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神にガチャられたんだが頑張らないと餌にされるらしい  作者: 白井直生
第四話 新しい仲間が来たがどうもアレらしい
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第四話5 ダンジョン攻略のお約束~序~

 結局、エドモンドを地面に転がしたまま、バルトの奮戦によってコウモリたちは一掃された。


「ブロンズバットなんざ雑魚だからな。普通にやれば無傷で勝てる」


 言いつつ、バルトは双剣に付いた血を振り払う。

 周囲には、茶色の巨大コウモリの死骸が八匹分。バルトによると『ブロンズバット』という魔物。茶色い毛で雑魚が『ブロンズ』なら、シルバーとかゴールドとかプラチナダイアモンドとか居るのかもしれない。


 そんな感想を浮かべながら死骸を眺めて――こういうのにも慣れたものだ――、ふと別の感想が浮かぶ。


「ずいぶん、丁寧に倒してますね……?」


 最初の奇襲で倒した二匹以外は、全て両翼を斬り落とされた上で胴体を一撃だ。

 何かこだわりでもあるような統一感のある倒した方に、レンは首を傾げる。


「ああ、それは――」

「ネルのため、ですにゃ!」


 答えようとしたバルトをネルが要領を得ない答で遮り、レンはますます首を傾げる。


「さっき説明したとおり、ネルの魔法は触媒が必要なのですー。大概の魔物は触媒に適した部位があって、ブロンズバットの場合は翼と牙なんですにゃ」

「ああ、それで……」


 補足を聞いて改めて死骸を見れば、翼は根元から綺麗に切断され、止めの一撃は胴体なので牙も十全の状態。


「素晴らしい戦果なのです、バルトさん! 素材がザクザク、嬉しいにゃー」


 死にたてホヤホヤの死骸から躊躇無く素材を回収し、ホクホク顔のネル。中々にショッキングな光景だが、嬉しそうだし可愛いのでよしとしよう。


 それに、素材収集とは何ともクエストらしいではないか。敵を倒して消耗品を補充しつつ進む、というのもダンジョンらしくて良い。

 レンも思わずホクホク顔だったが――


「いや、悪かったな。最初の二匹は無駄にしちまった」


 口を開いたバルトの言葉に、耳を疑った。

 そもそも、バルトがこんなに丁寧な戦いをすること自体が珍しいというのに、その上謝罪すらしてみせたのだ。あのバルトがだ。今すぐ地震が起きて洞窟が崩落しても驚かない。


 戦いが始まって普段のバルトに戻ったと思いきや、またもやこの異常、いやもう怪奇現象である。素直なバルトなんて、饒舌なレンくらいあり得ない。


「いえいえ、十分ですにゃ。それよりも、早くエドさんを治療して先に進むのですー!」


 しかしネルは、全く驚いた様子も無くそう返事をする。

 そして言うが早いか、袖口をゴソゴソやりながらうつ伏せに倒れるエドモンドに歩み寄って跪いた。

 彼女は取り出した小さな木の葉を傷口に置くと、そこに指先を当てて一言、


「『ヒール』」


 味も素っ気も無い呪文を唱え、魔法を発動した。

 だが効果の方は劇的だ。木の葉が淡い緑色の光を放ったかと思えば、焼け焦げた傷口に溶けるように染み込んでいく。


 次の瞬間には、赤黒く焼けた肌は真っ白になっていた。どれだけ目を凝らしても、そこに酷い火傷があったとは思えない。


「おはようございますにゃ」

「ん……ああ、ネルが治してくれたのか。助かった」

「どういたしましてですー!」


 ネルの呼びかけに答えるように、エドモンドはすぐに目を覚ました。

 彼は今まで気絶していたとは思えないテキパキした動きで起き上がり、パンパンと体を払って身なりを整える。


「あの……すみませんでした……」


 レンの謝罪の声に、エドモンドが振り返る。

 本来はバルト一人でも余裕の相手だったのに、レンのせいでエドモンドが傷を負う羽目になったのだ。足手纏いもいいところで、レンとしては平謝りの一手しかない。


「構わんさ、不幸な事故だ。こうして傷も治っているし、次から気を付ければいい。謝るならむしろ、ネルに謝っておけ。魔力と触媒を消費させたんだから」

「すみませんでした……」


 対するエドモンドは鷹揚だったが、その言葉にはもう従う他ない。

 レンはすぐにネルの方に向き直ると、深々と頭を下げた。


 傍から見たら、幼女に全力で謝罪する厳ついオッサン。センスある人がアテレコすれば、とんでもない現場になりそうだ。


「これくらい誤差の範囲内なのです! それよりも、エドさんの服に穴が開いちゃったにゃ」

「ん、確かに」


 ネルもまた気軽に答えつつ、エドモンドの方を覗き込んだ。

 言われたエドモンドが身を捩ると、服の背中のど真ん中に大きな穴が開いている。


「あ……」

「おいおい、俺を何だと思ってるんだ?」


 これも自分のせいだ、とレンが申し訳なさそうな顔をしていると、エドモンドは苦笑して自分の肩の辺りに手を触れる。

 そして彼がボソボソと囁くと、服の繊維がおもむろに動き出す。


 数秒もすると、穴は塞がっていた。

 遠目には、穴が開いていたとは分からない出来映えだ。


「これでも錬金術師なのでね。服を直すくらいは朝飯前だ――もっとも、若干生地がうすくなってしまったが」


 縮こまるレンの肩をポンッと叩き、エドモンドはスタスタと歩き出す。

 「気にするな」という微笑を浮かべる彼に、レンもぎこちなく笑みを返す。


「――さあ、時間も惜しいしすぐ出発だ。先は長いからな」


 エドモンドの言葉に従い、五人は洞窟の奥へと歩き出した。


*************


 その後、数度の戦闘がありながらも、五人は順調に歩みを進めていた――順調なのは歩みだけだったが。


「ここも行き止まりか……」

「ですにゃー」


 順調に歩いても、その先が目的地へと続いているとは限らない。洞窟らしくと言おうかダンジョンらしくと言おうか、道はぐねぐねと複雑に絡まり合っている。

 三度目となる行き止まりにぶち当たり、数人分のため息が洞窟に静かに響いた。


 ――ただし、レンだけは元気だった。


(これぞダンジョン探索の醍醐味……!)


 ゲームの世界では、迷ってこその洞窟、全ルート踏破してこそのダンジョンだ。溢れ出る『それっぽさ』に、レンは一人だけ嬉々として行き止まりの壁に近付く。


「おいレン、何をしているんだ?」

「あ、いえ……」


 エドモンドに怪訝な声で訊ねられるが、レンは生返事をして壁を触りながら繁々と眺める。

 ダンジョンの行き止まりと言えば何かしらの仕掛けや宝箱があると相場は決まっているが、流石にそんなことはないのだろうか。


「あ」

「ん?」


 そんなことあった。

 レンの膝くらいの位置に、何やら小さい引っ掻き傷のような模様がある。


 しゃがみ込んで観察すると、それは魔方陣のようだった。

 サイズを除けばエレナが魔法を使うときに出るそれと似ている気もするが、魔方陣なんてどれも似たようなものかもしれない。


「これは――」


(もしや、隠し部屋への入り口……!)


 隠されているということは、お宝ザクザクの可能性もある。

 逸る気持ちを抑えながら、レンは魔方陣に向かって手を伸ばした。


「――! レン、やめ……」


 時既に遅し。

 エドモンドが警告を発した時にはもう、レンの指先が魔方陣に触れていた。


「!」


 次の瞬間、魔方陣から目も眩む閃光が解き放たれる。目がああああ。

 そして――


「……何も、起きない……?」


 光が消え去った後、しばらく身を固めていた五人。

 しかし目が慣れるまで待ってみても、壁に穴が開く訳でもなければ、宝箱が現れる訳でもなかった。

 ただ単に、目眩ましされるだけの悪戯だったのだろうか。


「……いや」


 だが、エドモンドが何かに気付いたように声を上げた。


「この音は……」


 そして、レンも気が付いた。レンたちの足下、そこから何やら音が聞こえるのだ。

 腹に響くような低い音と、小さな生き物が鳴いているようなか細い音。


「……! 全員、ここから――!」


 時既に遅し。二回目。

 それ・・に気が付いたときには、五人はとっくに逃げる術を失っていた。


 音は大きさを増し、体を揺さぶる振動へと変わる。ガクン、と大きな一波に襲われ、全員が体勢を崩した。

 倒れかけたレンは咄嗟に地面に手を着いて、そして目撃する。

 手を着いた洞窟の床、それが大きくひび割れるのを。

 ヒビは無情にその身を広げ、一息にその口を大きく開いた。

 

 即ち――洞窟の床が、崩落した。


「うわっ!」

「おぉっ!」

「にゃっ!」


 各々に叫び声を上げながら、レンたちは為す術無く崩落に巻き込まれる。


(これは……罠だ!)


 そうだね。

 今更過ぎる、そして分かりきった事実を頭に過らせながら、レンの体は暗闇の中へと吸い込まれていった。

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