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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
第一章 魔法使いの息子
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二十九話 父への電話

三女登場まであと少し!

「はぁ~~……」


 夜風歩夢は自室にて大きなため息を漏らした。

 別に何かに億劫になったり憂鬱な気分になったりしたわけではないが疲れたのは事実だ。


「一体何だったんだ?」


 全くもって朝は大変だった。

 油断していたとはいえ八神さんには思いっきり失礼なことをしてしまうし、それに感づいたメアから散々尋問という名のくすぐりを受け続けたかと思えば(しっかりお説教をした後に朝食を前に正座をさせ30分我慢という罰をメアに与えた)、知らないうちにシエルと八神さんが何だか少し仲良くなっていた。

 シエルに理由を聞いても『女の子同士の秘密です』の一点張りで全くわからなかった。どうにも女の子というのはわからん。

 思考を一旦区切り、机の上に置いてあった携帯を手に取って液晶を開く。

 素早く操作し、作業を終えると再び液晶を閉じた。


「送信完了、っと」


 相手は夜風歩紀、父だ。

 基本的に父にはメールで連絡する。いつでも電話に出られるとは限らないという事と、メールに用事を書いておけば折り返し電話が掛かってきた時に説明する手間が省けるからである。

 珍しい事に、今日はすぐに電話がかえってきた。

 閉じていた携帯を素早く開く。


『お~、歩夢か?』

「父さん、今日は早いね」

『まあな、普段とは少し違う事務仕事やってて今終わったとこだ。少しなら時間もある』

「……なら手短に聞くけど」

『……フィユの事か?』

「うん」


 そう。

 今回父に連絡を取ったのは他でもない、使い魔三姉妹の末っ子“フィユ”についてだ。


「シエルもメアも同じ日に俺の所に現れたのにその子だけまだ目覚めてない。母さんがやった休眠スリープってそんなに目覚めに差が出来るものなのか?」

『う~む。それは父さんも実は考えとったんだ。二人だけ目覚めてあの子がだけが遅れる理由が何かあるかどうか』

「何かあったの?」

『それがサッパリだ。お前の母さんが優れた魔法使いだっていう話はシエル達から聞いたな?実際、優夢さんほどの魔法使いがそんなミスをするとも思えん。契約魔法をする魔力消費を考えて日をずらしたっていう可能性も考えたが、それならメアを同じ日に目覚めたのが説明出来なくなるしな』

「……」


 確かにそうだ。

 母が亡くなったのは自分が物心ついて間もない頃だったからもう十数年以上前という事になる。

 それでもなお、あの二人は同じ日に現れた。これはきっと偶然ではないのだろう(何となくメアは日にちが多少ズレてても負けず嫌いから起きそうとも思ったが)。

 そこで歩夢は一つ仮説を歩紀に提示した。

 自分が見た“他人の夢”から立てた仮説を。


「もし、フィユが自分の意思で起きるのを拒んでいたとしたら?」

『……?どういう意味だ?あの子がわざわざお前を嫌って起きてこないと思っているのか?』

「そうじゃないよ、寧ろ逆。自分のせいで母さんが死んでしまった、みたいに思っていて俺に合わせる顔がないって理由で起きないんだとしたら……」

『む……確かにその可能性はなくもないな。だが歩夢、何故そんな事を考えた?お前はフィユの事を覚えてはいないだろう?』


 普通、覚えてもいない相手のことでこんな仮説が立てられるはずがない。

 そう思ったが故の問いだろう。

 歩夢は素直に理由を口にした。


「あの子の……フィユの夢を見たかもしれないから」

『……それは、本当か?』

「うん、多分。凄く悲しい夢だった。真っ暗なところで、ずっとずっと、ただただ、謝り続けるだけの後悔の夢……」

『…………』


 歩紀は息を呑んだ。

 それが“他人の夢を見る力”に対してなのか“彼女の夢”に対してなのか、或いは両方か。

 いずれにせよ、自分がわかるだけの事は話した。

 あとは父である歩紀の判断を聞くしかない。

 数秒の沈黙の後、父が口火を切った。


『歩夢、お前母さんからもらったオルゴール、覚えてるか?』

「……?子供の頃にもらった小さいアレ?」

『そうだ』


 母のオルゴール。

 それは母が亡くなる数ヶ月前に自分にくれた手のひら大の小さなオルゴールの事だ。

 木箱の中にオルゴールの本体と樹木の形をした小さな飾りがある。

 自分が持っている唯一の母の形見だが、普段持ち歩くようなものではないので机の中に大事にしまってある。

 ……もっとも鍵がかかっているのか、木箱本体は開かないのだが。


「あれがどうかしたの?」

『シエルとメアを呼んで、それを見せろ。それだけで事情は大体呑み込んでくれるはずだ』

「え!?それってどういう?」

『すまんがそろそろ時間だ。次に帰ってくる時は皆で迎えてくれよ!』

「ちょ、父さん!?」


 呼び止める暇もなく(止めても無駄なのは百も承知だが)電話を切られる。

 ツー、ツー、という電子音を耳元から離し、歩夢も電話を切った。


「う~ん……」


 正直にいえばもっとわかりやすい解決策を教えて欲しかったのだが仕方ない。

 ああいう教え方をしてなおかつ電話を切ったという事は、この方法で恐らくは解決するのだろう。見せた後に何が起こるのかは流石にわからないが。


「考えても仕方ない、か」


 そうだ、いつもの事だ。

 考えても仕方のない事を考えても時間の無駄だ。

 携帯をポケットに突っ込むと歩夢は机の引き出しを開けて、オルゴールを取りだすのだった。

ちょっと更新が遅れました。

そしてやはり三十話まででは一章が終わりそうにないorz

とりあえず二話以内くらいには三女を登場させようと思ってます。


では、楠葉でした。

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