第1章 神の住む村③
「よろしいのですか?」
薄暗い部屋で二人の青年が話し合っている
「ああ、もうあれは必要ない。つまらない任務だとは思うが」
「いえ!貴方程の御方からの直接の任務を与えられたこと、恐悦至極にございます!」
「そうか、では任せたぞ」
「仰せのままに」
二人の青年の内、眼鏡をかけた長身の男が部屋を去っていく
「あいつの能力で行かせてよかったのだろうか…。いや、もうそもそもあれも居なくなってるかもしれないしな」
部屋に残った深い闇を纏う男がそう呟き、部屋を出る
「私は私の仕事をこなすだけだ」
異世界で初めて太陽の日に当たる
「ストラ様も着いてくるのですね」
「この階段を降りるまでよ、マイ。これはただのお見送り、正義の味方の第一歩を見届ける為のね」
後ろで話す少女二人の会話を聞きながら、今のところ、この世界で唯一馴染みのある建物を出る
外に出るとまず待っていたのは下に続く階段だった
高いなこの階段
しかし見る限り、今まで居た場所が高い所にあって階段の下が地上みたいだ
高い所にあった、この建物はどんな物なのかと振り返る
「でけぇ…」
中に居た時には分かっていたことだったが、先程まで入っていた建物はとても大きい
三階建ての学校と同じくらいか?いやもう一回り大きいかも
でもこの建物の外見はまさに
「神殿だな」
ゲームなどでよく見る、巨大な柱が何本も立っている石造りの神殿がそこには建っていた
「そりゃあ、神が住んでいる場所といえば神殿ですよ」
「ストラ様、外に出て大丈夫です?あの薄暗い部屋で引きこもっていたなら、太陽の日に当たって目がやられたりしません?」
「マイ、これって私舐められてます?さっきあちらの理解を越えた力を与えた存在に普通こんな事言えます?」
「俺がそんな経験あるから心配になっただけですよ」
「な、仲良くしましょうストラ様、ミキヤ様」
なんか怒られてしまった…
コミュ力が無いと変なふうに取られちゃうなぁ
こんなんだから俺友達いなかったのかな?
長い階段を降りると、そこには村人と思われる人達が様々な仕事をこなしていた
重そうなものを運んでいる青年がいたり、井戸で水を汲んでいる女性がいたり、少し離れたところでは畑の上に立っている人も見える
ドラ○エなどでよく見る中世西洋風の世界のようだ
「さて、私はここまでね」
ストラが立ち止まる
「わざわざ長い階段を降りたのに、もう戻るんですね」
「私は、まだ神としての仕事が残ってますから。あ、そういえば、洞窟までそれなりに距離ありますが体力は大丈夫ですか?」
「そこは大丈夫ですよ!」
マイが自信ありげに自分の胸に手を当てる
「私は馬にも変身できますから!目的地までミキヤ様を疲労させたりはしませんよ!」
生き物にもなれるのか
めっちゃ頼もしいこのお付き
「そういえばそうでしたね」
「あ、でも俺、馬に乗った経験なんかありませんよ」
「言うことを聞かない馬と違って、中身はマイなのですから、そんなに難しい事では無いでしょう。試しに乗ってみます?」
「それは良い。乗ってみます」
「かしこまりました!」
そう言うないなや、先程と同じ様に、マイが一瞬光り、栗毛の馬へと変身する
「(さあ!お乗りください!)」
「馬になっても会話はできるんだな」
「え?この子は馬らしくヒヒーンとしか言ってませんが…」
「え?」
これはまさか
「もしかして貴方の能力って…」
やめろ、言わないでくれ、そんなしょぼい能力嫌だ
「動物と話せる能力じゃないですか?」
「ミキヤ様…元気出してください」
落ち込んだ俺を励ますためか、マヤが元に戻り、言葉をかけてくれている
「だ、大丈夫ですよミキヤ、この世界は攻撃系の能力が備わるのはかなり稀ですから」
「そ、そうなんです…?」
「そうですよ。一つの村に一人か二人くらいしか普通はいないんです。戦えるような能力を持つ者は」
でもなぁー
やっぱり異世界に来たんだからチート能力欲しかったなぁー
世界を救いに行くのに動物と話せる能力ってのはなぁー
ドラ○エモンス○ーズみたいに、魔物を仲間にして行きながら世界を救いに行く事になるのか?
さっき自分のコミュ力の低さが分かったのに、その路線で行けるのか?
「そ、そこまで落ち込んでいるなら今日はもう休んでいきますか?」
「いえ…もういい。やります!やってきます!やってやりますよ!」
どの道このまま休んでも能力は変わらないんだ
もうどうにでもなれ!
「変なスイッチ入っちゃいましたね…どうします?ストラ様」
「不安だけど…本人がやる気なら行かせましょう。マイ、ミキヤをお願いね」
「はい!では行きましょうミキヤ様!」
「おう!」
マイが再び馬に変身し、その馬に乗る
意外と乗れるもんだな
「それじゃあ、行ってらっしゃい。頑張って」
「はい!」
いざ熱気の洞窟へ!
「(本当に…大丈夫ですか?)」
「ん?」
走りながらマイ(馬)が聞いてくる
「能力の事か?もう大丈夫だよ。馬に乗りながら馬と話す経験なんかするとは思わなかったしな。新鮮で面白いよ」
精一杯強がってみる
これから何が起こるか分からないのに、いつまでもへこたれてられない
「(それなら良いですが…。あ、そろそろ目的地にー)」
そう言いながらマイの足が止まる
「どうした…?っ!」
洞窟の入り口らしき場所に着いたが、その入り口から凄まじい熱気が溢れ出てくる
いや、熱気はさっきからかなり感じていた。そうじゃない
すさまじいプレッシャーがかかってくる
脳が早く戻れと警鐘を鳴らしている
ここに入ったら死ぬのではないか?
「(どうします…?行きますか…?)」
マイも少し震えている
だが、ここで帰るわけにはいかない
「すまないが…俺は行く。マイはここで待っていても…」
「(いえ、そういうわけには行きません。ミキヤ様が行くのであれば私もどこだろうとお供します)」
「ありがとな、マイ。何が起こるか分からないから一応元の姿に戻っていてくれ」
「(はい)」
俺が降りるとマイは元の姿に戻る
そして、互いの顔を見て覚悟ができたと言う代わりに頷きあい、重い足を洞窟へ向けて進めた
「(何用だ、人間)」
洞窟の入り口は人一人が入れるほどだったが、入り口を抜けると、神殿の時の用な広い空間が広がっていた
そしてそこに声の主…赤い巨大なドラゴンが居座っていた
デカい
目の前の四足歩行のドラゴンは、神殿と変わらない広さの洞窟の天井に背中が当たっている
異世界だから魔物がいるだろうとは思っていた、が、最初に出会う魔物がここまで大きなものになると、感じる威圧感は相当なものだ
しかもドラゴン、強大な力を持っているに違いない
「(何用だと聞いているのだが?と、言っても伝わらぬか)」
ドラゴンといえども、人語は話せないようだ
こちらもドラゴン語は普通話せないけど
でも、俺なら話せるはずだ
「いや、俺には伝わっているぞ」
「(ほう?それではなぜ質問に答えない?)」
怖くて口を開けませんでしたとか言えない
だがこの状況はマズイ
プレッシャーをかけてたのも、恐らくこのドラゴンだろう
無闇に刺激してしまうと、何をされるかわならない
「ミキヤ様、大丈夫ですか?」
ドラゴンとのやり取りを分かっていないであろう、マイが小声で心配してくる
「とりあえず、ここは刺激しないように慎重に動こう」
「わかりました」
だが慎重にするにしてもどうするか…
熱気の問題では刺激してしまうかもしれないから、まだ本題は避けよう
「ドラゴンさん、どうしてこの洞窟にいるんです?窮屈じゃないですか?」
何を言おうか決めかねてる俺より先にマイが口を開く
「(質問を質問で返してくるとは、なかなか度胸があるな?)」
マズイ
ドラゴンが何を言っていたか、マイに伝えていなかったから会話になっていない
「(まあよい、お前たちからは《闇》を感じられんし、その怖じ気づき様から見ても悪い者達では無さそうだ)」
意外と話せるか?
怖じ気づいていたのが、巧を奏したというのはなんか複雑だが
「どうやら、このドラゴン俺達を悪い奴とは思ってなさそうだ」
「それは良かったです…」
向こうが言っていることが、わからなかったのは怖かったろう
次からはちゃんと翻訳係になろう
「(我がこの窮屈な洞窟に居るのは、とある武具を守っているためだ)」
「武具…?」
「(ああ、我の後ろを見るがよい)」
そう言って、ドラゴンが横に避けてくれた
恐る恐る洞窟の奥を覗いてみると、少し大きめの剣と盾が、石で出来た台座の上に置いてあった
「立派な剣と盾ですね。あれほどの物は見たことありません」
「(解るか、少女よ。そう、この武具はかつて我の育て親の使っていた武具なのだ)」
「人間に育てられたのか?」
咄嗟に声が出たが煽ってるように聞こえてしまわないだろうか
そう思ったが、幸いにも意に介していないようで、ドラゴンは自身の事を語り始める
「(まだ名乗っていなかったな。我が名はホノカ。この武具を守り、主の帰りを待つ者だ)」
我は誇り高きドラゴンの一族として、この世に生を受けたが…我が一族には、あるしきたりがあった
そのしきたりとは、産まれて一年間のみ育てた後、親元を離れさせ、森へ放ち、強く成長させるものだ
しかし、我らはドラゴンとはいえ、まだ産まれたばかり
襲ってくる魔物がいようとも、戦う術など知りはしない
何を食べていけばいいのかも分からない
そのような環境下で育つからこそ、強くなるかもしれないが…我は運が悪かった
我が放り投げられたのは、人間が近づく許されない危険区域
森の魔物が一匹街に出ただけで、その街が崩壊するほどの危険な魔物が大量に生息する森だった
生き残れない事を悟り、すぐさま森を出ようとした
だが親に降ろされたのは森の中心、どう見ても出る前に襲われる
我は親を憎んだ
しきたりとはいえ、ここまでするのかと
それとも我は意図的に消されたのか?
そう考えている内に、複数の魔物に囲まれていた
ここで終わりなのかと死を悟った時
魔物達を切り倒し、我を救ってくれたのが我が主のであるサクトだった
「ん?魔物の赤ん坊か?」
凶悪な魔物達が、その頃まだ幼い少年だった人間に切り倒される光景を見て、我は唖然としていた
「こいつらの仲間じゃなさそうだな。少なくとも、ここら辺じゃ見たことないから迷ってきたのか?お前の親は…?」
もう親は信用できない
我はその問いかけに対し、首を振るしかなかった
「そうか…なら家にこいよ。家って言ってもただの遺跡だけどな。」
そう言われ、差し伸べられた手を掴むと
「じゃあ、行くぞ」
そのまま少年に抱き抱えられ、少年は木と木を跳び跳ねながら凄まじいスピードで移動し、あっという間に少年が家と呼ぶ遺跡までたどり着いた
我はその移動方法で、気分が悪くなり腹から火を吐いたりしたのだが…
「ははは。すまんな、こうでもしないと魔物に捕まっちゃうからな」
恨めしそうに少年を見ると
「悪かったって、ほら、水飲みな」
我を気づかって、木製の底が深い皿に水を入れ、飲ませてくれた
「今まで一人だとちょっと寂しかったんだ」
我が落ちついたのを見ると、少年が我を助けた理由を告げてくる
「親が殺されて一人になっちゃって、親を殺したやつらから逃げていると、この森に迷い込んじゃってさ、俺は能力と、この遺跡に遺されてた剣と盾で生き残ってたんだ。でも流石にずっと一人だとやっぱり心細さもあってな、そこでお前を見つけたんだ」
親に捨てられた我とは少し違うが、なんともひどい境遇だ
話を聞いた行くあてが無い我は、一緒にいようとばかりに少年に寄り添う
「俺の名前はサクト。これからよろしくな。そしてお前の名前は…うーん、炎を吐いていた赤い龍…焔赤!ホノカでどうだ?」
助けて貰った上に、名前まで付けて貰った我は、この少年に生涯着きそうと決めた
その後は共に森で強く育ち、森を出て色々あって貴族に拾われ、貴族専属の騎士と守り龍(ペットとか言うな)として雇われていた
しかしある日、サクトが我をこの洞窟に連れ出し、別れを我に告げた
「ホノカ…すまないがここで待っていてくれないか。どうしてもやらなくちゃならない用件が出来てしまったんだ」
とても深刻そうな顔をしていたサクトを見て、我は断ることはできなかった
「必ず戻ってくるから。その証に森で使っていた剣と盾を置いていく。どうか俺が戻ってくるまでこの武具を守っていてくれないか」
サクトが必ず戻るというなら戻ってくるだろう
そう信じ、我は了承した
「じゃあ、行ってくるよ、ホノカ」
そうしてサクトは去っていった
「(と、いうわけで、我はここでサクトの帰りを待っているのだ。この剣と盾を守ってな)」
「そんなことが…」
なぜ、ここに居るのかと聞いただけで、ここまでの話をされるとは思っていなかったので、かなり衝撃を受けた
「じゃあ洞窟からプレッシャーがかけられてたのは…」
「(万が一、武具を盗みに来るような輩が来ないように、ずっと睨みを効かせていたのだ)」
「なるほどな…でも俺達は通して良いのか?」
「(先程も言ったように、悪い輩に見えぬし、何よりそんな力の無さそうな体では、あの剣を持つことすらできなそうだからな)」
「ははは…」
侮られているが、こんなのと敵対するよりかはだいぶマシだ
「(長々と話して悪かったな。さて、では今度はそちらの話を聞こうか。我の睨みに屈せずここに来たということは、何か目的があるのだろう?)」
今なら本題を出しても大丈夫そうだ
「ああ、熱気が洞窟から出ていて村人が困っている件なんだが…」
「(ほう)」
「多分だけど、このとてつもない熱気はホノカから出ているんだろう?」
「(その通りだ。我らドラゴンは腹に火が溜まる生き物でな、定期的に炎を吐かないと、腹に貯まった火で体から熱気が出てくるのだ)」
「なるほど…」
ホノカから熱気が出ていることは洞窟に入った時点で気づいていたが、その事を指摘すると逆上するかもしれないと思ったが、怒るどころかわざわざ説明までしてくれた
「(村人には悪いことをしていると思うが…この洞窟で炎を吐くと、洞窟が崩れてしまうかもしれんし、炎が洞窟から出て、村を焼いてしまうかもしれんから、迂闊に吐けんのだ。武具を見守るためこの洞窟から出るわけにもいかんしな)」
「そうか…困ったな」
剣を見ていたマイにさっきまでの事を話すと
「なるほど。そういうことだったんですね。それではこの事を、ストラ様に報告してみてはどうですか?」
確かに、ストラに報告してどうにか炎を吐けるような状態にしてもらうのも手かもしれない
「ホノカの事情は分かったから、どうにかできるよう、考えてくるよ」
「(そうか、すまぬな。)」
「じゃあちょっと待ってて…」
会話を終え、洞窟を出ようと、入り口に視線を向けると
黒い修道服を来ている男が二人、入り口で立ち塞がっていた
背筋が凍る
洞窟に入る前と、同じような威圧感を、あの男達から感じる
「あれは…」
「(《闇》か!)」
あれが…闇…俺の、いやこの世界の敵!
「ドラゴンが居るとは聞いていたが、なぜ人間までいる?報告だとここは滅多に人が来ないはずなのだがな」
二人の内、眼鏡をかけた長身の男が呟く
「まあーいいじゃないっすか!邪魔になるなら…殺せばいいっすから!」
もう一人のまだ13、14歳くらいの少年が元気な声で恐ろしい言葉を発する
ホノカの時とは違い、明確に殺意を向けられ、ミキヤとマイは金縛りにあったように体が動かなくなる
殺される…?
この男達はマズイ!
「(《闇》が、ここに何の用だ!)」
炎を口に蓄えながら、ホノカが吠える
「なんか吠えてるっすよあいつ」
「構わん、あのドラゴンは無視でもいい、そこの腰を抜かしてる人間は余計に無視でいい。我らは任務を果たすだけだ。やれ」
「了解っす!」
そう言うな否や、少年は手を開き、ドラゴンに手を向ける
直後、黒いドッジボール相当の玉が手から発射される
「(この程度の攻撃…!)」
ホノカは体で受けようとしたが、その玉はホノカなどいなかったかのようにホノカをすり抜け、後ろにある剣に命中した
「(何!?)」
そして…赤き龍が守り続けた剣は…粉々に砕け散った




