エピローグ 神にガチャられたんだが頑張らないと餌にされるらしい
狭い、石造りの部屋だ。
円形のその部屋の中心には、やはり円形をした台座らしき物が存在している。
部屋を構成するざらりとした灰色の石とは違い、黒く艶のある石材で出来たそれは、中心に薄く青白い光を湛えた魔方陣が描かれていた。
しんとした空気。時が止まったかのようなその空間に居るのは、二人の男女。
それはここ、アルーカを統べる女神と天使。名を、ハイジとガブリエルという。
「……それじゃあ、始めましょう」
台座に向き合うハイジは目を瞑り、手を台座に向かって掲げ――朗々と、唱える。
「我、ここに願う。偉大なる大神ゼウスよ、わが望みに応え給え」
彼女の声が響き、それ以外の全てを沈黙が支配した空間に――突如として変化が訪れる。
魔方陣がぱちりと音を立て、電撃のような光が躍る。それは連鎖的に魔方陣を走り回り、ぱちぱちと小さな音がさざめきのように続く。
「彼の地より此の地へ、大いなる力を。類稀なる幸いを。永久の闇を照らす光をもたらさん」
走る光は徐々にその速度を増し、やがて魔方陣の外縁に沿って回り出す。それは一筋の光の輪を生み出し、きぃんと甲高い音を纏う。
「並び立つ銀の宝塔。流転する理の調べ。女神ハイジの名の下に、盟約と血呪の契りをここに」
光の輪は徐々にその身を広げ、その内にいくつもの分身を作り出す。
台座いっぱいに広がったそれはやがて全てが束ねられ、一つの巨大な円環を成した。
「我が声は標。故に不惑、故に無為。従い降りよ、神饌の魂よ!」
光の輪は突如として収縮し、刹那の静寂と暗転をもたらす。
次の瞬間、消えた円の中心から、青い輝きが解き放たれた。溢れ出る光の奔流は部屋を埋め尽くし、部屋に居る二人の視界を塞ぐ。
空気の震えを伴い、ごうごうと不可思議な音を上げながら、光は徐々にその勢いを弱めていく。
やがて、光が霧散したその中心には――
****************
「――大気に宿りし氷の精霊よ。我にしばし力を貸したまえ」
エレナの詠唱が響く。その声に応えるかのように、赤い肌の魔物がこちらに鋭い眼光を向けた。
足下に生じた魔方陣を目印に、レンは剣を手に、持ち場を見定める。
飛び掛かってくる魔物――オーガを睨み付けるその目には、青い光が宿っている。
「終焉を告げる時ならぬ晩鐘。短針、城郭、砂鉄の首輪。青く微睡み黙する勿れ」
少し離れたところでは、既にバルトとエドモンドが一戦交えていた。
複数のオーガを相手に一歩も引かず、意気軒昂に武器を振るって。
レンもまた、己の剣を走らせた。
一体目のオーガは、武器を振りかぶった体勢のままあっさりと頭部を貫かれる。
(次……!)
喜ぶ間もなく、レンは視線を次の標的へと移した。
「月夜を映す羊皮の褥。荒涼たる骸の桃園。咎人は今春に魘される」
左右から近付いてくる二体を、レンは交互に見遣る。そして早々に見切りをつけ、左から近付いてくる一体だけを睨み付けた。
そして、心臓を一突き。すぐに振り返ると、もう一体が振り下ろした棍棒をひらりと躱す。
「深、申、寂、雀、劫、纏、系。遍く行者はここに傅く」
振り向きざまに、オーガの腕を斬り付ける。
そして目を向ければ、武器を取り落とし隙を晒したオーガの首に、光の筋が突き刺さっていた。
そこに刃を乗せ、そっと滑らせていき――
「止まれ。『ホワイト・ゼロ』」
『見針の魔眼』の導きでオーガの首が斬り飛ばされると同時、エレナの魔法が発動した。
戦場には、オーガ以外にも大量の魔物が居た。いつものことだ。
そしてそれらは、発動したエレナの魔法に全て飲み込まれる。
氷の最上級魔法『ホワイト・ゼロ』。
大気そのものが凍てつくような圧倒的な凍気が、戦場を端から凍らせる。
魔物の体はあっという間に氷像へと変わり、そのまま耐えきれないように砕け散る。
音すらも凍り付いたような静寂が辺りを支配し、『敵を殲滅せよ』というクエストは一瞬で達成された。
「これが最近覚えたという氷の最上級魔法か。いや、恐ろしい攻撃範囲だな」
「ふふん、そうだろう。それに辺りを焼け野原にせずに済むから、これからは遠慮なく撃ちまくれる。ふふ、『鬼にカネボウ』というやつだな」
(鬼がオシャレに目覚めている……)
相変わらず間違った諺に、レンは心の中でそっとツッコんであげた。
「まさか……エレナが辺りへの被害を意識していたとは……!」
「まったくだな、むしろどれだけ焼け野原にできるか挑戦してると思ってたぜ」
と思いきや、エドモンドとバルトから別方向でツッコミが入った。ええ、それには全く同感です。
「失礼な。私だってなぁ……」
とエレナは反論を始めたが、ガブリエルに言われて考え始めたことをレンは知っていた。そのことを思い出し、レンは自然に笑顔が漏れる。
そんなエレナたちのやり取りを微笑ましく見守っている間に、クエストは終わりを迎えるのだった。
****************
今回は、四人ともが修練場前に帰還していた。
お互いに今回の戦いを労い、「食事でも行こうか」と食堂へ歩き出す。
「ん、あれは……」
その道中、エドモンドがそう声を発して遠くを見ていた。視線の先に居たのは、
「あ! ガブリエル様!」
アルーカの天使、ガブリエルである。
(けっこうな人混みなのに、二人ともよく気が付いたな……エレナさんは当然か)
最近、ボックスの異界人が増えたとレンは感じていた。
今も沢山の異界人が行き交い、ガブリエルはその向こう側に居たのだ。
彼は大きく手を振ったエレナに気付いたらしく、こちらに手を振り返すと、何やら話しながらこちらに向かってきた。
(誰と話して……?)
人混みでそこまでは確認できず、ガブリエルが来るまでレンは首を傾げながら待つ。そして、やってきたガブリエルは――
「おう、ガブリエル……ソイツらは何だ?」
バルトがそう訊ねるのも当然だ。なぜなら――
「えっと……まあ、分かるだろう? 全員、今日召喚された『チャリザード』の民だ」
そう、ガブリエルは見覚えのない異界人を連れていた。
その数なんと十一人。しかもその全員が、どう見ても『リザードマン』なのだ。
「……なんだって一度に十一人も?」
「それが……チャリザードは、ハイジ様のマイブームなんだ。そこへ、向こうの神が話を持ってきてな」
エドモンドの問に、ガブリエルが苦い顔で答える。
なんでも、チャリザードは現在人口過多になっているらしい。そこで一計を案じたチャリザードの神が、『今なら十人分の大神石で十一人召喚可能!』と宣ったのだとか。
(うわ……十連ガチャだ……)
無論、ハイジが飛び付いたのは言うまでもない。まんまと販売戦略に引っ掛かった駄女神である。
「おいおい、最近ただでさえ狭っ苦しいんだぞ。そんなに召喚して……」
「というか、そろそろ上限値が近いのでは……?」
バルトの不満を引き継いで、エレナが不穏な問を投げる。
レンの感覚で言っても、それは妥当な疑問である。異界人が増えたということは、それだけボックスの容量を圧迫しているということで、そして圧迫された結果と言えば。
果たして、ガブリエルは告げた。
「……実は今、許容量を超えている」
「え゛……」
衝撃の事実に、レンの口から苦い声が漏れた。
それはつまり――
「ということは……合成か……」
「「あんのガチャ廃神!」」
エドモンドの深いため息と、バルトとエレナの罵倒が重なる。
――つまり、近いうちに、また誰かが『餌』にされるということだ。
「いや……本当にすまない……だが、僕にはどうしようも……」
ガブリエルは申し訳なさそうにそう言うが、悪いのは間違いなくハイジである。
そんな彼に同情しつつ、レンは思う。
本当に、ハイジはずっと変わらない。得た石をガチャに突っ込んでは爆死し、有り余った異界人を合成素材に使う。まったく救いようがない。
だが、変わらないのは俺もいっしょだ。
そう、多少強くなりはしても、根っこは変わらない。相変わらず無口で不器用で、筋肉バカで。
そして、必死こいて生きようと足掻いている、一人の情けない少年である。
まあつまり、要約するとこうだ。
――俺はある日突然、異世界の神にガチャられたんだが。
「やっぱり、まだまだ……」
頑張らないと、餌にされるらしい。
――――END――――
これにて完結です。最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。後書き的なものを活動報告に書いていますので、よければご覧ください。
そして、告知です!
新連載やります! タイトルは、
『幽霊騎士は人知れず世界を救う~魔王を倒すまで逝けません!~』
です。異世界召喚でないハイファンタジーです。中身はタイトル通りです。あとヒロインが剣。
こちらの公開は来週! 12月28日(土)0時過ぎ! です!
是非是非、こちらもご一読いただければ幸いです。
それでは改めまして、ご愛読ありがとうございました。
できればまた新作でお会いしましょう。白井直生でした。




