ってアステリオスを見つめる。

 ミノタウロスはアステリオスが入国したことで発生した存在であることをコブラは理解した。そしてその存在と行動を共に出来ていることに、コブラはアステリオスもまた、自分との葛藤に打ち勝った。それも『共存』という最高の形であることに喜びを感じた。

「アステリオス。俺はお前を賞賛するぜ。お前はこの儀式をクリアできそうだ」

「どういうこと?」

 コブラはアステリオスに説明しようとしたが、ミノタウロスの方をちらりと見る。

 本人の目の前で『お前はニセモノだ』ということに抵抗があったのだ。

「いいぜ。話せよ。俺も気になる。アステリオスに感じるこの妙な親近感。そしてこの国の仕組みってやつを。そういう話をしようとしているんだろ? お前さんは」

 ヘラヘラと笑って腕組みをしながらミノタウロスはコブラを見つめる。

「いいんだな。結構傷つくと思うぜ」

「あぁ。いいってことよ」

 コブラはアステリオスとミノタウロスに話した。

 この国、ジェミニクス王国の仕組み『双子迷宮』の話を、自分たち4人が旅人として『星巡り』でこの国に入ってきたこと。自分たちの分身がこの世界の仕組みを大きく影響を及ぼしてしまったこと。この儀式の攻略法について。その話をミノタウロスは真剣な表情で眉一つ動かさずに聞いていた。

「と、いうわけだ。クリアの条件は、側面として現れた『ドッペルゲンガー』から何か物を一つ献上してもらう。そうすることで、この国との決別を意味し、外に出ることができる」

「…………」

 ミノタウロスは話を聞き終えて、腕組みをしている。その後、大きく深呼吸をする。

 アステリオスはそんなミノタウロスを恐る恐る見つめる。彼にこの事を伝えることを恐れていたからだ。

 コブラはじっとミノタウロスを見つめる。

「なるほどな。ならば、俺は先生がこの国に入ってきたことによって生まれた存在。よく出来ているな。その星術師とやらの『双子迷宮』は。俺自身、存在が生まれたのがつい2日前なんて理解できねぇ。俺にもガキの時代はあったし、ここにいるガキ共を拾ったのは去年やら一昨年やら、しっかりと時間を感じる」

「そ、そうだよ! ずっと昔から一緒だったもん!」

 我慢できず、端で話を聞いていた子どもの一人が叫んでしまう。その目は今にも泣きだしそうになった。

 その子どもの表情を見て、アステリオスの表情が暗くなる。コブラは察した。

 アステリオスも、ある程度はこの国の仕組みを把握していたのだろう。

 しかし、それでもこのミノタウロスにはっきりと打ち明けることはなかった。それは、この子どもたちのことを考えてのことだったこと。

 ミノタウロスとアステリオス。二人とも、子どもや孤独を放ってはおけないのだ。その行動にまた彼らが同一の存在であることを示している。

「つまり、ここで俺が先生に何かを渡せば。先生は、この国から外に出ることが出来る。そして、俺の存在は恐らく消滅する」

「あぁ。国の仕組みとして、最初からいなかったものになってゆくだろう」

「はっ、ならガキ共は、俺がいなくても生きていけるってことだ。悲しまないってことだろ? 元々俺との記憶がなくなるわけだから」

「兄貴……」

 少年たちの中でもコブラたちと同じくらいの年齢の少年が悲しそうな顔をしてミノタウロスを見つめている。

「だとすれば、俺がいない世界ではお前がこいつらのリーダーなのかもな」

 その少年の近くにいき、ミノタウロスはわしわしと頭を撫でた。少年は泣きそうになっている。その光景を見て、アステリオスはウラノスに撫でられた時のことを思い出した。

「もちろん。俺は先生に何かを渡すことに対して抵抗感はない。俺も先生の今の姿はカッコイイと思うしな」

「うん。僕も君をカッコイイと思うよ」

 アステリオスとミノタウロスがニッカリと笑みを浮かべて見つめ合う。

「だが、そういうことだったら、コブラ。あんたとそこの嬢ちゃんの儀式が終わってからでもいいだろうと俺は思うぜ」

 ミノタウロスが言った言葉に驚いた。コブラはここにキヨがいるとは思っていなかったからだ。

「そうね……私も、彼女に会いたい」

 コブラが辺りを見渡すと、先ほどまで子どもたちに囲まれていて見えていなかったソファーで眠っていたキヨが目を覚まして、コブラたちに対して静かな声で言った。

「キヨ。お前ここにいたのか!」

 キヨの顏は沈んでいる。その状況にコブラは彼女の表情の理由がわからずに首を傾げる。

「……キヨは一度、堕ちたんだよ。あの町に――」

 アステリオスがコブラに対して悲しそうに言った。コブラはすぐに理解した。自分と一緒に城に侵入したキヨ。そのキヨが城周辺にいなかった。そしてこの国の仕組みを把握した今ならわかる。彼女はどこかでキヨ姫を目撃してしまい、それを受け入れることが出来ずに『影の町』に沈んでしまったのだ。

「さっきまで深く眠っていたよ。気分はどうだい? キヨ」

 アステリオスは、いつ目覚めても良いように用意していた暖かい飲み物をキヨに差し出す。キヨはその容器を受け取りはすれど、飲まずに両手で包み込み、湯気を見つめている。

「ありがとうアステリオス。ごめん、あんまりいい気分じゃないや」

 キヨの沈んだ表情にコブラは動揺した。自分も感じたあの背中を引っ張るような感覚。あれに飲み込まれてゆけば、どうなっていたのだろう。あの気味の悪い影に身体全体を飲み込まれた時の不快感を、キヨは体験したのだろうか。

「お前に言っておいてやるよ。キヨ姫、あのお姫様と俺はついさっきまで一緒だった」

 キヨは驚いた表情でコブラの方を見た。コブラは自分の裾からキヨからくすねた絵を取り出す。

「それっ! あんたが盗んだの!」

 その絵を見たキヨはさっきまで落ち込んでいたことも忘れているかのようにコブラに対して怒鳴りつける。あまりに大きな声にコブラも、彼女の周辺にいた少年たちもみんな耳を塞ぐ。

「悪いって。あまりにいい絵だったんでな。この絵を、キヨ姫に見せた」

「…………」

 コブラの言葉に怒りの表情は消えて、真顔になって、そっとコブラから絵を受け取る。

「その絵を見て、キヨ姫はお前に会いたいと言い出した。だから俺はお前を探すために誘拐して、一緒に行動していたんだが、いけすかねえ俺に食い止められちまってな。後、これ」

 コブラはそういってもう一つ、キヨに渡す。大きな巻物だった。

「広げていい?」

「あぁ」

 ミノタウロスは状況を理解し、机をどけて、キヨがその巻物を広げることができるだけのスペースを作る。

 大きな巻物に城の絵がかいてあった。キヨはその大きな絵を見て、少し笑ってしまった。

「ははっ。あのお姫様も絵、描くんだ」

「あぁ。お前と同じだ。俺には絵のことわかんねぇけどよ。お前の絵の方がなんかすげえって思うぜ。恐らく姫様自身もそう思ったんだろう。落とし穴に落としてやったヤマトが俺に向けるような憎らしい顏で、俺に会わせろって頼み込んでいたからな。自分よりも絵がうまい自分ってのが許せないんだろう。似たもの同士だよ。お前ら」

「まっ、同一の存在だしな」

 コブラの言葉にミノタウロスが答えて、一人でガッハッハと笑った。空気を明るくしようとした彼なりの配慮であった。

 キヨはじっと絵を見る。大きな紙。自分が国を追われてからは国旗絵でしか見ることがなかったものに描かれた。自分が住んでいたかった城の絵。精工に、丁寧に描かれた絵に嫉妬する。きっと綺麗に仕上げるための時間と、道具が、彼女には揃っていたんだろう。けれど、荒々しく城の壮大さを描くには何かが足りない。それは自分の方が優れていると、コブラが言ってくれた。自分でも、そうであると認識した。

「ありがとうコブラ。改めて私、あの子に会いたくなっちゃった。会って伝えたいことがある」

「なら決定だな」

 ミノタウロスがコブラとキヨの肩をポンと叩く。

「お前らはこっちの世界じゃ義兄弟。それに王族だ。ならば、城にいるってことだろう? なら、やることは一つだ。なっ! お前ら!」

 ミノタウロスが吠えるように、子どもたちに問いかける。子どもたちはすぐに彼の言いたいことを理解した。

「なにをするつもりなの? ミノタウロス」

 状況を完全把握できていないアステリオスが不安そうにミノタウロスに問いかける。

「先生。そりゃ簡単さ。会わなきゃいけない奴が城にいる。だったら、城に乗り込めばいい」

「言っておくが、俺が一回姫様攫っちまったから警備は厳重になると思うぜ?」

 コブラはキヨが寝ていたソファーにどっしりと座り込む。

「あぁ。だからこそだ。あんたの分身、コブラ=ジェミニクス騎士団長は絶対に城外に出ない。姫様がまた攫われないとも限らないし、仮に姫様自身があんたに頼んで抜け出したと騎士団長に伝えていれば、それこそ。キヨ姫が抜けださないように、兄貴としてしっかりと護衛しているだろう。目標が1か所にいるってんなら、そのために出来ることは簡単だ」

「……僕らで、コブラとキヨが城に向かえるようにするってこと?」

「あぁ! そういうことだ。先生」

「でも、どうやって?」

「簡単さ。国盗り! 反逆! 暴動! 俺たちはならず者集団『ラビリンス』だぜ? 俺らがちょっと暴れれば、国は対処せざるを得ない。その隙に、二人には城に向かってもらう」

「なら、僕も君たちと一緒に陽動の方を手伝うよ」

「おっ! 先生がついてくれるなら百人力だな」

「何か、素材があれば、色々出来るんだけれど」

「とりあえず、倉庫を見てくれ。俺たちじゃあ、先生が求めているものが何かわからないからな。後で案内する」

「ありがとう」

 キヨとコブラは話を次々と進めてゆくミノタウロスに驚きながら、互いを見た。

「なんか、変な感じだよな。俺とお前がこっちの世界じゃ義兄弟なんて」

「そうね。あぁーでも。私は案外悪くないかも。一緒に頑張ろうね。コブラお兄ちゃん」

「やめろ。気色悪い」

 ニヤニヤと笑いながら上目遣いでコブラに囁くキヨに対してコブラは気色悪そうな表情で舌を出しながらうげえっと言った顔をする。

「あはは。その顏本当にブサイク。面白い」

「うるせえ」

 キヨは笑いながらコブラの横に座る。アステリオスと『ラビリンス』のみんなが色々と準備をしているのを二人は見ているしかなかった。

 キヨはまだ怯える。毅然としていた姫としての自分に会って、自分はしっかりと何かを伝えることが出来るだろうか。みんなにお膳立てしてもらっても、結局彼女に負けてしまうのではないか。と思うと、俯いてしまう。

「大丈夫だ。お前の方が楽しそうだったよ。あの姫様より、俺もお前の方がほんの少しやりやすい」

「励ましてくれてるの? それ? 気色悪い」

「うるせえ」

「……コブラの方は大丈夫なの?」

「何が?」

「家族もいる。地位もある。貴方になかった全てを持っている騎士団長に心折れないの?」

「あいつは俺が一番欲しくないもん持っているから、俺よりも下。それだけだよ」

 コブラはキヨの方を見ずに、答える。その後、立ち上がり、アステリオスに何か手伝うことがないかと問いかけている。

 その背中を見てキヨは、改めてコブラの強さを実感した。

(……私が欲しくない。キヨ姫が持っているもの……か。なんだろう)

 それを考えていると、頭が呆然としてくる。まだ目を覚ましてすぐだからか、身体が火照っている。コブラがいなくなって出来たスペースにキヨは寝転がって身体を預けると、瞼がゆっくりと下がってゆく。

「ごめん、私……もうひと眠りする」

 誰に言うわけでもない言葉を最後にキヨは眠ってしまった。


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