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レインの音楽会  作者: 倉井 陽流
これは昔の話_
1/8

序 「レインの昔話」

逆さの虹の森には年に一回、森の仲間にとって嬉しいことが起こります。

いつも、空の雲に時計の九時の方向から、三時に反時計回りに「逆さの虹」がかかっています。


しかし、たった一日だけ、その逆さの方向に

つまり三時から九時に反時計回りに虹がかかります。


その日だけは、怖さの森と明るさの森をつなぐオンボロ橋が消え、

その明るさの森の端と怖さの森の端が一つの森として合体し、自由に行き来ができるのです。


それだけではありません。


その日は「逆さの虹の森音楽会」が開かれるのです。


参加は誰でもできます。

妖精だって、クマだって、ヘビだって、音楽が好きなら参加は大丈夫。

ダンスを披露しても、楽器を使って合奏をしても、音楽に乗って合唱をしても、歌を歌ってもいいのです。


逆さの虹の森音楽会は明るさの森のドングリ池近くの丸太広場で行われます。

丸太広場というのは、「逆さの虹の森二大広場」の一つです。

もう一つは怖さの森の根っこ広場。

しかし丸太広場は根っこ広場よりもずっと明るく、とても陽気な場所で、切り株がたくさんあります。

その日は逆さの虹の森の動物の仲間がみんな集まり、丸太広場で腰かけるのです。


そしてその日は誰もがわくわくする日なのです。



                   ♪♬♪♬♪♬♪♬♪



そんな音楽会ではある一匹の動物に勇気を持たせました。


それはーコマドリのレインです。

レインはとても歌が上手く、歌をみんなの前で歌っていますが、この音楽会に出会うまでは歌を披露などしない、コマドリでした。


レインは逆さの虹の森でも珍しく家族と一緒に暮らすコマドリです。

それにレインの兄妹は実に多いのです。

レインも含めて八匹兄妹。上から順にフルー、ナチュラ、オーボ、レイン、フォルテ、シックス、ハープ、

イロハ。


レインはとてもおとなしいものでした、この兄妹でさえレインの才能に気が付かなかったほどですから。


「あっ、今日は逆さじゃない虹だよ」とハープ。


「あら、今日は逆さの虹の森音楽会が開かれるのねえ」とナチュラ。


「まあ、俺らには関係ないけどな」とオーボが付け足しました。


このレインコマドリ一家は逆さの虹の森音楽会に参加したことも、それを鑑賞することもありませんでした。

音楽が好きなコマドリが誰一人いないのです。


それにこの虹がかかっているときは、虹付近を見張り、なにかおかしなことがないか見る役割がありました。この虹がかかっているときは何がおこるのか、誰にも予測できないのです。


「さあ、行こう」


一番上のフルーが言いました。フルーは兄妹の中でも頼れるリーダー的存在です。

レイン達が空を飛んでいると、音楽が聞こえてきました。


「♪タッタタ、タタタ・・・タタタタ・・・パパッパパ・・・タッタタタタ、タタタ、タンタタタタタ

パラララ♪」


レインは不思議に思ってつい、音のする方に近寄って降りました。

そこにはたくさんの動物の拍手を浴びて「ありがとう、ありがとう」と言っている、ハリネズミ達がいました。

ハリネズミは白い小さな手に一匹一匹違う楽器を持っています。

みんな・・・みている動物も演奏をしたハリネズミ達も笑顔になっています。


(音楽って、みんなを笑顔にできるものなのね・・・・)


音楽の印象が変わったレインでした。


(・・・いつのまにこんなところまで来てしまった・・・・ここはどこなの・・・)


レインは家族たちとはぐれてしまったのです。

ここは怖さの森よりもよっぽど明るく陽気な場所です。こんなに日差しが入ってくるところは初めてです。


(あっ・・・こんなところに池がある・・・・)


たくさん動物たちが集まっているところのすぐ隣にとっても澄んでいるきれいな池があります。


(怖さの森にこんな池はなかった・・・・)


そんなことを思って池を見つめていると急に池から水しぶきが上がりました。


「きゃあああああああっ」


コマドリ、レインは水しぶきよりもずっと低いところにいましたから、この一瞬でずぶ濡れになりました。


(あたし、ここに来ただけなのに・・・)


ただ、よく見ると、水しぶきの中から黄色い光が出てきました。

ただの黄色い光ではなく、羽、服、肌、顔、目、全てが黄色い妖精でした。


「あら、新人?逆さの虹の森音楽会に参加したいの?」


(あれが逆さの虹の森音楽会だったんだね・・・・)


「いいえ、でもここはどこなの?」


「ここは明るさの森。いつもはオンボロ橋で渡れないけれど、今日はしっかり渡れるの」


妖精はちゅうちょなくペラペラとしゃべります。


「あなたは誰なの?」


妖精、だということは分かりますが、妖精を見たのはこれで初めてです。


「ドングリ池の願いを受け取って叶わさせるのと、ドングリ池を守る役目を持っている、ドングリ池の妖精。まあ、私のこと、アンダーって呼んで。そして、あなたは?」


「あたしはコマドリのレインよ」


「コマドリね・・・・今日は虹の見回りに行くんじゃないの?」


(そうだ・・・・でもどうやって行けばいいの?それになぜ知ってるの?)


「そうよ、・・・・でもどうやって行けばいいの?」


「うん・・・ここからだと、真っ直ぐ上に行けば虹に行けると思うよ」


「ありがとう・・・・、でもなんで知ってるの?」


「・・・・それは妖精だからかな」


アンダーはそれ以上答えませんでした。

レインはアンダーの言う通り、真っ直ぐ上へと飛びました。飛んでいるうちにどんどんスピードが上がってしまい、雲にレインの体の穴が開きました。


「ああっ、レイン!」とフォルテ。


「探したんだよ!」とレインの次に高い声ちょっと不機嫌なのはイロハ。

イロハの隣にはお母さんとお父さんがいます。


「はぐれないでほしいです・・・」

この暗い声はいつも自信のないシィックス。


「ごめん、ちょっと寄ってて」


「もうやめてほしいわあ」「ちゃんと一緒についてってよお」


口々に兄妹、家族が言い、もう虹に向かおうとしている中、一匹だけみんなに気が付かれないようにレインに近寄っているのは、レインのお姉さん、ナチュラでした。

「どこに行ってたの?」


「まあ、逆さの虹の森音楽会?かな」


「あの、逆さの虹の森音楽会?」

と、言ったのはナチュラではなくフォルテでした。


「どんな感じだった?」


「あのね・・・・音楽でみんなが笑顔になってた・・、聞いていた人もやっていた人も・・そこはとっても

明るい場所だった・・・音楽であんな風になるものなのね・・・」


「でもオイラたちにはこの仕事がある・・・こんな呑気に音楽を聴いている場合じゃないね」

と、言ったのはナチュラでもフォルテでもなく、シックスでした。


「もしかしたら、あなた、本当は逆さの虹の森音楽会に出たいんじゃないの?」


「・・・んでも仕事があるのよ、そんなの出るわけないじゃない、ハハハハ」


しかしそう言ったレインのため息でこの発言が嘘だということがナチュラにバレました。


「いいじゃない、お母さんもダメとは言ってないんだし、兄妹たくさんいるんだから行って来たら?」


「でも・・・」


「もし一人が怖いんなら私も行くよ?もし嫌だったら嫌っていいのよ?」


「・・・・・・そうね、行くわ。ナチュラも一緒なら・・・」


  ※


「あら?さっきのレインじゃない」


レインとナチュラがドングリ池に行くと、さっきと変わらずドングリ池の妖精、アンダーがいました。


「そうだよ」


「・・・この人だれ?」

ナチュラが小さな声でレインに耳打ちしました。


「あっ・・・ええっとね・・・ドングリ池の妖精のアンダー、さっきあたし知り合ったの」


「どうも」


「レイン、この方は・・・?」


「あたしの・・あ、姉のナチュラです」


「よろしく」


アンダーは小さく頭を下げました。その後、アンダーはレインに向き合って言葉を続けます。


「それで何をしに来たの?レイン」


「ええっと・・・・逆さの虹の森音楽会に参加しようと思って・・・割り込みは可能?」


すると、レインの言葉を聞いてアンダーの目がパッと輝きました。


「もちろんよお~!考えを変えてくれたのね、音楽に興味を持ってもらって嬉しいわ」


アンダーは、そう言った後、今終わったばかりの演奏で拍手であふれている、丸太広場の動物たちに「みなさ~ん」と軽く飛んでステージに立ちました。


「これで音楽会は終わりですが・・・・、割り込み参加が入りました、コマドリのレインです!」


丸太広場がまた拍手に包まれました。

そんな中、ステージに上がるのはレインにとってとても勇気のいるものでした。


(どうしよう・・・何をすればいいの・・・)


何とかステージに上がりますが、何をすればよいのでしょうか?


「大丈夫」とナチュラもステージに上がります。


(でも何をやればいいの・・?)


レインはナチュラに目で訴えかけます。

「お母さんが昔よく歌っていた歌はどうなの?」


(・・・でももし失敗したら・・?)


丸太広場の切り株に座っている動物はレインが歌い出すのをじっと待っています。

レインは深呼吸をしました・・・。


(大丈夫・・・・きっと)


「♪ああ~

 逆さの虹の森にはお虹がかかるよ 逆さのね

 二つの森をつなぐ橋 それはオンボロよ

 明るさの森と怖さの森 正反対の森なんだ

 きれいな風景 見に来よう さあ今こそ歩き出そう」


その歌声は誰もがうっとりする高く優しい歌声でした。

姉のナチュラでさえびっくりするほどのうまさでした。そして当の本人レインは歌うことの気持ちよさに気が付きました。

レインの歌が終わると逆さの虹の森音楽会はとても大きな拍手に包まれました。


(なんて歌って気持ちいいんだろう・・・・もっと早くから気が付けばよかった・・・)


こうして、レインはこの日から歌をたくさん歌うようになり、自信も持つことができたのです。



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