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7.【巫女】と『私』

一度、以前の話をリセットしました。

途中まで読んでくださった皆様、すみません。


 


「そう言えば樋口さん。気になってたんですが、その口調……会社だともうちょっと砕けた感じでしたけど、そっちが素ですよね?」

「……全く。貴女相手だと、下手に隠し事もできないわね」


 そうよ、と蘭子は苦笑を浮かべた。


 元々お嬢様口調が素の蘭子だが、さすがに会社という場においてもそのままの口調でいくと高圧的にとられるし、お嬢様だからと差別の対象になりかねないと危惧した結果、そこそこ地を残しながら砕けさせる、というように頑張って気をつけていたらしい。

 とはいえ感情的になってしまうと完全に素の口調が出てしまうため、分かる人にはわかるという程度には知られていたが。


「お蔭で少し弊害というか……口調が混ざってしまうの。だから、あまり気にしないでちょうだい」

「わかりました。というかこちらではむしろ、樋口さんくらいの口調の方が好印象になりそうですしね。私も真似した方が良いでしょうか?」

「…………」


 一瞬、蘭子は考えるような目になった。

 どうやら玲がお嬢様口調で話しているところを想像したらしく、彼女はどこかげんなりしたような顔になって「やめた方がいいわ」と言った。

 玲も自分で想像してみたらしく、「ですよね……」とがっくり項垂れる。



 とそこで、タイミングを見計らったかのようにマクスウェルが戻ってきた。

 手には紅茶の注がれたティーカップを持っている。


(不思議な人、ですね……命の恩人だということもありますが、どうにも警戒する気が起きません)


 それは由々しき問題ではあるのだが、とにかく玲は説明のどさくさで後回しになっていた礼を口にした。


「遅くなりましたがマクスウェル様、先程は命を救っていただきありがとうございました。本当にギリギリのタイミングだったそうで……もし貴方が動いてくださらなかったら、私も、それからもしかすると樋口さんも助からなかったかもしれません」

「そうですわね。あの『殿下』に逆らったのですもの、わたくしも処分されていたかもしれませんわ。不興を買ってまで助けてくださり、ありがとうございます」

「わかった、感謝は受ける。だからもうその堅苦しいのはやめてくれないかな。私はただ、魔族代表として人族代表のあの第二王子殿下に意見しただけだから。むしろ決断するのが遅すぎたと反省しているんだ。動こうと思えば、あんな若造くらい吹き飛ばして駆けつけることができたんだからね」


 あの場は、この召喚の主催国であるルシフェリア側が用意した【儀式の間】だった。

 そこで巫女召喚を行うにあたり、各国から集められた種族の代表者達が一同に集い、そして巫女召喚を行った。

 つまり互いの関係性は限りなく対等に近いのだが、マクスウェルの場合このルシフェリアの王城に勤務していることもあり、後々の付き合い方にも影響するからと諍いを避ける方向性で傍観していたのだという。

 だが召喚されてきたのは巫女を含む三人……誰がその巫女なのかわからない中、人族の責任者であるルシフェリアの第二王子が大暴走した挙げ句、まだ能力検査もしないうちからただ一人のみを贔屓し、他の二人を粗雑に扱ったことで我慢の限界を超えたらしい。


「本来、召喚されるのは巫女一人のはず。なのに今回喚ばれたのは三人……誰が巫女であるにせよ、異世界から喚びつけてしまったのはこちらの責任だから、ちゃんと国として責任は取ってもらえると思う。王子はアレだが、国王陛下は理性的な方だから安心していいよ」

「……物語やなにかだと、勝手についてきたんだから好きに生きていけ、って放り出されるパターンだったりしますが。さすがにそんなことしたら、国民には隠し通せても一緒に召喚した巫女の心情に影響しますよね。彼女(七瀬さん)がしっかり自立するか、この世界での拠り所を見つけるまでは生かしておく、ということでしょうか」

「…………君は本当に……見た目通りの年齢には思えないな」

「一体いくつに見えているのか知りませんが、私今年で二十三歳なんですけど」


 え、と素で驚いたような声が出たということは、彼もまた玲を実際年齢からかなり若く見積もっていたということだろう。

 いささかムッとしながらもいくつに見えたのかと尋ねると、彼はまだ呆然としながら「いや、成人はしているとは思ったんだが」と答えた。

 ちなみにこの世界、人族の成人年齢は各国共通の十五歳であるとのこと。

 つまり彼女は、十五、六歳程度に見られたということになる。


(もしここがラノベとかによくあるファンタジー世界なら、二十代なんて()き遅れなんて言われちゃいますかね?)


 そう思って言われる覚悟はしたが、マクスウェルはさすが年の功と言うべきかきちんと感情と理性の折り合いをつけた上で、「子供扱いしてすまなかった」と謝罪してくれた。

 決して高圧的な人物ばかりではないらしい、と玲はこの国に対する見方を少しだけ上方修正する。




「……君は……いや、君達は不思議だな。巫女が誰であるか、もうわかっているという顔だ」

「それはまぁ……ねぇ?」

「えぇ、そうですわね。消去法で考えるなら彼女しかおりませんわ」


 異世界の女性二人は顔を見合わせ、やや気まずそうにしながらもうんとひとつ頷く。


(光の神の力を借りたのは、異世界の穢れなき乙女ですよね……これで呼び出されたのがまだ第二次性徴前の少女だった、とかならわかりますけど……二十代の三人、ということだと意味合いが変わってくるんですよね。いつの時代も、神を呼び出す時は処女性が求められると言いますし)


 星璃が()()なのかどうか、正確なところは知らない。

 さすがにそんなセクハラめいた突っ込んだ話題は出したことがないし、現在彼氏がいないことは知っているが、その程度だ。

 だが三人の中で消去法で考えるなら ──── 少なくとも、玲は何人かとお付き合いした経験がある。

 その中の一人とは、清く正しいお付き合いの枠から若干外れていたので、『穢れなき乙女』には該当しないだろう。

 蘭子も頷いたということは、つまりそういうことだ。

 相手が京極だという可能性はさすがに低いが、いくら許嫁がいるとはいえ自分に振り向いてくれない相手ばかりを追い続ける義務はないはずだ。


(それに、お約束のパターンとしては純粋で健気な可愛い子がヒロインだったりするんですよね。そういう点から見ても七瀬さんの可能性が高いってことです)


 和風の巫女であれば蘭子でも似合うだろうが、ここは西洋風の世界でしかもラノベ的な展開が起こっているという。

 そういう場合、メインヒロインに選ばれるのは健気で前向き、ちょっと天然でドジっ子で涙脆い、そんな星璃のようなタイプが圧倒的に多い。

 蘭子もそう思っているのか、特に悔しそうにしているようには見えない。



「今頃、あちらはどうしてるでしょうか……」


 ふと、思う。

 星璃はあの第二王子に気に入られたようだが、もし巫女に処女性が求められるのならいくら彼が彼女を気に入ったところで、手を出すことはできなくなる。

 巫女の役目が各地の瘴気を浄化することだとして、それを成し遂げるまでにかかる期間は恐らく数年単位……だとするなら、現在婚活適齢期であろう第二王子がそれを待ち続けることが許されるのかどうか。

 そしてもし待つことが許されたとして、巫女の役目を終えた元巫女と一国の王子が婚姻することができるのか。

 話に聞く限りでは直情的で熱しやすいという印象の第二王子が、そんな先のことまで考えて発言しているのかどうか……そこが一番の気がかりではある。


「話がしたいと言っていたのだもの、今頃おおいに盛り上がっているに違いないわ。お前が巫女に違いない!とか言ってね。それで本当にあの子が巫女だったら、さも自分の手柄のように自慢するでしょうね」

「あ、あはは……樋口さん()、その第二王子殿下のこと嫌いなんですねぇ」

「何言ってるの。『も』ってことは貴女もでしょ」

「はぁ。まぁ否定はしませんが」

「こらこら君達。一応ここに、王城に務めているが故に身分を気にしなきゃいけない哀しき木っ端役人がいることを忘れないように」


 口ではそう言いながらも、彼は二人の不敬発言を咎めることはしない。

 つまりはそういうことなのだ。


「さて、その能力検査だけど……よかったら、ここでやっていくかい?」

「いいんですか?」

「うん。二人共彼女が巫女だという確証が欲しいだろうし、それに多分殿下なら待ちきれずに検査させていると思うよ。君達の想像通りなら、自分の手柄として自慢したいがためにね」


 と、これを否定できずに二人が苦笑いしているうちに、マクスウェルは立ち上がって奥の部屋へと消えていく。

 そうしてゴソゴソとなにかを探していたようだったが、二人が紅茶を飲み終わる頃になってようやくA4サイズのプレートのようなものを手に戻ってきた。


「これは簡易版の能力検査を行う魔道具でね、【スキャニングボード】という」

「スキャニング」

「ボード」


 これは、と二人は顔を見合わせる。


「もしかして、この魔道具とやらは私達のように異世界から来た人が発明したか、命名したかですか?」

「そうだよ。確か先代の巫女が、こういう能力検査の道具があってもいいんじゃないかって言い出して……発明のヒントを貰えたからって、名付けをお願いしたんだと聞いてる。君達の世界にもこういうものがあるのかな?」

「こういった便利グッズではないですが。ネーミング自体はよく使われる言葉ですから」

「なるほどね」


 それじゃ早速やってみようか、とマクスウェルに促され、まず最初に蘭子が、次に玲がその【スキャニングボード】の上に手を置いてみることになった。




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