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ホラー

紅葉狩り テイク2

作者: 山目 広介

 山の空は澄んでいるという。

 実際に山の空は平地での空とは違っていた。

 空色が、水色、シアン色とかではなく、もっと深い群青というのか蒼穹というのか、がこんな感じなのかという感慨深いものを心に湧き起こさせる空だった。





 激しい物音で叩き起こされる。


「40秒で支度しな」


 いや、それが言いたかっただけだろうな。

 紅葉狩りに行くという話を聞いた。

 しかも今日、今から行くのだという。朝五時。人を起こすのは非常識だと思われる時刻。

 男の着替えなんてそんなに時間が掛かるものではない。

 準備も要らないという。

 何故か車に乗せられてドナドナされるような気分でいた。

 早朝で他人の車なのをいいことに夢現で、気付くと山だった。


 もっと山奥へ向かうようで、その間に朝食をとおにぎりが渡される。

 お茶で流し込みながら、山の景色を眺めていた。

 平地と違い紅葉(こうよう)が一足早い秋を感じさせる。


 おっさん二人が物々しい格好で山に分け入っていく。

 その間、木の横に大きく土を掘って穴を開けろという指示を受けた。

 スコップまである。

 紅葉狩りだからといって穴一杯にモミジを集めるわけではないよな……


 指示された穴は思った以上に重労働だった。何の為かも分からず、気が滅入る。

 それで車の中で休憩していた。働いたのは僕だけではない。誘った友人もくたばっていた。

 そんなとき、轟音が鳴り響く。

 思ったより近くで発生した、たぶん銃声。

 猟銃の音だ。なぜ断言できるのか。それは出掛けたおっさんが持っていたからだ、猟銃を。


 いったいモミジ狩りって何を狩っているのか。

 寝ぼけていたとはいえ、物騒すぎると今更ながらに思い至った。

 モミジは子供の手に似ている、とか言ってホラーな展開はないよな。

 真っ赤に染まる血の池とか。苦手だから嫌なんだが。


 ……


 予感が半分的中していた。

 掘った穴が血の池と化している。

 木に吊るして血抜きをしているのは鹿だった。

 噎せ返る血の匂いで気分が悪くなる。


 眠っていたようで、気付くといい匂いが漂ってきた。

 血の匂いで戻してしまったから、お腹が空いているのか。

 車から出ると何か鍋を作っているようだった。


「もみじ鍋だ。喰え」


 取り皿を受け取り、中身を食べる。

 肉だった。

 普通に美味しい。肉は柔らかく臭みもなくて旨く感じる。

 煮る前の見た目がかなり赤かったから最初は怯んだ。が空腹には敵わなかった。

 しかしモミジが入っているようには見えない。

 どこがもみじ鍋なんだろう、という疑問は訊ねる前に鍋が無くなったのだった。

 たぶんこの肉が先ほどの鹿ということは予想がついた。

 普段、肉を食べるということを理解はしていた。つもりだった。

 死を見ないという恩恵がこれほどだとは思わなかった。

 生きていた状態を見たわけではないのに。



 鹿肉にはもみじという別名があり、もみじ鍋として鍋物に利用されていたらしい。これは花札の10月(花が紅葉)の種札(10点札)が鹿であることから出たものだとか。




 いろいろ考えさせられた。




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