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07 むかしむかし

 

 むかしむかし、ある村に女の子が産まれました。珠のような白い肌で、将来がとても楽しみな綺麗な女の子。その子の両親、家族はこんなにも可愛らしい子供がを授かったことに大いに喜び、神様にお礼を言ったそうさ。その子もまた成長しても家族の愛を受け続け、純真無垢でとても可愛い少女に育っていったのじゃ

 しかし、幸せは長く続かなかった。少女がいくら輝いて美しくても、村は貧しい。そのため少女の家族も同様に、毎日の食事にも事欠くことが多かったのじゃ。

 そんな時、村はずれの山で少女は山遊び兼木の実拾いに勤しんでいると、珍しい木を見つけたのじゃ。その木は少女のように真っ白な幹で、まだ出てきたばかりなのか、少女の背丈ほどもない小さな木じゃったそうな。それを少女が村で話すと、村人たちはこぞってその珍しい木を見に行った。「おお、なんて珍しい木」「これはきっと、神様が宿っているに違いない」「私たちをお救い下され」とご神木の様に崇め奉ったそうな。

 そのためその願いを叶えるべく、村で一番偉い人たちは話し合った。もしかすれば、これが村を救う切っ掛けになるのかもしれないからと。結果祖の白い木は植林され、ご神木として新たな生を授かった。神社の裏に植えられた大きな御神木に、村人たちは藁にも縋る思いで、飢餓から、いや、、村の繁栄を願おうとしたわけじゃな。

 当時の村というのは、大層独特の風習があってのう。当時村長は絶対君主のようなものじゃった。その村長が御神木を立てて崇めると決めた。神様に願い事をする際には、その村で特別な人間を神様に人身御供として捧げるのが通例じゃった。

「まさか、それが」

「まあ聞け、続けるぞ」

 その人身御供には当時珠のように綺麗で、その木の幹と同じ肌の色だった少女が最適だとして、選ばれたのじゃ。

「な、何で……」

「ま、それはコレから話す」

 俺の言葉を手で遮り、樹は語り続けた。

 その少女は、肌が白いだけではなく、育つにつれて異形とも言える点があったのじゃ。

 彼女の髪は緑髪、黒ではなかった。両親は黒髪だったが、彼女だけ緑髪。最初は黒髪じゃったが、成長するにつれ色素が変わり、生い茂る葉のように深緑の髪を持っていた。

 当然いくら綺麗とはいえ、一時は飢餓の原因ではないかと、また忌み子として村人に殺されかけたこともある。しかしな、あまりに少女が眩しく、綺麗だったため、家族の情愛が深かったため、今まで生きてこられたのじゃ。そして今回の話になった。白い木に、その体躯に似合わず生い茂る青緑の葉っぱ。彼女も同様に、白い肌に風になびく綺麗な緑髪を持っておる。共通点としては十分なほどじゃった。

 そのため、村人たちはこの為に、この時のためにこの子が生まれたと騒ぎに騒いだ。発見者がこの少女だったこともあり、これは神がこの少女を供物として捧げろと言っているようにな。

 勿論家族は猛反発。しかし村の為、村民の為と、このままでは娘を育てるために、生きていくために遊女として売りに出さなければならんぞと脅され、周りに言われ続け、とうとう泣きながらにして娘を差し出すことになったのじゃ。

 娘は家族のこれ以上辛い姿が見たくないと、気丈にふるまった。――家族が助かるならと、涙を見せずに今まで世話になったと頭を下げたそうな。そして村長の下へ行き、申し出を受け入れたそうじゃ。本心では泣いていたかも知れんがのう。

 ――当日、少女は生きたまま大きな木桶に入れられ、その御神木付近の地中深くに埋められたわけじゃ。


 樹はこれで話は終わりだと、喋り続けた喉を潤すように棚に置いてあったウーロン茶に手をつけ一口含んでいる。

「む、むごい……」

 昔は食いぶちを減らすだの、迷信を信じることが多いとは言うが、ここまでとは……。

「ま、昔なんてそんなもんじゃ」

 あっけらかんと樹は言い放つ

「それで、その村は?」

「それなりに成功はした。飢餓も減ったし、作物もよく育つようにはなった」

「じゃあ、上手くいったのか?」

 樹は答えない。俺がしつこく答えを求め続けると、噛みしめるように、樹は重く口を開いた。

「簡潔に言えば、その村は滅びた」

「ほ、滅びた?」

 話が飛躍しすぎではないかと、樹に問いかける。けれど樹は飛躍などしてはいないと首を振り、否定した。

「最初から無理があったのじゃ。ただの少女一人を神輿に担ぎ、村の命運を担わせるなどというのはな。少女と話している間、少女はわしに色々語りかけてきたのじゃ」

「語りかけてきたって……まさか」

 こいつがその木だと言うのか。バカげている。しかし……でも待ってくれ、俺が見た木は確かに大きかったが……けれど幹は普通の色だったはず。それに少女って……色白で緑、いやいや。

「木の幹は少女の思いから、普通の色に偽装してある。……その代わりにわしは……おっと、その顔は気付いたようじゃな」

 樹の一言で、俺の心の中の疑問は確信へと変わっていく。

「その言い方……肯定か?」

「ああ、この姿はその少女から借りた物。もし少女が成長すれば、このようになっていたであろうとな。どうじゃ、可愛いじゃろ?」

 手で髪をなびかせ、樹は俺の顔を見ながらそう言った。

「なんで、なんで村を……見捨てたんだ?」

 どうして、どうして……大切な家族だっていたはずだろ。

「それが少女の望みじゃったからじゃ」

「望みって、そんなこと望むはずがないだろ!!」

 俺は腕に絡まっている樹をベッドにつき飛ばし、どなり声で言った。けれど樹は冷静で、淡々と答えるのみ。

「しょせん子どもは子ども。いくら表面を取り繕おうとも、中身はただのわがままな子どもじゃ」

「わがままだと?」

 淡々とした口調でしゃべる樹に対し、俺の怒り、声は大きくなっていった

「そうじゃ。その少女は最初こそ村人たちを守って下さいと祈り続けておったが、暗い桶の中。酸素も少なく、水もない。衰弱しきる頃になるとな、少女は喉が渇き、かすれた声でこう泣いておった。『どうして私が、まだみんなと遊びたい。お母さん、お父さんに会いたい。会いたいよ』えんえんと泣いておった。そこでわしは、興味本位で少女に問うたのじゃ?」

「……なにをだ」

「わしと一緒になるか? そうすれば苦しみから解き放ち、願いを叶えてやろうぞ。とな」

「少女は迷わずに了承した。そして、わしにこう願ったのじゃ」

「『私をこんな目に合わせた、村の皆を消して』とな」 

 樹はそう言うと一息つき、また話し始めた。これが事の顛末だと。

「ま、その結果村には日照りが続き、他の町へ行こうにも盗賊や禽獣に襲われるなどと、あっというまにお陀仏ってわけじゃ」

「じゃあ、お前は悪魔の使いなのか?」

 自分でも中二臭い言い方になるが、他に適切な表現方法がわからず、樹に問を投げつける。けれど樹は悪魔ではないと、そんなに偉くはないと笑っている。だが村を潰したことは間違いないじゃないか。俺のそんな無言の抗議を見て察したのか、樹は問いかけてもいないのに答え始めた。

「わしは自分の手のひらで解決できる手段を提示するだけじゃ。村は少女の怨念のようなものが強かったから起きた災害、まあ結果論のようなものだがな。しかしわし一人村を反映させ続ける力など、元よりない」

「じゃあ、何で俺なんかに……それに少女を」

「お主や少女がわしを望んだからじゃ」

「のぞ……んだ?」

 ただ神頼みしただけの、俺がか?

「いまどきの若いもんにしては、妙なところがあるしのう。それに少女もあの後反省してのう、孤独な人を助けたい。私みたいな人はこれ以上増やしてはダメって言っておった。そして、現在に至るわけじゃ」

 村を潰したのは少女が祟り神のように祈り続けたからもあるが、それに加えて改心した後も自分のような被害者をこれ以上出さないためにも、あのような過ちを繰り返さないためにも成功例を残してはならぬと、罰として村を滅ぼしたのさ。

「わしはそれを後押ししたにすぎぬ。自身の根が地を這い、周囲の栄養を吸い尽したりしてな」

 ――待て、話がよく理解できない。それではまるで、俺を呪うためじゃないか。そう思った矢先、樹は俺が少し怯えているように見えたのか、安心しろと肩を叩いてきた。

「ま、わしらにわざわざ願い出てきたお主を、わしたちは幸せにしたいだけじゃよ。少女も……おっと、コレは内密じゃったな」

 樹はそう言うと、俺の腕を両腕で引っ張り、布団へ誘った。

 いきなりのため、ほぼ無抵抗で俺は樹に引っ張られてしまい、覆いかぶさるような形でベッドに倒れた。そして唇に柔らかい何かが当たったのを感じた。気付けば樹と唇を重ねていたのだ。

「ん、どうじゃ? 気持ちよいじゃろ? 一人より二人、他人も良いモノじゃろ?」

 樹はそう言うと両腕を俺の背中にまわし、また唇を重ねてきた。樹の柔らかく水分を含んだプッくりとした唇が俺の唇と優しく重なる。

 俺は突然のキスをされて、思わず舞い上がるかと思ったが……反応は違った。脳裏にはこんなことが浮かんできた。

 ――俺のファーストキスの相手は……人ではなく木なのだ。

「とにかく太陽、お主は一人じゃない。きっと良い人に巡り合えるぞ。わしが付いておるからな」

 樹は唇を離し、俺の面倒を見る宣言をした。無理だと思うけどな。

 不意にキイっと俺の部屋の扉が開く音がした

「クッキー食べな……」

 母は樹とおしゃべりがしたいと言葉を続けかけて、扉を開ける手を途中で止めてしまった。樹の体をどかし、俺は扉の方を振り向いた。すると扉を中途半端に開き、部屋に足を一歩踏み入れて石化したように固まっている母さんがたる。――不味い、俺より初対面の樹を可愛がっている母さんにこんなシーンを見られたら、間違いなく殴られ、ほら、石化が解けたように母さんは体を震わせて扉を握っていた手を力強く握りしめ俺に向かって振り下――思わずその落雷が怖く、目を閉じてしまった。けれど一向に振り落とされないどころか,、叱りつける声も聞こえないな。恐る恐る目を開き、母さんを見ると――持っていたクッキー缶を机に置き、俺の方に優しく手を乗せた。

「頑張れよ、マイサン……なんて言うわけないでしょう」

 言い訳の余地なく、俺は母さんからお小言を授かる事になった。樹が庇おうとするが、母さんは樹を優しいのねと褒めて、頭を撫でている。思わず怒りが和らいだかと期待したが、甘かった。

「――後で話があります。太陽、わかってるわね」

「はい……」


 ――樹が来てから、碌な目にあっていないような気がする。


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