内角総理大臣
九回裏、スコアは三対零で満塁、ツーアウトの状況で、ここを抑えれば先攻与党の勝利は確定する。
だが、逆にホームランでも打たれようものなら俗に言う逆転サヨナラホームランだ。その時点で対立政党の勝ちとなる。無論、ヒットすら許す余力は与党に無い。野手はすでに疲労の顔が濃い。
この状況での投手の責任は著しく重い。
更に運が悪い事に、この時バッターボックスに立ったのは四番、強打者の党代表だ。
しかし、与党も負けず劣らず、投手に総理大臣を据えてきた。彼は党内きっての名投手だ。
ダイヤモンドは本物の宝石の様にかたい緊張に包まれた。
第一投。球は高め、まっすぐストライクゾーンを通るも見送られ、一つストライクを取った。
二投目。外角を狙ったカーブボールはストライクゾーンから大きく外れる。これにも打者はバットを振らず、ワンボール。
三投目。低めのチェンジアップ。打者がバットを振るも空振り。これでツーストライクとなった。
あと一つでゲームセット。それを考え肩に力が入った投手は、四投、五投は球がそれボールになってしまった。
フルカウントというこの状況は、再び場に静寂をもたらした。
勿論、守備側に敬遠という手段が無い訳ではない。しかし、そんな選択を取ろうものなら内閣の支持率もとい、威信に関わるのだ。
投手が投球フォームを取る。彼は得意のコース、内角低めで勝負する気だった。相手だってそれを知らないはずがない。最も警戒されているはずだ。
だが、あえての勝負だった。
球は思い通りの弧を描き、吸い込まれる様にミットへ収まった。
『決まったー! 見事三振、スリーアウトを勝ち取った与党! 解散はありません!』
野球も政治も詳しく無いけどね(笑)