情報収集
賑わう市場で多くの人の声がバカみたいに聞こえる
屋台が列になっていて健太は人混みの中に立っていた。
「おら兄ちゃん、そんなところつったってると邪魔だよ」
「あ、ああ、すみません…」
頭にハチマキを着けた人が台車を引きながら言う。
台車には魚が沢山バチバチと元気よく跳ねているので恐らく魚を売っている人なのだろう。
健太は前に歩き台車の通る道を作ると、せっせらせっと台車が引かれて姿が見えなくなるまで健太は呆然と見つめていた。
次第に口角が上がり目が輝く。
「ゲームの世界かぁ~」
力いっぱい腕を伸ばす健太。
すぅと息を吸うといい臭いがただよっているのが分かる。
人と人とが雑談しながら歩いている人がいる。
楽しそうだと、健太は心の中に仕舞われていた何かがポカンと解放された感覚でいた。
200種のファンタジーゲームを攻略しただけあってあこがれていたゲーム世界。
まさかこんな形、いやそれ以上に異世界へ来ることが出来ると想像がつくはずもない。
心臓の鼓動が早くなる。
ワクワクしている気持ちが高ぶる。
これがデスゲームでなければ喜びの涙だろう。
「取り合えず情報が欲しいな…」
情報が無ければ何も始まらない。
「情報収集と言ったら酒場かな?」
そう思った健太は人混みの中を歩き出す。
***
「こんにちは」
酒場は近くに建てられていた。
扉を開けてそのままマスターらしき人に声をかけたのはいいが、かなり緊張気味な声のトーンでマスターは苦笑い。
回りの席に着いている冒険者も呻くように笑い声が聞こえて、健太自身もこれはないなと自嘲する。
2年間誰とも喋らずニートをやってきたことは伊達じゃないようだ。
「ボウズ、冒険者成り立てか?」
「あ、ああ、今日から冒険者になるんだ」
「ガハハ、そうかそうか!」
筋肉質で頭の禿げた男が言う。
「だが悪いな、ボウズに合う依頼は今はない、そんな痩せ細った体格じゃあ力仕事は向いてないだろう」
(そりゃあろくに家で満足した食事はとってなかったし、そうでなくてもおじさんみたいな筋肉質になりたくないな)
見れば見るほど大男だ、鋭い鋭利に毛皮を纏ったら熊に間違われても可笑しくはないほどに。
と、今はそんなことはどうでも言いと健太は口を開く。
「別に依頼をしに来た訳じゃない、というよりまだそう言うのよく分からないから、だからそれも加えて俺はこの町の情報を聞きに来たんだが…いいよな」
「情報か……随分熱心だなボウズ、若いってものは斬新に動くものなんだが今時珍しい、道理で目にクマが出来てるはずだ、勉強でもしてたのか?」
「まぁ勉強だな」
あらがち嘘ではない。
この世界ではゲームとほぼ同じだと思うしきっと役に立つ。
もし違いがあればそれを聞き出すだけ。
「まぁそれとこれとは別でそう言うことなら悪いが金取るぜ」
「ぐっ……まだ冒険者にもなっていない俺がお金を持っていると……?」
「ならこの話はなかったことにする。家に帰ってママンにでもお金を貸して貰いな、ガハハ!」
ブチッ。
鈍くて低い音がこめかみから聞こえてきた。
断られたことですら苛立った健太。
年は17才。更に追い討ちを食らわせたママンという言葉で一気にイライラゲージが限界まで上り詰められたのだろう。
。
「よぉ、あんた確かサカキって言ったか」
不意にマスターの見る視線が斜めに向き言う。
気づけば健太の隣に見知らぬ男が立っていた。
背が高い。第一印象はそれで、細長い輪郭に野球でもしていたかのような短い髪の毛とタレ目は優しそうな雰囲気を醸し出している。
だがそれは雰囲気なだけであって内心は大いに違うと健太は気づきかされた。
瞬間に男の腰に携えていた剣が鞘から抜かれ健太の首筋に剣を当てる。
「えっ?……え、ええ……」
間抜けな声と伴い脱力感が健太に襲う
あと数ミリ近ければ斬られていた。
自分の首筋から血がたっぷりと噴き出すことを想像して健太は蒼白な表情になり冷や汗が流れ出す。
「おいおい殺しは止めてくれ、ここが汚れるだろうが」
「かける言葉違くない!?」
健太の思考には慌てるか止めてくれると思ったが予想外の言葉につい突っ込む。
「ハハ、それもそうだな」
「認めちゃうの!?」
男は剣を納め笑顔を耕す。
何のために剣を抜いたのか分からない。
健太は口をパクパクしながら男を見つめていた。
「安心しろボウズ、そいつには殺意と言うものが全く持って感じない」
「その通り、マスタービール二つ頼む、ちょっと二人で話しようぜ」
ポンと健太の肩に手を乗せる。
「名前は?」
「浜田健太……あんたは?」
「内藤坂木だ」
(日本人?)
何かがひらめいた。
それはもう、迷宮でトラップの謎を解いたかのように。
「なぁ、あんたの名前は何て言うんだ?」
そう言いマスターの方を見る。
「アルビス・トーカスだが?」
ジョッキにビールをつぎながら言う。
どう聞いてもこの世界の人は名前が独特な感じ。
それに比べ、坂木は普通にある日本人の名前だ。
つまりサカキはこの世界の人ではない。
恐らくはゲームプレイヤー。
だけどまだそう決めるのは早い。
だってトーカスという独特な名前はこの街の住民だけかもしれないのだから。
そう思った健太は更にトーカスに聞く。
「独特な名前だな、それはどこの街でもそんな感じの名前なのか?」
「まぁ大きい違いはないな」
はぁと1つのため息を吐く健太。
「おいおい、人に名前を聞いといてため息はないだろう、ほらビールだ」
カウンターにビールを置きながら苦笑いするマスターを置いといて、健太は確定した。
この男、内藤坂木はゲームプレイヤー。
だってこの世界で一人だけこの名前はいくらなんでもないだろう。
何故坂木は健太のことをゲームプレイヤーときづいたのかは健太はしらないが。
きっとこの人も知らない世界に来て知識が薄い。
だから情報が欲しかったんだろう。
「俺はまだ未成年だぞ、内藤」
その辺の席に座り健太はビールに目を細める。
「そう言うな、この世界に日本の法律なんて関係ないんだからな」
「日本を知っていることはやっぱりあんたもゲームプレイヤーか」
「ゴクゴク、その通りだ浜野」
「健太で良いよ、同じ神に騙された人同士だ。その変わり俺も坂木と呼ぶからな」
「プゥハ、ああ、それでいい」
ゴクゴクと坂木はビールを飲み終えた。
「と、そんな事より俺さっき死にかけた、試しならもっと他のやり方があると思うが?」
「お? 気づいていたのか、なかなか頭の回る奴だな健太は」
「いや、適当に試しと言ってみただけだよ坂木」
「そうか、まぁ健太の言う通り試しだった、普通剣を抜かれたらびびらずお互いに構える、だが腰を抜かしてただろうお前は、この世界の初心者でもそのくらいはわきまえてる」
「坂木……意外にも詳しいな」
「ゲーム知識だ!」
「ダメじゃん! いばるなよ!」
はぁとため息を吐く。
坂木事を色々ぶっ飛んだ男だと思う健太だけど、それ意外にも抱いている感情がある。
このゲームはデスゲーム。それでも健太と坂木はお互い会話を話せられないほどの冷静さは失ってはいなかった。
ただ単に健太は殺す事が全てじゃないと思ってるしそんなの健太自身も嫌だ。
殺すことがクリアの全てじゃあ無ければこのゲームは終わりがあるのか?
健太はその問を簡単に解いた。
簡単なこと。
神の言う殺しの思惑を封じればいい。
幸いのことにこのノープレイヤー達には自分の意志がある。
それはさっき通りすがった台車の引いた魚屋。彼はこう言った。
邪魔だよと。
それはつまり健太がそこにいて台車が通れなかった事で放たれた言葉。
その他にも不思議なことに酒場のマスターもリアルに会話が繋がる。
ふつうならノープレイヤーは決められた設定でしか喋らないのだ。
(でもこのゲームの設計者神なんだよな、人格のあるノープレイヤーを作ったとしても過言ではないか…)
まぁそんな事はどうでも言いと健太は思考を元に話に戻す。
神が人格のあるノープレイヤーを作ったのは失敗。
殺し合いと言う思惑を封じる、それは健太達が、3万人のプレイヤー達がおもいっきりこの世界を堪能してやればいい。
3万人のプレイヤー達も流石に人を殺してまでこのデスゲームから 脱出を心みないだろう。
そうなればゲームでの殺しは始まらないしそうなれば神の考え方が変わりここから出してくれるかもしれない。
健太はそう考えていた。
「どうした健太? ボーして、まぁ色々考えて悩んでいるその気持ちはわかるがよ」
「なぁ坂木、お前は人を殺してまでこのデスゲームへの脱出を試みるか?」
んーと考える坂木。
数秒考えて、答えが浮かび上がり言う。
「俺は殺しなんてしないよ、別な脱出方法を考えている」
(そうだよな、もし殺しを試みているなら最初っから俺をやってるよな)
「まぁそんな深く考えるなよ、そんな事よりお前ブックの使い方知ってるか? 俺は3日前にこの世界に来て実験してみる時間があったから色々試したんだが…これがシンプルに出来ていてよ」
健太はそんなことを神は言っていたなと思い問に答える。
「いや、俺は今日来たからまだそう言うのは分からない」
「そうか、なら俺が教えてやるよ」
「ああ頼む」
長々とすみません。
戦闘はもう少し先になります。