第2話
お姉ちゃんの報告を聞いた私は、頭の中が真っ白になっていた。
そんな私をよそに、お姉ちゃんはさらに話を続けた。
詩織「結婚式は、来週の日曜にする予定でいるわ。それから美雪。私、智さんと結婚したら、二人で東京に行こうと思ってるの。
だから、美雪は私が結婚したら叔父さん達の家で生活するのよ」
信じられない。結婚するだけじゃなくて、遠くの土地に引っ越してしまうなんて。
東京なんて、今住んでいる北海道からかなり離れた場所だ。お姉ちゃんが東京に行ってしまったら、もうほとんどお姉ちゃんに会えなくなってしまう。そう考えるだけで胸が張り裂けそうになる。
美雪「わ…私、ちょっと外の空気吸ってくるね」
私はもう耐えきれず、病室からさっさと出てしまった。
美雪「…はぁ…」
病院の外にあるベンチに座って、私はずっとお姉ちゃんのことを考えていた。
そして、私の中に、嫉妬や怒り、悲しみ、そして憎しみとか、色々などす黒い感情が生まれてきた。
なんで私じゃないの。
なんで智さんとなんか、なんで男の人となんか・・・。
早いうちに二人を別れさせておくべきだったんだ。
智さんが私からお姉ちゃんを奪っていったんだ。
智さんなんかより私の方がお姉ちゃんを愛してるのに。
私の方が智さんよりもお姉ちゃんを幸せにできるのに。
智さんなんか死んじゃえばいいのに。
そんなことを思っていると、外が冷え込んできたので、病室に戻ることにした。
そして、病室のドアを開けようとした時、お姉ちゃんと智さんの声が聞こえてきた。
智「もう、あの子を我慢して面倒を見ることもなくなるな」
詩織「・・・ええ」
智「・・・詩織。もう、あの子のことは気にせずに僕たち二人のことだけを考えるようにしよう」
詩織「・・・・・」
智「それに、君のお母さんの再婚相手の人、もうすぐ戻ってくるんだろう?それで、このままあの子の世話を続けたら、君が嫌ってるあの子の父親…お母さんの再婚相手と関わる機会も増えてしまうことになる」
詩織「それは・・・そうだけど・・・」
智「君だって前に話してたじゃないか。妹が、美雪ちゃんがだんたんその男に似てきた気がするって」
詩織「・・・・・」
智「それと、僕もあの子のことをあやしいと思ってる。君に依存しすぎてる上に、君のことを、まるで自分の恋人みたいに見てるような・・・。あと、胸とか下半身辺りとかを触るような、少しばかり過剰なスキンシップをしてくるらしいじゃないか。だから、僕はあの子が、君にもっとやましいことをするんじゃないかって心配してるんだよ」
詩織「そ、そこまではしないと・・・思うわ・・・」
智「・・・とにかく、あの子には早く姉離れさせなくちゃいけないと思うんだ。
詩織。これからはもう、自分の幸せだけを考えるんだ。美雪ちゃんのことは、もう何も気にしなくていい。あの子は君以外にも、頼れる人ができたんだからさ」
詩織「智さん・・・。
・・・そうね。正直言うと私も、本当はあの子のこと、あまり好きじゃなかったわ。前にも言ったけど、だんだんあの男に似ていって・・・。憎しみも少しだけあった。
でも昔は、あの子には私以外に頼れる人がいなかったから、最初はあの子のことは、あの男の子供でも、美雪という一人の人間、あの男のことは関係ない、美雪には罪はないって思って面倒を見てきた。
でも、成長していく中で、あの男の面影が出てくるようになって・・・あの子に身体を触られると、頭の中にあの男の顔が出てきてしまうようになった。それから、あの子には私しか頼れる人間がいないんだから・・・って、ずっとあの子への憎しみを抑えながら世話をし続けたの。
でもあの子、あまり父親以外の男の人になつかないし、前に付き合ってた人にも『妹の面倒まで見きれない』って結婚を断られて・・・。
あなたが『僕と結婚して、二人だけで東京に行こう』って私に言った時、私は妹の母親代わりでいなければならないからと言って断ろうとして、それであなたが『妹のことは他の親類に頼めばいいじゃないか』って言ってくれたおかげで、そこそこ交流があった叔父夫婦に、美雪のことを相談することにしたのよ。
それで叔父夫婦が『もう一人くらい子供の面倒を見られる余裕ができたから、自分たちが美雪ちゃんの面倒を見てあげようか』って言ってくれた。
その言葉を聞いて、ああ、私も自分の本当の幸せを求めてもいいんだ、って思ったわ」
智「そうだよ詩織。もう、美雪ちゃんに縛られる必要はないんだ。これからは君と僕で、幸せを築いていくんだ」
そういって、お姉ちゃんと智さんはキスをした。
それを見た瞬間、私の中の何かが、音を立てて崩れていった気がした。
お姉ちゃん、今まで私のことを嫌ってたの・・・?私じゃだめなの・・・?私の方が、もっとお姉ちゃんを幸せにできるのに・・・。
お姉ちゃんには、ずっと、私のそばにいてほしい。
私はお姉ちゃんのことが大好き。だから、お姉ちゃんにも私のことを好きになってほしい。
それが、私の、正直な気持ち。
だから、まずは・・・。
美雪「智さんを、消さなくちゃ・・・」