三十一話 メアと母のオルゴール
失速気味です……
「……」
歩夢はシエル達の部屋の前で立ち往生していた。
シエルと八神、先ほどまでの二人の話を立ち聞きしてしまったからだ。
――は、入りづらい……
確かに大事な用事ではあるのだが、だからといってわざわざ自分から地雷を踏むような真似はしたくない。
でも後回しに出来るような事でもないわけで、扉の前で一人で唸っていると一階の方から物音が聞こえてきた。
忍び足を意識しながら歩夢は部屋から離れ、一階におりた。
「ふにゃ~、シロは温かいね~」
「にゃ~」
炬燵に座るメアが膝の上に羽の生えた黒猫“シロ”を乗せて両腕で抱きしめている様子が視界に入りる。
思わず頬が緩んだ。
何というか、これは見ていて凄く和む。
少しの間その様子を扉のガラス越しに眺めた後、歩夢は扉を開けた。
「あ、お兄ちゃん」
「シロと遊んでたの?」
「うん!この子、抱きしめるとすご~く暖かいんだよ。お兄ちゃんもする?」
メアがそう勧めながらシロをこちらに向ける。
「……」
「……」
なんか凄く睨まれてる気がするのは気のせいだろうか?
以前、炬燵の中で噛みつかれた事が頭の中でフラッシュバックする。
考える事、一瞬。
「……俺はいいよ。シロはメアの方が好きみたいだし」
「う~ん、そうかな?」
やんわりと断った。絶対噛まれる。
「ところでメア。話があるんだけど」
「ん?何、お兄ちゃん?」
右手に抱えていた木箱、それをメアの見える位置に置く。
メアの表情が変わった。
「お兄ちゃん、これ……」
「メアはこれが何か知ってるのか?」
「……お兄ちゃんは知らないの?」
「いや、これはずっと母さんの形見として持ってたものなんだけど……何か特別な意味があるのか?」
メアは木箱から視線を逸らさず、しかし少し考えるような表情をした後に逆に問い返してきた。
「これ、おじちゃんが……歩紀さんが見せるように言ったの?」
「え、うん」
「そう、なんだ……」
少しショックを受けたような、そんな表情でメアは木箱から視線を逸らした。
彼女が小さく「回帰」と呟くと膝元で抱いていたシロが光に包まれて消える。
そのまま静かに炬燵から抜け出し、立ち上がった。
「お姉ちゃんの所に行こう?ボクだけじゃ判断出来ないから」
「あ、ああ。わかった」
メアが脇を抜けていき、その後ろについて歩く。
彼女の小さな背中が、いつも以上に小さく見えた気がした。
メアは半ば憤慨していた。それは今から行われるであろう行為を見越しての事だ。
歩夢が持ってきた、手のひら大の木箱。
あれは自分達、夜風優夢の使い魔だった者達にとって決して切れることがない繋がりだった。
唇を強く引き結ぶ。気を抜いたら、涙が出そうな気さえしたから。
――おじちゃん……何を考えてるの……?
メアは終始無言で階段をのぼった。
三女登場まであと少しというところで失速中、申し訳ありません。
楠葉でした。