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神にガチャられたんだが頑張らないと餌にされるらしい  作者: 白井直生
第三話 女神に呼び出されたんだがよくあることらしい
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第三話7 ボックスの休日・エレナの場合②

 ハイジの部屋へと向かう、エレナの足取りは軽やかだった。しかしそれは、ハイジに呼び出されたからではなく。


「ふふふ、ガブリエル様。お会いするのは随分久しぶりな気がするな」


 エレナが敬愛してやまない、天使様に会えるからだ。『敬愛』と言いつつ、『敬』か『愛』かで言えば、間違いなく『愛』の比率が高い。

 というか有り体に言って、エレナはガブリエルに惚れていた。


「ハイジ様、エレナです!」


 一応呼びかけだけはハイジの名を口にし、しかし内心ではガブリエルのことしか頭にないエレナである。彼女は返事も待たず、勢いよく木製の重い扉を押し開けた。

 そして、喜びに胸を躍らせながら部屋に入った、彼女を待っていたのは――


「隙あり!!」

「ひゃうっ」


 荒々しく、かつ繊細に乳房を揉みしだき、その胸を物理的に躍らせる下品な掌だった。

 その手はエレナの胸の柔らかさを余すところなく感じ取ろうと、滑らか過ぎる動きで指を順番に曲げ伸ばししている。


「あ゛ーマジ至福。この吸い付くような柔らかさ、それでいて確かに感じられる重量感とハリ。人を狂わせる魔性の魅力だわー」

「お前は元々狂ってるだろ!」


 下品な手の人、略して下手人であるハイジの痴れ言に、エレナは順当過ぎるツッコミを入れた。いや、人ではないか。

 しかしそんなことは意にも介さず、ハイジのまさぐる手は速度を増すばかり。


「この……いい加減に……!」

「もう、ハイジ様。エレナが嫌がっているでしょう」

「! ガ……」


 その手を振りほどくべく暴れようとしたエレナだったが、制止に入った声を聞くと逆に勢いを失ってしまった。

 声の方を向き、意中の人、ガブリエルと目が合ったからだ。


 好きな人の前でしおらしくしてしまうのは、乙女の常というものだ。実はとっくに本性バレバレなのだが、エレナは気が付いていない。


「ガブリエル様……い、イヤ……み、見ないでぇー!」


 だから上手く抵抗できず、ハイジの拘束から逃れられなかった。


 好きな人に、自分が辱められている姿を見られたい乙女など居るだろうか。いや居ない。

 恥と羞恥と恥辱から、エレナは顔を真っ赤にし、視線を避けようと身を捩る。


「なあにぃ? イヤよイヤよも好きのうちってヤツぅ? もしかして見られてる方がいいの? この欲しがりさんめ。口ではイヤイヤ言っても、ほらぁ。――体は、正直だぜ……?」


 しかしそこは流石の外道ハイジ、恥じらう乙女は大好物。そして無駄なイケボ。

 赤面するエレナにハアハアと息を荒げながら、自身も上気した顔で更に激しく絡みつく。エレナは逃げられない!


「くっ……は、ぁっ! もう、やめて……ぇっ!」


 ますます激しくなる指先の動きに、エレナの息も乱れだす。

 この辺りで、見ていたレンが鼻血を吹いて倒れた。


「これぞ眼福だな。実に興味深い」

「でしょー? ほら、存分に堪能して。ま、私が一番堪能してるんだけど!」


 レンを差し置いて誰よりも鑑賞を楽しんでいるエドモンドは、悠長にそんな台詞を吐く。そしてそれに答える間も、ハイジの手は一向に止まらない。


 ――お前ら、後で殺す。

 息も絶え絶えで言えない恨み言を、せめて視線に乗せてぶつけやすいところにぶつけた。この場合は目の前のエドモンドに。


「やめてくれエレナ、そんな視線で見られると我慢できなくなってしまう。チーム内でそういうのはマズいだろう」


 しかし彼はどこ吹く風、どころか気持ち悪いことを宣った。何故この視線を受けてそうなるのだろう。ちょっとレベルが高すぎる。


「もっとも、君がどうしてもと言うなら……やぶさかではないがね」

「ないがね」


 そして続いた世迷い言と共に、彼は右手をハイジと完全にシンクロさせた。


 滑らか過ぎるその動きに、エレナはかくりと力を失った。


*************


 結局、ハイジが満足いくまで、エレナはされるがままとなった。ざっと十五分。


「まったく……程々にしてくださいよハイジ様」

「えー? じゃれてるだけよ、ねーエレナたん?」


 ガブリエルが苦言を呈するが、エレナが何も言えないのをいいことに、ハイジは好き勝手なことを言っている。

 何故何も言えないかと言えば、それは横たわったままシクシクと涙しているからに他ならない。


 ――もう、お嫁に行けない……!


 普段から時折こういう目に遭わされるエレナだが、ハイジと二人なら抵抗できるし早々に終わる。それでも一分は粘られるが。

 しかし今日は珍しくガブリエルも居たため、歴代一、二を争うくらい好き放題されてしまった訳である。

 それはもう、泣くしかないというものだ。


「思いっきり泣いてるでしょうが。もう、ほらエレナ。大変だったな」


 そんなエレナを慰めようと、ガブリエルはエレナの近くに座り込むと、その頭を優しく撫でた。

 こうかはばつくんだ。


 瞬時に泣き止んだ上にニヤニヤが止まらないエレナだが、折角なのでそのまま泣いたフリを継続してこの状態を堪能する。既に頭の中は空っぽ、髪の毛に触れる掌の感触を全力で楽しんでいた。

 とても単純なエレナである。


 やがてガブリエルはエレナが落ち着いたと見たのか、仕上げにポンポンと軽く頭を叩いた後、ハイジの後ろに控える位置に戻った。

 その手を名残惜しく感じながら、エレナは仕方なしに起き上がる。


「気にしすぎだろう、減るものでもないだろうに。レンもだぞ」

「ホントそれな!」

「ふざけるな駄女神と変態錬金術師!」


 と、エドモンドとハイジが再びいけしゃあしゃあとそう吐かして、エレナは反射的に噛み付いてしまう。

 ちなみにレンは復活していたが、文句を言う前にエレナが全て代弁していた。


「――様? 人の気持ちも思い遣ってくださると、ありがたいんですが?」


 ――危ない危ない、ガブリエル様も居るんだった。

 と咄嗟に丁寧な言葉を差し込むエレナだったが、当然意味は無い。上手く取り繕えていると思っているのは彼女だけである。


 それはさておき、二人には是非反省してもらいたいところであるが――


「いや実際、二人とも良いものを持っているんだからもっと誇っていいと思うんだが」

「そうそう。レンもこの肉体は相当鍛えないと作れないし、エレナたんは本当に最高の乳、天上の至宝。この乳を育んだエルフィニーナ、マジパネぇ! パピルス様に感謝!」


 やはりブレない二人である。エドモンドは大真面目な顔で、ハイジは気持ち悪いニヤケ面で、それぞれに二人を褒めちぎる。

 横でレンが若干嬉しそうにしている気配がするが、エレナは別に嬉しくない。彼と違って努力して手に入れたものではないし、エルフィニーナに居たときから下衆い視線に晒されてきたので。


「だからね?」

「力を持つ人間は、それを世界のために使う義務があると思わないか?」


 そんなエレナの思いを他所に、ハイジが、流れるようにエドモンドが言葉を続ける。

 「……つまり?」とエレナが聞き返せば、


「「揉ませろ」」


 二人の声が、綺麗に揃って返ってきた。

 全くブレねぇな、こいつら。よろしい、ならば戦争だ。


「大地に宿りし火の精霊よ……」

「わー、ストップストップ!」


 エレナが怒りを込めた詠唱を開始すると、そこでようやくハイジに焦りが見られた。いい気味だ。

 そろそろ謝罪の一つでも入るかと思ったエレナだが、しかしそれは甘い考えだった。


「ここではやめて! 『世界コンソール』壊すと石で新しくしなきゃいけないんだから!」

「我にしばし力を貸したまえ!」

「イヤー!!」


 どこまでも自分本位な言葉を口にするハイジに、エレナは意を決して詠唱を続ける。

 ――決めた。今決めた。この部屋を焼き尽くして、この駄女神を打ち倒す……! それこそが、力を世界のために使うということに違いない。


「二人とも、いい加減にしなさい」

「「いたっ!」」


 と、そこでガブリエルが二人の間に入り、制止の言葉を掛けながら二人ともにデコピンをした。


「エレナ、気持ちは分かるけれど抑えてくれ。それに……」


 そしてエレナに優しく語りかけながら、しかしそこでハイジを見遣り――


「『馬鹿に付ける薬はない』と言うからね……何をしても無駄だよ……」


 そう言って、盛大なため息を吐いた。

 もとよりガブリエルに止められた段階で何もできないエレナだが、そのため息に彼の苦労が滲み出ていて、掛ける言葉すら思い付かない。


「ハイジ様も、せめて謝るくらいはしてください。そんなことだから、いつまでも駄女神とかガチャ廃神とか言われるんですよ」

「ねぇ、だから酷くない? 泣いちゃうよ?」

「いいから謝る!」

「うぅー……」


 泣いてしまえ。とエレナは反射的に心の中で叫んだ。

 真正面からの説教や悪口には弱いハイジである。それで何かが改善される気配は一向にないが。


 ガブリエルが有無を言わさずハイジを押しやり、彼女はエレナの前に進み出る。凹んでいる様子はしおらしくて、見た目だけなら大変に庇護欲を掻き立てられる可哀想な美女だ。全然可哀想ではないけど。

 やがてハイジが口を開き――


「ごめんなさい……次からは程々にするね……」

「「「「いや、やめんかい」」」」


 全員から、綺麗にツッコミが入った。

 ちなみにハイジが言っていた『パピルス』とはエルフィニーナの神様です。いつか登場する……かもしれません。

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