6 「カラスとコマドリの大合唱」
「だ、誰なの?!」
レインがドングリ池に一番近い木の枝に止まって、その何かに言いました。
「大丈夫?」
「なんかあった?」
下にいる、クリとイーは大心配。
「あなたは何なの?」
「はあ・・・見つかっちゃったか・・・」
レインの質問には答えないで、そのなにか、は、クリとイーの元に降りました。
イーとクリはそのなにか、を見て、びっくりしました。
レインは、きれいな黄緑の体をしていますが、そのなにか、は全身真っ黒です。まるで虹の妖精のようですが、虹には黒なんてありません。それに、真っ黒なのに、コマドリのように羽が生えて、レインと同じ高さぐらいです。レインの兄妹でもこんな真っ黒なコマドリはいません!!
「あんた、誰!?」とイーが訊きました。
「あたし、ワンダ」
レインよりも汚い少し高い声で言いました。
「・・・・・・ってどういうトリ?コマドリなのかい?」
「あたし、カラス」
「「「カラス?!!」」」
(へえ、こんな真っ黒なトリがいたんだ・・・・)
(カラス、って聞いたことないなあ・・・・)
(カラスってすごいトリだわ・・・・この森でトリはアヒルとコマドリだけだと思っていたわ・・・)
イーとクリとレインは目の前のカラスにびっくりしました。この森でカラスは見たことがないのです。
きっと、それは誰にきいても「知らない」とみんな言うようなトリでしょう。
急にレインはドングリ池で、うつっていたアオイを丸いもので見えなくなったことに、気が付きました。
「・・・・もしかして丸いものをドングリ池に投げたのは・・・ワンダ?」
「そう、あれはクルミだよ」
「なんで、投げたの?願い事をして投げるのはドングリだよ」と、イーがいつの間にか池からとったドングリをクリは指さしました。
「ニンゲンがうつってたから・・・・・」
ワンダは、そう言いながら、言葉を続けました。ワンダの言葉はそれで終わりではありませんでした。
「あたし、音楽が大好き。そもそもうちの家からずっとみんなに内緒で逆さの虹の森音楽会を開いてたのも
あったけど。でも、あたしおんち。好きなのに、歌の音程を間違える。
ある日、そんなおんちの歌で飛んでたら、逆さの虹の森に来たニンゲンに笑われた。『何?あのカラス、
めちゃくちゃおんち』って。傷ついた。その時、もう親があたしに逆さの虹の森音楽会を開かせてくれた
頃だった。それで音楽全てが嫌になった。逆さの虹の森音楽会なんてくだらないって思った。
きっとみんな逆さの虹の森音楽会は喜んでないって。こんなおんちが音楽会を開いてるなんて・・・・・
って思った。
だから今年から逆さの虹の森音楽会は開きたくない」
「「「・・・・・ええ??」」」
その時、なぜだか逆さの虹の森音楽会の謎が解けたのです。
誰が開いたのか、それはカラスのワンダ。なぜ開いたのかは、音楽が好きだから。そして・・・・今年は
なんで開かなかったのかは、ニンゲンに笑われて傷ついたから。
レイン、クリ、イーはまさかここで分かるとは思いませんでした。
ワンダは三匹の反応を見て、(しまった!しゃべりすぎた・・・!)と思っていました。
♪♬♪♬♪♬♪
「♪トゥトゥルル、トゥトゥルル、パララ、プル・・・プル・・・トゥルプ・・トゥ・・・♪」
シンとナイトのドングリハーモニカ大合奏はもうすぐ終わりそうです。
「逆さの虹の森音楽会はあなた・・・ワンダが開いたの?」
「・・・・・うん」
ワンダはレインの質問に答えたくありませんでしたが、しょうがなく答えました。
ただ、ワンダはその後、シンとナイトのハーモニカの音を聞きました。
「・・・こ、この音は?!」
「そうよ、ワンダが逆さの虹の森音楽会を開かないから、あたしが開いたの」
「なんで?」
ワンダは(そんなのいらないのに!)と顔をしかめながら訊きました。
「みんなね、逆さの虹の森音楽会が開かれないから、パニックになったんだ」と言ったのはレイン、ではなく、イーでした。そう言いながら、しょうがなかく、ドングリ池にドングリをもどしました。
「そうなの?」
「そうなんだ、逆さの虹の森音楽会、みんな楽しみにしてるんだよ」とクリ。
ふいに、レインは思いつきました。
(ワンダがみんな楽しみにしていることを見せれば、ワンダも分かるわ。音楽の力が。そう・・・・あたしのあの時みたいに・・・・)
レインはお姉さんのナチュラと一緒に昔、逆さの虹の森音楽会に参加して歌を歌いました。その時の気持ちよさ、動物みんなの笑顔は忘れられません。
「・・・・・ワンダ、今の逆さの虹の森音楽会、見てみない?」
「うん」
ワンダはすんなりと言いました。なんたって、ワンダは開いているのに逆さの虹の森音楽会を見たことが
なかったのですから。
♪♬♪♬♪♬♪
「あっ、ちょうど」とレイン。
そう、ちょうどシンとナイトの大合奏は終わってしまったのです。次は最後、レインの歌で終わります。
レインはこれから、歌えることが嬉しかったのですが、クリとイーはがっかりでした。
(けがしてないかな、ナイト・・・。大丈夫そうだなあ、あ~あ、見たかったなあ)
(あ~あ、今日はけっきょく、クリにしかいたずら、してない・・。もっと色んな動物にいたずら、したかったなあ・・・)
「あら、ちょうどよかった。レイン!次はあなたで最後よ!」
アンダーがレインに気が付いて、言いました。ワンダには気が付きませんでしたが。
しかし、どうしましょう。今、ワンダに何もいいところを見せていません。
(そうよ!)
またレインは思いついて、アンダーの方にかけよりました。
「アンダー、リスト貸してくれない?あっ、あとなんかペン、持ってない?」
「ペン?う~ん・・・・はい、リストとペン」
アンダーは不思議に思いながらも、リスト、そして服のポケットに入った羽のついたペンをレインに貸してあげました。レインはアンダーからもらうと、リストに何かペンで書きました。
そして、リストをアンダーに返しました。
アンダーはリストを見て、すこしびっくりして、丸太広場の切り株に座っている動物たちに「みなさ~ん」と話しかけました。
「聞いてください、最後のレインの歌に少し変わりましたあ!」
「ええ~?」「なんだって?!」
みんな、ザワザワし始めました。これはどういうことなのでしょう?
「レイン、一人だけが歌う予定でしたが・・・・・カラスのワンダと合唱することになりました」
「カラス?!」「なんなんだろ、ワンダって?」「聞いたことないトリ~」
「どういうことなのっ!?」
ワンダはあわてたあまり、とっても汚い高い声でレインに訊きました。
「どれだけ、みんなが逆さの虹の森音楽会を大切にしてるのか?そして、歌ったときの気持ちよさを感じてほしいの。それにあたしは、逆さの虹の森音楽会で歌を歌うようになったの。逆さの虹の森音楽会は大切よ」
そう言って、レインはアンダーに言われてもいないのにステージに上がりました。
やっぱり、レインは人気者です。まだ歌ってもいないのに、丸太広場の動物は拍手しました。
「で、ではあっ、ラスト、ワンダとレインの大合唱です!ど、どうぞっ」
アンダーは慌ててみんなに言って、ワンダはゆっくりとステージに上がります。みんながワンダのことを見ています。
(みんな見てる・・・・きっとおんちって知ったらみんな笑うだろうな・・・・)
そんな思いも知らず、レインは歌い始めました。
「♪さあ さあ 逆さの虹の森音楽会が 終わるよ
あの楽しかった 逆さの虹の森音楽会が 終わるよ 悲しいね でもまた来年! その時まで待って♪
はい、ワンダ!」
急にワンダにふられ、ワンダは慌てて歌詞を考えました。この歌はワンダは知りません。
「♪逆さの虹の森音楽会 楽しかったの? とうてい 思えない
音楽のどこが 楽しいの?♪」
「♪楽しいわ 楽しかった 音楽会はかけがえのないものよ~
たった一日 虹が逆さじゃない日 毎年楽しみよ♪」
「♪そうなの? おんちで 笑うんじゃない? 下手くそって 笑うんじゃない?♪」
「♪いいえ~ ほら、見てみて みんなの顔を~ 笑わないで 聞いてるわ♪」
ワンダはそう歌うレインの言う通り、みんなの顔を見ていました。みんな、笑わないで真面目に聞いています。ワンダはこの歌でも自分がとても汚い声を出していることに気が付きましたが、それでもあのニンゲンのように笑ってはいませんでした。
「♪これは 逆さの虹の森音楽会 音楽好きなら 誰でもできるうわ 上手いとか下手とか関係ないの~♪」
「♪関係ないね~」
「「♪そうよ 逆さの虹の森音楽会 音楽好きなら誰でもできる~ だれも下手で笑ったりしない みんな
乗ってくれるうね~♪」」
だんだんと、動物たちは手拍子をして、歌に乗ってくれました。
(みんな、音楽なら笑顔になってくれる・・・・乗ってくれる・・こんなに心が気持ち良くなったのは久しぶり・・・)
ワンダは歌いながらそう気が付きました。
そして、その後、ハリネズミ一家がその後ろでタップダンスをし始めました。それと、見張りを終えて、
やってきたレインのコマドリ家族も、空を飛んでもっと盛り上げました。
「♪ありがとう 気が付かせて くれて 音楽はこんなにすごいものね♪」
「♪そうよ 音楽会は 楽しいものよ・・お(↑)♪」
最後はレインが音を上がらせて終わらせて、丸太広場は拍手に包まれました。
そう、あのレインが初めて来たときのように。
みんな笑顔で、「良かったよ」と言って、ワンダとレインをたたえました。
☆★☆★
あれから。
ワンダは音楽の力に気が付いて、自信が持てるようになりました。だからなのでしょうか?
ワンダはとっても明るい性格になりました。
そして、逆さの虹の森音楽会はレインとワンダが開くようになったのです。
もちろん、最後にはレインとワンダの大合唱です。
この逆さではない虹がかかる日は、あの時よりも拍手に包まれるようになったのでした。