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ヘンアイ

ヘンアイ!

作者: ネイブ

『変愛』は造語です。今回は『変愛』がテーマです。・・・愛愛に見えるとか云ってはいけません。




あたしは『飴』が好きだ。

 

そりゃ、お菓子の飴も好きだ。でも別に、チョコとかアイスとかも同じくらい好きなワケで。

寧ろあたしとしてはゼリーの方が好きなワケで。


うん。なんで、気付かないんだろう。


「柚麻ー(ゆま)、まだー? ……本当に初詣行く気ある? 」

「うううるさいな! あ、あるに決まってるでしょ!! 」


あたしの目の前にいるのは『飴乃辰也』(あめの たつや)。幼馴染みの、すっごくイイヤツ。因みにあたしは彼の名字から取って『飴っち』と呼んでいる。

飴っちは、にっこり笑った顔がかっこかわいくて、癒し系と大評判だ。ひょろっとした見た目(文化系って云われても納得してしまうよーな感じ)に反して力も強くて、柔道黒帯。勿論、柔道部に入っている。

彼は他の柔道部みたいにがっちりむきむき筋肉マンってワケでもない。だけど、先月あった『学年別腕相撲大会』で学年3位だし。頭も悪くない。

そして今学校で出回ってる『学年何でもランキング』(新聞部発行)で【親切部門】1位になるほど、優しい、イイヤツなのだ。


そんな彼は、モテるワケで……【彼氏にしたい部門】2位なのです(1位は某タラシ君がダントツでかっさらっていってしまった)。

まぁ【不思議な人部門(男子の部】と【天然な人部門(男子の部)】でも、ぶっちぎりの1位だったワケだけれど。


んでもって、何故か、こんなすっごくモテる幼馴染みに、この前いきなり『ベロチュー』かまされまし、た……。


因みに、あたし達は付き合っているのではなくて、序でに云うと、あたしは彼に片思い中、なのだ。

勿論、そんな事されて平常心で居られるハズもなく、あたしはアイツの顔すら見る事が出来ない状態だったり、する。

なのになのにっコヤツは普通の顔で普通に接しおってからに、あたしのこの緊張はどうしたらいいのー?!


「柚麻? どうしたの、風邪でも引いた? 」

「べべべべべ、べつに! い、いつもどどどうり、だし、です! 」

「……えっと、僕はこの場合、えぇ、違うだし、です! って返すべきなのかな? 」


知るかそんな事ー!


右斜め上で困った様に笑う彼を見て、あたしは思わず拳を握ってフルフル震えてしまった。

なんでこんなに天然なのこの人は……! な、なんか涙が出そうになってきた……。


「あーもう!飴っち(あめっち)はちゃんと5円玉持ってきてるっ?」

怒りにまかせて叫ぶと口元に黒い手袋が出現して、あたしの口を覆った。


「多分みんな起きてるだろうけど、一応夜中だから、静かに。ね? 」


彼はにっこり笑って、あたしの口元を覆っていたモノ()をはずし「シーッ」とお決まりのポーズをしてきた。 あたしはボンッと音が聞こえそうな勢いで頭に血が上ったのを自覚した。


あたしが意識しすぎなのかも知れない。だけど、だけどそんな事されると、『この前の事』思い出しちゃうでしょこの天然タラシー!


ワーンと声を上げて泣きたい心境だけど、勿論できるワケがな(流石にそっちの方が恥ずかしい)。

あたしは目を逸らして飴玉を口の中に投げ込む。 因みに今日はブルーベリー味。きっと目が良くなる(別に悪くないけど)。


あたしは飴ばっかり食べてる。 一応自覚はある(と云うか、意識してやってる)。

そんなあたしに付いた称号は『飴狂(あめぐるい)』『飴教教祖』『飴偏愛者』。……四文字熟語かと思ったけど、まぁ別に良いんだ。うん、普通に好きだし。


でも、あたしは別に飴を『偏愛』しているワケではない。

普通に好きではあるけれど。あたしが大好きなのは『飴』だ。


ちらっと気付かれない様に『飴っち』の方を見る。彼は彼で白い息を吐き出しながら携帯を弄っていた。 あたしが飴を舐めている間、飴っちは絶対、自分からは話しかけてこない。対抗意識らしいけど、なんか可愛い。


あたしが『飴』が好きなワケ、何時気付いてくれるかな。

こんな感じじゃ、当分気付いてくれなさそうだけど。


あたしが飴好きを公言しているのは、云いたい気持ちを上手く云えないから。 『飴っち』と向かい合うと何時も自分の恥ずかしさから逃げてしまって何も云えなくなってしまう。 それで何時も落ち込んで、面と向かって自分の気持ちを云えない自分が惨めで、情けなくって、だから「飴が好きだ」って云って自分の気持ちを隠しながらだけど伝える。

多分、あたしの飴への愛は『偏愛』じゃなくて『変愛』だと思う。愛って、なんか大袈裟だけど、きっと、そんな感じ。


小さくなってきた『変愛』の象徴を舌の上に感じながら、あたしは新たに決意する。

取り敢えず、この前の事は記憶から消去……は、しないけど(だって、だってファーストキスなんだもん! )今は自然に、いつも通り、飴っちと接しよう。 うん。

うんうん肯きながら夜道を歩いていると「手袋……」と彼が呟いた。


「手袋、なんでしてこなかったの?」

「うっ……いや、その、えっと……忘れ、まし、た…………」


精神的にいっぱいいっぱいで、マフラーは直前で思い出したけれど手袋は忘れてしまった。 なんだか指摘されると少し恥ずかしくて、ちょっと誤魔化そうかな。 と思ったけれど、素直に云う。

どうせ彼にはバレちゃうんだし。 こう云う事にはなーんか鋭いんだよね……。 過去の経験から肯垂れながら云う。 うぅ、他人に指摘されるとやっぱり恥ずかしいっ。

すると、上から何とも云えないジットリとした視線が降ってきた。


「な、何? 」

「いや……手袋忘れるくせに『飴』は絶っっ対に忘れないな。と思って」


ちょっとつっけんどんに云って『飴っち』は溜息を吐いた。 確かに小さい頃さんざんからかったけど、そんなに嫌わなくても良いんじゃないかな。 とも、罪悪感に苛まれながら思う。

幼少期にさんざん「共食い」と囃し立て、靴の中に大量の飴玉を入れた前科持ちとしては耳に痛い限りだ(でもそれだって、恋心を自覚する前の「構って構って攻撃」なのだけれど)。

因みに、なんでちゃっかり飴は持って来ているのかというと、実はこのコートのポケットに何時でも常備してあるから忘れる事がないだけだ。 けれども、そこに関しては黙秘にしておこう。 なんか、余計不機嫌になりそうだし。


「良いでしょ別に。好きなんだから」

「…………………………」


プイッとそっぽを向いて答える。 右斜め上(本当に無駄におっきくなっちゃって、さ! )からは無言、無反応という辛いコンボが返ってきた。

それを感じながら、あたしは自分のかわいげの無さに切なくなってきた。


あたしも、彼をあからさまに狙ってくる女の子達みたいに、見せかけでも良いから可愛い反応できないもんかなぁ……。 でもあたしがやると似合わないしなぁ……。


キラキラお目々になっがい睫。

小さくて整った顔のパーツ。 細くて折れそうなのに、出るトコ出てるモデル体型……駄目だ。

思い出せば思い出すほど敗北感が募ってきた私は思わず俯く。

一人で悶々としていると、右手が何かに包まれた。


「へ? 」


自分の右手を見てみると、消えていた。いや、イリュージョン!とかではなくて、確かに元からコートのポケットの中に入れてたから目には見えていたわけではなかったけど。

けど! そう云う事は重要じゃなくて、その、あたしのコートの中にも、あたしの手が無くなっている、ワケで。

で、先を辿ると、ななんとなんと、飴っちのポケットの中に、飴っちの左手と共に消えている、ワケで。


「! にゅ、むぅっ……! 」

「はいはい、叫ばない叫ばない」


飴っちは苦笑しながら右手に持った何やら黒い物体であたしの口を塞いでいる。

その手には、何故か左手の手袋。口元に押さえつけられた黒い手袋を左手で受け取る。


「これ、安物だからさ、そんなに温かいワケじゃないけど。 ないよりかはましでしょ」

「え? な、なななんでっ付けてないの?! 」

「そりゃ、手を繋ぐ為に僕の手から取ったから」


さも当然の様に云うなバカー!


自分の顔が真っ赤な事ぐらい、ちゃんと自覚ができてる。「ハハハ」 っと爽やかに笑った隣の男は、とても楽しそうで。あたしは「もう!」としか云えなかった。


……そりゃ勿論、付けるけど。


一回右手を離してもらってから、あたしのサイズよりも明らかに大きな黒い手袋を左手に嵌めた。

そのブカブカな、飴っちの温度のする温かな手袋をしげしげと眺めてからあたしは不覚にも(というか、思わず)呟いた。



「……指輪だったら、良かったのになぁ」

「欲しいんなら、買いに行く? 明日。 新春バーゲンもやってるし」


左手ってところで結婚指輪を連想してしまい、思わず呟いたそれがアイツの耳に入ってしまった(そりゃま隣にいるんだから当然だけども!)。 「いい! 全然いいから!! 」と必死で取り消しておく。

 …………本当は確信犯だったり……しないよね。 解ってます……。

溜息を吐いて自分の妄想を打ち消す。本当に、期待してしまいそうになる、自分が嫌だ。


彼の中での私はまったく変わらずに『幼馴染』なのだ。もう幼稚園児の頃よりも前からその認識は変わっていない。

悪友。親友。幼馴染。もしくはきょーだい。

コイツラを足して4で割ったぐらいで丁度云い表わせるような距離感。

近いようで、手を伸ばすと実は遠くて思わず引っ込めてしまう。最近は富に、そんな感じ。


「柚麻」

「なに? 飴っち」

「僕の名前、覚えてる? 」

「……そりゃ覚えてるけど」

「柚麻はさ『飴』好きだよね」

「…………好き、だよ?」


『飴』を飴に、変えてでしか、云えない。やっぱり、これって変なのかな? まぁ答えはYesなわけだけれど。それぐらい自覚しているんだけど。

でも、だってあたしには好きなんて伝える勇気はなくて、でも、でもずっと前からどうしようもなく、好きで、どうしても云いたくて。 でも云うことなんかできなくて、何時も手を伸ばそうとした状態のまま固まってしまうのだ。


だから歪んだ形で、愛を伝える。


本当に、変なの。『変愛者』に相応しいよ。

自嘲気味に苦笑する。


「今更何ー? あたしが飴大好きなのなんて、今更でしょ? 」

「……僕、さ。 柚麻の中で、いつか、飴にも勝てる様な存在になるから。 だから、それまで待ってて」

「……えぇっ? 」

「先約って、事で。 いつかちゃんと、僕の名前、呼ばせてみせるから」


なんつー殺し文句だ。 とまた真っ赤になって、今度は足まで止まってしまった。

そんなあたしを見下ろして月みたいに笑う彼が、本当に大好きで。


我慢できなかったあたしは直ぐに「辰也! 」って叫んでしがみついたんだけどそうしたら「近所迷惑! 」と怒られてしまった。

でも彼も耳まで真っ赤だったから、あたしの『偏愛』は『愛』に『変化』しそうです。


因みにそんな風にじゃれている間に年が明けてしまいました。

そんなあたし達の大晦日でした。





ヘンアイシリーズ終了です。いや今のところですけど。寧ろ連載にした方が良かったかなとも思いますが、これはこれで。


改稿(2010/7/4)

右手と左手をごちゃごちゃさせすぎました;;

お恥ずかしい…。多分もう間違っていないはず…!


ではお付き合い下さいました皆様、ありがとうございました!


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