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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
第一章 魔法使いの息子
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二十八話 女の子同士の秘密です

更新遅れ気味ですみません……

「ねぇ、お姉ちゃん。アレ、どう思う?」

「どうって、何が?」

「わかってて聞き返してるでしょ?」

「……まあ、ね」


 早朝、廊下から聞こえてきた話声で目を覚ましたシエルが部屋を出て最初に目にしたのはこれ以上ない程の仏頂面を下げた八神の姿だった。

 何があったのかを一応聞いてはみたものの『何でもない』の一言で彼女は言葉少なく言及を逃れ、部屋に戻っていった。

 そして現在、朝食時になりその準備を始めようとしていたところなのだが……


「あの……や、八神さん?」

「な、何?」

「朝食はご、ご飯とパンどっちがいいです、か?」

「な、何であたしに聞くのよ?」

「何で、って言われても返答に困るんだけど、その、えっと……」

「ああ、もう!ご飯!ご飯でお願いします!」


 歩夢と八神のこのやり取りを眺めていたシエルとメア。

 どちらともなく言葉を漏らした。


「変よね……」と、シエル。

「怪しい……」と、メア。


 歩夢と八神、そのどちらも視線が泳ぎまくっている。

 傍から見れば下手な芝居を恥ずかしがりながらやっているような感じだ。

 メアがシエルに視線を転じ、確認するように質問した。


「お姉ちゃん。心当たりないの?」

「……ないわけじゃないんだけど」

「……けど?」

「具体的な事は流石にわからないかな」


 早朝、自分が見かけたあそこで何かあったのは間違いないと思う。

 とはいえそれは憶測に過ぎず、縦しんばその予想が当たっていたとしてもそこで何があったかまでは断定のしようがない。


「ふ~ん、そっかぁ……」

「……メア?」


 メアがにんまりと唇の端を歪めて笑みを浮かべた。

 何というか、ものすごく意地の悪そうな笑みだ。

 嫌な予感がする、と思った次の瞬間にはメアは歩夢の背中に向かって突撃していた。


「お・に・い・ちゃ~ん!!」

「メ、メア!?何だいきなり!」


 いきなり背中から抱きつかれ焦る歩夢。

 ぴったりとくっついている関係上、どうしてもその小さな胸が背中に押しつけられている。

 何だか少しムッとした。


「お兄ちゃん、八神さんと何かあったの~?」

「……!?」


 歩夢は思いも掛けない問いに驚いたのかギョッとした表情になる。

 出来るだけ彼から離れた場所に背を向けて座っていた八神さえも傍から見て動揺しているのが見て取れた。


「な、何もないぞ?」

「誤魔化そうとしても駄目~。お兄ちゃんわかりやすいからすぐ嘘だってバレちゃうよ♪」

「うぐっ……」


 メアの発言に詰まる歩夢。

 もしかしたら他の人にも似たような事を言われた事があるのかもしれない。


「か、仮にそうだとしても他人に話す気はありません!いい加減離れなさい!」

「や~だ!お兄ちゃんが言うまでぜ~ったい離れないもん!」

「こ、こら!脇の下をくすぐるな!ちょ、やめっ……!」


 どんどんエスカレートするメアの行動を今回に限ってシエルは止めない事にした。

 彼女の注意が歩夢に向いている今の方が行動しやすいと踏んだのだ。


「さて、と……」


 出来るだけ手短に。

 出来るだけハッキリとした原因究明。

 それが今のシエルにとっての最優先事項になっていた。

 歩夢とメアから視線を外し炬燵布団に顔を埋める様にして座りこんでいる八神に近づく。

 そして屈みながら耳元に囁いた。


「……何かあったんですか?」

「……!」


 以前ショッピングモールでした時のような詰問調ではない、どちらかといえば興味本位のような軽い質問。

 八神の肩がピクリと跳ねるも、返事はない。

 続けて囁く。


「……もしかして恥ずかしい事、とか?」

「……!!」


 今度はあからさまに動揺した。

 埋めていた顔が少し動き、右目だけでシエルを見るような状態になる。

 心なしか顔は赤く、瞳が潤んでいた。


「何で……」

「何でわかったか、ですか?」

「……」

「メアが言ってるようにマスターはわかりやすいんです。あんな風に目に見えて露骨に慌てるのは大概、女性が絡んでますから」

「……それはそれでどうかと思うけど」

「全くです、もう少し慣れて頂かないと」

「……それもなんか違わない?」

「……確かにそうですね」


 どちらともなく吹き出す。

 八神がこの家で初めて溢した笑みだった。


「メアには言わない……?」

「納得する言い訳は何とか用意してみます」

「……期待してるわ」


 そして八神はぽつぽつとあった出来事を話した。

 寝ているところの下着姿を見られた事。脱衣所で裸を見られた事。その事に関してはもう怒っていない事。

 そして……


「名前、ですか?」

「……うん」


 相手の名前をどう呼んでいいかわからない、という彼女の意外な理由にシエルは少し驚いた表情になる。

 自分の言いたい事は全部ストレートに言いそうなイメージが彼女にはあったのでそれが驚きに拍車を掛けた。


「普通に名字で呼べば良いのでは?」

「それは、そうなんだけど……」


 呟くように返事をしつつ、俯く。

 何やら釈然としないものがあるらしい。

 シエルは質問の仕方を変える事にした。


「じゃあ、八神様はマスターにどう呼んで欲しいですか?」

「え……?」


 予想外の問いだったのか、八神は面喰ったような表情になり再び視線を逸らす。


「え、と……あたしは。……その……」

「メア!!!そこに正座しなさい!!!」

「うにゃ~~!ごめんなさ~い!」


 八神が返答に困っていると歩夢の怒声が響いた。

 どうやら先ほどのメアの行動に対して堪忍袋の緒が切れた様だ。


「……お喋りの時間は終わりみたいですね」

「……クスッ、そうみたいね」


 八神との距離が少し近づいた気がする。

 そんなちょっとした充実感を胸にシエルは二人の止めに入って行った。

最近お気に入り登録が減って凹んでます。

めげずに頑張ります、多分……


楠葉でした。

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