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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
第一章 魔法使いの息子
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三十六話 夢の中の邂逅

シリアス編、もうすぐ終了です。

 シエルとメアの部屋には彼女達の分の寝具(ベッドではなく普通の敷布団だが)と簡易テーブルくらいしか置かれていない。

 それらを全て部屋の隅にやり、歩夢・シエル・メア・栞の計四名は部屋の中央に集まった。

 今回やる事を歩夢に説明する為だ。


「では、まず歩夢様には眠って頂きます」

「眠る……?」

「うん。お兄ちゃんはまだ自分で他人の精神世界に干渉ダイブする事が出来ないと思うから一旦現実世界(こっち)の意識を閉じて、後付けでお兄ちゃんの精神をフィユのいる箱庭の中に飛ばすの」

「なるほど。それでその後はどうすればいいんだ……?」

「それは、正直わかりません……」


 シエルの予想外の返答に歩夢は思わず面喰う。

 シエルはそのまま申し訳なさそうな表情のまま続けた。


「フィユは今、罪悪感から目覚めるのを拒んでいます。だから精神世界の中であの子の罪悪感を取り去るなり出来れば事態は解決するんですけど……」

「そう、か。具体的な解決方法があるってわけじゃないんだな……」

「……はい。でも、私……信じてますから」

「ボクも信じてる。だから、お兄ちゃん……フィユの事、お願い」

「……わかった」

「では、歩夢様。ここに横になって下さい」


 栞の指示に歩夢は頷き、その場に仰向けになった。

 歩夢を中心にするように三人が離れると、三角形になるような形で歩夢を囲む。

 栞が手を前にかざすと、家の前で見せたときと同じ分厚い本が現れた。

 そしてそれをそのまま宙に放り投げる。


「魔術書“Pendulum of catnap(うたた寝の振り子)”起動」


 放り投げられた魔術書が栞の声に反応して開き、そのまま宙に浮く。

 そこから大量の本のページが飛び出してきた。

 飛び出したページは部屋を縦横無尽に飛び回り、そのまま深い翠色の光を放ち始める。


「歩夢様。今から発動する魔法で貴方は一時的に眠る事になります。そうなれば私達はもう貴方に直接干渉する事は出来ません、準備はよろしいですか?」

「大丈夫です。必ず連れて帰ってきます」


 根拠などない。しかし確信を持って歩夢はそう答えた。

 光が散り、それらが部屋中に大きな魔法陣を描く。

 それはある種の芸術のようでもあった。


「術式展開完了、発動します」


 部屋が光に包まれ、少しずつ薄らいでいく意識の中、歩夢はゆっくりと目を閉じた――。





 夢。

 そう、これは夢。

 久しく見ていなかった、自分の夢。

 白い天井に白い壁。

 傍らには自分の手を握り返す、ほっそりとした白い手。


――どれ程の時をそうしていたのだろうか。


 わからない。

 握っていなかったもう一方の手で、頭を撫でられる。

 少しくすぐったいけど、何だか凄く心地よくて握り返す手の力を強くした。

 撫でてくれるこの感触が、遠くに行ってしまわぬように……


――何がそんなに不安なのだろうか。


 わからない。

 でもそうしていないと、まるで目の前にある温もりが泡沫うたかたのように消えてしまいそうで。

 だから不安を言葉にした。

 ただ、肯定してほしくて。


「おかあさん。げんきになる……?」


 それはまだ幼い子供の声。

 幼い頃の自分の声。

 母の口が微かに動いた。

 呟くように。

 聞き逃しそうなほど小さな声で。


「ごめんね、歩夢……」





 歩夢はゆっくりと目を開けた。

 最初に感じたのは、少し懐かしさを感じる温もり。

 次に感じたのは後頭部に当たる程良い柔らかさ。


「おはよう、歩夢」

「え……」


 少しおっとりとした、優しい響きの声。

 それは歩夢がたった今まで見ていた夢の中で聞いた声。

 そしてもう二度と自分の名前を呼ぶ事はないと思っていた声。

 歩夢は問う。

 震えそうになる声を必死に抑えながら。


「母、さん……?」

「大きくなったね、歩夢」


 柔和な微笑みを返しながら自分の歩夢の顔を覗き込んでいたのは彼の母。

 夜風優夢、その人だった。

年内にクリスマスイベントが終わるように頑張ります。


楠葉でした。

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