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第2章 豊穣の村⑤

今回から一話をかなり短くします。

その変わりなるべく更新頻度を上げようと思うのでご理解ください

 黒騎士の一人が、右手のひらに闇を貯める。

 暗く黒い邪気が無邪気にニヤリと笑う男の手に集っていく。

 

 「くっ」


 見るのは二度目の、闇を放出するまでの過程が行われ、青年――レイジも同じく二度目の青の壁を目の前に張る。


 レイジの能力である水で作られたバリアだ。

 ただの水では無く、魔力で作られたその水は強く凝縮し、確かな硬さを持ってレイジの前にカーテンのように出現し、バリアとしての役目を果たそうとする。


 黒騎士の一人が、水のバリアが張られるのを見るやいなや、ドッジボールで使用されるボール程の大きさまで集った闇を、そのバリア目掛け一直線に放つ。


 そして放たれた黒き弾丸は、青き壁と衝突――することは無く、バリアをまるで最初からそこになかったかのようにすり抜け、バリアに守られていたはずのレイジの元へ突き進んでいく。


 ――くそ!やっぱり駄目か!

 

 放たれた闇の弾を、横に飛んで避ける。

 その闇の弾が、どれ程の破壊力を持つ攻撃なのか分かっているからだ。


 レイジは無事に回避を成功させるが…この一連のやり取りを行うのは二度目だ。

 全く同じという訳では無く、一度目は闇の弾がバリアをすり抜けるのに驚愕し、余裕を持って避けた一度目とは違いって咄嗟に、そして無様な避け方をしたのだが。


 「くらえ!」


 一度目とは違い、回避した直後にできた余裕を有効活用し、レイジはバリアと同じ要領で作成した水の弾を黒騎士目掛け放つ。

 

 だがその弾は透明なガラスーでは無くガラスのように、それを通して奥を見ると少しぶれて見えるバリアに阻まれる。


 「くそっ」


 レイジからすれば、阻まれなければ勝負を決める事ができる程の力を込めた一撃だったが…恐らく闇を放ってきた方では無く、もう一人の眼鏡の男の能力であろうバリアには傷一つ付いていない。


 「あざっすカイト先輩」

 「一々感謝しなくても常にバリアは張っている。防御は私に任せて、敵に攻撃を当てる事だけに集中しろ」

 「はいっす!」


 カイトと呼ばれた眼鏡の男の助言に従い、もう一人の男が三度右手を開きながら、前へ突きだし闇を集めていく。


 「させるか!」


 防御は無駄と判断し、次はやられる前にやろうと考え、今度は大きな一発では無く、小さな水の弾をいくつも出現させ放つ。


 が、その小さな弾は先程放った大きな弾となんら変わりなく、カイトが張った透明なバリアに再度阻まれ、弾けて消える。


 ――能力が効かないのか!?


 ただ単に威力不足の可能性もあるが、それにしてもずっと張られているバリアに傷一つ付かないのには、何かからくりがあるのでは無いかとレイジは疑う。


 ――それなら、直接殴って壊してやる!


 そう考えた結果、闇が放たれようとする事にはお構いなしに敵の元へ駆ける。

 しかし当の敵は走ってくるレイジを見ても眉一つ動かさない。


 これも不正解かと嫌な予感が脳に降りかかるが、ここまで接近して後に引く事は出来ず、バリアの間近に迫り、走り込んだ勢いを利用しながら殴りかかる。


 「おらあ!」


 だがその一撃もバリアに傷付けるには至らず、レイジの手を痛めただけの結果となる。


 「まだまだあ!」


 走り込んだ勢いからの一撃は防がれたが、それだけではまだ退かずに連続して拳をバリアにぶつける。

 何度も。何度も。

 

 「愚かな。そんな攻撃ではこのバリアは破れん」


 カイトはバリアの中から冷徹な表情を崩さずにそう呟く。

 

 手の痛みが限界に達したのか、レイジは殴るのを辞め、至近距離のまま水の弾を放とうとする。


 が、いつの間にか溜まりきっていた闇が、レイジが攻撃を放つ前に牙を向こうとする。


 「これで、死んじゃえ!」


 闇はカイトが張っているバリアすらもすり抜け、レイジに襲いかかる。

 

 「くっ」


 レイジは攻撃を中断し、襲いかかる闇を避けるべく、後ろへ飛ぶ。

 

 が、レイジが居たのは黒騎士の目と鼻の先、手を思いきり伸ばせば届きそうな至近距離だ。

 そんな至近距離で放たれた闇を満足に避けれる訳が無く、初めてレイジに攻撃が命中する。


 「があっ!?」


 命中する直前に腕を組んで身を守ろうとしたが、腕だけでは全く衝撃を緩和できず、後方へ吹き飛ばされる。


 「ぐ…う…」


 まるで巨大な鉄の塊が飛んできたような衝撃を受け、倒れこんだまま呻く。

 

 骨が嫌な音を鳴らしたが、幸いにもまだ折れてはいないようだ。

 

 しかし、想像以上のダメージですぐに立ち上がる事が出来ず、その場で踞る。


 ――俺一人では…勝てないのか…?


 レイジの心が折れていく。

 

 この村で戦えるのは自分だけ。

 だから戦わなければならない。

 守らなくてはならない。

 

 その筈なのに…全く力が及ばない。


 ――俺は、こんなにも弱かったのか。


 この村は平和な村だ。

 魔物こそ稀に出てくるが、それも危険度が低い魔物ばかり。

 戦える能力を持つ自分の敵では無かった。

 だから、自分は戦えるのだと、万が一黒騎士が来ようとも自分一人でも何とかできると。

そう――高を括っていたのだ。


 だが、実際はこの通り、手も足も出ていない。

 前回の植物の男の時も、結果的に自分は何も出来ていなかった。


 ――くそっ…くそ…!


 このままでは終わってしまう。

 村人が助け合って笑顔で過ごせていた平和なこの村が終わってしまう。

 

 次第に痛みが引いてくる。

 もう体は立てない訳ではない。

 しかし…レイジの心は絶望と無力さに満たされ、立つ事が出来ないままでいた。

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