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はぐるま絡みて  作者: 柏木砂陽
物流の街、ボルク
1/7

プロローグ

物流の街、ボルク。丁度海に面しているこの街は世界中から物が集まるこの国の物流の心臓部のひとつです。ボルクは街の性質上、手に職にありつける可能性が高く、国中から若者が出稼ぎにきています。また、両親を亡くし、半ばスラムと化した若者がたくさん定住しているというのも、この街の特徴のひとつです。路頭に迷った子供たちを安い賃金で雇い、過酷な労働を強いるのが、この街で商いをする者の通例でした。


人目を避け、連なる建造物の間を掻い潜り、大きな荷物を運ぶ二人の少年、ハンスとロットもそんなスラムの一人。ハンスとロットはふたつ違いの兄弟です。兄のハンスは、お調子者ですが頭の回転の早い兄弟の司令塔。弟のロットは、硬派で喧嘩っ早い兄弟の番犬。ふたりは互いの欠点を補完し合い、生活を営む、良き相棒同士でした。


「おい、おまえ達」


路地裏を駆け抜ける二人の前に大柄な少年が立ち塞がります。慌てて、来た道を戻ろうとしましたが、時すでに遅し。もう一人の大柄な少年に退路を塞がれてしまいました。


「やあ、僕たちに何か用かな」


ハンスが出来るだけ相手を刺激しないよう、穏やかな口調で言います。正面にいる方の少年が意地悪な笑みを浮かべて、ふたりに近付き言いました。


「いやね、ちょっと俺達におまえ達の荷物の中身を見せて欲しいんだ」


ロットは笑いました。


「なにがどうして、あんたらに俺らの荷物を見せてやらなきゃならないのさ」


いかにも喧嘩を始めようという態度のロットを制し、ハンスは続けます。


「よせって。悪いね、弟が失礼な態度をとって。だが、僕も同意見だ。どうして、君たちに僕らの荷物を見せなきゃならない?別に変なものなんか持ち込んじゃいないよ」

「本当にそうか?」

「本当さ。誓ってやってもいい」


ハンスの言葉に、少年は凄みをきかせて言いました。背後の少年はただ立っているだけです。


「なら、見せてくれてもいいじゃないか」


ハンスは肩をすくめます。


「パンしか入ってないよ」

「構わないさ。さっさと見せろ」


ハンスは渋々といった様子で荷物を床に置きました。兄弟が持っていたのは人の頭ほどの何かが入った風呂敷。ハンスが固定部を解くと、一斤のパンが顔を出しました。


「ほら、パンしか入ってない」

「そういう問題じゃねえ!」


突然、少年は怒鳴り声をあげました。彼の怒号が辺りに反響します。じゃねえ……じゃねえ……。


「てめえら、妙にいい飯食ってるみてえじゃねえか。そのパンだって、どうやって手に入れた?」


負けじとロットも凄みをきかせて答えます。


「何も不思議なことも無えよ。盗んだだけさ」

「はあ?盗んだだあ?てめえ、馬鹿にするのも大概にしろよ」


少年は額に血管を浮かび上がらせて大きく怒りを露わにしました。


「そんな上等なパン、馬鹿正直に店先に並べている訳が無え。かと言って、だ。てめえらが、店の裏に回って盗んでこれるほど技術も度胸もあるとは思えねえ。つまり、てめえらは特にこれといった特別な手段を用いずに店頭でパンを買ったって訳だ。ちがうか?」

「豆粒みてえな脳みそしか無え癖に良く考えているじゃねえか。なかなか的を射ているよ。だがな、一体全体俺らのどこにそんな大金がある?」

「だから、それを聞いてるんだろうが」


少年は懐から黒くて大きな塊を取り出しました。それは遠目からでもわかるくらい確かな重厚感を持ち、不気味な光沢を放っています。それは銃でした。ボルクは物流の街。たまにそういう物も流れてくるので、二人にはわかるのです。


「参ったなあ」


ハンスは困ったような表情を浮かべました。まさか、こんな手段を用いてくるとは思わなかったからです。少年はほんの少し語調を緩くして、説得するような口調でいいました。


「なあに、おまえ達の働き口を俺たちに紹介してくれるだけでいいさ。そうすりゃあ、こっちだって強引な手段を取らないよ」


振り返ると、もう一人の少年もこちらに銃口を向けています。ロットは観念したように言いました。


「わかったよ。教えてやる。こうやるんだ」


次の瞬間、空気が激しく揺れ、少年の大きな体が2、3メートルほど吹っ飛びました。そして、少年は後頭部から地面に突っ込み、また2、3メートルほど地べたを滑りました。


「なにやってんだ、てめえ!」


背後の少年が始めて声を発します。突然の出来事にパニックを起こしている様子です。同時に、まるでパニックが伝染したかのように、ハンスが叫びました。


「ま、待って。落ち着いて!」


それもそのはず。少年の手には銃が握られているのです。何かの拍子に引き金を引かれ、鉛弾がこちらに飛んで来たらたまったものではありません。仕方なく、ハンスは同様の手段を用いて、もう一人の少年を無力化しました。


あべこべな光景でした。二人の大柄な少年が完全に無力化されているなか、全くもって力が無さそうな少年二人が無傷で立っているのです。



確かに、ハンスとロットは何の変哲も無いスラムの少年です。ただし、彼らの両親は魔族でした。


魔族は高い知能と想像力、そして超自然的な能力を持った種族です。ある者は火を操り、ある者は水を操り、草木を操り、大地を操り、他の種族とは比べものにならない技術を行使し、発展してきました。


そんな魔族と同じ能力も持つ彼らは、その能力を駆使し、他のスラムより少し豊かな生活を送っていたのでした。


太陽が連なる建造物の背後の隠れ、夜闇が顔を出しました。人々は今日1日の活動を終え、帰路につきます。他よりも多少裕福とはいえ、とくにこれといった希望や達成感の無い生活を送るハンスとロットでしたが、この能力ゆえに大きな運命に渦に巻き込まれることになろうとは、この時は知る由も無かったのです。

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