七話 三姉妹と過去
今回はシリアス回です。
話し合いが終わった後、歩夢とシエルは二人でキッチンに並んで料理をしていた。歩夢がテキパキと調理しシエルがきれいに盛り付けていく。
シエルは『私が準備します』と言って聞かなかったが今まで殆ど一人暮らしで家事全般を一人でこなしてきたのだ。たまにサボりたいと思ったりすることもないわけではないがいきなり手持無沙汰になってもする事がない。
だからと言って休みの空いた時間に勉強に勤しもうと言うほど生真面目な方でもない。
なので『俺が一緒に作りたいから』と、どうにか納得してもらったのだ。実際、二人での作業は捗っていた。
「シエル。こっちも出来上がるから皿を出してくれる?青い花柄がついたやつ」
最初こそ躊躇いがあったものの人間慣れればなんとかなるもので、今は彼女を普通に呼び捨てに出来ていた(ちなみに最初は呼び捨てで敬語という奇妙な話し方になってしまっていたのをシエルに指摘されもした)。
「はい、これですか?」
「うん、それそれ」
彼女はどういうわけか食器や調理道具の場所を熟知していた。なんでも母さんが使っていた頃と置き場所が殆ど変っていないらしい。
シエルが手渡された料理を皿に盛り付けていく。そんな時、シエルが不意に話を切り出した。
「主、さっきの……妹の話なんですけど」
「……大丈夫なの?」
確認の意味も込めて質問する。その妹の話が積極的に語りたい内容ではない事は想像に難くはなかったし、それに何より悲しそうにしている彼女達を見たくはなかった。
しかし彼女はしっかりと頷いた。
「はい。メアの口からは言いにくいでしょうし……」
「……そう」
料理を盛り付け終わったシエルは調理道具を片づけながら話を続ける。
「私達、姉妹の末っ子。名前をフィユと言うのですが、あの子はすごく先代の主に懐いていたんです」
「……」
歩夢は黙って話を聞いていた。彼女の声と調理道具をすすぐ水の音だけが聞こえる。
「それ故でしょうか。優夢様が亡くなったことにあの子とメアは責任を感じているんです……」
シエルの声のトーンが少し落ちた。
「使い魔の契約というのは本来、熟練した魔法使いが使うとても高度な魔法です。ましてや人間と人間の間に魔力回路を繋ぎ、使い魔としての契約を結ぶなんてそれこそ数えるほどの魔法使いにしか出来ません」
母がいかに優れた魔法使いであったかがわかる内容。しかしその声は寂しそうなままだ。
「でもそれが優夢様にどれほどの負担をかけていたか……」
「……」
――そう、か……。
彼女は言っていた。『自分の本来のあるべき姿は“死にかけた人間”だった』と。つまり母は、シエルを……そしてその妹達を救おうとする為に使い魔にした。そういうことだろう。
だがそれは彼女達にとって、誰よりも大切にしたい存在であったと同時に“自分達の存在が何よりも母さんを苦しめてしまう”ということを意味していたのだ。
「だから……優夢様が私達を休眠させると告げた時、メアとフィユは反対しました。自分達はもう十分幸せだったから、と」
「でも母さんは……それを認めなかった」
シエルは静かに頷いた。
「優夢様が私達を残して逝ってしまわれて……あの子達はずっと後悔してるんです」
「……シエルは?」
「え……?」
戸惑うシエルに歩夢は脳裏を過ぎった疑問をそのまま口にした。
「シエルはしてるの?後悔……」
歩夢の問いにシエルが黙り込む。少し考えた後、口を開いた。
「していない……と言ったら嘘になります。ですけど感謝してる事に変わりはないですし、私は主の為に仕えると決めましたから」
「そう……」
このやり取りを最後に、二人は黙々と後片付けを続けるのだった。
次回は明るい内容にしようと思っております。
では、楠葉でした。