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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
間幕 本日クリスマス・イヴ
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五話 零 ―魔術書のゼロページ目―

目標、三月中にクリスマスイベントを終わらせる(

「うわ……やりすぎちゃったかな」


 部屋を出た先にある階段を上っていくとそこには歩夢の使い魔三姉妹が積み上げられるようにして折り重なった状態で眠っていた。

 魔法“Cradle of wind”は以前フィユの出来事の際に歩夢に使用した“Pendulum of catnap”と同じ“対象を眠らせる”魔法の一種であるがその対象の定義が少し異なる。

 Pendulum of catnapが効果対象者を指定するのに対しCradle of windは一定の範囲に効果を及ぼす。

 今回の場合はその一定の範囲というのが夜風邸全域だった為、彼女達もその効力を受けたわけだ。


「まあ、お酒で酔ったりしてなければ間違いなく防がれてただろうけど……」


 彼女達ほど優秀な使い魔ならこの魔法の発生を察知して無効化してしまう事は造作もないだろう。

 (もっと)もこの魔法は催眠効果と癒やし(ヒーリング)効果しかないのだけど(主に二日酔い対策)。


「此処より彼方へ、眠り姫達を寝床まで運んで差し上げて――“Carpet of wind(風の絨毯)”」


 何にせよこのままにもしておけないで隣の部屋に運ぶことした。 

 短く詠唱を済ませるとふわっと、眠っている三人の体が持ち上がる。


「さてと」


 部屋に隅っこに寄せてあった布団を広げ、運んできた全員をその上に寝かせた。

 同じように風の魔法で毛布を彼女達の上に掛ける。


「これでよし。あとは……」


 隣の部屋を見やる。

 そこで寝ているはずの少年の事を思い、少し口を綻ばせた。


「短い短い自由時間、かな」



 



「……さん」


 歩夢はおぼろげな意識の中で声を聞いた。

 聞き覚えのある声だ。


「歩夢さん」


 呼びかけられているのはわかっているのだが意識に体がついてこない。

 それに何故だか今の状態が妙に居心地が良いせいか起きたくなかった。


「起きないなぁ。歩夢さ~ん?」


 体をゆさゆさと優しく揺らされる。

 それさえもゆりかごに揺られるような気分にさせた。


――あぁ、何だか凄く落ち着……


「ふぅ……」

「うわぁ!?」


 心地よさのあまり再び意識が遠のきかけた瞬間、耳の中に生温かい風が吹きこまれた歩夢は思わず飛び起きた。


「やっと起きた。もう、歩夢さんってばお寝坊さんですね」

「……へ?」


 振りかえるとすぐ後ろに史の連れである栞の顔が映った。

 どうやら今までの居心地の良さは彼女の膝枕だったらしい。

 いや、それはともかく自分はいつ寝たというのだろう。

 記憶違いでなければシエル達に追いかけられて部屋に逃げ込んだところだったはずなのだが……


「クスッ、な~んて。眠らせた張本人が言うセリフじゃないですよね」

「あの……栞、さん……?」


 歩夢は戸惑いながら遮る。それは“眠らせた張本人”という事に対してではない。

 今、目の前で可笑しそうにクスクスと笑いながら喋っているのは間違いなく栞のはずだ。

 しかし言動も、感情表現も、普段の彼女と全く違うのは明白で、その事に対して疑問を抱かずにはいられなかったのだ。

 彼女が魔術書なら、そっくりな姉妹がいるというのも何かおかしい気もするわけで(そもそも何故人の姿をしているかはこの際、気にしない事にしている)。


「あ、ごめんなさい。もしかして驚いてます?」

「え?いや、その……うん」


 栞の問い返しに失礼かもしれないとは思いつつも歩夢は素直に頷いた。


「えっと、そうですね……とりあえず先に断っておきますと私は栞ちゃんじゃありません」

「え?でも声も見た目もそっくり……っていうかまんま同じというか」

「あ~、体は栞ちゃんなんですけど中身が違うというか、何というか……」

「……二重人格、みたいな?」

「正確には少し違いますけどね。栞ちゃんはこの体――魔術書の管制人格で私は魔術書の中の一部みたいな感じです」


 何やら突飛な話で歩夢は混乱しかけたがそこは持ち前の機転の良さで考えるのをやめた。

 不思議は何処まで行っても結局不思議でしかないので少なくとも今の自分が考えてもわかるはずがないからだ(思考の放棄ともとれるが気にしない)。


「え~っと、じゃあ君のことは何て呼べばいい?」

「え……?」


 栞の体ではあっても中身が違う以上別人だ。

 ならば別の呼称があっても不思議ではない(自分の中で名前という形で栞と区切りをつけたかったというのもある)。


「名前、か……」

「もしかして……無いの?」


 だとしたら失礼な事を聞いてしまったかもしれないと思い謝罪しかけた歩夢に対して栞は――栞の体を借りた少女は首を横に振った。


「“無い”っていうより“違う”かな。私の元になった人と私は別物だろうから……」

「それってどういう……」

「ううん、何でもない!」


 歩夢の問いを少女は笑顔で遮った。

 その笑顔が何故か泣いているように見えて歩夢は言葉を失う。

 これは自分が安易に踏み込んではいけない。そう思わせる程の――笑顔。


「そうだな~……じゃあ、魔術書のゼロページ目って事で(れい)!私のことは零って呼んで!」

あと二話くらいで終わらせようと思ってます。

見捨てずにいてくれる読者の皆様に感謝を。


楠葉でした。

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