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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
間幕 本日クリスマス・イヴ
41/45

一話 パーティって準備する行程を楽しむのも大事だと思います

年明けてからクリスマスイベントとかツッコミ入れたら負けですよ!(

「おーい、メア。飾りつけは終わったか~!?」

「もうちょっと~!」

「シエル~!肉は焼けたか~!?」

「あと少しです!」

「フィ~ユ~!食器の準備は終わってるか~!?」

「終わっています」


 12月24日、18時48分。

 世間一般ではクリスマス・イヴである今日、夜風邸は大童おおわらわだった。

 理由は数時間前に遡る……





「……クリスマスパーティ?」


 携帯の液晶に表示される文章を黙読していた歩夢が声を漏らした。

 フィユを覚醒させる為の魔法を使い、事態を解決した歩夢が目覚めたのは翌日の朝。

 ベッドのすぐ横には布団が一枚敷かれ、姉妹全員がぎゅうぎゅうになりながら寝ていた。ずっと付き添っていてくれたらしい。

 あの後どうなったのかシエル達に事情を聞いたところ『魔力の消費と精神(メンタル)面の疲労で目覚めるのは多少遅れますが放っておいて問題はありません』と言い残し、栞は去って行ったそうだ。

 そして現在、歩夢は自室に置かれていた携帯に着信が来ていた事に気づき、その確認作業を行っていた。

 着信件数、32件。その全てが正平のものであった。

 しかし、何か。

 これを言葉でどう表現したものか。

 最初の10件は『24日に予定がないなら遊びに行かないか』や『どの辺なら都合がいい?』という誘いのメール。

 そして次の10件は『すでに予定が入ってるのか?』や『返信しろ~!』という確認の内容。

 問題のラスト2件に至っては『まさか、お前メイドさん達と一緒に過ごしてリア充満喫する気か!?俺も混ぜろ!異論はこのメール送信後5分以内しか受け付けない!!』と『5分経った!もう異論は受け付けない!明日はお前の家で19時からクリスマスパーティだ!!ちなみに料理はお前が担当な、以上!!』である。


「…………」


 最早何処からツッコミを入れたらいいかわからないような内容。

 というか5分以内と制限時間を書いておいて2分後に決定メールを送りつけるのは如何いかがなものか。

 色々と面倒な奴に彼女達の存在を知られてしまったと、今更ながら後悔する歩夢である。


「何だ、起きてたんだ」

「……あ、八神さん。おはようございます」


 八神と偶然廊下で鉢合わせ、挨拶を交わす。

 昨日は色々と思いだして会話がぎこちなかったが今は普通に話せた。


「おはよう。……どうかしたの?」

「いや、まあ……色々あってというか、今からあるというか……」

「……?」


 メールの件が顔に出ていたのか訝しむ八神に事情を説明をする。

 内容を公開するのは流石に憚られたので『友人に強引にクリスマスパーティの開催を強要された』という内容に暈した。嘘はついてないと思う。


「無理言ってるのは向こうなんだし断ればいいんじゃない?」

「いや、別にするのは構わないんだけど準備とか全然してないのが寧ろ問題だったり」


 正平に強要されずとも使い魔少女達にクリスマスパーティの提案は持ち掛けられていただろう。

 なのでやるのは一向に構わないのだが、どちらかと言えばその準備をしていないのが問題だった。


「ふ~ん、でも人手ならいっぱいいるじゃない。あの子達が」

「それはそうなんだけど……」


 人手があるのはわかっていた。

 何と言っても彼女達は使い魔だ。頼めば喜んで手伝ってくれるだろう。

 しかし歩夢が危惧しているのはそういう事ではなかった。 


――連れて行くと目立つんだよなぁ……


 そう。彼女達は良い意味でも悪い意味でも目立ちすぎる。

 今回は下準備もしていないので出来ればサクサクと作業を進めたい。

 なので前回のショッピングモールの二の轍を踏むわけにはいかなかった。


「あの、八神さん」

「……何?」

「よかったら手伝ってもらえません?」


 歩夢の提案に八神は鳩が豆鉄砲食ったような表情を浮かべる。

 それはそうだろう。

 歩夢自身、こんな風に彼女に何かを頼む日が来るとは初めて会った時は思ってもみなかったのだから。


「シエルとメアには別の事をやってもらおうと思って。お礼はちゃんとしますから」

「……お礼、って?」


 八神の問い返しに歩夢は内心少し驚いた。

 正直なところ断れると思っていたからだ。


「え~っと、俺に出来る範囲の事であれば」


 八神は僅かに視線を逸らし、少しの間逡巡した後、再び口を開いた。


「いいわよ。あたしも今日は予定なかったし」

「ありがとう、助かります」

「貸し1つね」

「…………」


 何故かしてはいけない契約を結んだ気がしたが、歩夢は敢えて聞かなかった事にした。


「じゃあ……」


 「またあとで」と言いかけて思い止まる。

 頭の中を一つの疑問が過ぎったのだ。


「……そう言えば昨日の栞って人の事、八神さんは知ってるの?」

「え?うん、まあ。知ってるっていうかあいつの持ち主と知り合いっていうか……」

「持ち主?」

「あの時に言ったでしょ。あいつは人の姿はしてるけど魔術書なの。だから持ち主がちゃんといるわけ」

「持ち主、か。どんな人?」

「何考えてるかよくわかんない奴よ。あいつも持ち主に似たからあんな風になったのかもね」

「なるほど……うん、教えてくれてありがとう」


 どういたしまして、と返事を返しつつ八神は一階におりていった。

 その姿を見送った後、昨日の事を思い返す。


――『お初にお目にかかります、歩夢様。私はしおり。貴方のサポートの為に、我が主(マイロード)の指示で参りました』


 「……お礼、言わないとな。あの人にも、その持ち主にも」


 再び会える機会があるかはわからないが、八神の知り合いである事を考えれば可能性がないわけではないだろう。

 彼女とその持ち主に会える事を、歩夢は密かに願った。





「歩夢さん、いいんですか?姉さん達、置いてきて」

「え~っと、うん。まぁ、今回は……」


――また両側からくっつかれても困るし……


「随分不満そうだったけど?」

「言わないで下さい……」


――帰るのが怖くなるから……


 フィユ、八神の二名を引き連れ、歩夢は近くのスーパーまで足を延ばしていた(シエルとメアの二人を説得し家を出るのに15分もかかった)。

 距離的にいえばショッピングモールよりやや近い。

 なので普段の買い物などはここを利用していた。


「これと、これと……」


 カートを押しつつ手早く商品を見つけ、買い物カゴに素早く放り込む。

 この時、入れる商品の順番や配置も決めている辺りが場慣れしているのを窺わせる。


「卵って下の方に入れて大丈夫なの?」

「卵のパックは衝撃には弱いけど重さには結構強いから大丈夫ですよ」

「歩夢さん、お肉はどうしますか?」

「こっちのカゴにお願い。飲み物は持ってきてくれるみたいだから今日はいいよ」


 歩夢のあまりの手際の良さに舌を巻くフィユと八神。

 正直荷物持ちくらいしかやる事がなさそうである。


「ねぇ、アンタどう思う?」

「どう、とは?」

「いや、その。アンタは自分のマスターがああいうのが得意なのをどう思ってるわけ?」

「……好きですよ。それがどうかしましたか?」

「……随分ストレートにものを言うのね」

「別に誤魔化すようなことではないと思いますし」

「まぁ、そうかもしれないけど……」

「貴女こそどうなんです……?」

「……え?」


 フィユの問いに思わず詰まる八神。

 答えを待たず、フィユは問い詰める。

 いや、それは問いというよりは確認だった。


「好きなんですか?歩夢さんの事」

「ハァ……!?ば、バカ言わないでよっ!何であたしがあいつの事なんかを……」

「そうですか。自覚がないならいいです」

「……何か言った?」

「いえ、何も」


 白々しい、と内心思いつつも八神はスルーした。

 どうせわざと聞こえるように言ったに決まっているのだ。

 ならばわざわざ自分から釣られにいくことはないだろう。


「歩夢さんにどんなお礼をしてもらうかどうか考えていたか、なんて一言も」

「そんなこと言ってなかったでしょ!……っていうか聞いてたの!?」

「あら、当たりでしたか。歩夢さんならお礼はするから手伝って欲しいみたいな事を言いそうなので鎌をかけてみただけだったんですが」

「……うっ!」


 フィユのしれっとした発言に八神は返す言葉を失った。

 完全に図星だっただけに反論出来ない。

 というか何処まで筒抜けなのだ、彼女達のマスターは。


「あの、八神さん?何話してるか知らないけどもう少し静かに……」

「アンタのせいよ!!」

「ええっ!?」


 ベクトルは違えど、結局似たような展開になってしまう歩夢達であった。





 薄暗い部屋。

 部屋の主よりも背の高い本棚の中には分厚いものから薄いものまで大量の本が並んでいる。


「…………」


 部屋の主――史は机の上に置かれたライトスタンドの光を頼りに本を読んでいた。

 誰も邪魔する者のない部屋は静かで、ページをめくる音しか聞こえない。


「……?」


 そんな静かな部屋に物音が響いた。

 机の上に置いていた携帯のバイブ音だった。

 読んでいた本にしおりを挟み、携帯に出る。

 かけてきたのは正平だった。


『もしも~し。史か?』

「ああ、何だ」

『突然だけど今日空いてるか?』

「……用件は?」

『おう。今日な、歩夢の家でクリスマスパーティやる事になったんだがお前も来ないか?』

「……別に構わんが」

『おっし!なら話は早い!じゃあ、お前ケーキ担当な!集合は午後7時にあいつの家!俺は他に用意するもんがあるからあとは任せたぞ~!』


 返事をする暇もなくブツッという音と共に声が途切れた。

 なんともせわしない奴だ。


「……11時15分、か」


 携帯で現在の時間を確認し、本を机の上に置いた。

 椅子から立ち上がり、ポキポキと指を鳴らす。


「まぁ、間に合うだろ……」


 史は小さく呟き、静かに部屋から出て行った。

だいぶ遅れました、楠葉です。

年越しちゃったな~……なんて思いつつも何とか書いてます。

もう少し続きます。


これからも宜しくお願いします、楠葉でした。


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