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王への道  作者: Basho
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第三章 戦争

「急げガルーダ!急いでくれ!」


町に近づくほど悲鳴が大きくなる。悲鳴の元から飛び出したのは竜、首にアユヤ帝国の国章を下げ、背中では槍を掲げる騎士の姿があった。


「ナシカが襲われているようですね。」


「融合だ!とりあえずあいつらを追っ払うぞ!」


俺は体にガルーダをとけ込ませ、ブルーズの背に乗った。


「出来る限り町の人たちを守ってくれ!頼んだぞ!」


低く返事したブルーズの背を蹴り俺は飛んだ。一直線に槍を掲げている騎士に向かって。


「ガルーダ、何をすりゃいい?」


《隊長格をを叩けば幾らか収まるのではないでしょうか。》


近づく俺を確認したのか、竜が炎を吐き出した。ギリギリで直角に避け、竜の背後に回り騎士を蹴り落とした。悲鳴と共に落下する騎士を無視し、竜に怒鳴る。


「隊長はどいつだ!何故こんなことをする!」


竜は答えず反撃してきたので頭に右手を突き刺し脳を握りつぶした。竜が力無く町に落ちそうになったので、角を掴んで海の方へ投げ飛ばした。


「ガルーダ!」


《恐らくあの先頭の人間が隊長です!》


町を大型の竜が人を踏み潰しながら歩いている。町の男たちが大砲や剣で応戦しようとしているが、全く歯が立っていない。


「あいつか!」


ここから光線を吐いたらどうなる?町の人は巻き込まれないか?クソッ…!


《考えている暇はありませんよ!早くあの人間を殺さなければ犠牲者が増え続けます!》


「ちくしょー!」


速く!もっと速く!俺から奴まで500mはある。この間にも竜の足元いる人が次々と踏まれているんだ!


「やめろー!!」


奴は俺の接近を感知できていなかったようで、俺は手間取ることなく葬れた。その竜の背に乗り、首の無い亡骸を掴み俺は叫んだ。


「お前らの大将は討ち取った!早く国へ帰れ!さもなくばコイツのようになるぞ!」


侵攻してきた竜たちは立ち止まり、俺を背に乗せた竜は大きく吼えた。


「私の召喚者が殺されたが、まだ生きているものは逃げろ!」


国章を胸に下げた竜たちが隊列を組んで山の方へ飛んでいく…。そんなこと許されるわけが無いだろう?あいつらに慈悲の心などいらないよな?


「ガルーダ!光線を吐くぞ!」


《もう要領は分かってますね?》


「隊列を組んだのは失敗だったな!!」


俺は空に浮かび上がって光線を吐いた。横一文字に組まれた隊列を右からなぎ払った。あの高さから落ちれば人間などひとたまりもないだろう。


「後はお前だけだ。」


隊長格の奴が乗っていた竜。


「殺せ…。」


言われるまでもない…。俺は脳を潰した竜を再び海の方へ投げた。ひとまず片付いたな。


《もう大丈夫そうですね。》


「ブルーズはどうなった!?」


俺が空から見渡すと突っ伏して翼をうなだれたブルーズがいた。やられたのか!?急いで近づき生死を確認する。


「ブルーズ!」


のそりと首を起こしてブルーズは静かに言った。


「終わりましたか。」


ブルーズの腹の下から人間がわらわらと数え切れないほど出てきた。


「守れたのはこの人間たちだけです。固まって震えていた人たちを上からドームのように囲いました。」


なる程、竜は炎に強いからな。


「怪我はないのか?」


「大したことはありません。」


無事で良かった。俺が安堵のため息を漏らしてブルーズを撫でていると町の人が話しかけてきた。ブルーズの下から出てきた人だ。


「あんた、何しにきたんだ?」


「平和を創りにきた。」


「この時代に?竜がはびこり、人が争うこの時代に?それはまた御大層な目標だな。」


「何と言われようがかまいません。」


「ふむ、心意気は一端のようだな。」


当たり前だ。俺は二度と村が焼けるような光景など見たくない。


「おじさん、俺をこの町の用心棒にするつもりはありませんか?」


「はぁ…。また話が飛躍したな…。どういうことだ?説明してくれ。」


「昨日知ったのだけれど、この大陸ではナシカが一番小国ですよね?大国のガルシア王国にはルルがいる。ダルニアンもベルオーズも軍隊を充実させています。こうなるとアユヤ帝国が領土拡大のために小国のナシカを叩きに来ると予想したわけです。そしてこの国を守っていれば粗方の賊を倒せることになると思うんです。」


「あんた意外に考えてるんだな。いいよ、用心棒。あんたに守ってもらった町だし、この町が平和への足掛けとなるならね。」


「ありがとうございます。ジェノス=ルアドっていいます。」


「ジェノスね。俺はヨーギ=ルシード。この町の治安はあんたに任せるよ。」


漸く王への第一歩を踏み出したな。この町を守りつつ各国の軍隊を解散させていけば平和になるはずだ。必ずしも闘う必要はない。話し合いで解決するのが一番だから。

 ナシカは農業国で完全な自給自足の生活だった。元々の人口は一万人以上だったが賊に襲われ、アユヤ帝国の襲撃を受けているうちに7000人程になってしまったとヨーギは言う。ガルシア王国の人口は十万人以上、ベルオーズ、ダルニアンは共に五万人程、アユヤ帝国は二万人。ナシカは圧倒的に人口が少ない。しかもガルシア王国の軍隊は二万もいると聞くし、ましてやルルがいるのに攻めようとは思わないだろう。軍隊が無いのはナシカだけらしい。ナシカは国だが、地区などを区切らず町もナシカと言う。地区を分けているのはガルシア王国だけだし、分けていると言っても東西南北の四分割だけだ。

 俺がアユヤ帝国の軍隊を全滅させた今日、軍隊の帰国がないのをアユヤ帝国の将軍がおかしく思うはずだ。


「恐らく今晩、アユヤ帝国の襲撃があるはずだ。30匹程度しかいなかったな?あれは恐らく偵察部隊だったのだろう。隊長が調子に乗って略奪を始めたに違いない。」


「そうですね。ヨーギの話によると人口が二万もいるのに軍隊が30匹とは情けないですからね。4000匹は覚悟せねばならないでしょう。」


4000対2か、ノルマは2000匹だがブルーズには町の人も守って貰いたいからな。ナシカは西も南も海に面してるし…どうすりゃいいんだ?…何故だろう…眠くなってきた…。


「なぁガルーダ。この町の人を守りながら、敵を討つ方法あるか?」


「守るだけというなら私が魔法を使ってシールドを発生させれば出来ます。詰めて貰えば町の人全員を覆えると思いますが、そうするとジェノスが戦線に立てませんからね…。」


ガルーダと融合して闘えれば負けはしないと思うが、町の人に必ず被害がでてしまう。しかし町の人たちを守れないなら何の意味もない…。眠いが目を擦りながら必死に考えた。


「よし、俺はブルーズに乗って戦闘に出る。ガルーダは町の人を守ってくれ。」


「わかりました。しかし死んではダメです。必ず帰ってきて下さい。」


俺は静かに頷いて、少し横になることにした。

 ナシカの民の安全は確保した。町は壊されても復興できるから長い目で見れば問題ない。だが、俺一人で軍隊全てを叩けるかと言えば無理だ…。


「本部を叩くしかないか…。」


迷っている暇はないが正面切って突撃したところで犬死には確実。


 いつの間にか眠っていたようだ。急いで体を起こし太陽の位置を確認する。日没まで一時間といったところか…。周りを見渡しガルーダを探すが全く見当たらない。どこに行った?するとヨーギが話しかけてきた。


「あの喋れる竜は用事があるとか何とか言って飛んでいったぞ?日没までには帰ってくると言っていた。」


なら町のことはガルーダに任せておけばいいな…。ありがとうと頭を下げるとヨーギは手を振りながら歩いていった。


「よし…決めた。」


俺はブルーズを連れてアユヤ帝国へと向かった。大きな賭にでた。成功すればまずまずの成果を得られるが、もしバレていたら確実に死ぬ。俺は腹を括った。何せ手持ちの武器も鎧もないのだから。

 山脈の上から見たアユヤ帝国は町全体を壁で囲んだ要塞のような都市だった。とても二万人も住んでいる都市には見えない。恐らく高くそびえる塔の中に押し込んでいるのだろう。山を下り、門の近くに降りると鎧を纏った男が歩み寄ってきた。


「何をしに来た?目的を言え。」


「軍隊の入隊試験を受けに来ました。今募集はしていないのですか?」


「そうか、ちょうど良い。なら入国を許可する。この太い道を真っ直ぐ行けば城がある。そこに将軍様がおられる。」


「ありがとうございます。あの、先ほど仰ったちょうど良いとはどういう事ですか?」


「あぁ…。昨日ナシカに攻め込んだ先鋒隊が帰ってこないのだ。恐らく全滅したのだろう。」


帰ってきてない…。よし、俺の情報はアユヤ帝国に届いていない。これでひとまず安心だな。


「ではありがとうございました。」


俺は言われた通りに進み城にたどり着いた。道中、かなりみすぼらしい格好をしてガリガリにやせ細った人を何人も見た。しかし対照的に城は豪華な装飾が施されて三つの高い塔が目立つ。山の上から見た塔はこれだな。城の入口にも兵隊がいて用件を聞かれた。同じように答えると将軍の部屋まで案内された。途中軍隊員の仮眠場所と竜を繋いでおく倉のようなところを通った。重要なところは全て頭に入った。

 将軍の部屋に着くと俺を案内した男が片膝をついて右手を左胸の前に置いたので俺も同じようにした。豪華な椅子とその両脇に美女を抱えながら俺に言った。


「来る者は拒まん。だが去る者は許さん。良い暮らしをしたければ俺のために働け。」


こんなクソみたいな奴が将軍で良かった。何の躊躇もない。…俺は気付いた。人間を殺すにつれて自分が非情になっていっていることに。しかし泣き言など言ってはいられない…アユヤ帝国を潰す。民は殺さず、将軍とその考えに賛同する者を。

 将軍への挨拶が終わり、俺は寝床に案内された。


「また将軍様は側近の女を変えたのか…。本当にとっかえひっかえだからなぁ。」


いきなりこんな事を話すなんてどんな神経してるんだ?


「そうなんですか?」


「あぁ、将軍様は町で美人な女は片っ端から城に連れてくるんだよ。少しでも将軍様の癇に障るとこうさ。」


男は首を切る真似をした。ふざけ過ぎてる!今から将軍を殺しに行こうかと思うくらいだ!


「そんな将軍様を気に入らない奴もいてな。そいつらは軍隊ではずっと下っ端よ。第13部隊って言ってな、30人くらいの部隊なんだよ。」


まさか!?俺が殺した奴はそいつらだったのか!?


「そいつらは先鋒隊が帰ってきた後の突撃部隊なんだよ。竜も奪われてな。」


「さっき通ったところに繋がれていた竜たちですか?」


「いや、地下に繋がれているよ。あんなところに繋いでおいたら連れて逃げるさ。」


男は自嘲気味に笑った。こいつも第13部隊か?


「ではあなたも?」


「まぁそうなるな。」


「ではなぜ将軍に仕えるのですか?」


「逆らえないんだよ。妻を人質に取られているからね…。お前、謀反を起こすつもりか?」


こいつなら話しても大丈夫か?軍隊の中でも忠誠を誓ってないものなら殺す必要はないし、その選別方法を模索していたところだったしな。


「そういうわけではないんですが…。」


敵陣では安易な行動はしない方が良いに決まってる。もしこいつが第13部隊なら出陣するときにわかるはずだしな。


「そうか、残念だ。雑談はここまで。それでは早速で悪いが戦線に加わって貰うぞ。」


男が作戦を話し始めた。男が言うにはアユヤ帝国の軍隊は1000人前後で構成されているらしい。これは嬉しい誤算だ。次に先鋒部隊は志願制で軍隊で名をあげたい者が集まるらしい。

 ここからが本題で、部隊は第1部隊から第10部隊、とんで第13部隊があり、第13部隊以外は100人構成である。まず第13部隊が突撃し、第1部隊から第5部隊まではアユヤ側の山脈の麓で信号弾が上がるまで待機。残りの部隊は町を迂回し南側から挟み撃ちをかける。ということだ。


「お前は第10部隊に加わって貰う。」

好都合だ。迂回している最中に何匹落とせるかが勝負になる。男は俺に鎧と剣と竜の首にかける国章を手渡した。


「死ぬなよ?俺は第13部隊だから毎回死と隣り合わせだからなぁ…。」


男の表情が暗くなっていく。この男には死んでほしくない。


「あの、名前教えて貰えますか?」


「ダイル=ノワールだ。」


「他の部隊にはあなたのように将軍の行為をよく思ってない人たちは居ないのですか?」


「まぁな。軍隊自体が志願制だし、そこまで給料もいいわけじゃない。まぁ市民よりは随分もらっていると思うが。」


「そうですか…。あなたなら良い王になりそうだ。」


「ん?何の話だ?」


「いや、何でもないです。それより必ず生き残って下さいね?」


「ああ。」


男は変な物を見るような顔をしていた。


「では行ってくる。お前も自分の部隊に行け。」


俺は言われた通りに第10部隊の最後尾に付いた。500人程が酒を飲み、豪華な飯を食っていた。異様な雰囲気だ。これから戦場に出るというのに何という緊張感の無さだ…。


「向こうは軍隊がいないから楽勝だな。」

「あぁ、ナシカの若い女は美人が多いし、お楽しみだな。」


クソッ!腐ってやがる!


「皆、お楽しみは後に取っとけ。出るぞ!」


それまで騒いでいた男たちが一斉に竜に乗り飛び立った。ここからが勝負だ。俺は気持ちを落ち着かせるためにブルーズを撫でた。


「行くぞ!ブルーズ!」


ダイヤ型の隊列を組み、今は海上500m、ナシカからは直線距離で5kmと言ったところか…。俺は最後尾で静かに剣を抜き前の男の首をはねた。なかなか良い剣だ。ブルーズも応えるように炎を吐き出し、前にいた隊員が海辺と落ちていく。この高さから落ちればまず命はない。召喚者を失った竜はズルズルと後ろに下がっていく。戦意喪失と言うやつだ。がダイヤ型の隊列を組まれたのは失敗だ。


「何だ!?味方が落ちていくぞ!」

「あいつだ!殺せ!殺せ!!」


どんどん敵が増える。幸い隊列の前の方はまだ気づいていないようだ。俺はブルーズの右手の上で、ブルーズは左手と尾と顎と炎で次々と落としていく。

 もう何人殺したかは分からないが、数を減らせたはずだ。剣術を学んでおいてよかった。しかし戦況は好ましくない。俺もブルーズもかなり疲労が溜まってきた。


「一端退こう!このままじゃ死ぬ!」


言葉は通じていなくとも意志は通じたようで、ブルーズはナシカへと飛んだ。敵は作戦を遵守するためか追ってこなかった。俺は、ナシカの町を確認できる近さになって初めて、50匹以上の竜がいることがわかった。どういうことだ?ガルーダは何をやってる?町にいる竜が俺たちに向かって吼え、ブルーズも吼え返した。


「ブルーズ!町に近付くな!おいっ!」


言葉が伝わらないとは厄介なものだ。ブルーズは俺の言葉を無視し、町に降りた。直後、竜たちがゾロゾロと近付いてきた。


「やるしかないのか…。」


俺は疲労で上がることを拒む腕を必死で持ち上げた。


「ジェノス!」


聞き覚えのある声がした。ガルーダ!?


「ジェノス。良く生きて帰ってきてくれました。」


「何だよ!こいつらは!」


「ドラッゲンから借りてきました。選りすぐりの猛者ですよ。」


援軍か…。安心している場合じゃない!


「敵は挟み撃ちでくる!」


俺の言葉をガルーダは遮った。


「落ち着いて下さい。私との融合が先ですよ。あなたの言葉を彼らは理解できないのですから。」


落ち着けって言ったって無茶がある。そんなことをしてる間に市民たちが…。市民たちはどうした?


「ガルーダは市民たちをシールドで守るんじゃなかったのか!?」


「市民は大型の船20隻に乗せて大平原に運びました。竜が3匹で守ってますから安心して下さい。」


移動先が大平原で良かった…。市民の安全はきっちり確保した。やることは後一つだ。俺はガルーダの肩に手を置いた。瞬間、今までの疲労感が嘘のように消えた。俺は大声を張り上げた。


「皆、ありがとう!では聞いてくれ。竜に乗ってない奴は決して殺すな!後はどうしても構わないが決して生かすな!アユヤ帝国の諸悪の根源は全て絶たねばならない!敵勢は南からと北からで挟み撃ちをかけるつもりだ。俺と北に行くのは10匹で良い、後は南から来る奴らを全滅してくれ!皆、死ぬなよ!行くぞ!」


俺は自分に続ける竜10匹を選び、作戦を伝え、必ず二匹一組で行動するように促し、先に行かせた。


「ブルーズ、お前はかなり疲労が溜まっているはずだ。休んでてくれ。」


ブルーズは首を振ったので渋々市民の護衛に行かせた。


「では俺たちも行こう、ガルーダ。」


前を行く10の竜たちを追い抜かし、山脈まで1kmをきった瞬間、俺の前で銃弾がはじけた。


「信号弾!?敵が来るぞ!!」


竜たちは声高らかに吼えた。


「恐らく山脈に沿って横一列に隊列を組んでいるはずだ。」


俺の予想通り、奴らは50匹程度を横一列に並べて進んできた。俺は後ろの竜たちに静止を促し、ガルーダには光線を放てるように頼んだ。


「引きつけてから光線を放つ。皆はその後、突撃してくれ。」


竜たちは理解したらしく、激励してくれた。俺は静かに頷き、時を待った。全部隊が山陰から見えた瞬間に放つ…。今だ!


「撃てっ!!」


光線を放つまでに時間をかけられたせいか、今までよりも太い光線が出た。いつもは直径2m程だが、今回は5mはあるだろう。俺は再び右から左へと一文字になぎ払った。


「今のでかなり落ちたはずだ!行くぞ!!」


竜たちの咆哮はいつでも心地よい。気持ちが奮い立つ。右半分はほぼ全滅だが、左は意外に生き残ったな…。残りは200前後か。


「奴らを町に入れるな!突っ込むぞ!」


奴らの竜を殺し、人を落とす。竜にとっての俺は、さしずめ人に取ってのハエのようなものだろう。違いは一撃必殺の攻撃があるということだろう。

 俺は50匹程落として城へと向かった。この作戦はもう伝わっている。俺は途中でアユヤ帝国に向かって飛ぶが竜たちは止まって闘ってくれと。俺はあの将軍を殺さなければならない。城に近付くと20から30の竜騎士団が見えた。


「何だ?軍隊は全部隊出陣したはずだぞ?」


《恐らく護衛部隊と言ったところでしょう。》


「全滅させる。」


俺は右へ左へ飛び回り次々に騎士を落としていった。騎士を落とせば竜は大人しくなるか逃げる。市民に被害が出るから竜は落とせない。なかなか苦労したが、ガルーダと融合していると疲労はない。


「全滅させたな。将軍の部屋へ突っ込むぞ!」


壁を突き破り城内に侵入し、将軍の部屋にたどり着いた。


「何だお前は!」


「さっき挨拶したばかりだろ?女は退いていろ!死ね、将軍!」


将軍は椅子の横に置いていた剣に手をかけた。剣を抜く時間など与えない。ガルーダと融合した俺にとって20mなど一歩だ。距離を詰め俺の拳が将軍の心臓を貫いた。あまりに一瞬の出来事に女は腰を抜かしたのかその場にへたり込んでいた。


「将軍は討った。戻るぞ!」


《待って下さい。そこの女を放っておくのですか?》


俺が目をやると女は歯をガチガチ鳴らして泣き始めた。


「あの…。」


「すいません!ごめんなさい!何でもします!だから殺さないで!!」


この女、混乱してるな…。


「聞け!お前を殺したりはしない!」


女は泣きながらも疑いの眼差しを向けてきた。まぁ当然といえばそうだが少し腹が立った。


「何でもすると言いましたね?あなたにはこの城に人質として捕らわれている人を解放してほしい。お願いできますか?」


女は漸く泣き止み、任せてとだけ言ってどこかへ走っていった。人質の話は本当だったか…ということはダイルさんの話は真実だということだ。


「急ぐぞ!ガルーダ!」


腿に力を入れ思い切り飛び出した。出来るだけ速く、今までで一番速く!強く願うほど飛行速度は上がった。

 山脈の辺りではもう戦闘は終わったようだった。俺が山を越えるとき竜たちの声が聞こえた。


「私たちは役目を果たしました。敵を町へは入れず、集団を全滅させました。竜に乗っていない者も確保及び見張っています。」


「ありがとう!俺は今から南へ向かう。皆は休んでくれ!」


俺は可能な限り声を張り上げ山を越えた。後ろから竜たちの咆哮が聞こえる。了承ということだろう。

 町の半分を越えた辺りで南から竜たちの咆哮と騎士団の声が聞こえ始めた。町が静かだから音がよく通るのだろう。見たところ騎士団は結構残っている。国章を掲げた竜がまだ300以上はいる。


「ヤバいな…、押され気味だ。ガルーダ、もう一度光線を放てるか?」


《恐らく大丈夫です。》


よし。敵は思ったより手際が悪い、と言うか頭が悪い。綺麗に一匹ごとに騎士を振り分けたようだ。戦力を集めて叩いた方がこの場合良いはずだ。俺の接近に気づいた奴らが何人か接近してきた。なぜ縦一列で近付いてくるのか。俺の方が小回りが利くというのに…。スピードを落とさず、竜の牙を避け、騎士を落とす。10匹落としたところで俺は味方の竜たちと同じ位置に着いた。


「よく踏みとどまってくれた!こいつらで最後だ!」


竜たちはなかなか賢い。ピラミッド型の陣を組み、町の方に数を集めた完全迎撃体勢だった。


「光線放つぞ!」


光線は俺の口が向いている方向に出る。つまり顔を動かせば味方を避けて攻撃できる!俺の放った光線は上手く味方を避け、敵だけを落とした。100以上は落としたと思う。後は味方の間を抜けつつ騎士を殺すだけだ。一度地面に降り、飛び立とうとした瞬間だった。


「あれ?」


勝手に融合が解かれ、俺は地に膝をついた。


「体が動かない…。ガルーダ?」


ガルーダもかなり疲労が溜まっているようだ。何てことだ…これじゃぁ良い的だ…。ガルーダは俺を掴みゆっくりと町の方へ飛んだ。


「どういうことだ…?」


もう口を動かすのも辛い。


「もう少し耐えられると思ったのですが…。」


「辛そうだな…。話は後で聞くからガルーダも休んでくれ。俺は残って戦うから降ろしてくれ。」


「無茶を言わないで下さい。あなたはもう限界のはずです。」


確かに限界ではある。しかしここで退くわけにはいかない。竜を預かった大将が一番に離脱してどうするというのだ。


「限界でも残らなきゃいけないんだよ!離…せ……。」


俺はどうやら気絶していたようで目を覚ましたとき、多くの竜が俺を囲むようにしてのぞき込んでいた。


「体が動かない。どうなった?」


「戦闘は終わりましたよ。我々の勝ちです。」


俺の体を腹で支えていたガルーダが答えた。


「そうか。怪我をしたものはどれだけいる?」


「右腕を失った竜が一匹、羽をやられたのが三匹、死んだのが一匹です。」


「死んだ者がいるのか…。」


味方を失う痛みは村を焼かれた時の痛みと似るところがある。辛く、苦しい。


「その竜はどこにいる?」


「運んできました。あそこです。」


俺はガルーダにそこまで運んでもらい、ふらふらの体を支えてもらいながら牙を撫でた。


「この竜の名前は?」


「ドルムントです。」


「ドルムント。大きな竜だな…15m位か?ありがとう、俺の作戦に加わってくれて、きっと力を振り絞って闘ってくれたんだろう?ありがとう。」


死因は腹に開いた大きな穴だろう。俺は竜たちにドルムントを広場に運んでもらった。


「ドルムントを焼いてくれ。皆で炎を吐けばいくら炎に強い竜でも燃えるはずだ。」


ガルーダは不思議そうな顔をしていた。


「俺の故郷、ダニアス村では死んだ者は火葬するのが普通なんだ。その煙が死者を天に運んでくれるって言い伝えがあるんだよ。」


ガルーダが通訳してくれて竜たちも納得してくれたようだ。竜族に死後の世界の概念があるかは知らないが、このドルムントが安らかに眠ってくれることを願った。


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