第2章 豊穣の村⑥
「妙だな」
「どうしたんすか?」
闇の衝撃を受け、倒れ込んでいるレイジを見てカイトが呟く。
「レベル1とはいえ、この程度の男に負けたのか?余程相性が悪かったのか?」
「レベル1って言っても人数は相当多いっすからね。戦闘に向いてない奴だったんじゃないすか?」
レベル1の総数は約一万人と言われている。
確かにその人数の中には無能な人間も多くいるだろう。
だが、少なくとも黒騎士の一員な以上、闇という強力な力を与えられているのだ。
闇を使わずに戦う変わり者もいるが…だとしても、この程度の男一人に敗北するのは考えられない。
「もう立ち上がる事すらできない無様な男よ。以前この村に訪れた黒騎士が敗れたらしいが、貴様一人でやったのか?」
「ぐっ…」
レイジが呻きながら顔を上げ、カイトを見据える。
以前村に来た黒騎士と対峙したのはレイジだけでは無い。
だが、共に戦った男を、レイジ含めた村人はあらぬ疑いをかけ、村から追い出してしまったのだ。
もう既にこの村には見切りを付け、旅路に着いているだろう男にこれ以上厄介事を被せるわけにはいかない。
「ああ…そうだ。俺が一人で倒したさ。この村で戦える人間は俺だけだからな」
「それは事実か?貴様のような何の芸も無い男に、黒騎士が敗北するとは思えん」
「芸が無い…?」
「何だ、自覚すら出来ていないのか?貴様の攻撃はただ魔力の弾を飛ばしているだけ。水である意味が何一つ無い」
確かに…敵に指摘される事はシャクだが、その通りだ。
水の弾を飛ばすだけ――それだけで、今までは魔物を退治できていたから、十分な威力が出ていたから、他の攻撃方法は考えていなかった。
自分は村で戦える唯一の存在だというのに、戦闘のセンスは皆無らしい。
「く…そ…」
その事実に再び打ちひしがれる。
「もう反論する事も出来ないようだな。ダイキ、もう闇を多く溜めなくてもいい。奴はもう動けんだろうしな。一思いにやってしまえ。」
「了解っす!」
ダイキが動けない的に手を向ける。
――もう、終わりだ。
――俺は何も出来なかった…何も…
――ごめん皆…
レイジは死を悟り、目を閉じる。
だが
ガキイイイイン
「何だ?」
何かがカイトのバリアに衝突し、弾かれる。
弧を描いて地に落ちたそれは斧、ただの斧だ。
だが問題は物では無く、それを投げた人物。
「そ、村長!?」
「無事か!?レイジ!」
村長だけでは無い。
いつの間にやら、村人が斧やら鍬やらの道具を持ち、レイジの周りに集結していた。
「危険だ!皆は下がっててくれ!」
「今にも殺されそうになっているレイジを見て、下がっている訳にはいかんな」
「でも…」
「レイジこそ下がっていろ。次は儂らの番じゃ!みな行くぞ!」
「おおー!」
村人が各々の武器を黒騎士に向かって投げつける。
しかし、カイトのバリアはその程度ではびくともしない。
「辞めてくれ!皆殺されるぞ!」
「そのくらい覚悟の上じゃ!」
レイジの言葉に耳も貸さず、鬼気迫る表情で村人達は攻撃していく。
だがその攻撃は弾かれるばかりで、全く成果を挙げる様子は見えない。
「辞めろって!皆死んじゃったら今まで俺が守ってきた意味が無いじゃないか!」
戦闘のセンスが無かろうと皆を守る事だけを考えてきたのに!
皆の命を背負ってきたつもりなのに!
「意味ならあるとも!」
「え…?」
村長が真剣な表情から優しい表情に変わる。
「今までレイジが儂らを守ってくれていたからこそ、こうしてレイジが本当に危ない時に助けてやれるのじゃ。戦えるのがお主だけだからと、ずっと若者に背負わせてきて本当にすまなかった。後は儂ら大人に任せておけ!」
違う…違う!
俺はただ…!皆に平和に過ごしていて欲しかっただけなんだ!
争いなんかとは無縁でいて欲しかったんだ!
だから…!
「俺はこんな事望んじゃいないんだ!」
必死にレイジは心の内を叫ぶも、村人にはもう届かない。
死を覚悟している大人達には…もう。
「ちょっとウザったいっすねー。あのジジイから先に殺していいっすか?」
「どの道抵抗するのであれば皆殺しにするのだ。構わん、やれ。」
「!」
レイジに向けていた黒騎士の手が、無慈悲にも村長へ標的を変更する。
このままじゃ駄目だ!村長が死んでしまう!
体を無理やり動かそうとするも、以前の戦いの足へのダメージと、闇の放出によって受けたダメージのせいで満足に動けない。
「じゃあサヨナラ!ウザいクソジジイ!」
闇が村長を捉え…
「辞めろおおおおおおおお!!」
だがその時
パリイイイイン!
「なっ」
「え?」
バリアが粉々に破裂する。
村人の攻撃が功を成したのか?
そう考えたが、バリアを破ったままの勢いでカイトに切りかかる男が目に入り、即座に否定される。
何故ならその男は、村から追い出した筈の…村を一度救ってくれた男だったから。
「おおおおお!」
「くっ!」
ミキヤがカイトへと切りかかる。
カイトは後ろに飛んだが、咄嗟の事で完全には避けきれず、浅く胴を一閃する。
「ちい!…ダイキ!やれ!」
「わ、分かったっす!」
後方――ダイキがいる方へ飛ぶカイトの後ろから、村長に向けていた攻撃を急遽ミキヤへ向け、カイトをすり抜けながらミキヤへと闇を放出する。
「ぐっ!」
ミキヤは剣の腹で攻撃を受け止め、このまま攻めるのは無理と見たか、一旦レイジの元へ下がる。
「レイジ!大丈夫か!」
「ミキヤ…?どうしてここに…?」
「ま、また闇が増えた…!この…!」
思わぬ再開を果たすが、村長は未だにミキヤを疑い、ミキヤにも武器を投げようと構える。
「村長辞めて!この人は敵じゃない!私が連れてきたの!」
「ルリ!どうして!?隠れていろと言っただろう!」
「お兄ちゃんが危ないのに、私だけ尻尾巻いて隠れている訳にもいかないでしょ!」
ルリもレイジの元へ駆け寄り、普段は見ない真剣な顔で状況を説明してくれる。
ルリの能力は【サイン】
サインした人や物の位置が、何処にいようと分かる能力だ。
いつの間にかミキヤ達をサインして、ここまで連れてきてくれたのか。
「そういう事だ。立てるか?」
「ああ…何とか、な…」
ミキヤが手を差しのべ、レイジがその手を掴み今度こそ立ち上がる。
「助けに来てくれたのか?」
「勿論だ!正義の味方がピンチの村を見捨てる訳無いだろ?」
「そうか、正義の味方だからか…。そう言えばそう名乗ってたな!ハハハ!」
「ちょ。今笑うところじゃ無いでしょ!」
――俺は一時的とはいえ、こんな奴を疑っていたのか。
――せっかく助けてくれたってのにな…俺は馬鹿だ。とんだ大馬鹿者だ。
「皆!増援が来てくれた!俺を守ってくれる気持ちは嬉しいいが、今は下がっていてくれ!」
「本当に其奴を信じていいのか?」
「ああ大丈夫だとも!なんせコイツは…俺の友人だからな!」
「…!」
友人とレイジ側から言われたのが嬉しかったのか、こんな時だというのにミキヤの口角が上がる。
「ミキヤ。謝りたい事が沢山ある。そっちも言いたい事が沢山あると思う。でも今は…黒騎士を倒すのに協力してくれないか?」
「ああ!当然だ!」
「ありがとな。お前がこの村に来てくれて…本当に良かった!」
二人で敵を見据え、ミキヤは剣を、レイジは拳を構える。
まだ勝機が見えた訳じゃない。
それどころか戦いと呼べるものが始まってもいない。
だがこの友人となら…誰が相手だろうが勝利を掴めると確信した。




