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はぐるま絡みて  作者: 柏木砂陽
物流の街、ボルク
3/7

仕事

高温多湿の倉庫の中、せっせと物を運ぶロット。運んだものは車に乗せられ、国中に出荷される。


「そういえば、副業のことなんだけどさ」


ロットの耳にゲゼルの声が飛び込んで来た。


「今度、大きな取引があるんだ。そこで、仲介を頼みたいんだけど。問題ないよな?」


ハンスとロット、そしてゲゼルは副業で、たまに外国から渡ってくる「きな臭いもの」の取引の仲介人をしている。


「いいけど……報酬は弾むんだろうな」

「ああ。たしか……500ジンだ」

「500?」


ロットは手に持っていた木箱を地べたに起き、不服そうに言う。


「それは、ちょっと安すぎねえか?ここで、一ヶ月コツコツ働けば、600ジンは稼げるぜ」

「うるせえな、それに近い額が一晩で稼げるんだから安いもんだろ」

「それにしても、もうちょい高くしてくれもいいだろ。最初はもっと高かったじゃねえか」

「最近は、国の規制が厳しくなって取引の回数自体が減ってんだよ。贅沢言うな。報酬の交渉ならボスにしてくれよ。俺に言ったって時間の無駄だぜ」


ぶつぶつと文句を言いながら作業に戻るロット。しかし、あることを思い出して、またゲゼルに声をかけた。


「なあ、ゲゼル」

「なんだよ、しつこいなあ」


また同じ話題か、とうんざりした様子で応答するゲゼル。


「いや、別件でさ。おたくのボス、丁度俺くらいのガキに銃を売らなかったか?」


ゲゼルは笑った。


「急にどうしたんだよ。うちのボスは年端もいかねえ子供に銃なんか売りつけねえよ。死んでもな」


言ってる意味がわからないという様子のゲゼルに昨日の出来事を話す。ゲゼルはより一層腑に落ちないような表情になった。


「そいつは妙だな。うち以外にここらで武器を売りさばいてる連中なんていないはずだぜ。しかも、そんな飯も満足に食えねえようなガキが持ってたってことは相当低価格で売られたってことだ」

「とにかくさ、ボスに聞いておいてくれよ。俺も兄貴もおちおち安眠することもできない」


とは言うものの、先日は何事も無かったかのように眠っていたのだが。

この話題を筆頭にふたりはダラダラと雑談をしだした。時報爺の話から始まり、薬漬けの老婆デビーの話題に脱線し、早く大金を稼いで外の世界へ行きたいという話題に移ったところで、サボりをハンスに咎められた。


「おい、サボってんじゃないよ。親方にぶっ殺されたいのか?」


二人は笑い合い、それぞれの作業に戻る。いつのまにか、倉庫から三人以外の人々はいなくなっていた。もう昼休みの時間なのだ。


「室内って不便だよなあ。陽の光が見えないから時間が分かりづらいし」


ロットがぼやく。そして、時報爺の声が聞こえれば少しは違っただろうに、と付け足す。


続けざまにゲゼルが時報爺の真似をした。


「こぞう、もう昼だぞう」


それがあまりにも似ていたので、ロットが腹を抱えて笑う。それを見ていたハンスがあからさまに苛立っている様子だったので、くだらない雑談を切り上げた。


「そういえばさ」


ゲゼルはまたもや、話の種を植えようとする。ロットはそれ以上ハンスを待たせるのは気が進まなかったため、無視しようとする。気にせずゲゼルは続けた。


「おまえら、例の二人組に銃向けられていたんだよな。どうやってその場から逃げ出したんだよ」


血の気が失せるを感じた。「そりゃあ、おまえ……俺たちが操る魔法でコテンパンにしてやったのさ」なんて口が裂けても言えるはずもない。ロットは脳をフル回転させて、都合のいい筋書きを考える。だめだ。俺はこういうのは苦手なんだ。ああ、いっそ殴り倒して黙らせてしまおうか。


とかなんとか、物騒な考えを起こしているロットに救世主が現れる。ハンスだ。この気弱な兄は思わぬところで、ロットを助けてくれる。


「なあ、ゲゼル。悪いんだけど、なまものをエレベーターで地下の冷蔵室に運んでくれないか」

「はあ?」

「頼むよ、すっかり忘れてしまってさあ。おまえたちがだべってたの、親方には黙っておくからさ」


ゲゼルは黙る。そして、仕方がないという様子でため息をついた。


「わかったよ」

「悪いな。僕たちは残った仕事を片付ける。おまえは2、3箱運ぶだけだ。楽だろう?」


ハンスの指差す先には3箱ほどの木箱が積まれている。魚みたいな、なまものが入っているのだ。


ゲゼルがエレベーターのレバーを下げ、金網の扉が閉まる。ゲゼルの姿が奈落に消えるのを確認して、ロットが口を開いた。


「助かったよ」

「なあに、いいってことよ。さあ、誰もいないうちに終わらせよう」


ハンスとロットは皆より少し高い給与を受けていた。それは親方が彼らを「仕事が早くて、デキるやつ」だと思っているからだ。


それもそのはず。二人は誰も人がいない時を見計らって、その恵まれた能力を活かし、他者には真似できないような速度で仕事を終えてしまうからだ。


「俺はあのでかいのをやる。兄貴は残りをやってくれよ。俺は細かい作業は苦手なんだ」


ロットが運ぶ箱はひとつひとつが人ひとり分くらいの大きさがある。これを運ぶには台車を持ってきて行ったり来たりしなければならない。だが、ロットはそれを一回で終えることができる。


ロットは箱に掌をかざした。しばらくすると、箱が青い光に縁取られる。どっしりと砂埃を舞い散らせながら、箱が宙に浮いた。


その一連の作業をしている間に、ロットは荷物の三分の一くらいを車の荷台に移動させてしまった。兄貴は力仕事はてんでだめだが、魔法は上手いのだ。


ロットは魔族とは本来、人の目を避けて生きるべきものだと死別した両親、そしてハンスから言い聞かされてきた。魔族は地域によっては空想の産物として、忌むべきもの、あるいは鬼神の類のように考えられている。ゆえに、自分たちが魔族(と同様の能力を持ったもの)であることは絶対に他人に知られてはならないのだ。もっとも、ロットはコパウ属としての生活が染み付いてしまっているため、自身を「魔族の能力を持つコパウ属」だと考えいるのだが。


自身が魔族であると知られること。それはすなわち、そのまま死を表す。


だから、ロットは箱の後ろに現れた人影に反射的、かつ本能的に拳を振るっていた。

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