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少女A。  作者: アキ
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プロローグ

初書きです。

広い心で読んでいただけると、幸いです。

ああ、まただ。



ぱちり、と目が覚める。ゆっくり起き上がると、ベッドの脇で仁王立ちをするお母さんがいた。早く朝ごはん食べて、と低い声で言うところを見るに、なかなか起きてこない私を起こしに来たらしい。

窓の外を見ると、昨日と打って変わった快晴だった。それが少し目に痛くて、思わず細めてしまう。だけど、暖かい日は好きだ。太陽は出ているし、風の日に起こる偏頭痛もない。花のほのかな匂いが、朝起きた時に香るし、カーテンを開けた先はとても眩しい。夏に近づくにつれ、春用の毛布すらもはいでしまうようになって、少しお母さんに冷たい目で見られるけれど、そのあとちょっと笑ってくれる。

リビングに降りて、朝食の席に着く。既にお兄ちゃんは食べはじめていて、ご飯のおかずがほとんど無くなっていた。それに文句を言いながら、慌てて食べ物を口に含んでいく。味がするのかそれで、と向かい側に座るお父さんが突っ込みを入れた。するよ、と無愛想に答える私は、まだしっかり起きてない。

歯磨きをして、パジャマから学校指定のワイシャツとスカートに着替える。襟元を臙脂色のネクタイで止めれば、私は家でダラダラと眠っていたナマケモノから都内の大学付属私立高校に通う女子高生になる。鏡でしっかり自分の身だしなみをチェックする。別に特別おしゃれに興味があるわけじゃないけれど、都内の女子高生はみんなおしゃれだ。地味な方が逆に目立つし、派手すぎると原宿にしか行けなくなる。どうせなら、代官山とか恵比寿を闊歩できるようなちょっと大人な女性になりたい。

何度目かの鏡のチェックを終えて、お兄ちゃんと同じ時間に家を出ることを避けるために早々と玄関の扉を開ける。するとすぐ後に出てくる空気の読めないお兄ちゃん。仕方ないから途中まで一緒だ。

お兄ちゃんはとても背が高い。さらに顔の彫りがお父さんに似たのか深い。だからイケメンと呼ばれる部類だし、そんな兄は私の自慢なのだけど。でも、私とお兄ちゃんは似てない。私はどちらかというと日本人の女性という言葉をそのまま体現したかのような顔で、とても薄い。性格も別に良いわけじゃないから、モテない。正直そこまではいい、諦めてるから。問題は、勘違いされること。お兄ちゃんと隣に歩いているあの日本人顔の女は誰だって。うるさいな、兄妹だってば。それをそのままお兄ちゃんに言いよる女に言えた試しがない。



新宿で降りる私は、山手線の中で兄と別れた。じゃあな、気をつけろよ。なんて言葉を残して私の頭を叩いた。やめてよ、子供じゃないんだから。私のその返事は、満員電車では兄に届かない。

通勤ラッシュの時間、喧騒の中を早歩きで進む。中央線のホームから一気に人が溢れてきて、またその波に飲まれる。この波を経験することに、まだ慣れてない。足がとられそうになるのは、私の運動神経が足りないわけじゃない。

乗り換えて、無事に高校の最寄りまでたどり着く。チラホラ見えはじめた、私と同じ臙脂色のネクタイを締めた高校生たち。仲良く歩く男女の後ろを、静かについていく。私に後ろにも、同じネクタイを身につけた学生が歩いていた。兄と別れてから耳にねじ込んだイヤホンから音が流れてこないことに今更気付く。再生してなかった。好きな曲を適当に選んで流せば、それはいつもの朝の日常。

前を歩く男女のリュックサックについたお揃いのキャラクターが揺れているのをじっと見つめながら、足だけを器用に動かす。なんだっけこの名前。どこかで見た事あるんだけどな。

校門が見えてきた。前を歩く二人のもとへ、手を振りながら駆け寄る女子が二人。思わず私も手を振りそうになったけど、すんでの我慢が功を奏した。でも私の後ろを歩いていた男子学生の手が一瞬上がったのを、私はしっかり見ていたけどね。

校舎に入って下駄箱から自分の赤色のラインが引かれた上履きを取り出す。1-4の教室へ向かう廊下で、先輩に会った。軽く会釈をすると、その人はニコッと笑って返してくれた。優しい女子の先輩で、天文部の幽霊部員候補である私を覚えているらしい。

教室には、入学当初に仲良くなったグループの女の子たちが既に身を寄せ合って話していた。そこに自然に入っていく。おはよう、と挨拶すれば、返してくれる。そして話の内容を簡単に説明してくれて、私もその内容に手を叩いて笑った。

朝礼を告げるチャイムが鳴って、慌てて自分の席に着く。近くに座る笑い上戸の友人がまだ引きずっているのか、口元がニヤついていて少し気持ちが悪い。それでも感染したように目が合えば私も笑ってしまった。

当たり障りない先生の言葉を聞き流して15分。5分間の休憩を経て、一時間目の授業に入った。現代国語の時間だった。なのに、なぜか先生は今日も清少納言の話をする。確かに今やってる現代文には、清少納言

は登場するけどさ。でも昨日と同じこと言ってる。もう先生より早く説明できちゃうんじゃないかな。清少納言は、本名じゃないんです。父親の役職や名前を用いることが、当時の女性が名乗るのに、当たり前だったんですよ。昨日と同じこと言ってるよ。

一時間目の授業を終えるチャイムが鳴る。また集まり始める私たちは、きっとまだ高校に慣れてないから。お互いが仲良いと錯覚できるように、言い聞かせるように私たちは集まる。別に悪いことではない。最初は誰だってそうだ。中学の時の友達はね、そんな切り出し方は、ちょっと寂しい。そう思う私が、少し変なのだろうか。

そう言う会話は、休み時間だけじゃない。事あるごとに聞く話の決まり文句。みんなでお弁当を広げて囲っているお昼休みも、みんなが話したがるのは楽しかった中学時代。私はどんなだった?なんて聞かれたところで、部活が楽しかったよって言うだけ。事実だし。それにそこから未来の話ができる。部活、決めた?って。




長い一日は5時間目の授業で終わりじゃない。みんな部活見学に行くんだって。入学して私はすぐに中学時代も同じだった天文部に入ったけど、他の子達は思いの外慎重派だった。高校では特別なことがしたいんだって。それって本当に慎重派?なんて思った私が、本物の慎重派。

私は入った天文部の部室に行くわけでもなく、一人で1-4の教室に居残った。誰もいない。でもすぐに放課後のメンバーは来る。

黒い黒い吸い込まれそうな大きな猫。それを腕に抱える黒髪の高身長の男子生徒。青いラインの入った上履きは、3年生を意味する。そんな人が、教室に入って私の隣の席に座った。

こんにちは、先輩。それから黒猫ちゃん。そう声をかけると、ミャオ、と返事が来た。黒猫からだ。そしてすぐに、彼が口を開く。なあ、寝癖ついてるぞって。そう言って私の髪になんの躊躇もなく手を伸ばす。それに戸惑うことなく甘んじて受け入れる私。

優しい木漏れ日のような日だった。カーテンを揺らす生暖かい風は、夏を感じさせた。どこか梅雨の湿った匂いもした。もうすぐ春が終わる。私、暖かい今日みたいな日が好きです。そう告げると、俺もだよと返事が返ってきた。

寝癖を直していたはずの彼の手が、何故か私の頭をゆっくりと撫でている。嫌じゃない。むしろ。もっと。そんな可愛いこと言えるはずもなくて、ただされるがままに黙って目を閉じる。ミャオ、とまた可愛い声が耳元で聞こえるけど、目を開ける気にはならなかった。



帰ります。そう先に宣言したのは私だ。わかっていた先輩は、ああ、と小さく返事をしてのろのろと猫を連れて教室を出て行った。しょんぼりした背中が、とても愛おしい。優しくて、気まぐれで、どこの黒猫だろう。

しばらくスマホの通知を確認した後に、教室を出て昇降口へ向かう。この微妙な時間に昇降口を利用する人は少なく、何か忘れ物をしたらしいジャージの生徒が慌ただしく私とすれ違った。すれ違いざまぶつかりそうになったので、ごめんなさい、と口にすると、相手もごめん!と大きい声で返事をした。間に合うといいな、と思いながらローファーに履き替える。

どこからか、ミャオ、という鳴き声が聞こえた。さっきの黒猫かな。そしたら近くに先輩がいるはずだけど、あの気だるそうな背中は見えなかった。

校門をくぐって高校を後にする。ここから私は世間のjkになって、制服を武器に電車に乗るのだ。まだ帰宅ラッシュの時間じゃないから、きっと座れるだろうな。

駅が見えて来る頃、私の背景は高校近辺の住宅街から飲み屋さんなどがある繁華街に変わっていた。まだ遅い時間じゃないので、のんびり歩いてみる。幸いにも、まだ電車は来なさそう。遠くから見える線路の一部をじっと見て、まだ来るなと心の中で祈るように念を送る。あれがデッドラインなのだから。

電車が来る、みたいなアナウンスが遠くで聞こえる。まずいな。少しだけ早歩きになる。ローファーの足音が大きくなった。コンビニを通り過ぎると、よく聞くメロディーが流れる。私のこと、感知しちゃったのかな。らっしゃいやせーって、それどうせ音だけで判断して、見てないでしょ。

遠くで電車の揺れる音が聞こえた気がした。瞬間、私は後ろから強い衝撃を受けたのだ。いや、反動といえばよろめいたくらいのものだったかもしれない。でも、そのあとすぐに背中を中心に駆け巡るような熱と痛みを感じたのだ。

遠い聴覚の世界で、悲鳴が右から聞こえる。女の人のものかな。よろめいてしまったので、体制を立て直そうと咄嗟に右足が前に出る。その瞬間、ぐにゃんって足が曲がったのか、それとも骨が溶けてしまったのか、どちらともとれるような感覚のまま、私は倒れた。高校生になって、よろめいただけで地面に転ぶとか、ダサすぎ。少なくとも、中学の武勇伝を語る彼女たちよりダサい。笑ってしまいそうだ。

起き上がらなくちゃ。でもどうして。何故、腕に力が入んないの。まるで貧血を起こしたかのように、手が冷たい。何があったんだろう。じわり、と感じた液体が、私のお腹から出てくる。一体何。確かめようと目線を下げた時、再び私に衝撃が落ちた。

今度は、まるで意識のなかった私を叩き起こすかのようなものだった。一瞬でそれを受け止め、それが痛みだと言うことを知った。漏れ出たのは、自分のものとは思えない叫び。それも一瞬で終わった。叫ぶ気力すら、3回目の衝撃に吸収された。同時にその衝撃は、私の意識をも奪った。

ここで初めて気付く。背景が、真っ赤に染まっていたことに。誰も起き上がってない。誰もが私と同じ目線で虚空を見つめている。何、どこを見ているの。何を話しているの。痛みと激昂の背景のまま、第三者のように私はそれを考えていた。

ねえ、神様。いるとしたら、伝えて欲しいことがあるんだけど。

不意に感じ取る、死の気配。知ってる、これってあれでしょ、走馬灯ってやつでしょ。


「むらかみ、先輩」


朝もそうだった。それが全ての始まりなんだって。

4回目の衝撃で、私は歪んでいく世界を目の当たりにしたのだった。




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