三十三話 銀髪の訪問者
すみません、更新遅れましたorz
冬の寒空の下。
歩く音さえ感じさせないほど静かに歩く少女がいた。
光を照り返すは長い銀髪。
瞳に宿る色は紅と翠のオッドアイ。
磁器のように白く澄んだ肌にフリルをあしらえたベージュ色のドレス。
普通に考えれば寒いに違いない格好でありながら、その表情は動かない。
それはまるで西洋人形が等身大で動いているかのような現実味のない光景だった。
道をすれ違う人々が目立つ彼女を目線だけで追いかけ、通り過ぎていく。
しかし少女はそれらを全く意に介さず、歩きながら呟いた。
「目標地点まで、あと10メートル。指示内容、再確認」
口から紡ぎだされるのは機械的な単語の羅列。
「目標地点にて、我が主の友人、夜風歩夢様の魔術補佐および危険時の救援。失敗確率……0.05%」
足を止め、視線を転じる。
そこが彼女の目的地だった。
「指示内容、再確認終了。了解。指示を実行します」
「ちょっと待って、二人とも」
俯き気味に話すシエルとメアの間に歩夢が割って入った。
いつの間にか当事者である自分が置いてきぼりになっていたからだ。
「一体何の話をしてるの?俺にもわかるように説明してくれよ」
歩夢の問いかけに二人は一瞬渋るような表情をした後、メアが首を横に振った。
「どうして?これは……」
「これを使えば“フィユ”を起こす事が出来る、って言いたいの?お兄ちゃん」
「……違うのか?」
「違わないよ。正確にはこれは起こすのに必要なものであって方法は別にあるんだけど……」
「なら、どうして……」
「お兄ちゃんを危険な目に遭わせたくないからだよ!!!」
メアの怒号が部屋に響く。
その瞳には涙が潤んでいた。
「……メア!」
「でも、お姉ちゃん!」
「私達には……説明する義務があるわ」
「でも……でも……!!」
堰を切ったように涙を零し、メアは顔を手で覆った。
それをシエルは背中から抱きしめる。
歩夢はわけがわからなかった。
一つだけわかっているのは“自分が彼女達を泣かせた”ということだけ。
――父さん、帰ってきたら一発殴らせてもらうからな……!
あの父がわざわざ必要のない事を教えたりはしないと思う。
だから、これが解決法だというのは事実なのだろう。
それでも許せなかった。
二人を泣かせるような方法を自分に教えた事が。
そしてそれを疑いもせず話して泣かせた自分自身も。
「ごめん、もう……いいよ」
歩夢は絞り出すようにそれを口にした。
フィユを起こしてやりたい。あんな悲しい夢から覚ましてやりたい、と思ったのは本当だ。
でもそれで二人を泣かせるような真似は……したくない。
「でも……主」
「いいよ。義務とかじゃなくて、二人が話してもいいと思えるまで待つから」
「……」
シエルの瞳にも涙が浮かぶ。
彼女もやはり話したくはなかったのだと思う。
歩夢は静かに視線を逸らした。
泣いてる女の子をジロジロ見るのは良くない。
本当は慰めてやりたかったが、泣かせた当の本人がそれをすべきではないだろう。
――ピンポーン
不意に家のチャイムが響いた。
このままこの場所にいるのも少し辛くもあった歩夢はその助け舟に乗ることにした。
助け舟と呼んでいいかは微妙なところではあったが。
「出て……くるよ」
それだけを言い残し部屋を出る。
返事は……なかった。
階段をおりるときの足音が、妙に五月蝿く感じる。
いつもより家が静かなせいだろうか?
可笑しな話だ。
ほんの数日前まで一人暮らしだったのだから、寧ろここ数日が騒がしかっただけなのに……
「泣かせちゃった、な……」
ただ、それだけの事実が胸に重くのしかかった。
ドアホンを手に取る。
出来るだけ声が暗くならないように多めに息を吸った。
「はい」
我が家にあるドアホンはカメラ付きの相手の姿が見えるタイプだ。
そこには一人の少女が立っていた。
長い銀髪にベージュのフリルドレスをあしらえた無表情の少女が。
『夜風歩夢様でしょうか?』
「……はい?」
『お初にお目にかかります、歩夢様。私は栞。貴方のサポートの為に、我が主の指示で参りました』
「……は?」
初めてシエルと出会った時と同様、間抜けな声を歩夢は漏らしていた。
さて、またわけのわからないのが出てきました(
更新急ぎます。
楠葉でした。