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王への道  作者: Basho
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第一章 旅立ち

「漸くこの日が来た…。」


俺は今日で15歳…竜の召喚を許された日だ。普通なら村の者たちが見物に来るのだが、皆は5年前に二人の人間の争いに巻き込まれて死んだ。俺だけが助かった。ダニアス村唯一の生き残りだ。

 そして俺は今、ダニアス村の地下にある、魔法陣の中心にいる。


「世界の門を開き、我が呼び声に答えよ!」


俺が召喚したのは、まだ体長3m、翼長4m程度の子供の竜だった。「俺はジェノス=ルアド。あなたの名は何と言う?」


「私はガルーダ。何故私を召喚したのですか?」


「俺の正義を示すためだ。」


あの日から力だけが正義だと信じて生きてきた。


「そう。」


「失礼だが、あなたは何年生きている?まだ随分若く見えるが。」


「俺はまだ15歳、これは俺の村の風習なんだ。そういうあなたは?あなたこそ幼く見える。」


「そうですか。これでも800年は生きてますが…。まぁ若く見られるのに悪い気はしません。」


800年!?もう立派に成竜しているじゃないか。並みの成竜なら10mは下らないし、デカい奴なら20mは優にあるのに。しかも雌…本当に闘えるのだろうか…。


「それでは、出発しよう、ガルーダ。」


既に準備はできていた。家にあるありったけの金とナイフと食糧をバッグに詰め込んである。


「わかりました。ですが、まずはあなたの考えを聞いておきたい。」


至極当然な考え方だ。伊達に長く生きていないな。


「まず、前提から話す。この世界は今、世界一の竜騎士の名を持つルル=ライフ、闘神と呼ばれるフブ=ライアン、野生竜の長が互いに争い、世界の覇権を手にしようとしている。」


「はい。」


「俺の村はこの争いに巻き込まれて焼けた。村の皆も死んだ。生き残った俺は悟った…この世界は力が全てだと。力無き者は蹂躙されるだけだと。」


「はい。」


「だから俺がこの世界の王になる!そのためには殺されないだけの力が必要なのさ。」


「なる程、この争いを止めたいというわけですね。良いでしょう。あなたと契約します。」


俺の左胸に、ガルーダの名前が刻まれる。恐らく竜の言葉なのだろう。俺には読めなかった。


「どこに行くのですか?」


ガルーダが尋ねた。恐らく人間二人とも俺の話など聞いてくれないだろう。


「野生竜の長の所に話を聞きに行く。何故争うのかと。きっと竜の住みやすい世界を創るためだろう。一番話が通りそうだからな。」


「それで野生竜の長はどこにいるのですか?」


「聞いた噂じゃ、ノット島にいるらしい。」


俺のダニアス村からノット島まで西に6000kmはある。


「背中に乗せてくれないか?」


「良いですよ。落ちないようにして下さい。」


竜の鱗は非常に硬い。人間が作った剣では貫けないわけだ。気になったのでお腹を触ってみたら、意外にも柔らかかった。


「では飛びますよ。」


翼が激しく動き、グングン空に上っていった。俺は召還の儀式についてうろ覚えだったが、今気づいた。竜族は人語を話せないはずだ…何故ガルーダは話せるのか。


「なぁガルーダ。何で人語を話せるんだ?」


「え?あぁ私、魔法竜族ですからね。それくらいはできますよ?」


魔法竜族…。何故俺が召還出来たのだろう…。考え事をする間も必死でガルーダの首に手を回して捕まっていた。ふと下を見ると壊滅状態の村が有った。


「ガルーダ。下りてくれ。あの村にも俺のような生き残りがいるかもしれない。」


「まだ半分しかきてませんよ?下りますけど。」


ズゥンと重量感のある音がして、俺はその後に降りた。


「竜族は鼻がきくと聞いたが何か分かるか?」


「ここから少し離れた所に川があります。そこから人間の匂いがします。」


「流石だな…案内してほしい。」


ガルーダと並び、俺は背中を撫でながら森を歩いた。


「見つけましたよ。」


そう言ってガルーダが指差した。まだ10才くらいの少女だった。俺はガサガサ草木を分けて歩き、少女に話し掛けた。


「君、あの村の生き残りかい?」


少女はビクッと反応した。


「うん。」


「君だけ?」


「うん。うわぁあああ!!」


少女が森を指差し、いきなり怯え始めた。指の差す方向にはガルーダがいた。


「竜が怖いの?」


「私の村はあいつらに焼かれたんだ…。すごく大きい竜が火を吐いて村のほとんどが焼けちゃった…。」


俺は少女の頭を撫でて、少女を落ち着けた。


「大丈夫。あの竜は俺のパートナーなんだ。」


「じゃぁお兄ちゃんも人を殺しに行くの?」


「違うよ。そいつらを止めに行くのさ。ガルーダ。」


俺が呼ぶとガルーダが森から出てきた。いくらパートナーと言い聞かせたところで、竜は怖いのだろう。鋭い牙、大きな口、頭からは角が二本生え、筋肉の塊のような腕や脚、大木すら薙ぎ倒しそうな尻尾。


「初めまして。私はガルーダ。」


地面に寝そべり頭を下げる。少女は俺をチラッとみた。俺は静かに頷いた。


「私はリューン。リューン=マクドガル。」


「よろしく、リューン。」


少女はリューンと言うのか。リューンは恐る恐るガルーダの鼻の頭に触れた。ガルーダは少し嬉しそうだ。


「ガルーダさんは私を食べないの?」


「私たち竜族は草食ですから。」


そんな馬鹿な…。俺の村の人間は食われていたぞ!?


「嘘だと言わんばかりの顔つきですね、ジェノス。私たちは肉を消化できないのです。しかし接近戦になれば爪より牙の方が圧倒的に威力が高い。」


「なる程。」


話に一段落着いたので、そろそろ行こうと合図した。


「リューンも連れていきましょう。」


本気か!?これから戦闘になることも有るだろうに…。守りきる自信はないぞ?


「あなただって一人でいる辛さは分かっているでしょう?」


それはそうだ。俺だって村にたった一人残された人間だった。


「別にずっと連れ回すつもりは有りません。近くの町に連れていけば良い引き取り手も見つかるはずです。何よりリューンは可愛いですからね。」


「ガルーダがそう言うならそれでいい。引き取り手探しはノット島で野生竜の長に会う前にだな。」


ガルーダも頷いて、俺たちが背中に乗りやすいような体勢をとってくれた。


「リューンが乗ってますから、ゆっくり飛びますね。」


ガルーダは緩やかに上昇して、ノット大陸を目指した。

 ノット島は竜族の島で地図では半径20km程度だ。二人と一匹で探すには、なかなかデカい。

 リューンは初めての空が嬉しいんだろう。俺たちの文明ではまだ空を飛ぶ乗り物などは造れないだろう。商品の搬送などは大型竜を召喚した者が行うのだ。


「村も街もありませんね。」


ガルーダが言った。


「恐らく直線的に闘いながら移動したんだろう?」


なる程と言ってガルーダは正面を向いた。一時間は飛んだだろうか。リューンがお尻が痛いと駄々をこねだしたので俺が抱える羽目になった。ガルーダは両手を使えない俺を配慮してくれたのか再び速度が緩くなった。そのまま、もう一時間ほど経つとガルーダがノット島を見つけたと知らせてくれた。結局、リューンを預けられるような街や村はなかった。

 木が生い茂る山のような島で竜が上空で旋回する様子が俺の目にも確認できる距離になった途端、火球が飛んできた。ガルーダがすれすれで交わしてくれたが結構熱い。その直後、ガルーダが吼えた。耳がキンキンする。すると竜たちは攻撃を止めたのか森の中に入っていった。


「一体何だったんだ?」


「長を守るためだと思いますよ?でももう襲ってこないと思います。竜族はああ見えて温厚で義理堅いんです。話し合いに来たという旨を伝えたので、長に伝えに行ったのでしょう。」


上陸するとどれほど木が高いかよくわかる。20m程はあるだろう。竜族が身を隠すにはうってつけだ。

 少し奥に進んだだけで大分暗くなってきた。木の葉っぱが日光を遮っている。


「怖いよ…。」


リューンが袖を掴んできた。左手は自身の服の裾をギュッと握っている。やはり不安なんだろう。


「大丈夫だよ。きっと話を聞いてくれるさ。」


袖にあった手を握ってやると少し表情の堅さがとれていた。


「竜が来ます。」


ガルーダが俺たちに告げた直後、10mはあろう竜が歩いてきた。竜とガルーダが話していると、竜が踵を返し歩いて行った。


「彼は案内役に遣わされたそうです。ついて行けば長に会えますよ。」


どれほど歩いたかは分からない、しかし10kmは下らないと思う。途中から疲れたというリューンをおぶってきた俺は、なかなか疲労が溜まっていた。案内役の竜が止まった。


「着きましたよ。」


ガルーダも止まった。背中のリューンを下ろし、前かがみになっていた腰を伸ばすと見えたのはコケの生えた岩だった。


「どこ?」


「そこです。」


岩を指して言う。不思議に思って岩に触ってみると、竜の鱗の感触がした。マジかよ…。このデカい岩みたいなのが長の背中だって言うのか?

 丸まっていた体を伸ばし、長が直立した。デカいなんてもんじゃない。超弩級の竜だ。30mは下らないんじゃなかろうか?


「話をしてきます。」


そう言ってガルーダは羽ばたいた。俺の横にいたリューンが手を強く握ってきた。


「どうしたの?やっぱり怖い?」


リューンは首を横に振った。


「多分あいつが私たちの村を焼いた竜…。あれくらい大きかったの…。」


「何だって!?」


ガルーダの話が本当なら竜族は街を襲わないはずだ。襲う意味がないのだから…。


「ガルーダ!下りてきてくれ!」


「何ですか?」


「長と直接話がしたい。何とかできないか?」


「できますよ?私と融合すれば。」


魔法竜だから慣れているのだろうか?融合の方法など全く知らないのに。


「私の手を握って下さい。後は私がやりますから。」


言われたとおり手を握る。体中の液体が沸騰したかのような感じを経て、俺はガルーダと融合したらしい。


「何か変な感じだ…。」


俺を見てリューンが笑い出した。


「髪の毛凄く伸びてるよ?」


俺の髪は黒だったのに赤い髪が腰の辺りまである。手にも脚にも鋭い爪があり、翼も生えている。


「初めて笑ったね。女の子は笑顔が一番だよ。」


地面を強く蹴り背中を意識する。羽の動かし方は分からないが空を飛べた。これが魔法竜の力なんだろうか?俺は長の前で止まった。俺の背丈は長の牙程度しかない。それ程、長はでかい。


「長。なぜ竜族は人を襲う?ガルーダは『竜族は草食だ』と言っていたのに。」


「理由は報復のみだ。我が一族はな。他の竜族とは仲を違えている。我々…いや、私か…。」


「何を言ってる?」


「お前、ドラグーンを知っているか?」


ドラグーン…確かジェネシスと言われる竜だったな。全ての竜族の祖にして最強の竜らしい。しかし、死んだと聞いているが…。


「少しなら。」


「なら話は早い。私はドラグーンの子だ。第三子で次男のドラッゲン。一度闘ったのは第二子で長男のドラード…奴が人間に召喚されてからな。」


「なら長は人間を襲っていないんだな?」


長は静かに頷いた。俺は一度下に降り、リューンを抱えて、再び長の前に戻った。


「この子の村は竜に焼かれた。唯一の生き残りだ。この子は長のような竜が村を焼きにきたと言った。しかし長はやっていないという。恐らく長の兄弟がやったのだろう?俺はもうこんな子を増やしたくない。争いを止めたい。だから俺が世界の王になるんだ!」


「…お前の行く道は険しいぞ?死ぬかもしれん…。それでも行くのか?」


「構わない。やれるところまでやるさ。俺が死んだら、俺の正義は間違っていたことになる…そういうことだ。」


長はため息を吐いた。吐いた息が木を揺らした。


「そこまで言うなら止めない。元々止める義理もない。しかしその子はどうするのだ?」


「村を探して預けたいと思っている。」


「預けるのは良い。しかし預けた村が襲われたらどうする?今度は生き残れるとは限らないぞ?」


全く考えていなかった…。俺が悩んでいると頭の中で声がした。

《ドラッゲンに預けてはどうですか?ここの竜族は信用できると思いますよ。》


ガルーダか…。いきなり話すからびっくりした。しかしガルーダの言うとおりだ。


「長、リューンを預かってもらえないか?」


「そういうと思っていた。良いだろう。お前が迎えに来るまで守り通してみせる。例え仲を違えたといえど、兄弟の尻拭いは兄弟がせねばなるまい?」


竜族の義理堅さは本物だと実感した。


「何の話をしてるの?」


話に割って入ってきたのはリューンだった。リューンは俺の言葉はわかっても長の言葉は分からないのだろう。


「長、とりあえずしゃがんでくれないか?リューンを降ろしてあげたい。」


長は腹を地に着け、元の岩のような状態に戻り、首だけ向けてくれた。


「リューン、お前を連れては旅に行けない。かと言って他の村に預けてもそこが焼かれるかもしれない。これはわかるね?」


リューンは頷いてくれた。


「だからここにいてほしい。あの大きな竜はリューンの村を焼いた竜じゃないんだ。リューンを守ってくれると約束してくれた。」


今度は首を横に振った。


「嫌だよ。お兄ちゃんたちと一緒が良い。」


わかってる。身よりもなく苦難の中で出会った人間とは別れ辛いものだ。


「ダメだ!邪魔なんだよ。いつまでもお守りしているわけにはいかないんだ!」


「何で?私、大人しくしてるから!絶対邪魔しないから!」


「そっか…。」


ここまで言われては仕方がない…。リューンも少し笑っている。


「リューン。あれを見て。」


俺はリューンの後ろを指差した。振り向いた瞬間、首筋に衝撃を与えた。できるだけ優しく気絶する程度に。意識を失い、バランスを崩すリューンを抱きかかえて、長に頼んだ。


「この子をよろしくお願いします。」


「承った。」


ガルーダがいきなり分離して何かを話、長に向かって右腕を突き出し、光る球を放った。長はそれを飲み込んだ。


「行けジェノス。我らの望みも竜族と人間たちが争わぬ世界だ。お前の未来に幸あれ。」


長が吼え、竜たちも吼えた。


「行ってきます。リューンは必ず迎えにきます。」


俺はガルーダに乗りノット島を飛び立った。


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