二十五話 紅蓮色の過去
更新遅れてすみません。
紅蓮。
自分にとっての全てを呑みこんだ赤い色。
全てを失った日に見た赤い色。
「……パパ?ママ?」
返事は何処からも返ってこない。
夢のように現実味がなく、しかしそこにある紛れもない現実。
心まで焦がしてしまうような灼熱の抱擁。
それは文字通り“悪夢”だった。
「たすけて……」
恐怖のあまり叫ぶ事も出来ず、漏らすように出た声。
誰にも聞こえるはずのなかった声。
それに誰かが答えた。
見上げるほど、とても大きな人が。
「助けにきたよ」
「……う、ん?」
八神はゆっくりと目を開いた。
頭の中が靄がかってるようで、自分が寝ていたのだと気付くのに数秒を要した。
視界は真っ暗。
目が少しずつその暗さに慣れていくとそこには見慣れない天井が映り、ここが自分の部屋でない事がわかった。
「あれ?あたし……」
自分は何をしていたんだろう?
記憶の糸を手繰りながら自分の行動を少しずつ思い出していくことにした。
――確か学園長の家に泊まる事になって、買い物に行った後、部屋で着替えようとして……
そこでようやく自分が転移魔法の疲れから寝てしまった事を思い出した。
ゆっくりと身を起こすと、自分の上に布団が掛けられていた事に気付く。
「これ……」
着替えの途中で寝てしまったような状況でわざわざ自ら布団を掛けたりはしないだろう。
つまり、寝ている自分の事を誰かが見つけて布団を掛けてくれたという事になる。
でも誰が?
「……」
この家には自分を除けば三人しかいない。
学園長の息子の夜風歩夢とその使い魔のシエルとメアだ。
自分の事を嫌っているであろうメアがこんな事をするとは思えない。
だとすれば自分の知らない住人が住んでいたという事がない限りは夜風かシエルの二択ということになる。
シエルならまだいいがもし夜風だったなら自分はこの恰好を彼に見られたという事になるわけで……
そう考えると急に恥ずかしさが込み上げて来た。
――そ、そうと決まったわけじゃない、落ち着けあたし!
そしてその考えを否定するようにブンブンと首を振る。
顔の火照りがある程度治まったところで、バックから着替えを取り出してそれを着た。
さっき見た夢のせいか、背中が嫌な汗に濡れていた。
「あの夢……」
幼い頃に自宅で起きた火災。
部屋に取り残されもう助からないと思った時、その場に偶然居合わせた夜風歩紀の転移魔法により救助され、自分は九死に一生を得た。
だけど間に合ったのは自分だけ。父と母は助からなかった。
何故、自分しか助けられなかったのかとあの人をなじった事もあった。
しかし、今になって思えば自分が助かった事すら奇跡的だったのだ。あの人が助けに入ってくれた時にはもう両親は死んでいたのかもしれない。
でも当時の自分はその事を理解するにはまだ幼すぎた。
酷い事も沢山言ったと思う。
それでもあの人はあたしを抱きしめながらこう言い続けたのだ。
『助けてあげられなくて、ごめんね』と。
あの人がいなければ今の自分はなかっただろう。
学園に通えているのもあの人おかげだ。
その事に関しては感謝してもしきれないくらいなのは重々わかっているのだが……
――でも何でここに泊まるように言ったんだろう?
ふと頭の中にその疑問が再び過ぎり、そして考えるのをやめた。
いくら考えたところでそんなもの言った本人しか知るわけがない。
「シャワーでも浴びてこよう」
時計を見るとまだ午前五時を少し過ぎた程度。
まだ誰も起きていないだろうし、この嫌な汗も流したい。
手早く準備して八神は静かに部屋を後にした。
色々あって更新遅れました。
文章量も少なくて読み応えないかも知れませんが大目に見て下さいね(
楠葉でした。