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魔法使いと夢と夢魔  作者: 高町 楠葉
第一章 魔法使いの息子
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二十三話 素直になれない

引き続き明星の回です。

 十二月ともなれば日が傾くのは早い。

 まだ十八時前だというのにすでに道は真っ暗になっており、日差しがなくなったせいもあってか出かけた頃よりも寒く感じる。

 ショッピンモールから夜風邸に帰り着いた八神はチャイムを鳴らした。

 施錠の有無に関わらず他人の家のドアをいきなり開けるのは躊躇われた、というのが主な理由だ。

 ただ帰るだけなのにこの微妙に待たされる間がなんとも歯痒い。


『はい』


 インターホン越しに夜風の声が聞こえた。


「あたし、八神よ」

『あ、はい。今開けます』


 程無くして玄関の扉が開く。

 そこにはエプロン姿の夜風が立っていた。


「お帰りなさい、八神さん」

「え……」


 八神は思わず返事に詰まってしまった。

 もう長いこと誰かに迎えられる事も誰かを迎える事もなかったから。

 そんな自分の反応をおかしく思ったのか「どうしました?」と、夜風が聞いてきた。


「あ、えと……」

「……?」


 普段ハッキリとものを言う自分が口ごもるのを不思議そうに眺める夜風。

 次は心配そうに質問してきた。


「具合でも悪いですか?」

「ち、違う。そういうのじゃない……」

「そうですか?じゃあとりあえず寒いし、中に入りません?」

「あ……」


 少し強引に腕を引かれ、家の中に入る。

 最初に会った時の第一印象は最悪だったのに(殆ど自分が原因だけど)不思議と嫌ではなかった。 


「寒かったですよね?今、夕食に鍋を作ってるんでストーブにでも当たって待ってて下さい」

「えっと、うん……」


 言い終えると夜風はそのままキッチンに戻っていった。

 玄関に一人残された八神はドアの鍵をかけながら小さくため息を漏らした。


――『ただいま』って、言えなかったな……





「お兄ちゃ~ん!お掃除終わったよ~!」

「私達も手伝います」


 八神がリビングに入ってから間を置かずに二階から少女が二人おりてきた。

 確か名前はシエルとメアといったか。


「あ、八神様。お帰りになってたんですね」

「別に帰ってこなくてもよかったけどね~」


 この会話を聞いていた夜風が「そういう事、言わない」とメアを窘める。

 どうやらショッピングモールの一件で彼女には嫌われているみたいだ。


――まぁ、仕方ないわよね。


 今になって思えばあれは完全に自分に非があった。

 安全装置セーフティの設定を忘れていたのも、転送座標がずれていたのも自分のミス。

 寧ろ魔法を知らない人の前に落ちたり、道路のど真ん中に落ちようものならこんな事態では済まなかったはずなのだ。

 それなのにもかかわらずマスターである夜風が手を上げられたりしたのだから使い魔の二人が怒るのは当然と言えた。

 シエルの方は対応が大人で表には出ていないがメアに至ってはこの家に自分が一緒にいる事を露骨に嫌がっている。

 しかし、引っ叩かれた当の本人はそんなことなかったかのように、意外なほど自然に接してくるものだから調子が狂ってしまうわけなのだが。


「八神さん、部屋の掃除終わったみたいだから使って?」

「……え?」


 予想外のタイミングで話を振られ反応が遅れた。

 というか今言っていた掃除ってその事だったのか。


「俺が掃除してもよかったんだけどもう荷物を部屋に入れちゃってたし、仮にも女の子が使う部屋だから勝手に入るのはマズイと思ってね。二人にお願いしたんだ」

「……えっと」


 歩夢の言葉に思わず面喰ってしまい言葉が出ない。

 いきなり来た赤の他人に普通そこまでするだろうか?

 と、ここでメアが声を上げた。


「こういうときは何か言う事あるんじゃないの?この恩知らず」

「メア、失礼な事言わないの!大体、マスターが普段から掃除してて殆ど汚れてなかったじゃない」

「でも~~!」

「まぁまぁ、二人とも。八神さんも、もうすぐ出来るから荷物上に置いておりてきて下さいね?」

「……あ、うん」


 部屋から出てまた小さくため息をつく。

 もしかしたら、また気を使わせたかも知れない。


――『良い奴だよ、あいつは』


 不意に史の言葉を思い出す。確かにあいつは『良い奴』だ。

 ここにいるのが嫌になったりもしてないし、今更そう思う事もないだろう。

 だけど……


「あいつの邪魔にならないかな、あたし……」


 聞く者もない小さな呟きは、明りのついていない暗い廊下に呑まれて消えた。

ちょっと不器用な女の子のお話です。

というかメアはお兄ちゃんに近づく奴に容赦ないなぁ(笑)


楠葉でした。

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