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アンチゴースト  作者: 六角真茅
陰謀と黒い鳥
6/6

scene5

 ————早朝、


オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンォォォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼‼


サイレンが鳴り響く街を睥睨(へいげい)する灰色の影があった。

巨大な二枚の翼を力強く羽ばたかせる、レベルⅣの鳥型ゴースト。その翼を広げれば、そのサイズは5mを優に超える。


市民は警報に叩き起こされてとうに避難し、市街地は閑散としている。

そんなガラガラの道路を猛スピードで走るワゴン車があった。


所々に突っ立っていたレベルⅠのゴーストを何体か轢き、それは車道のド真ん中に停車した。

運転席から、短めの髪を茶色に染めた少年が飛び降りる。

後部スライドドアが開き、黒髪の痩せた少年がのそりと顔を出す。

二人を見つけ、あちこちからゴーストが姿を見せる。


彼らはそれに気付くも、視線は上空のレベルⅣに注いでいた。


「上見ろよ本条。珍しく大物が出たぜ?」


「まったく……とんだ初陣だ」


黒髪の少年はぼやきながら、突進してきた一体のレベルⅠゴーストを(かわ)し、灰色の背中に蹴りを見舞った。


「馬鹿言うな。初見でその態度はありえねぇだろ。いつまでも記憶喪失アピールすんじゃねえわ」


茶髪がシニカルに笑い、手近なゴーストを殴り倒す。


「まずは雑魚を殲滅するぞ本条。その後宗之(むねゆき)と合流してデカブツを墜とす。いいな」


「OK、やるからには全力で行く」


彼ら……谷和原(やわら)ユウと本条ハルキ、そしてもう1人、宗之シオリという少女は三人一組で行動する対ゴースト戦の切り札。

『アンチゴースト』、【タウルス】【サジタリウス】【リブラ】


「「起動(ブート)」」


彼らの体内に埋め込まれた戦略兵器は即座に応えた。


【OK】【タウルス】【戦闘モードで起動する】

【サジタリウス】【起動了解】


二人の体は一瞬眩く輝き、その装いを大きく変えていた。

茶髪の少年、谷和原ユウの姿は蒼を基調をした

黒髪の少年、本条ハルキの姿は紅を基調とした


全身をくまなく覆う、装甲服姿になっていた。


二人は右脚のホルスターから、大型の拳銃を抜く。

正式には変形式魔導銃剣【ポラリス】、全ての魔鎧に標準装備されている汎用兵装だ。


「殺るぞ」


「ああ」


二人の足が同時にアスファルトを蹴った。


          *          *          *


 ————数十分前


バシイイイイイン!

早朝の道場に馬鹿でかい音が響いた。


「痛って……少しは加減しろよ谷和原」


受け身を取った左腕がジンジンしている。ついでに足も


「お前が随分と弱くなったのが悪いんだボケ。それにゴースト相手じゃ、そんなこと言っても言葉が通じないだろうぜ?」


「否定できないのが悔しいですよ、と」


組み手に僕を引っ張り込んだ挙句ボコボコにし、今度は畳に思い切り投げ飛ばしやがったこの男の名前は谷和原ユウ。僕が正式にAGGOという組織に配属された時に出会った。

いや、周りの話では昔からの悪友だったということだが全く思い出せないので、とりあえず素で接している。リーダーシップはあるし、いい奴なのはまあ分かったけど……


こいつ組み手になると、マジで殺しにかかってくるから怖い。

一度締め落とされました


僕は数日前にこのAGGOに呼び出され、わずかに蘇った魔鎧に関する記憶が原因で、この組織に所属(正確には復帰)するように命令された。

それ以来、バウムの第2層と3層を頻繁に行き来する生活を送っている。

基礎体力作り、敵の生態研究、魔術座学、魔術戦訓練、鬼の格闘戦訓練、射撃訓練etc.

退院してから今まで行くべき学校や職場もなく、実質レオに養ってもらっていたニート時代よりは健全な生活かもしれないが、あの頃の平穏が懐かしくもある。

今も変わらず、レオは炊事や家の掃除を文句ひとつ言わずにやってくれている。頭が上がらないとはまさにこのことかな。

今も忘れないあの時(、、、)、レオは僕に告白した。自分は人間ではない、と。

それでも、僕たちの共同生活は今でも続いている。僕はレオが変わらずにいてくれればそれで良かったし、彼女も少し吹っ切れたようだし。僕が第2層通いをするようになってからは、朝早くに起こしに来てくれるようになった。職場(?)が同じということで、同じバスに揺られる仲だ。

いや、レオの仕事増やしただけじゃん。

実際その通り、だからせめて軍事機密情報から押し付けられた仕事くらいはマジメにやるつもりだ。


上司の漆原氏や谷和原、それとチームメイトの女の子の話では、昔の僕はかーなーり!強かったらしいが、今では普通に締め落とされる体たらくだ。


「今のお前でもトーシロ相手だったら無双できるぜ?でも、俺たちの敵はゴーストだ、忘れるな」


よく谷和原に言われていることだ。

そして今日も畳に叩き付けられたのだった。

そして今はタオルで汗を拭き、少ない休憩時間を満喫している。


汗臭い男二人がAGGOの休憩用ホールに入った時、そこには既に先客がいた。


「あらハル、お疲れ」


「あ、先輩方ですか。どうも」


レオともう1人、チームメイトの宗之(むねゆき)シオリだ。


「深刻な顔して何を話してたんだ?」


「それです、聞いてくださいよ先輩。3層の4番地のスーパーでモヤシが一袋9円なんですよ。レオちゃんに教えてもらっちゃって」


「主婦か」


突っ込むが、レオはニヤニヤと口元を歪め、


「私は兼業主婦のつもりだけど?」


「私は一人暮らしなので」


「やばい、女の会話に俺まったくついてけないわ」


「僕も台所はレオに任せっぱなしだから何がなんだか……」


「あれ……本条先輩はともかく、谷和原先輩って一人暮らしじゃありませんでしたっけ?自炊もするで

しょう?」


「う……っ」


「そういえば、谷和原お前毎日外食だったな」


「え?それ月にいくら出費してるのよ」


「老後が大変だぞー?」


「うるせぇなこの兄妹は!俺はそうできるだけの金稼いでるからいいんだよ」


「先輩、顔赤いですよ?」


「うるせぇっ、てか本条兄!一番楽してるお前が言うなタコ!」


和やかな談笑ムードが流れるロビーの空気を打ち砕いたのは、一つの放送だった。


【第3層全区画に緊急警報発令、ゴーストの出現を確認しました】

【アンチゴースト各員に通達、敵はレベルⅣを含む大規模な集団です、警戒を】

【敵の出現地点が二か所に分かれている。アンチゴースト隊には分散行動を推奨】

【各員に通達、大至急ミーティングルームに集まれ、アンチゴースト部隊は直ちに出撃しろ!】


『ッ!!』


僕たちはハッと顔を見合わせた。


「ち……マジかよ。予測より三日も早いじゃねぇか、クソっ」


「妙だわ……」


ぽつりとレオが呟く。


「前回の襲撃から大して時間も経っていないから、出現してもレベルⅡくらいまでだと思っていたんだけど……」


「それは後だ、レオ。とりあえず行ってくる」


「小規模な群れは私が単騎で殲滅します。お二人はもう一つの集団へ」


「了解だ」


「俺が『足』を調達してくる。ついてこい、本条!」


「分かった」


女子二人と別れ、僕たちは階段を駆け下り、ビルの地下駐車場までたどり着く。

程なく、谷和原が一台のワンボックスを借り出してきた。


「乗れ!」


「あいよ」


僕が車に飛び乗るのと同時に、ワンボックスは乱暴に発進した。


          *          *          *


 青い血をぶちまけながら、また一体のゴーストが灰に還った。

あちこちで唸っていたレベルⅠのゴーストはあらかた片付いた。


「シッ‼」


ダガーに変形させた『ポラリス』で、最後の一体の頭を突き刺す。

化け物はくぐもった濁声を上げながら暴れ、やがて動かなくなった。

ズルリ、と青い血にまみれた刃を引き抜くのと同時に、ゴーストは爆発するようにその形を無くし、あとには灰しか残らなかった。


「谷和原、レベルⅣは?」


さっと血を払い、ポラリスをガンモードに変形させる。


「それはちょっと待て…………ああ、宗之か。こっちは片付いた」


視線は上空に遣りながら、谷和原は宗之と通信を始めた。僕は空を見上げる。

さっきまで大空を羽ばたいていたレベルⅣの姿は、いつの間にか見えなくなっていた。


「……いや、ここからは目視で確認できねえ」


「……サジタリウス、敵性反応は?」


【レベルⅣの反応1】【他は確認できず】


「位置は分かるかな」


【距離1533メートル】【北東】【5分26秒前より当座標で静止】


僕は自分の耳に届いた情報を同僚に伝えた。


「谷和原、敵は北東1.5キロ。5分前からずっと止まってるらしい」


「そうか……聞こえたか宗之。俺たちの位置は分かっているな?先に移動するからお前も合流しろ、いいな?」


相手から短い応えがあり、谷和原は通信を切った。

そして、僕たちはお互いに何を話すでもなく同時に走り始めた。次に何をするかなど決まっている。


          *          *          *


 早朝の道を疾駆する僕らは途中で宗之と合流し、サジタリウスが示した座標に辿り着いた。

果たして、それ(、、)は悠然とビルの屋上にとまっていた。


「……どうする?」


僕の声は、多分僅かに震えていた。レベルⅣの鳥型ゴーストは、今まで何体か見てきたレベルⅠ、Ⅱのゴーストよりもずっと大きかった。正直、怖い


「まあ、足で引ッつかまれて上空に拉致された挙句地面にポイ捨てされたりしなきゃどうとでもなる」


僕は、不意に楽観的なこの野郎の蒼い装甲に包まれた頭を、思い切りブン殴りたい衝動に駆られた。

この迷路の攻略方法を教えてくれ、と頼んだら、(つか)えたら前の分岐まで戻ればいいと的外れなことを言われた時のような気分だ。


「サジタリウスの固有武装を使って撃ち抜くのが一番効果的じゃないですか?」


宗之がそう言うのと、ビルの上の怪鳥が翼を広げて急降下してきたのは同時だった。

僕たちは一斉にガンモードのポラリスを構え、魔力の弾丸を集中させた。

しかし、怪物の進路は1ミリたりともずれない。


「硬っ!?」


危うくゴーストのカギヅメの餌食になりそうになり、僕は慌てて地面を転がって回避しようとした。

しかし、地面すれすれで急上昇した怪鳥の翼が僕の背中を掠めた。


「うわ……っ!?」


「先輩!」


僕の体は木の葉のように吹き飛ばされ、アスファルトに叩き付けられた。

痛みが一瞬で広がる。落ちたのが背中からだったのが不幸中の幸いだった。

慌てて起き上り、宗之に尋ねる。


「何なんだ、その『固有武装』っていう代物は!?」


「んな悠長に話をしてんじゃねえよ。また来るぞ」


見ると、ゴーストは上空で鮮やかに反転して、再びその視界に地上の僕たちを捉えていた。

宗之は不敵に笑った。いや、マスクで隠れて見えないけれど、声の感じからして多分笑った。


「こうやるんですよ、召喚(コール)!」


【アクセプト】【call】【テンビンハンマー】


リブラの機械音声とともに、虚空から長い鎖の付いたハンマー(トンカチ型ではなく、オリンピックで投げ飛ばされている方の鉄塊)が吐き出され、宗之は片手でそれを掴み取った。

彼女はそれをいとも軽そうに振り回し、上空から再び強襲してきた鳥型ゴーストに叩き付けた。

凄まじい重量を誇るハンマーの直撃を受け、怪物は甲高い悲鳴のような咆哮を上げて再上昇する。


「魔鎧は一領に一つ、強力な武装を保持しています。機体ごとに用途は攻撃に防御、索敵と様々ですがね」


「ま、呼び出しするために結構な魔力を食われるから、出してしまってまた出してってのはできねえけど、使ってしまえばご覧の威力だ」


「宗之……さっきの話だけど、とにかくサジタリウスの固有武装ってのがあの鳥には有効なんだな?」


「ええ。私も谷和原先輩も生憎武装は近距離から中距離用の代物ですが、本条先輩の武装は遠距離まで届きます」


「よく分からないけど……召喚(コール)


【了解】【call】【イテザアロー】


僕の左手に収まったのは、一張の洋弓だった。

アローとか言ったくせに弓だけで、肝心の矢がないじゃないかと思ったが、使い方は分かった、多分。


僕は弓を構えた。そのハンドルに魔力(、、)を流し込む。

狙う先には、乱れた挙動でバタバタと上昇するレベルⅣ


弓にある程度魔力を流すと、光り輝く矢が徐々にその姿を現し始めた。

ジクジクと痛む背中を意識の外に追いやり、僕はゆっくりと弦を引く、引く。


【ターゲットロック】


「了解、ファイア」


そっと右手を放した。


刹那の閃光、爆音



風で広がって辺り一面にサラサラと降ってくる灰を残して、ゴーストは消滅していた

え?武器のネーミングがネタでしかない?私の趣味だ、イイだろ?

いや、鎧武ネタって意外と万能ですね。

あのふざけたネーミングに関しては、変に凝った名前よりは分かりやすいし、書く方も混乱しないからです

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