三十四話 それは永遠という名の
クリスマス中にクリスマス編を書きたいけど間に合うかな……
歩夢は困惑していた。
最近、不可思議なトラブルに幾度となく見舞われた事で多少なりともついたとはいえ、生きた西洋人形のような見知らぬ美少女がいきなり家を訪ねてくれば驚きもするだろう。
しかも今回は『サポートの為』に『指示で』来たと本人が言っている以上、外部の存在である事は明白だ。ならば無条件に家にあげるわけにはいかない。
「え~っと、どういったご用件で?」
すでに用件は言っていたような気もするがあえて無視した。そもそも内容が漠然としすぎている。
『先ほども申し上げました通り、サポートの為です。歩夢様』
「いや、確かにそれは聞いたけど……もう少し具体的にお願いしたんですが」
『……了解致しました。私の口から言える範囲の指示内容、及びその経緯をお話し致します』
一旦言葉を区切ると栞と名乗った少女は右手をインターホンについたカメラの前に向けた。
一瞬、手のひらが光ったかと思うとその手の上に翠の表紙がついた分厚い本が現れた。
『まず今のでわかって頂けたと思いますが、私は魔法を知るものです。そして私の主がとある方から依頼を受けました』
「……とある方って?」
『貴方の父君、夜風歩紀様です』
「父さんが?」
『はい。そして、私はその依頼を実行する為にここに遣わされたのです』
「その依頼って、もしかして……」
『心当たりがおありですか?』
抑揚のない声で問われる。
心当たりと言われればアレしかない。
しかしそれは同時に彼女達を泣かせたものでもあった。
「オルゴールの事、か……」
『お察しの通りです。依頼者の言葉を借りますと『今のあの子達だけでは難しいから手伝ってやって欲しい』との事でございます』
「……」
歩夢は黙り込んだ。
メアの言葉を思い出す。
――『お兄ちゃんを危険な目に遭わせたくないからだよ!!!』
危険だと、メアは言った。
二人があのオルゴールの事を話したがらなかったのは恐らく『説明すれば危険とわかっていても自分が実行する可能性があった』からだと思う。
それほどに彼女達は自分の身を案じてくれているのだ。
それは嬉しいと同時に悲しくもあった。
「あのオルゴールが何か……貴女は知っているんですか?」
『はい、知っています』
「教えて、下さい……」
出来る事があるならば、やりたかった。
「あのオルゴールの事、教えて下さい……!」
他でもないあの二人と、その妹の為なのだから。
『……承りました』
歩夢は栞を家の中に招き入れるとそのまま二階へと向かった。
シエルとメアに会う為だ。
「……」
階段をのぼりながら歩夢は先ほどまでの話を思い出していた。
あのオルゴールが一体何だったのかを。
――『あのオルゴールの正式名称は“エター二ティ”、“魔奏具”と呼ばれる魔術礼装の一種です。調べに術式と魔力を込める事で、音色と共に術式を綴って魔法を発動させます』
魔術礼装。
魔術儀式等に用いられる道具の総称であり、一般的には魔具と呼ばれるものらしい。
イメージで言えば魔法使いが持っている杖や、シエルとの契約に使われた“誓いの宝石”もそれに分類される。
――『“エターニティ”は術者のコントロール下にある限り、その術式を発動させ続ける事が出来ます。その効力によってあのオルゴールから展開されていた魔法は“箱庭”という空間創造魔法』
――『空間、創造……?』
――『簡潔に申し上げますと今、貴方の傍にいる使い魔の方々が眠っていた場所です』
疑問が一つ解けた。
あえて聞いたりはしなかったが彼女達が何処からやってきたのか気にはなっていたのだ。
しかし、その理屈で考えると一つ矛盾が生じる。
――『ちょっと待ってくれ。オルゴールはずっと俺の手元にあったけど音なんて鳴ってなかったぞ……?』
――『当然です。術者が死ねば魔法も止まるのですから』
――『え……でも、それって』
――『そうです。それは“箱庭”の消滅を意味します。なので優夢様は一つの手段を取られました』
栞はただ淡々と、事実を告げた。
誤魔化す事も何もせず、ただ事実を……
――『術式をオルゴールに込めた後、己の意識体とオルゴールの本体を“箱庭”の中に封印する、という手段を』
暗い……
ラブコメにあるまじき暗さ……
クリスマスと元旦で何とか挽回しないと。
楠葉でした。