3 「ヘビとリスとキツネの逆さの虹の森ジャズ」
「続いては、キュウと、イーと、クリの逆さの虹の森ジャズです!では、どうぞ~!」
丸太広場には、大きなアンダーの声が聞こえます。
逆さの虹の森音楽会は、今年はレインが開くことになり、今はやっと三番目まで来ました。
そんな中、キツネのクリだけが、
「え?えええええええ?」
とパニックになっています。
(なんで?ボク、リストに名前書いたっけ?!)
その横で、いたずら好きのリスのイーが「チチチ!」と笑っています。
(上手くいったよ、やっぱりいたずらって最高だね!)
どうやら、イーがリストにクリの名前を書いたようです。イーのいたずらはたとえ逆さの虹の森音楽会でも
かけてくるものなのです。
クリが一人だけパニックになっていると、待っているみんながザワザワし始めました。
「ねえ、まだなの?お母さん」「もう少しよ」「ジャズか・・・!楽しみ~」「ジャズって何??」「ねえ、もう早くしてよ」「キツネさんはなんで、頭に手を置いてるの?」「分からないわ」「早くしてええええええ~」
クリはイーのいたずらに気が付かずに、一人で納得してしまいました。
(・・・うん、きっと名前書いてたのを忘れてただけだよね!はあ、ボクって忘れん坊さんだなあ~)
ステージに上がっていないのは、イーとクリだけです。ヘビのキュウはというと、そんなクリは気にしないで、シュルシュルとゆっくりステージに上がって、ちょっと曲がった棒の先と、吹くところ、持つところに穴が開いた楽器を持って、少し吹きました。
その後、イーとクリもステージに上がりました。
しかし、クリは練習をしていません。どうしたらいいのか、全く分かりませんでした。
イーは、たくさんの箱を積み上げた中に座り込みました。「ドラム」です。
余っている、楽器といえば、たくさんのドングリをつけたものです。これを、棒でたたいて、音を鳴らすようです。
そんなわけで、三匹の演奏が始まりました。
※
「みんな・・・、虹の妖精たちと、根っこ広場の妖精たちに訊いてくれない?」
アンダーが、ドングリ池にもぐって、他のドングリ池の妖精たちに言いました。
この時だけは、レインは気が付かないでステージの方を見ていましたから、アンダーがこんなことをしているのは知りません。
「何を?」他のドングリ池の妖精たちは、小さな声で言いました。
「今年の逆さの虹の森音楽会についてよ、なんで開かれなかったのか、誰が開いたのかとか、知っていることを訊いて欲しいの」
「分かった」
ドングリ池の妖精たちは、すんなりと言って、二手に分かれました。根っこ広場と虹の方向にです。
池を出ると、水色だったはずの妖精たちは全身黄色になりました。ドングリ池の妖精は仲間と一緒にいるときは全身水色で、見てほしい時・水の中ではないときは全身黄色になるのです。
「ポヨヨ・・タンタタタタホヨヨヨ・・・タッタタタターポロロロオー・・・・
パラララランラン、パララララン!ポッポポ、タタタンタン!・・ポパラララララ・・・」
なんとか、クリはリズムに合わせて、叩くことができました。もうイーなんか自分がいたずらをしかけたというのに、そんなことを忘れて、丸い箱、四角い箱を叩いています。
丸太広場では、そんな音色が聞こえてきます・・・・。
※
「ねえね、聞いてくださいな」
「なんだい?」
ドングリ池の妖精は、さきに虹について、缶をもって忙しそうな虹の妖精に話しかけました。
虹の妖精は、この逆さの虹の森の虹を毎日作り出している、大変なお仕事です。妖精には、一人一人に色が決まっています。そして、その色が全身染まります。
赤い色の虹の妖精なら、全身赤。青い色の虹の妖精なら全身青。
「なにか今年の逆さの虹の森音楽会について知ってるかい?」
「?逆さの虹の森音楽会?」
「なにそれ、おもしろそう~」
(!)
虹の妖精は虹を作っているのに、逆さの虹の森音楽会があることをを知らなかったのです。もちろん、そんな妖精が逆さの虹の森音楽会について知っている・・・・なんてことはありません。
ドングリ池の妖精は訊きました。
「・・・あるって知らなかったの?これ、森中で有名だよ?」
「ええ~そもそも、森に入ったことないよ」
「毎日忙しいからねえ」
こうなったら、根っこ広場の妖精に任せるしかありません・・・。
「タッタタタ、タタタ・・・ポロンポロタッタタ、ポロロ、タタタタタン!パララララポオン、パラララポロン、タタタタ、ポロロポオオオオオオオン!」
丸太広場ではなんだか、愉快で悲しそうな音が聞こえてきます。
※
もうひと手に分かれたドングリ池の妖精たちは、このころ根っこ広場に着きました。丸太広場は愉快だというのに、この広場だけはとっても暗い空気でした。
「あの?・・・」
返事をしないので、根っこ広場の一番太い根っこの木に「コンコン」とノックをします。
ここの木には根っこ広場のリーダー、「ニーキ」という妖精が住んでいます。根っこ広場の妖精は人見知りで暗いので、ノックをした「キャサリン」という妖精だけにして、他の妖精たちは隠れるようにしました。
「ん・・・なんだい?寝てたんだけど」
しばらくして、ニーキが眠たそうに木の小さな扉から出ました。
「じゃましてごめんね・・・・今年の逆さの虹の森音楽会について何か知らない?」
「何を急に・・・・・・ボクの寝てるとこをじゃましてまで聞くことかな・・・?」
ニーキはなんだか、今日はイライラしています。音楽が聞こえるからでしょうか?
「それになんで急に逆さの虹の森音楽会について訊くんだい?・・!」
「ん、それはね・・・・」
キャサリンは全部話しました。今年になって急に開かれなくなったこと、パニックになったこと、コマドリのレインが開いたこと_。でもニーキは聞いていてやっぱりなんだかイライラしていました。
「それで、ボクに訊いたってわけ?」
「そう、でなにか知ってることはない?誰が、なぜ、なんのために、なんで今年は逆さの虹の森音楽会は開かれなくなったのか・・・。少しでもいいの、本当にちょっとでも」
「知らないよ、全くもって知らないよ・・・・・根っこ広場の妖精は本当にそういうこと知らないから」
ニーキはイライラして、扉をガタン、と閉めてしまいました。
(はああ・・・・アンダーになんて言おう・・・・・・・ホントに逆さの虹の森音楽会は知らないんだよね・・・)
・・・・ドングリ池の妖精達は、しょんぼりしながらキュウとイーとクリを拍手して騒がしい丸太広場へと向かいました・・・・。