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第3話

そして、結婚式の2日前に私は退院して、再び学校に通いだした。

勉強はお姉ちゃんに教えてもらいながらやっていたから、特に遅れてはいなかった。


普段通りに授業が終わって、私はそのまま家に帰った。


美雪「ただいまー・・・あれ?もう帰ってたんだお姉ちゃん」

詩織「ええ。今日は仕事が早く終わったから」

美雪「そっか・・・。あ、そうそうお姉ちゃん。明日の夕方の5時半頃、さとるさんと二人で喫茶店に行きたいんだけど、いいかな?ちょっと話したいことがあって・・・。あ、安心して。別にやましいことは何もしないから」

詩織「ええ、いいわよ。さとるさんにも明日暇かどうか聞いてみるから」

美雪「うん。ありがとう、お姉ちゃん」

それからさとるさんからもOKの返事がきたらしく、私とさとるさんは明日、喫茶店で会うことになった。


そして、とうとうやって来たその日・・・お姉ちゃんの結婚式の前日。

私とさとるさんは、喫茶店で待ち合わせた。

美雪「・・・・・」


さとる「やあ美雪ちゃん。なんとかほぼ時間通りに来れたよ」

美雪「はい」

さとる「ここで、いいかな?」

美雪「はい、どうぞ」



さとる「で、話って何?」

美雪「・・・・・。




お姉ちゃんと、別れてください」


さとる「……え?」

美雪「ですから、お姉ちゃんと別れてほしいって言ったんです」

さとる「・・・それは、どうして?」

美雪「家族以外の男の人が嫌いだからです」

さとる「・・・美雪ちゃん。僕のことを嫌うのはかまわないけどさ、お姉さんの幸せも考えてやりなよ」

美雪「・・・・・」

さとる「君は、お姉さんのことを、家族というより恋人みたいに見てるんじゃないか?」

美雪「・・・・・っ」

さとる「・・・美雪ちゃん。この世の中には、男の人に恋愛感情を向ける男の人や、女の人に恋愛感情を向ける女の人がいるけど、僕はそういうの、あまり受け入れられない。正直、気持ち悪いとも思ってる。

お姉さんのこと、普通に家族として愛してるのなら、それは全然かまわないさ。でも、そうじゃない愛情はお姉さんには向けないでほしい。お姉さんだって、君のことは家族としてなら受け入れようとすると思うけど、恋愛感情みたいなものは、到底無理だと思うよ。お姉さんも、同性同士の…それも半分は血の繋がった姉妹がそういう感情を向けてるなんてわかったら、気持ち悪いと思うだろうね」

美雪「・・・・・ぅ・・・」

さとる「・・・とにかく、僕はお姉さんと・・・詩織さんと別れるつもりはないから」

美雪「・・・わかりました」

さとる「えっ?」

美雪「私、もうお姉ちゃんに依存したりはしません。もう・・・お姉ちゃんに甘えきったりしない。お姉ちゃんの幸せも邪魔しない。これからはお姉ちゃんの幸せを願いながら毎日を過ごします」

さとる「・・・そうか。わかってくれてよかったよ。ありがとう、美雪ちゃん」

美雪「・・・そろそろ、帰りましょうか」

さとる「そうだね」



それから私達は雨の中、人通りの少ない道を進んでいった。

そして、その道の途中で、私とさとるさんが別れようとした時・・・。


さとる「それじゃ美雪ちゃん、僕はここで…」

美雪「はい、それではまた明日。結婚式、楽しみにしてますね」

私はそう言って一度、さとるさんから少し離れて、さとるさんが階段に近づいたのを確認して、私はさとるさんに近づいた。

美雪「さとるさん」

さとる「どうしたんだい、美雪ちゃん?」






美雪「お姉ちゃんは、誰にも渡さないんだから」



そう言って私は




さとるさんを階段の下めがけて



ドンっ、と、強く押した。



私に押されたさとるさんはバランスを崩して、階段に頭を打ち付けて、そのままゴロゴロと階段から落ちていった。

さとるさんは、階段の下の道で、頭から血を流して倒れていて、ぴくりとも動かなかった。

私は、倒れているさとるさんを残して、逃げるようにこの場から走り去った。


美雪(お姉ちゃんは私のものなんだから…。私だけのものなんだから…ッ)


もともと人通りの少ない道で、幸い誰も人がいなかった。

誰かにさとるさんが落ちるところを見られることも、落ちていく音に気付かれることもなかったみたいだ。




私はそのまま、家に帰った。

美雪「ただいま…」

詩織「あら、お帰りなさい美雪」

美雪「・・・?あれは何?」

詩織「あれ?ふふっ、今日は結婚前夜でしょ?だから、ちょっとばかり贅沢しちゃおうと思って、ピザ頼んじゃった♪あなたの好きなマルゲリータもあるわよ」

美雪「えっ・・・。あ、ありがとお姉ちゃん」

詩織「・・・それにしても明日はとうとう結婚式か。なんだかちょっと緊張しちゃうわね~。・・・さとるさんはどうなのかしら?やっぱり私みたいに緊張してるのかしら?」

もう二度と会えない人に思いを馳せるお姉ちゃんを見た私は、心が抉られたように痛かった。


美雪「・・・うっ・・・」


私は吐き気を催して洗面所に行き、激しく嘔吐した。

とても気持ちが悪かった。頭から血を流して動かなくなったさとるさんの姿が脳裏から離れない。

帰り道では少し興奮していたのと、逃げることに必死だったせいかあまり気にしなかったけど、一度落ち着くと後悔や罪悪感で心が押し潰されてしまいそうになる。

私は、人殺しという罪を犯してしまった。私の愛する人が愛していた人を、手にかけてしまった。

私は、心がすごく痛かった。

涙が、止まらなかった。

そして、また少しだけ嘔吐してしまった。

私は、捕まるのかな。

ううん、きっと大丈夫。さとるさんを落とすところは誰にも見られてないはずだから。

大雨の中階段から足を滑らせてしまった事故だって思われると思う。


私はさっさと顔を洗って自分の部屋に戻った。

そしてベッドの中に入り、それからずっと震えていた。


しばらくすると、お姉ちゃんが泣きながら私の部屋に入ってきた。


美雪「・・・どうしたの、お姉ちゃん?」

詩織「・・・私の友達から、電話で聞いたんだけど・・・。





さとるさんが、死んじゃったって・・・」


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