三話 契約とキス
お約束と言えばお約束ですね(
「……ちょっと待って?」
歩夢はシエルの言葉に疑問を抱き、確認するように問う。
「本当の契約ってどういう意味ですか?今の話の流れだと母さんは亡くなる前に契約の引き継ぎをしてシエルさんを生かそうとしたんですよね?だったら俺か、あるいは別の誰かが主になってないとおかしくないですか?」
そうだ。彼女は自分のことを主と呼んだのだ。契約の引き継ぎというものがいかようなものかはわからないが少なくとも今現在の彼女の主は自分なのだろう(全く身に覚えがないが)。そうでなくては彼女が存在していることについての辻褄が合わない。
「そうですね……。これも説明すると長くなるので簡潔に言いますと、今の今までずっと眠っていたんです、私」
「……へ?」
歩夢が思わず間抜けな声を上げるがシエルは構わず続ける。
「優夢様も出来ることなら最初から契約の引き継ぎを行いたかったようなのですが、なにぶんまだ歩夢様が幼かったので使い魔の魔力コントロールを全て任せるのは不安だと判断なさったんでしょう。臨時的な回路を私達と歩夢様の間に繋いで、私達は魔力の消費を極力抑えるように休眠モードになっていたんです」
「……パス?」
「魔力回路のことです。これがあることで私達は主から魔力供給してもらうことが出来るんです」
フム、と歩夢は腕を組みながらうなった。確かにそれなら今まで彼女が自分の前に姿を現わさなかったのかの説明も出来る(どこで眠っていたかは置いておくとして)。
「でも、俺に本当に魔力とかってあるの?魔法とか全然使えないんですけど」
かなり今更な話ではあるが当然の疑問ではあった。少なくとも今日まで世間で言う常識の範疇の中で生きてきたのだから、自分がそんな特異な人間であるとも思えない。
「はい、れっきとした魔法使いです。正確に言うなら魔法の素質を受け継いでいる方という表現が正しいかも知れませんけど……」
「うーん……」
突拍子のない話ではあったがだからと言って「信用できない。さっさと出て行け」みたいなことを言えるほど肝が据わってもいない。悩むこと数秒、歩夢は決断した。
「……何をすればいいの?」
シエルの表情がパッと明るくなった。だいぶ慣れてきたがその笑顔は反則だと思う。
「では、こちらへ」
促されるように炬燵から抜けて和室に入るとシエルが首から何かを外した。
銀色のチェーンの先にピンク色の宝石のついたネックレスのように見える。
「それは?」
「契約に使う魔術礼装の一種です。“誓いの宝石”とか色々呼び方はあるみたいですけど……」
シエルの言葉が途切れた。
と、ネックレスを握った手を前にのばして、静かに呟き始める。
「タイプX01契約儀式プログラム、起動。術式展開……」
ピンクの光が宝石から溢れるように出たかと思うとそれは瞬時に歩夢とシエルを包んだ。
「……!?」
「契約の輪展開終了。最終認証を行います」
気がついたときには二人の足元には妙な輪が出来ていた。これがいわゆる魔法陣だろうか。
輪から漏れる光が宙を漂い消えていく様子が何とも神秘的な雰囲気を醸し出している。
「歩夢様、よろしければ目を瞑ってもらってもよろしいですか?」
「……へ?何で?」
「その方がやりやすいので」
「……??」
よく意味がわからなかったが言われた通り、目を瞑る。
目の前で起きていた光景とは裏腹に目を閉じてみると思いのほか静かだった。
「これでいい?」
「はい。十分です」
シエルの足音が近づいてくるのがわかる。
一歩。
また一歩。
気づいた時にはそれは彼女の吐息が頬に触れる程の距離になっていた。
「あの……シエル、さん?」
気まずくなりつつも何とか声を絞り出す歩夢。
しかし、シエルは歩夢の手を握りつつ耳元に囁くように言った。
「シエルとお呼びください。主……」
歩夢がその意味を問うよりも先に、その唇をシエルの唇が塞いでいた……。
ようやく一区切りつきそうですがなかなか妹達の出番が回ってきません。
もっとタイピング早くならないかなーorz
楠葉でした。