れべる いち 異世界に現れた勇者という存在。
この世界は電気や機械がなく明かりを灯すなら松明や蝋燭。そして移動手段も徒歩、馬車などといったものしかなく不便とも言っていいくらいの文明が栄えている。
世界の大きさは地球ほどだが大陸続きで島国は小さなものが五つくらいしかない。この世界に住む者は人間だけでなく獣人、天使、妖精、竜人、海人などそれに各種族同士の婚姻によるハーフだったりクォーター、それらの種族を餌として狙うのが魔獣や魔人といったモンスターと呼ばれる者。
しかし、人間だけはどこからかの世界から転移させられて来ると言う。だが共通点があるとすれば言語を喋れる者は同じ言語で魔法と呼ばれるモノもまた人間を含めモンスターも皆使える。
レインという村がある。人口は三万人くらいで村というにはかなりの人がいるが食料などの問題により他の村や町とは違い調達しなければあと数日で村人が餓死してしまうといった危機に面していた。
その日は一日暖かくモンスターも活発になるが人間にとっても食料を調達するには絶好の日だった。ここ数日雨で道がぬかるみ数十キロ先の王国まで辿り着けない状況だったのだ。
この村に一人の戦士がいる。人間は転移してきた日から自分の職業を決めなければならない。戦士となりモンスターと戦う者、戦士のパートナーとして魔法使いになる者、村を治める者など色々な職業の中から選ばなければならない。すぐに決める者もいれば色々と試してみてきめる者もいる。
そしてこのレインという村の戦士の一人である高槻 美玲は一年前にこの世界に来た人間である。
この村の村長に良くしてもらい恩義からこの村で戦士として働いている。
「ほんと、雨が降ると毎回こうなっちゃうのは嫌になるね。」と呟く。
「まあまあ仕方ないよ。早く王国に行って食料を調達しないと!」と美玲の隣にいるのは魔法使いで美玲のパーティーのメンバーである鳥川 豪太、眼鏡を掛けており名前とは裏腹に気が弱いことを気にしている。
美玲と豪太は王国に向かい歩き出す。王国で食料を馬車に積み元来た道を戻る途中で草原に倒れている人間を見つける。
「あれって飛ばされてきた人じゃない?」と美玲。
「そうみたいだね。助けないと!」と豪太は馬車を置き走りよる。
「大丈夫ですか?」と倒れている人間に声をかける。
「ん…うーん…」と唸りながら上半身を起こす。
辺りを見回して自分が置かれている状況が飲み込めないのか豪太に問いかける。
「ここは?」
「ここはアースと呼ばれる世界ですよ。あなたは元いた世界から転移させられてこの世界に来てしまったんです。」と説明をする。
「は?意味が分からん…」と呟く。
「まあ最初は皆そうよ。とりあえずここは危ないから村まで行きましょう。」と馬車を牽きながら美玲が後ろから声をかける。
「えっ…ああ、そうだな。」と倒れていた人間は起き上がり二人に付いていく。
二人は貯蔵庫に食料を置き倒れていた人間にこの世界のことを教えてあげようとごはん屋に向かう。
「しかし、何かゲームみたいだな。」と倒れていた人間は呟く。
「うーん。あながち間違ってはないわ。」と美玲は答える。
「とりあえずここでご飯にしましょう。話すことが沢山あるからちゃんとついてきてよね。」と美玲はごはん屋に入る。
「気の強そうな女だな。大変だなお前も。」と豪太を見て言う。
「まあ実際戦士としてはこの村一番ですし何より綺麗なんでライバルは多いんですよ。」と豪太は溜息をつく。
「ふーん。強くて綺麗な女戦士ねぇ…」と呟き店に入る。
三人は食事を済ませ倒れていた人間が口を開く。
「で、あんたらの名前は?」と聞く。
「私は高槻 美玲。こっちが鳥川 豪太。あなたは?」と聞き返す。
「俺は神奈 勇真だ。よろしくな。早速、この世界についての説明をしてくれ。元の世界に帰らないと…」と勇真は言う。
「元の世界に帰る方法は今のところないわよ。この世界はゲームのRPGみたいになってるの。私達もモンスターも皆レベルがありちゃんと魔王もいるわ。」
「は?ゲームの世界に来ちまったのか!?」と驚く。
「簡単に言うとそんな感じなんですがコンテニューはないので死んだら終わりですよ。それに寝たら怪我が治るとかそんなこともないです。ちゃんと病院に入るなり治療を受けるなりしないと治りませんし病気もあります。魔法もありますが回復魔法は表面的な傷しか治せませんから。」と豪太が説明をする。
「マジか…魔王って強いの?そいつ倒したら普通はクリアだろう?」と聞く。
「それが魔王は十人以上いて魔王塔と呼ばれるダンジョンでフロア毎にボスとしているのよ。それにまだ一人の魔王も倒せてないわ。戦士としては早く魔王を倒してこの世界に平和を取り戻さないといけないと思ってる。」と美玲。
「魔王塔?タワーみたいなのか?人間とモンスターがいるのは分かった。他にはいるのか?」と疑問ばかりをぶつける。
「魔王塔はタワー型のダンジョンね。そもそもそこまで行くのに戦士はレベルを上げて鍛えているのよ。大半が着く前に撤退か殲滅することになるみたいだけど…種族は人間以外にもいるわ。妖精とか天使とか獣人とか色々ね。魔獣と魔人はモンスターに分類されるのよ。」と説明する。
「魔人のトップが魔王ということか…なるほどねぇ…俺はどうすればいいんだ?モンスターに連れ去られて奴隷になるとか?」と勇真は質問する。
「何よ、そんなゲームみたいなの。とりあえず職業を決めてお金を稼いで生きていくしかないわ。結婚も出来るし子どもも作れる。元の世界に帰れないからここで死ぬことも覚悟しないと。」と美玲。
「元の世界に帰りたいんだがな…」と勇真は困ったように頬を掻く。
「元の世界のことはほとんど覚えてないはずよ。何でそこまで帰りたがるの?」と美玲。
「確かに親の顔も兄弟の顔も友達の顔すら覚えてないしいたのかも分からない。だが、ここに俺がいるということは向こうには俺がいきなり居なくなったってことだ。それに…」と黙りこむ。
「それに何よ?」と美玲は問う。
「エロ本がどうなったのか気になるんだ。覚えてはないが年齢を考えるとそれなりなことはしてたはずだ。となればオカズが何かしらある。それを何とかしないと…」と力説していたのだが美玲に殴られる。
「ば、馬鹿なの?恐らくだけど私達が消えても元の世界では何事もないようになるだけよ!それに理由が卑猥過ぎるわよ!」と言いもう一度殴る。
「ちょっ…二発はやりすぎだ!男ならその心配がまず先にくるに決まってるだろう!自分の性癖がバレるかもしれないんだぞ!」と美玲に向かい叫ぶ。
「この一年で何人かの人間を助けて見てきたけどあなたが一番帰りたい理由が不浄よ!」と言い返す。
「親なんぞ記憶がない今考えても仕方ないだろうが!なら、心配すべきはシモの問題だ!死活問題だ!」と勇真も負けず声を張る。
「二人共!ここは食事処なので外に出ましょう!」と豪太は焦りながら二人を止める。
「そ、それもそうね。とりあえず出なさい!」と言い会計を済ませる。
「で、あなたはどうするの?」と美玲は気を取り直して勇真に質問をする。
「そうだなぁ~。職業を決めないと駄目みたいだからなぁ~。どうせならモンスターと戦いたいよな!レベルみたいのあるんだろ?ステータスは?」と逆に質問する。
「ステータスはあるわよ。攻撃力、防御力、魔法攻撃力、魔法防御力、素早さ、HP、MPの七つね。ステータスは自分のとパーティーメンバーのはいつでも見れるから。まあステータスが高くても体力作りとか筋力を鍛えてないとバテるからきちんと鍛えてないとレベルだけ上げても意味無いのよ。」と美玲は説明する。
「体力作りはしとけと。他に何か注意することあるか?」と勇真は聞く。
「まああとはちゃんと自分に合うかどうかだけど…ああ、それとゲームと違ってモンスターも知能があるからね。ターン制とかじゃないから気をつけないと駄目よ。」と付け足す。
「レベルとステータスと魔法以外はちゃんと生き物として対処しろということか…」と腕を組み理解をする。
「じゃあ、行くわ。」と二人に告げて村を出ようとする。
「はぁ?どこに行くのよ!あなた、お金とか持ってないでしょ!」と美玲は怒る。
「ん?モンスターからドロップするんじゃないのか?」と聞く。
「それは合ってるけどいきなりモンスターと戦おうなんて無謀よ!」と叫ぶ。
「まあどうせ来ちまった世界なら楽しもうぜ?」と笑う。
「あなたねぇ…」とため息をついてしまう。
「ハハッ。じゃあ世話になったな。またどこかで会ったらよろしくな!」と告げて勇真は村を出て歩いていった。
「変な人だったね。いきなりこの世界に来てあそこまでポジティブな人も居ないと思うけど。」と豪太は美玲に向かい言う。
「そうね。下手したら発狂するとかいう人もいたのにあの人はたった一時間程度で自分の置かれた状況を理解してやることを見つけるなんて馬鹿か鈍感かのどっちかよ!」と何故か怒りだす。
「えっ…今のは褒めるタイミングだよ!?」と豪太は焦る。
「あんな馬鹿すぐに戻ってくるか死んでおしまいよ!」と言い自分の家へ戻っていく。
それから勇真の姿を美玲が見ることになるのは二年の歳月が経った王国にある店の中だった。
「リーダーさん。これ以上は値引き出来ませんよ…」と道具屋の店主であろう人が美玲に対して断りを言う。
勇真が美玲と別れを告げてから美玲は王国にあるギルドからスカウトを受けて魔王討伐隊の三番隊のリーダーになっていた。
「だからあと50円ほど安くしなさいよ!」と美玲は迫る。
「おいおい。店主も生活があるんだそれくらいにしといてやれよ。」と美玲は後ろから声を掛けられる。
「分かったわよ!これでいいわ!」と言いお金を払うと後ろを向く。美玲は驚いた顔をして後ろにいた男を指差す。
「何だ?人に指差すなんてパパとママに怒られるぞ?」と答える。
「勇真じゃない!?あなた生きてたの!?」と美玲は叫ぶ。
「ん?ああ、高槻さんか。久しぶりだな。あれから何年経った?」と勇真は尋ねる。
「二年よ。あなたどこのギルドにいたのよ?」と勇真に聞く。
「まあここじゃなんだしどっかお茶でもするか?」と勇真。
「それもそうね。カフェに行きましょう。」と美玲。
それから二人は道具屋を出てメインストリートにあるカフェに寄る。
「で、あなたどこのギルドに入ったのよ?」と改めて聞く。
「いや、それがあの後迷子になってさぁ。今日ここについたんだ。」と笑う。
「…はぁ?あなたはほんとに馬鹿なの!?」と驚く。
「失礼なやつだな。大変だったんだぞ?モンスター倒して動物追いかけ回してその日暮らしをして毎日真っ直ぐ走り続けてやっとここまで来たんだからな!」と言い切る。
「はぁ~。ここまでくると言葉が出ないわ…」と呆れた様子でため息をつく。
「何か偉そうになったな。ギルドってやつに入ったのか?」と勇真は聞く。
「偉そうは一言多いわよ!まあスカウトされて今三番隊のリーダーしてるの。まあ五人程度の小隊だけど。」と答える。
「ふーん。二年も経つとなかなか変わってるもんだな。さてとそろそろ俺は行くよ。」と勇真は席を立つ。ポケットからお金を出し美玲に渡す。
「これは二年前にお世話になったお礼だ。奢るよ。」と言いまた歩いてどこかに行ってしまった。
「あっ…ちょっと!」と声を出すが勇真は人混みに消えていった。
「私の隊に入れようと思ったのに…もう!」と美玲は少し怒る。
「今のは誰なんです?」と美玲は後ろから声を掛けられる。
「ん?ああ、リュウガ君。あれは前に助けた人よ。まあ馬鹿だけど。さあ会議始めるわよ!」とリュウガと呼ばれた竜人族の男に声を掛け自分達のギルドに向かう。
美玲達がギルドに着くとギルド長が声を掛けてくる。
「やあ、美玲君。リュウガ君。そろそろ西の方角にある魔王の直属の手下のダンジョンをクリアしようと思うだが来るかね?」と尋ねてくる。
「はい!是非お供します!」と美玲は返事をする。
「自分もついて行きます!」とリュウガ。
「よろしい。明日、一番隊と君達の三番隊で西のダンジョンへ向かってくれ。」とギルド長は言うと自分の部屋へ入っていった。
「ついに西のボスを倒す日が来たのね!」と美玲はやる気に満ちている。
「これで魔王も痛手になると思いますよ!西は鉄などの鉱山地帯なのでそこを落とせれば状況が変わるかと。」とリュウガ。
***********
次の日、一番隊のリーダーで今回の任務の総大将を務めるカズマ・サイクレールは隊員と三番隊の人に声を掛ける。
「本日は西の砦を攻め落とす!命は捨てるな!皆、生きて勝利を掴み取るのだ!」と激を飛ばす。
場の空気が高揚し全員やる気に満ちる。それから半日を掛けて西の砦に辿り着く。
西の砦は十階建ての砦になっており今までも幾度となく攻略をしようと挑んでは撤退を繰り返してきた。今回は満を持してやってきた絶好の機会で砦のボスはいるのだがダンジョンモンスターが通常より少なくなっているとの情報を得てクリアする為に王国ギルドより一番隊と三番隊が赴いたという次第である。
扉の前に立つ一行。カズマは扉に手を掛ける。
「よし!行くぞ!気を引き締めろ!」と叫ぶと扉を開ける。
扉を開けるとそこにはモンスター達が待っていた。
「そんな!?情報ではこんなに居ないはずじゃ!?」と美玲は焦る。
「罠か…退け!戻って報告だ!」と振り返ると後ろにもモンスターが回り込んでいた。
「クッ…全員生き残るために戦え!」とカズマは叫ぶ。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。隊員達はバラバラになり美玲は砦の中に入り他に出口がないか一人で調べていた。
「まずいことになったわね。レベル的にはすぐに皆死んでしまうとは思えないけど数が多すぎる。でも誰がこんな情報を?」と美玲は考える。
そもそも王国のギルドにはそういった嘘の情報も沢山入ってくる。きちんと裏付けが取れないとギルド長もこんな無謀なことをしない筈だ。ということはギルドの中に裏切り者がいる?美玲はそこまで考えると頭を振る。まさかギルドに裏切り者がいるなんて、しかも王国のギルドだ。こんなことをするメリットがない。
美玲は闇雲に進んでしまった為、自分が何階にいるのかもましてや帰り道すらも分からなくなってしまっていた。食料庫を見つけ中に入り休憩をする。
「どうしよう。進む道も戻る道も分からない。」と美玲は勇真のことを思い出す。あの馬鹿は迷っても真っ直ぐ進んできたと言ってた。自分も進もう、どうせならボスの顔も拝んで死んでやろうと気合いを入れる。
「こんなことになるなんて彼氏くらい作っとけば良かったわ…」とぼやき立ち上がる。そして扉から出て前へ進む。モンスターと戦いながら先へと進めると大きな扉が目の前に現れた。
「これはボス部屋?他の人は来てるわけないよね。」と辺りを見渡すがいる筈もなくため息をつく。
「まさかほんとに辿り着くなんて思ってもみなかったし顔を見て逃げよう。」と美玲は扉に手を掛けゆっくりと開ける。重そうな音を上げて扉が開く。
「誰もいないのかしら?」と美玲は少し足を踏み入れると扉が閉まる。
「しまった!?」と焦るが遅かった。扉は閉まりボスが部屋の奥から現れる。
「ようこそ。私の名はミノーと言います。美人な戦士ですね。私の妻になるなら生かしてあげますよ。」と丁寧な言葉で喋りかけてくる美玲はボスを見る。頭には二つ角が生えており牙もあり爪は鋭く尖っていて服はボロボロで体は紫色をしている。背は高く一発でも攻撃を受けたら瀕死のダメージになることが読み取れた。
「お断りよ!」と手から火属性の魔法を放つ。
ミノーは虫を払うと同じように左手で弾く。
後ろの扉が開く音がする。リュウガとカズマが部屋に入ってきた。
「美玲さん!大丈夫ですか!?」とリュウガが声を掛ける。
「ここまでよく来たわね。」と返事をするが安堵の表情をする。
「これがボスか。殲滅するぞ!」とカズマは叫び三人は飛びかかる。
「うるさい蝿共が!」と呟くとミノーの周りから魔力が噴き出る。その魔力で美玲達は吹き飛ばされ扉の前まで戻された。
「クッ…攻撃出来ない。」とリュウガ。
「連携を取りましょう!」と美玲は言いフォーメーションを変える。
リュウガが前に立ち美玲とカズマは横並びでリュウガの後ろに立つ。
「行きます!」とリュウガが叫び走り出す。
ミノーは三人を見据え手に魔力を込める。
「ダークレーザー!」と声を出し右手から美玲達に向かいレーザーが放たれる。
リュウガはそれを弾こうと武器に魔力を込めて当てる。相殺することは出来たがリュウガはHPが少なくなり怪我を負ってしまった。
美玲とカズマは相殺された瞬間に走り出しミノーに一太刀入れる。一太刀入れた隙をカズマはミノーに殴られ嫌な音が左腕から聞こえ扉に激突した。美玲はミノーの左手から放たれたダークレーザーを受け後ろへ飛ばされる。
「美玲さん…大丈夫ですか…?」とリュウガは体を引き摺りながら美玲に近付く。
「ええ、咄嗟にガードしたけどもうHPが…」と防御してもそれを上回る攻撃力でHPが削られたみたいで動けそうもない。カズマもヨロヨロと美玲の元へ左腕を押さえながら近付く。
「どうにか俺が時間を稼ぐ。お前達だけでも逃げろ!」とカズマは言う。
「あなたも一緒に逃げないと意味がありません!」と美玲は反抗する。
「このままでは全滅だ。次に繋げるためにもお前達を逃がす。」とカズマは言いきる。
「美玲さん…」と言いリュウガは美玲の腕を掴むと無理やり扉まで引っ張る。
「駄目よ!私達だけ助かるなんて!」とリュウガを引き離そうとするが力が入らずリュウガの手を解けない。
「ボスの属性も分かったんです。ここはカズマさんに任せて俺達は退くべきです。」と言い扉に手を掛けたその時扉が開いた。
「お邪魔します。ボスはいますか?ぶっ飛ばしに来ました。」と男が入ってきた。
「あなたは勇真!?」と美玲は驚く。
「お前はこの前美玲さんと話してたやつ!」とリュウガも叫ぶ。
「ん?高槻さんじゃん!ピンチっぽいな。あとは俺に任せろ!」と言い美玲の頭を撫でる。
「あなたどうやってここまで…」と言うと勇真の後ろから日の光が差している。
「ボス部屋ってのは最上階なのが常だ。ショートカットだ!」と後ろを指差して言う。壁に穴が空いている。
「無茶苦茶じゃない!ボスは強いのよ!あなたレベルは?」と聞く。
「俺か?俺のレベルは1だ!」と自信満々で答える。
「はぁ?あなた馬鹿なの!?この二年何をしてたのよ!?」と呆れたように叫ぶ。
「まあ見てなって。」と美玲の目を見て言う。中に入っていきカズマに声を掛ける。
「よっしゃ。そこの人怪我してるんだろう?変わるぜ!」と言いカズマも限界だったのか後ろへ下がる。
美玲の近くにより息を切らしながら問いかける。
「あの男は?」と美玲に向かい聞く。
「知り合いではあるけどレベル1みたいです。」と気まずそうに答える。
「なっ!?最近来た人間か?」とカズマ。
「いえ、二年前からです。レベルが上がってない方がおかしいですよね。誰でも職業にあったレベルがあるはずなんですが…」と答える。
「お前は?」とミノーは聞く。
「俺か?俺は勇者だ!」と言い青い装飾のされた服を見せる。背中には赤いマントがありどこかのゲームの勇者を彷彿とさせる。
「勇者か…」とミノーは呟くと声を出し笑う。
「そんな笑うことないだろ?この世界はゲームみたいなもんだからな。中二病が再発したわ!」と勇真は叫ぶ。
「ふん!面白いな。少し本気を出してやろう。」とミノーは言い魔力を込めて肉体強化をした体で勇真を殴る。ミノーの右手は勇真の左頬に当たるが体が仰け反っただけで吹き飛ばない。
「…それだけか?」と勇真は左頬を掻き欠伸をする。
「蚊の方がまだマシだな。」と言いミノーの前へ素早く移動し鳩尾を思いっきり殴る。
ミノーは後方へ吹き飛ばされ壁へ激突する。
美玲達は驚いていた。今まで魔人の肉体強化をした体に殴られた者は後ろへ吹き飛ばされるか魔力の差により殴られた箇所が破裂するなど怪我をした筈だ。でも勇真は吹き飛ばされることも破裂など怪我を負うこともなくあまつさえ反撃してみせたのだ。美玲達は理解が出来なかった、レベル1と言っていた男が出来ることなのかと。
「ガハッ…やるではないか…我のパンチに耐え反撃までしてくるとは。ならば全力でいかせてもらう!」とミノーは言い魔力を解放する。部屋の壁や地面に亀裂が入るほどのオーラを放つ。
「それがお前の全力か?楽しませてくれよ。」と勇真は余裕があるのか両手を下げたまま棒立ちしている。
「お待ちかね。100%だ!行くぞ!」とミノーは叫ぶと姿が消える。それを見た勇真も姿を消す。美玲達は勇真とミノーの姿が見えてない。殴りあっているのか衝撃音だけが部屋に響いている。すると天井が壊れ空にミノーの姿が現れる。息を切らしており口からは血が出ている。
「お、お前は何者だ!この数百年お前のような者は居なかったはずだ!」とミノーは空から部屋に向かい叫ぶ。美玲達にも勇真の姿が見える。部屋の真ん中で空いた天井を見上げミノーを見据えている。
「ふん…さっき言っただろう?俺は勇者だ。どうやらお前らモンスターとの戦いがクリアの鍵みたいだからな。とりあえずぶっ飛ばす!」と叫びミノーの目の前に現れる。
「なっ!?お前飛べるのか!?」とミノーは驚く。今まで妖精や天使などといった羽や翼を持っている種族しか飛ぶことは出来なかった筈だ。人間であるこいつが飛べるわけない。とミノーは驚愕している。
「何度言わせる気だ?勇者なんだ。このくらい出来て当然だ。そして俺の友達を傷付けた罪は死より重い!」と叫ぶ。右手に魔力が集まる。ミノーを含め美玲達も驚く。今までどの種族も魔力というものはある程度決まっていた。それを軽く凌駕するくらいの魔力が勇真の右手に集まっている。
「や、やめろ!?」とミノーは命の危機に思わず背を向け逃げようとする。
「遠くに行っても無駄だぞ?喰らえ!必殺!勇者の証明!」と叫び勇真は目の前の空間を思いっきり殴る。すると、凄まじい衝撃音が響きミノーに向かい魔力の塊の様なものがビーム状に飛んでいく。
「そ、そんな!?」とミノーは驚いたが時すでに遅し、体が勇真の魔力でボロボロと破壊されていく。
「お前のようなやつがいたとは…くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」と雄叫びを上げ絶命した。
それを見届けると勇真はボス部屋へ降りてくる。
「大丈夫か?」と三人に声を掛ける。
三人は開いた口が塞がらないのかパクパクとしている。
「あ、あなた何者なのよ!?空飛んでるし魔力多すぎるしレベル1だし!?」と美玲はやっとのことで声を出すと勇真に問いかける。
「ん?高槻さん聞いてなかったの?俺は勇者だよ?」と答える。
「説明になってないわよ!しかもあの技は何よ!魔法じゃないでしょ!?」とまた質問する。
「いや、MPは減るぞ。一応、分類的には魔法だ。あれは勇者の証明という俺の必殺技だ!かっこいいだろう?ネーミングセンスはないがな。」と言うと笑う。
「はぁ…」とため息を漏らす。
「とりあえず助かった。王国に戻り報告しなくては…」とカズマは言うと勇真はどこかへ行こうとする。
「ちょっ!?ちょっと!?どこに行くのよ!」と美玲は勇真を引き止める。
「えっ?俺はギルドとか関係ないから次の砦潰そうかと…」と勇真は不思議そうに答える。
「あなたも来なさい!」と言い勇真の手を掴む。
「やだ…感じちゃう…」と呟きビクビクと体を震わせる。
「なっ!?手を握っただけでしょう!変な気を起こさないでよ!」と美玲は顔を赤くし叫ぶ。勇真は美玲に向かい少し屈むと上目遣いをして一言告げる。
「や、優しく…してね?」とモジモジしている勇真は美玲に殴り飛ばされた。
「この変態が!もういいわ!」と部屋から出ていった。勇真の隣にリュウガが来る。
「あの美玲さんがここまでなるなんてやりますね。」とリュウガは勇真に言う。
「ん?君は竜人かい?どれ回復してやろう。」と言うとリュウガに回復魔法を掛ける。ついでにとカズマの怪我も治す。
「よし!これで帰りは大丈夫だろ!」と笑顔で話す。
「ありがとう。君もとりあえずは来てくれ。」とカズマは勇真に言う。
「行かなきゃダメか?」と断ろうとすると美玲が部屋に入ってきてまた手を掴む。
「いいから来なさい!」と言い部屋から出る。
「初めてだから…優しく…」と言いかけると殴られる。
「黙ってついてきなさい!」と手を引き王国へ戻る。
ギルドに戻り報告をする。ギルド長はチラリと勇真を見る。
「君がボスを倒したのか?」と一通り話を聞いたギルド長が問いかける。
「まあそうだけど…何か都合悪いことでもあるの?」と勇真は聞き返す。
「いや、そういうわけではないのだが今まで誰も成し得なかったことだからね。」と答える。
「ふーん。まあ俺次行くから!」と手を挙げ返事をする。
「待ちなさい!あなたギルドに入りなさいよ!」と美玲は勇真の手を掴み引き止める。
「そんな…激し…」と言いかけると美玲が殴る。
「イテェな!毎回殴るなと昔言っただろう!」と勇真。
「あなたが変なこと言うからでしょ!」と美玲。
「思ったことを感じたことを言ってるだけだろ!」と反論。
「それが問題なのよ!いつもいつも訳の分からないことばっかり言ってるからよ!」と口論を始める。
「二人共落ち着きたまえ。夫婦の喧嘩は後でやりなさい。勇真君はギルドに入らないのか?」とギルド長は聞く。
「ギルド長!?こんなやつと夫婦なんて!?」と何故か顔を赤くして固まる。
「うーん。今のところは考えてないな。俺はソロプレイヤーなのさ…」とどこかで聞いたことあるよなセリフを言う。
「まあ入りたくなったら言いなさい。歓迎するよ。」と言い自分の部屋に戻る。
「おい!高槻さん?固まってないで行こうぜ?」と勇真は美玲に話しかける。美玲はハッとして勇真の後を追う。
二人は街に出て無言で歩いている。美玲は勇真の後ろ姿を見て何か考え事をしている。
「そうだ。飯食って行くか?」と振り返り美玲に聞く。
「え?ああ、いいわよ。」と返事をして食事処へ足を運ぶ。少し歩いて食事処に入り席に着く。
「何をさっきから考えているんだよ。」と勇真が聞く。
「どうしてあんなに強いのよ。一人でボス倒すとかありえないでしょ。」とお冷を飲みながら勇真に問いかける。
「そうなのか?まあ俺は勇者だから強いんだよ。」と答える。
「そもそも勇者って何よ?」と聞く。
「ん?ステータスの職業のところに書いてあったぞ?」と答える。
「は?そんな職業ないわよ。戦士とか農家とか医者とかよ。」と言う。
「うーん。」と言い勇真の目の前にウィンドウが開きメニューをいじっている。ステータス画面を美玲に見せる。
「は?ほんとに勇者ってなってる…レベルも1なんだ…えっ!?」とある画面を見て固まる。
「どうした?おっ、ご飯きたぞ。」と言いいただきますと手を合わせる。
「高槻さん?ご飯冷めるよ?」と美玲に声を掛ける。
「ちょっと!?何でカンストしてるの!?」と声をやっと出す。
「まあ落ち着けよ。飯食ったら説明するから。」と食事を促す。
「分かったわよ。ちゃんと説明しなさいよ。」と言い食事を始める。
少し無言の時間が流れ食事を終える。一息ついて美玲が口を開く。
「で、どういうことよ。」と聞く。
「ああ、あの別れた後さ。とりあえず色々と職業見てみたんだよ。まあ実際レベル上げてステータスの上がり方とかを確認してたんだ。最初は狩人をやろうとレベル上げ頑張ってたんだよ。職業によってステータスが違うとは聞いてなかったからな。」と一息つく。
「そういえば、それは言ってなかったわね。」と申し訳なさそうに答える。
「で、狩人のレベル上げて魔法とか覚えて楽しんでたわけよ。狩人って弓の熟練度とかあるじゃん?あと素早さとHPとMPは共通だけど他が変わるから色々確かめて戦士をやろうとアイコン探したんだけど無くてさ。んで、最後のところに勇者ってやつが出てきたんだ。それ選ぶと他のが選べなくなってステータス画面見たらカンストしてたんだよ。しかも格闘にスキルが極振りしてやんの。武器持つと壊れるんだぜ?面白いだろ?」と美玲に話す。
「そうだったの。こんなこと初めてだと思うんだけど…レベルは上がらないの?」と聞く。
「いやそれがさ、経験値は勇者選んだ時からカウントされてるんだけど上がらないんだよ。勇者は経験値テーブルがおかしいみたいだからな。まあ逆に考えてみるとこれはカンストじゃないんだろ。まだ上があるってことだし。」とお茶を飲みながら気楽に答える。
「何か気楽ね。」と美玲もお茶を飲みながら喋る。
「だから楽しもうぜ?」と笑顔になる。
「はぁ…何か必死になってるこっちの身にもなりなさいよ。」と美玲はため息をつく。
「ハハッ。まあ悩んでも仕方ないだろう?」と笑う。
「あなたはこれから次の砦に向かうの?」と尋ねる。
「うーん。そうしようと思う。どうせなら俺がどこまでいけるか試したいし。」と答える。
「魔王塔まで行くつもりなの?」と聞く。
「ああ、世界各地の砦をまずは潰すけどな。」
「いきなりは行かないのね。」
「まずは手下のボスからクリアするのがゲームだろ?経験値稼いでレベルを上げてラスボスに挑むのがセオリーだ。」
「そうだけどさ…一人で行くの?」
「まあ一人の方が楽だし、それに夜は特に処理しなきゃいけない問題もあるからな。」
「夜に?」と不思議そうな顔をする。
「女の子は知らなくていいんだよ。」と優しく言う。
「気になるけど…まあいいわ。あとあなた何歳よ?」
「俺は今年で20歳だな。高槻さんは?」
「私も20歳よ。あと苗字で呼ばなくてもいいわよ。」
「じゃあ、美玲さん?」
「同い年なんだからさん付けもしなくていい。」
「おけ、美玲な。じゃあ俺のことも名前でってすでに呼ばれてたな。積極的だな。」
「違う!別に深い意味があるわけじゃないから!」とテーブルを叩く。
「落ち着けよ。じょーだんだよ、冗談。」
「あなたといると調子が狂うわ。」とお茶を飲む。
「そうなのか?美玲が綺麗だからさ。だからつい言いたくなるのさ。」と言うと美玲は盛大にお茶を吹き出す。
「おまっ!きたねぇな!」と布巾でテーブルを拭く。
美玲はむせて咳き込んでいる。
「ゴホッゴホッ…あなたねぇ、変なこと言わないでと言ったでしょ!」
「事実を言ったまでだ。」
「えっ…」と言い固まると顔を赤くする。
「どうした?言い慣れてないのか?近づき難い空気出してるんじゃないのか?」と尋ねる。
「そんなことないわよ!」と怒る。
「何かいつも怒ってるイメージだしな。」
「…多分、そんなことないわよ…」
「まあもうちょい柔らかくしてみろよ。」
「分かった…」
「無理だな。」と美玲に告げる。
「…」と無言になる。
「おい!無言はやめろよ!俺がいじめてるみたいだろ!」と勇真が叫ぶ。
「ちょっとだけ気にしてたのよ!」と言い返してくる。
「それはマジですまん!そんな悩んでるとは思ってなかったわ!」とすぐに謝る。
「もういいわよ!」と言い立ち上がる。
「ここは俺が奢るわ。マジですまんかった。」と言い会計をする。
店を出て少し歩く。勇真は立ち止まり美玲に声を掛ける。
「じゃあ俺はそろそろ行くわ。」と言い美玲とは違う方向へ行こうとする。
「あっ…そう…」と何か言いたそうにしている。
「何かあるのか?」
「私を一緒に連れていって!」と勇真の目を見て言いきる。
「えっ!?俺はソロでやってるんだけど…」と困った様に答える。
「そうよね…」と少し悲しそうな顔をする。勇真は少し気まずくなる。
「仮に一緒に行くとしてでもギルドどうするんだよ。リーダーなんだろ?」と聞く。
「それは…」と口篭る。
「な?美玲には美玲のやることがあるんじゃないのか?ただついてくるだけならお断りだぞ。ちゃんと目的とか目標がないと駄目だ。漠然と一緒に行きたいってのは却下だ。」と少しキツめに言う。
「…」と美玲は無言になる。勇真は美玲の頭を撫でて優しく告げる。
「ちゃんと自分なりに答えを出すんだ。俺は砦を全部潰す、そして魔王を全員倒す。覚悟がいるんだ、中途半端な気持ちじゃすぐに死んでしまう。」と美玲の目を見て言う。
「…分かった…次会うときまでに死なないでよ。ちゃんと答えだしてあなたに言うから。」と美玲も勇真の目を見て答える。
「おう!俺は勇者だ!そう簡単には死なないさ。」と言うと美玲に別れを告げ王国から姿を消す。