第2章 豊穣の村⑧
「俺とカイト先輩が組めば無敵!不死身のタッグっすよ!」
ダイキが高笑いしながら勝利を誇張する。
威力を逆転するバリア。
あらゆる攻撃をすり抜ける体。
バリアこそ攻略できたものの、それを突破しても攻撃は一切通らず、ミキヤとレイジが行う攻撃は体力を消費するだけで終わっている。
「ミキヤ。まだまだ動けそうか?」
レイジはすり抜けの弱点を見つけるべく、ミキヤに動いて貰おうとするが、ミキヤは剣を杖代わりにして立ち上がり、
「実は村に来る時に全力で走ってきてな…そのせいで少しバテ気味だ。そっちは?」
「俺は魔力はまだ大丈夫だが、足が思うように動かなくてな…。立ってるのが精一杯だ」
「おいおい、どっちも満身創痍かよ」
軽口を叩きながら、思ったより絶体絶命だという事を確認する。
(やっぱり…レイジは前の戦いでの足の怪我が残ってたか。このまま放置しておけばレイジは立つ事すら出来なくなるかもしれない。早めに決着をつけないと)
だが…すり抜けを攻略しないと、敗北という結果の決着がついてしまう。
しかもその上、
「ダイキ、お前にばかり任せてすまなかったな。どうせバリアは突破されたのだし私も動こう」
「お!カイト先輩が剣を持ってるの久々に見たっす!」
カイトが腰に掛けていた剣を抜く。
ミキヤが持っている大剣とは真逆の軽そうな細い剣だ。
バリアを張るだけだったカイトに動かれると更に不利になる。
状況は悪化していくばかりだ。
「ミキヤ、すり抜けの攻略の為に試したい事があるんだ。悪いとは思うが、その為に敵に突っ込んでくれないか?」
「! 分かった!任せたぞレイジ!」
悪化していく状況を変える手があるのか、レイジが突撃を提案してくる。
この状況を変えられるのなら、その提案に乗らない手は無い。
「じゃあ、行くぞ!」
「ああ!頼んだ!」
合図を出し、ミキヤがカイトに肉薄し、それを見届けたレイジは小さな水の弾を複数個放つ。
先にミキヤの剣がカイトに届いたが、細い剣で受け止められ、つばぜり合いとなる。
「洞窟の時よりも遥かに動けるようになっているな。」
ミキヤごと囲むバリアを張り、水の弾をあっさり全弾受け止めながら、カイトがミキヤを称賛する。
「それはどうも!」
「だが…まだ甘いな」
ガキィィィィン!
「なっ!?」
カイトがなんとその細い剣でミキヤの大剣を弾いて見せた。
「貴様には、まだその剣が合ってないんじゃないか?来世では身の丈に合った武器を使うんだな」
そう言いながら体勢を崩したミキヤに向け、カイトが剣で突く。
ミキヤは咄嗟に体を捻るも、その剣はミキヤの左腕を貫く。
「あああああああ!?」
ミキヤが人生で感じた事の無い激痛が脳まで届く。
――痛い!痛い!痛い!
血がドロドロと流れ、ミキヤの左腕を赤く染めていく。
痛みと腕に存在する異物への不快感が体を支配していく。
「あ…あ。」
ズブッっと不快な音を鳴らしながら、カイトがミキヤの腕から剣を抜く。
剣を抜かれた事で支えが無くなったようにミキヤが膝から崩れ落ちる。
「そっちは殺ったみたいっすね!なら俺がもう一人を!」
今度はこっちの番だとばかりに、ダイキが闇の弾をレイジに向ける。
「ミキヤ!くそっ!」
ミキヤが倒れた事に焦りを感じながらも、レイジは水のバリアを張る。
「さっきは運良く守れてたっすけど、今度はどうっすかねぇ?」
バリアなどお構い無しに、闇の弾が放出される。
(気になっていた事がある。)
レイジは思考する。
ミキヤの犠牲を無駄にしない為に。
(ミキヤが最初にバリアを割り、カイトという男に切りかかった時だ。あの時はすり抜ける事も無くミキヤの剣はカイトに届き、更にその後も闇の弾を剣で受け止めて見せた。)
一瞬の出来事であったが、唯一ダメージが通ったこの戦闘での特異点。
そこに正解がある筈だとレイジは思考を巡らす。
(単にすり抜けが間に合わなかった?いや、闇の弾はカイトの後ろから、体をすり抜けてミキヤに向かっていった。間に合わなかった訳では無い。)
思考している間に闇の弾が水のバリアをすり抜けていく。
「これでこっちも終わりっす!」
だが敵の攻撃に構わずに、レイジは思考を続ける。
(やはり。俺が先に出したバリアはすり抜けけられる。そう、さっき俺がガードに成功したバリアは敵の攻撃より後出しだった。つまり、指定した物へのすり抜けを弾に付与し、放っているんだ)
闇の弾が当たる直前に、レイジがもう一度バリアを張る。
「なにぃ!?」
そのバリアは敵の攻撃と相殺され、パァンと弾け飛んだ。
(後出しはすり抜けできない。そしてあの状況。カイトが壁になり、ダイキにミキヤが見えていなかった状況。そこから導き出される奴のすり抜けの欠点は!)
「ミキヤ!奴は恐らく見えている物しかすり抜けれない!」
「やべっ!バレた!?」
レイジが大声で答えを叫ぶ。
その声は敵にも届いたが、痛みで意識が飛びそうになっているミキヤにも確かに届いていた。
「があああああ!」
ミキヤは返事をする事無く、代わりに立ち上がり、ダイキに肉薄しようとする。
アドレナリンが出ているのか、大剣を右腕一本で持ち上げて。
「ちっ。まだ動けたか。すぐにトドメを」
「させるか!」
ミキヤに切りかかろうとするカイトに向けて、レイジが再び小さな水の弾を五発発射する。
「それはもう見た!」
カイトも再びバリアを張る。
「俺には芸が無いと言っていたな。確かに今まで攻撃での複雑な事を考えた事は無かった。でも今の俺でもこれ位ならできる!」
発射された五発。
その内一発だけが、他の四発よりもスピードを上げてバリアに迫る。
「何!?」
「それは水の塊じゃなく、ただの水しぶき程の弾だ!でもそのバリアには良い威力が入るだろうな!」
パリィィィィン!
加速した一発がバリアに当たり、水が弾けると同時にバリアも弾ける。
そして残りの四発が遅れてカイトの元へ到達する。
「くっ!」
その四発をカイトは横に飛び避けるも、ミキヤの近くから離す事は出来た。
「行け!ミキヤ!」
「おおおおお!」
「やべっ!?」
ミキヤが間合いギリギリまで到達し、ダイキへ飛び込むように剣で突く。
「でもそんな攻撃…」
「マイ!変われ!」
剣がダイキの体をすり抜けたが、その直後に剣は光を発し、
「は…?」
ダイキの体から血しぶきが飛ぶ。
ミキヤの手に握られている物は大きな剣では無く、小さなナイフへと変わっていた。
ナイフが見えていなかったことですり抜けが機能せず、刺さったと言うより、急にダイキの胸元にナイフが現れた形となった。
「ぐふ…う…」
胸だけではなく、口からも血を吐き出す。
肺が出血し、それを吐き出したのだろう。
「あ…」
ミキヤはダイキからナイフを抜き、よたよたとした足取りで下がっていく。
――人を…刺した。
――人を…殺した…。
剣を振るっている間は敵を倒す事しか考えていなかったが、いざ血が滴る刃物を握っていると、人を殺したのだという嫌な実感が湧いてくる。
「な…!?ダイキ…!」
前のめりに倒れたダイキの元へ、カイトが駆け寄る。
すり抜けを攻略し、ようやく敵の一人を倒す事が出来た。
だが…ゲームで強敵を倒した時のような爽快感や達成感は無く、ミキヤの心は罪悪感に囚われていた…。




